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書評屋姉妹店店長・未卯

           
森羅万象
書く人のための文芸事情

書評屋姉妹店 第2回「1000字の小説・1000字で小説」

 〆切まであと一ヶ月もあるわなんて余裕で仕事してたら月末に風邪引いてちょっとあたふたしながら第二回オープンです。まかり間違ったりわざとだったり冷やかしだったり真面目に来店してくれたり色々な理由で来てくださった皆様、どうもありがとうございます。前回同様ほんのりやっていきますので宜しくお願いします。
 前回から続いて今回も1000字を取り上げます。単純に選択肢が多いからなんて云いません。色々内部事情があるんです。でも実際、1000字の投稿が一番多いですよね。書きやすいからでしょうか。短いと楽って印象とかもあるのかもしれません。しかし、1000字小説を書くにあたって、みなさんどこまで「1000字」という文字数を意識しているのでしょうか。つまり今回のテーマはこれです。『1000字の小説・1000字で小説』。
 今回も比較評論ということで、作品を二つ用意しました。とにかくまず一つ目。ながしろばんり氏の『嚏(くしゃみ)』であります。内容を軽く解説すると、幽体離脱の身になった主人公が部屋中を浮遊し、外に出ようとしたら玄関から出られない、とどうにも間抜けなオチ。今回も独特の句点遣いで楽しませてくれたながしろ氏でありますが、最も注目したいのは作中の至る所に散りばめられている日本語の音遊び、なのです。敢えて取り上げはしませんが、押韻や洒落など、日本語独特の音で文字を繋げた、という印象を受けます。だらりとした雰囲気もそれを助長しているのでしょうか、主人公が小説の中で言葉を使って巧い具合に暴れられるのは、今回のテーマである1000字故、なのです。
 1000字小説のメリット、とでも申しましょうか、1000字というのは短い。故に、読者も読む気になりやすく読み飛ばしをしにくくなる。当然、細部まで気を配って読むようになる。ながしろ氏はここを利用したと思われます。長編だと読み飛ばされやすい言葉遊びも1000字だと目立ちやすく、読者に注目されやすくなる。よって、「言葉遊びでの小説」というものが可能になる。もちろん言葉遊びで小説にするためには、終始軽快なテンポを保たなければいけないので、1000字でないと出来ない、というのも事実ではあります。しかしそういう点も含めて、この作品は1000字という条件を最大限に生かした作品だと言えるでしょう。
 対しますは、隠葉くぬぎ氏の『夕焼けサブウェイ』。この話、掻い摘みますと彼氏のもとへ向かう主人公が電車の中で化粧をするというものなのですが、その中での主人公の心の動きを巧く表現していて、ながしろ氏とは違って文字ではなく中身で楽しませてくれるつくりになっています。電車の中で化粧する時の心理から出る行動や、彼氏に会いに行く前でついつい化粧が濃くなってしまう女性の心理をなかなか見事に表現していて、個人的にも楽しませてもらいました。
 テーマから外れてばかりもいられないので、話題を元に戻すことにします。この話、中心は女性の化粧シーンなのですが、問題はそれに終始してしまっているということなのです。もっと言ってしまえば、それ以外は何もない。ただ女性が化粧をしている。そこに起承転結もなければ、話の動きも見えないのです。もちろんそれが悪いといっているのではありません。ここが「1000字で小説」の特徴なのです。分かりやすく言い換えますと、第一にワンシーンだけである。第二に、伸ばそうと思えばどこまでも伸ばせるつくりになっている、くらいでしょうか。つまり「1000字」である必要性を感じられないのです。偶然今回は1000字だった、けれどもしかしたら3000字だったかもしれない。こういう部分が垣間見えた時点でそれはもう1000字の小説ではないのです。ただ1000字で小説というものに仕立てただけ。1000字という文字数への意識は低いと思われます。
 では、1000字の小説というのはどのようなものなのでしょうか。私的見解ですが、先ず作中で出てくる主人公の特徴が一つ程度であること。何故かといいますと、主人公の性格に詳しく言及していると、ストーリーを展開する余裕がなくなってくるのです。ワンシーンだけになるのはいいのですが、小説たるもの動きがひとつもないというのは困りものです。動きをつけるためにも、主人公の性格説明だけで作品が終わってしまわないように、性格にポイントを絞って作品を展開するのが第一の条件だと思います。第二に、作者が1000字という文字を意識すること。例えば情景描写が多すぎたり、行動描写が多すぎたりするとそれだけで「1000字で小説」になってしまうのです。1000字という文字で何をどう表現するかを作者が考える。書いてしまえば当たり前のことですが、これがなかなか難しいのです。
 もちろん1000字小説の読者全てが「1000字の小説」を書かなければいけないわけではありませんし、「1000字で小説」もひとつの形だと思います。しかし自分がどちらの型で書いているのかを意識するだけで、作品の質はぐっと上がるのではないかと私は提案します。

