Pontormo 文学のすべてがターゲット!書く=・232221201918171615141312111098754321



書評屋姉妹店店長・未卯
三月一日に高校を卒業したばかりのバーテンダー志望17歳フリーター。夏までに都内某所で一人暮らしをしようと計画中。現在中篇小説を執筆しながら評論の勉強も兼ねて読書をしようと試みる毎日。江國香織が大好きで難しい漢字が読めない自称現代っ子だが、パソコンもゲームも(やり方が分からなくて)出来ないアナログ人間。甘いものを貢がれると弱いらしい。

INDEX
第1回作品に表れる作者の恋愛観・性格
第2回1000字の小説・1000字で小説
第3回心理描写と冷静な視点
第4回実体験を小説にする
第5回学生の小説―世界をきれいに見たい―
           
森羅万象
書く人のための文芸事情

未卯(ミウ)の「書評屋姉妹店」オープンのお知らせ

 はじめまして、3月10日オープンになります、書評屋姉妹店店長の未卯といいます。卒業したての元女子高生なので未熟な点が多々ありますが、念願の書評屋をオープンすることが出来ました。QBOOKSの参加者様たちに満足していただけるような店舗になるため努力しますので、これからよろしくお願いします。
 当店の営業日は毎月10日。QBOOKS内のバトルひとつから、作品ふたつを取り上げて比較評論をするのが主な内容になります。今回の評論は1000字小説バトルからさせていただくことになりました。あなたの作品が当店に並ぶかもしれません。3月10日の来店を、心よりお待ちしております。

