Pontormo 文学のすべてがターゲット!書く=・232221201918171615141312111098754321


筆者紹介
ながしろばんり



先日、前回で「彼女が出来たという噂もとんと聞こえてこない」と書いたら、そんなことアランと抗議されてしまった。真偽のほどはワカランが。本人曰く、ハウツー本のライターからエロ小説まで、基本的に頼まれれば何でも引き受けます。お仕事募集中。格安にて営業中。だそうですよ。寄稿リスト|
第1回
第2回コモンセンス
第3回グロテスク
第4回剥製〜短編小説論 I
第5回空間〜空間小説論〜
第6回破綻〜ライトノベル論
第7回萌え〜判官贔屓のリアリティ〜
第8回リアル〜『となり町戦争』を読む〜
第9回お役所〜文字・活字文化振興法案(前編)
第10回施策〜文字・活字文化振興法案(後編)
第11回興味〜よいこのブックガイド
第12回センス〜ダビデ王とマシンガン
第13回春は化け物
             
森羅万象
書く人のための文芸事情

ながしろばんり 「書評のデュナミス」 第6回 破綻〜ライトノベル論

 
写真左より▲『キノの旅』時雨沢恵一(電撃文庫)
『マリア様が見てる』(集英社コバルト)

 ライトノベルの定義についてはインターネットをはじめとして百家鳴動しているが、大体の場合において言及や分析が挫折してしまうケースが殆どである。それは、ライトノベルの存在について興味を持つ人間がライトノベルの出身であることが殆どだからで、ひいては「俺って何」であり自分の尻尾を飲もうとする蛇の状態に陥る危険性を含んでいる。つまり、他のジャンルとの比較が無いために破綻してしまうのである。
 たとえばこれはライトノベルでござい、というものを書架から引っ張り出してみる。有名どころ、あかほりさとる『MAZE☆爆熱時空』(角川スニーカー)、時雨沢恵一『キノの旅』(電撃文庫)、この辺はいわゆる「ライトノベル系版元」というカテゴライズで理解できる。今野緒雪『マリア様が見てる』(集英社コバルト)、あれ、コバルト文庫はライトノベルなのか? さらには岬兄吾『ファンキー爆弾』火浦功『大熱血。』(角川スニーカー)『俺に撃たせろ!』(徳間デュアル)までライトノベル扱いになっている。このあたりの作品はそれぞれ、80年代にいわゆる一般のSFやハードボイルド小説として角川文庫や朝日ソノラマあたりから出てきた作品の再販である。再販である、というところが重要で、つまり、ライトノベルの御時世に売れるんじゃないかなあということで「ライトノベルとして」掘り出したということである。
 今回のテーマ、「破綻」ということで、重要なのはここからである。ライトノベルというジャンルを想定すると、実はどうしても破綻してしまうのである。例えば筆者、『マリア様が見てる』をライトノベルだといわれて、少々首を捻ってしまった。リリアン女学園という女学校の、姉妹(スール)制度に絡んで、女子高生の生活を描いたいわゆる「ソフト百合」小説、版元が集英社コバルトというところから当然筆者の主観も手伝って「それはいわゆるライトノベルじゃなくて、女子中高生向けの小説だろう」という判断があった。逆にいえば、筆者のいう「ライトノベル」とは、中高生向けSF、ファンタジー、ヒーロー物、つまり朝日ソノラマや角川なんかが出していた、いわゆる日本人のSF(小松左京、筒井康隆をはじめとして大原まり子、火浦功、新井素子、かんべむさし、岬兄吾……あげれば切りが無い)の流れを汲んで、あかほりさとる、神林一『スレイヤーズ!』あたりまでをライトノベルの黎明期として捉えている部分が強かったのだ。
 筆者にとってライトノベル「的」なるものの本性が見えてきたのは時雨沢『キノの旅』(電撃文庫)であった。ずいぶんな人気でメディアミックスも果たし、最近のライトノベルとしての金字塔として取り上げられているようではある。がしかし、筆者の評価として『キノの旅』、決して高いものではない。そうですなあ、「俺、文学結構やってたよ」というおじさんおばさんに『キノの旅』読んでもらいたいと思う。「ライトノベル」とは何かが実感として掴めるだろうから。
 そう、『星の王子様』なのである。
 主人公のキノは旅をしている。相棒の喋るオートバイにまたがって、銃を一丁携えて。旅の途中で出会うのは、民主主義「であること」を徹底してしまった故に一人になってしまった王様だとか、上からの命令、故郷の家族の為に線路を磨いている人、しばらく後から線路を取り壊している人、その後の命令で線路を新調している人の三人の人足、異邦人たる「キノ」がやってきて、そこでそれぞれの業に向かっている人間との対話があるという構図は、星の王子様における、呑み助や地理学者との対話と変わりはない。