05/4/10/MEW

書評屋姉妹店 第2回 番外


『嚏(くしゃみ)』ながしろばんりさん

 日本語のリズムを使って読者を「笑わせようとしている」という第一印象があります。しかし文章の一文一文はしっかりとしていて、文体にも硬質さが窺えます。今回、擬音語を効果的に使用していますが、文体に合わせた選択センスが書きなれた印象を与えました。
 内容はやはりタイトルに注目すべきかなといったところで、くしゃみで幽体離脱――つまり死にそうになるわけですが、このへんが作者の心理であるかなあと。死ぬことについては個人で考えが違うでしょうが、この作者さんはくしゃみで死にそうになる、つまり死ぬ原因なんてあっけなくてしょうもないものである、というような考え方なのかなあという推測が立ちます。それは作品全体を通しても同じことがいえるのですが、死にそうになっている現実を主人公が楽しんでいる――からかっていると言い換えてもいいかもしれません。作品全体で軽快なテンポをつくっていることもそうですが、文体にしろ主人公の性格にしろストーリーにしろ、作品全体を使って死ぬことを茶化しているというような状態。正確には死ぬことを軽く読者に「見せている」わけですが、やはりこれは作者自身が死を重々しく捉えていないと出来ないことかと思われます。死を軽視することに隙がないのは、死を軽視していては出来ません。本当に死について深く考えて、自分の中である程度思考がまとまっていないとそのテーマで「遊びつくす」ということは出来ないわけです。そういう意味で、作者さん自身非常に死を恐れているのか、死について深く考えざる状況にいたのか、その両方の線が一番強い気もしますが、そういう点が深層心理にあるのではないかなあと今回の作品を読みました。


『夕焼けサブウェイ』隠葉くぬぎさん

 女性作家さんの、特に最近の作家さんの作品を多く読んでいるのでしょうか。心理描写を基本とした文章だと感じました。ひらがなが多いので文体も柔らかく読みやすい印象です。個性的な目立つ文体ではないですが、ちゃんと文字を自分のものにして使用している雰囲気があり、日本語の使い方は上手な方だと思います。特に冒頭の、化粧をする時間がなくて乗り込んだ電車でどの席に座るか、隣の人間はどんな人間を選ぶか、何が気になるか、そういう日常の細々した部分まで描けていて、ああ女性だなあと思いました。こういう部分、男性はあまり気付かないんですよね。女性の視点を武器にしているのがこの作家さんの強みかなと思われます。
 さて、内容ですが、ちょっと化粧シーンが長すぎたかなあと思いました。確かにこのシーンは巧く使えば心理描写にも繋がって美味しい見せ場にもなりうるのですが、今回はちょっと弱いかなと。化粧を丁寧にすることで彼氏への気持ちを表したかったのでしょうが、実際はどうなんでしょう。丁寧にしているつもりで、ちょっと雑になったり塗りすぎたり失敗してしまうものではないでしょうか。そこで修正しようとしてまた塗り直し、失敗、なんてよくあることです。実体験でもこれじゃあちょっと人間性が足りないです。手順は省いてもいいですからビューラーで瞼を挟んで泣きそうになった、とか、そういう描写がほしかったなあと思いました。
 けれど、このへん、作者さんの心理が出てるなあなんて思いながら読みました。化粧品のブランド名まで、時にはリップグロスの品番まで丁寧に書いてあるのは、細かいところに目がつく人なのではないかと。パウダーが少なくなってきて詰め替えなきゃ、と思っているところなんて、まさにそうです。割ときれい好きか、そうでなくても他人が気にしないところまで気にしてしまう、なんてことのある作者さんではないでしょうか。
 作中で主人公は彼氏に気持ちを聞きに行くわけですが、このシーンを見て主人公は大胆なんだなあ、というのは少し違う気がします。もちろん消極的すぎてはこの行動は起こせないわけですが、化粧をせずに電車に乗っているくらいですから、かなり心境は不安定だと推測します。もちろんそれを匂わせる文章も出てくるわけですが、窓から夕焼けを見たり、始終化粧をしたり、主人公かなり落ち着きがないですね。相当緊張しているのでしょうか。このへんも作者さんの性格、出てます。思いきって行動を起こしたはいいけれど、実際緊張して落ち着かない、なんてこと、あったのではないでしょうか。
 女性の場合、主人公の行動は作者の行動なんてことが良くあると私的見解で思うのですが、そうだとしてもそうでないにしても、この日常感溢れる作品は女性ならではではないでしょうか。繰り返しになりますが、女性という性別を上手に利用しているなあと思いながら今回の作品を読みました。

05/4/13/MEW


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