05/3/1/MEW
                                              
未卯の書評屋姉妹店 第1回「作品に表れる作者の恋愛観・性格」

 ということで、書評屋姉妹店オープンです。どこが本店なのか書いてる作者も分からない。一度入ったら出られないという曰くもない。どこにでもあるような普通の小店舗としてひっそり活動していきたいと思っていますので、お付き合いのほどをお願いします。どうやらそろそろ卒業というものの季節だそうで、周囲に合わせてとりあえず私も卒業してきました。別段ネタになることはありませんでしたが、卒業式の段取りが分からなくて一人だけ礼をするのを忘れたり、座る時思わず後ろを振り向いてしまい斜め後ろの男子と目が合って気まずい、とか一通りのことはしてきたつもりです。
 さて、記念すべき第一回は得意分野からいきたいと思います。とか書きましたけど実際はいきなり苦手な分野です。今回のテーマは、「作品に表れる作者の恋愛観・性格」ということでお送りしようかと。こんなこと自分がされたら厭だなあと思いながら書評させていただきます。クレームが来そうで内心ヒヤヒヤしておりますが決めてしまったものは仕方が無い。今回の犠牲は1000字小説バトルということで、書評を開始させていただきます。
 ここで取り出しました作品は越冬こあら氏作の『青春』。一口に言えば、クラスメイトに振られた主人公が登校拒否になってしまった話、とでも言えるでしょうか。作品の形態はは主人公の一人称で、主人公が振られたことについてはあまり触れられていない。そう、大切なのは「振られた事実」ではないのだ。それよりも主人公が球根として第二の人生を歩いていくこと(もちろん実際に球根になったのではなく、単なる比喩なのですが)を、非常に丁寧に描写している。第一に、主人公は「自室でじっと」していて、それを「ずうっと」続けていたら、球根になってしまった、のである。球根になってしまった主人公は白い根をニョキニョキと何本も出し、スルスルと葉を出し、最後に甘い香りのする青い花をつける。
 勘の鋭い読者さんにはもうお分かりいただけたかもしれない。登校拒否にまでなって、「自室でずうっとじっとしている主人公」は、球根として甘い香りのする青い花をつける。ここに作者の性格が窺える。主人公は最初何もせずに「ずうっとじっとしている」のにもかかわらず、最終的には自分で花まで付けて自室のドアを蹴破り、外に出る。この主人公の積極性は、どこから来るのであろうか。
 少し前の文章から探ってみたい。主人公が振られたとき、彼は何故じっとしていたのか。それは「何をしたら良いかわからずにいた」からなのである。つまり彼にとって自室で寝込んでしまい、学校にも行かなかったこの行動は、どうすれば良いのか分からなかったからであり、学校に行きたくなかったわけでも、自室で一日を過ごしたかったわけでもない。ここにも作者の思考が表れているといっていい。主人公にとって失恋そのものは作中でメインテーマになっていないことから分かるように、それほど大切な事実でなく、むしろその後の行動を重視しているのであるが、現実は「どうすればいいのか分からない」のだ。しかし母親と担任の説教で「このままじゃいけない」と思ってしまう程単純なので、きっかけさえあればすぐに前に進める。単純で前向きな人物であるといえる。この前向きさは、作者自身にも潜んでいる性質ではないだろうか。
 対しますは、ゆふなさき氏作の『ストーカーのメール〜サロメ回想紀〜』。タイトルから分かるように、主人公は好きな人にメールを毎日のように、まるで「ストーカーのように」送りつけるのである。この作品も主人公の一人称によって語られているが、前者と違って会話文が多い。作品の大半が会話文であると言っても過言ではないだろう。もちろん作風として会話文が多いということもあり得るし、作者の意図もあるだろう。だから私はそれを良い悪いなどと言うつもりはない。ただ、注目してほしいのは、一人称であって、主人公が一人きりのシーンで始まり終わる作中で、会話文が半分を占めているという事実なのだ。これに対する回答は後ほど説明したい。
 主人公が会話をしている相手は三上という男性。主人公が「人に心配されたかった」から無言電話を繰り返した相手だ。このシーンで分かるように、主人公は寂しいからという理由で大して親しくもない相手に無言電話をかけるという、大胆な行動に出ている。更に名乗らないまま三十分も無言電話を繰り返した挙句、最終的には「…誰だか分からない?」と声を発し、相手に自分が無言電話の犯人であることを告げている。その上自分の「辛い」という、他人にはなかなか言いにくい胸中まで告白している。普通ならばしないであろう行動を、作中の主人公はいとも簡単にやってのけるのだ。しかし、作品全体として彼女は告白のメールを毎日送り続けるという、内向的な女として描かれている。このギャップはどこから来るのだろうか。
 上記の越冬氏の作品と比較したい。彼の作品では、主人公の最初の行動は登校拒否という、至って消極的なもので、終わりでは自室のドアを蹴破るという積極的なものとして描かれている。作中で彼の言葉というものはひとつもない。だが、ゆふな氏の作品では、それと逆の事態が起こっていることに注目してほしい。最初は積極的で大胆な行動を取る主人公は、最終的にはパソコンのメールでの告白しか出来ていない。携帯電話でメールを打っているのにも関わらず、パソコンのメールという、携帯のメールよりも連絡の取りにくい手段を選んでいる時点で、返信を期待して送信しているわけではないことが分かる。つまり、主人公はは一見積極的に見えるが、実際は心配してほしいという思いが彼女を動かしているだけで、面と向かって断られることに怯えており、肝心なところでは大胆になれないという消極的な内面の持ち主であるということだ。基本が内向的であるため、外交的な性格に憧れているのだろう。大胆な行動をしてみたいと思い実行に移すまでは良いが、その内容が突拍子もない。「無言電話」という一歩間違えば犯罪になり得る行動を、いとも簡単にやってのけてしまったのだ。世間知らずな一面がここで浮き彫りにされている。会話文が多いところから、自分のことを誰かに聞いてほしいために良く喋るという性質も分かる。これはもちろん主人公のキャラクターなのであるが、作者であるゆふな氏にも、この性質が多少内在しているのではと推測できる。全てが彼女のキャラクター通りとまではいかないが、特に冒頭の積極的な行動などは、自分の消極性が厭で、主人公に積極的な行動をさせることにより、自分の短所を昇華しているのでは、という憶測が安易に立ってしまうわけである。
 彼女の作品のキーとなっている無言電話だが、無言電話といえば山本文緒『恋愛中毒』(角川書店、平成14年)ではないだろうか。物語を知らない人のために少し解説をすると、この話は水無月という女の恋愛物語だ。しかもタイトルの通り、中毒的な恋愛物語である。夫と離婚し、生計を立てるため弁当屋で勤める彼女のもとに現れた男、創路。見初められた水無月は創路の通訳兼秘書として働くことになり、元より彼のファンであったのも重なってすぐに肉体関係になる。大胆な創路の行動に戸惑いつつも溺れていく水無月。創路の美しいが風変わりな妻にも気に入られ、三人で仲良く愛人生活を過ごしていたはずだった――創路の娘、奈々が現れるまでは。奈々の出現により、眠っていた水無月の本性が現れていく。
 ここで登場するのが、無言電話である。夫と別れた原因であり、「懲役一年、執行猶予三年」という肩書きを与えたもの。外泊中に残された、トーコという女による一件の留守電メッセージ。たったそれだけで、彼女はトーコに無言電話をし続けるようになる。
 「たったそれだけ」で片付けて良いのだろうか。確かに彼女はたった一件の留守電メッセージで犯行を犯したのだが、その一件が彼女にとってどれほど重いものであったのだろうか。一人の人間を後戻りが出来ないところまで動かすものというのは、いつだって世間から見れば「たったそれだけ」のものではないだろうか。物語の終幕にこんな文章がある。

 夫が本当にトーコと浮気なり恋愛なりをしていたのか、今でも私には分からない。けれど事実など問題ではなかった。「夫が他の女と寝た」と確信してしまうようなヒントを夫が私に残したことで、もう既に歯車は外れてしまっていたのだ。

 人間など、脳で考える限りでは利口なものである。大多数の人間が人殺しは犯罪だと知っている。それでも人殺しがなくならないのは何故か。上記のセリフが理由を説明しているように思う。犯罪に事実など必要ではない。心を掻き乱すようなヒントがあるだけで、犯罪は可能なのだ。脳での思考だけで人間が動くなら、人間はなんと詰まらないものであろうか。殺したいほど愛おしい感情も、愛する人を引き止めたいがために起こす狂気的な行動もなくなってしまうとしたら、人間の存在意義を疑わずにはいられない。人間の「どうしようもない部分」こそ、文章として晒すに相応しいのではないだろうか。愛する人をいつまでも思い続ける純愛物語ではなく、愛する人を思うがあまり罪まで犯してしまう女のほうが、私には魅力的に思えるのである。『恋愛中毒』は、まさに人間のどうしようもない部分を隅々まで描ききった作品だといえるだろう。


写真▲山本文緒『恋愛中毒』(角川書店)
05/3/9/MEW


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「書評をやらせて!」と初対面の未卯さん。この積極果敢さに一撃で参ってしまったPontormo。ではではと店開きの準備に相成りました。店長未卯の「書評屋姉妹店」宜しくお願い申しあげます。

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