 事の善悪について取り沙汰するつもりはない。しかし、本作がヒット「商品」となり、いわゆるメディアミックスの価値を得たことは、「萌」だのヴィジュアルだのの表面的なものではなく、「星の王子様」を「文学」として食わず嫌いした(学校が「させた」?)世代においてこの「星の王子様」的ライトノベルが好評を博したこと、これこそが「ライトノベル」の正体ではないだろうか。「星の王子様的ライトノベル」ではないのである。「ライトノベル的、星の王子様」なのである。
 別の角度から見てみよう。80年代、いわゆるマイコンからパソコンへの認知的な移行があり、ゲームソフトとして「ウィザードリィ」が登場する。ウィザードリィ、洞窟の中を冒険者たちがパーティを組んで冒険する、いわゆるRPGの萌芽といっても差し支えあるまい。ここにおける「ファンタジー」そのものが、すでに本来大元のファンタジーの、いわゆる"lighten"なのである。『エルフランドの女王』『水妖記』、この辺りにおける人間とエルフやウンディーネとの恋愛とはいわゆる宗教的な事情により、実らない恋として描かれる。キリスト教的近代知にあるような人間中心主義において、人外の存在が洗礼を受けるかどうか、というところにおいて深い溝が出来ているのだが、これがRPGにおいては、段々とその深刻な問題を無視することでゲームとして秩序を組み立てているところがある。例えば、尾篭ながらRPGの冒険者はトイレに行かないのかとか、殺した魔物の屍骸は累々と転がらないのかとか、宗教の問題とか(黒魔道士と白魔道士と空手家と風水士が同居する某RPGは、やはり奇妙なのである)我々のリアルからすると発生する素朴な疑問について封殺されるのには、この"lighten"が大きく絡んでくる。
 ライトノベルという名称、実はいい得て妙なのかもしれない。小説の"lighten"がライトノベル"化"ということであれば、SFの、時代劇の、ハードボイルドの、ラブコメの、つまるところ七面倒な部分を取り除いたものが「ライトノベル」ということになるだろう。いわゆる「読みやすさ」を売りに色々のジャンルの小説を計量化していったものがライトノベルである、という結論を出さざるを得ない。ゆえに、ライトノベルを主に読んでいる読者や書き手がライトノベルを自己批判をする、という構図は非常に難しいのである。
 と、ここまで書いたところで、過去の日本で、文藝が同じような状況に陥っている事に気がつく。
 幕末、である。
 江戸戯作、黄表紙、ジャーナリズムと密接な関係にあった江戸の戯作文藝であるが、化成年間を過ぎて、だんだんと煮詰まりを見せてくる。おおむね天災、心中、敵討ちの三つがあれば売れるのだけれども、それでも段々とネタが尽きてくる、酷いときには事件を捏造して書く、それでも人間の妄想のパターンなど限界があるから、どうしても似たり寄ったりになってくる。雑誌を袋とじにしておいて、はじめの数ページは新ネタ、「続く!」なんて書いてあっていそいそと袋とじを破ると、今まで出版されたものをそのまま使いまわしていたり、なんていうことがザラにあるようになってしまっていた。しかし、年に一度、年初、本を出さないことには作家も出版社も飢えてしまう。よって、なにがなんでも本は出る。
 現在の日本の出版状況に似ていないだろうか。製作者の生活のために、段々と仕事の質を落としていった状況が、よく似ているのだ。
 ただし、救いであったのは、この当時煮詰まっていた戯作者のほとんどが、政府によって雇われたことである。いわゆる明治の新体制がどんなものであるかということを全国津々浦々に説明するための芝居の脚本だったり、パンフレットの作成だったりに雇われていくのであるが。
 歴史は繰り返すということであれば、ライトノベルという市場が生きている以上、小説というジャンル自体が「軽量」化されていく一方で、そのライトノベルを読んで育った読者にとって、本来の日本の文化としての小説が理解できない傾向にあるのではないかという危惧が筆者にはある。逆説的に云えば、文芸書のジャンルにおけるビジネスに限界が見えている今、流通や印刷といった面も含めて、文藝の脱・商業の道を真剣に検討していいのではないかと思うのである。


  主な参考文献
・時雨沢恵一『キノの旅』(電撃文庫、2000)
・杉浦日向子『一日江戸人』(小学館文庫、1998)
・ダンセイニ/原葵訳『エルフランドの女王』(沖積舎、1991)
・宮尾與男校注『元禄期笑話本集』(話藝研究曾、1995)
・サン・テグジュペリ/内藤濯訳『星の王子さま』(岩波少年文庫、2000)

05/3/27/NAGASHIRO


  
写真左より▲『一日江戸人』杉浦日向子(小学館文庫)
『星の王子さま』サン・テグジュペリ/内藤濯訳(岩波少年文庫)と Harvest Books版

                                           

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