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ぼんよりさんの場合】江國香織著『都の子』(集英社文庫)


江國香織著『都の子』(集英社文庫)


江國香織著『流しのしたの骨』(マガジンハウス)
 

 共感すること。
 タイヤキは尻尾の方が好きだとか、オカズはごはんをひきたたせるためにあるとか、足の裏をくすぐられると気持ちよくて寝てしまうとか、新しい本の匂いをすぐ嗅いでしまうこととか、平凡な生活の中で自分の周囲から覚える共感は実に心地良いものばかり。
 数年前初めて江國香織氏のエッセイ、『都の子』を読んだ時も、最初は同様の共感を覚えているものだと錯覚していた。

 せつない、いとおしい、甘い、淡いなどなど、江國香織氏の作品世界を例えるなら、みな一様にこういったやわらかい感覚の表現(と、私は思っている)をあてはめるのではないだろうか。やわらかくてきれいで、反面危なっかしくて怖い。こんな感
覚に訴えるような世界だから、一度惹き込まれると簡単に絡めとられて、読み終えるまで抜け出せなくなる。私などは、読み終えた後もしばらく余韻でボォ〜っとしていることがままある。
 その記念すべき最初のボォ〜が『都の子』で、その時は勝手ながら自分を江國氏に重ね合わせて、同様の世界を疑似体験してみようとかなり妄想していたことが、今となってはちょっぴり恥ずかしい。

 けれども、擬似は擬似。所詮私が体験したことや私の感覚とはほとんど異なる描写に、私をシンクロさせるなど到底無理な話で、そこで私なりにようやく気付いた。これは共感ではない。江國氏はただ純粋に己を文字にして表現しているだけ。
 安っぽい飴の色も、砂漠の動物園も、雨とゴッホも、スイカシェイクとひろみちゃんも、すべてにおいて読者に共感してもらおうという脚色も演出も無く、江國氏本人はこれが本屋さんに並ぶ売り物だなんて微塵も思ってない、そんなふうに私は思う。
 私自身は、文章を書くときに限らず日常生活でも一体どれだけ純粋に己を表現している時間があるだろう。多分寝てるときと生理現象のときぐらいだ。人はいつだって芝居をしている。私だって例外じゃない。

 もし共感で済ませられる文章だったなら、知らない世界に出会った新鮮な感動はなかった。読みながら、「へぇ〜そうなんだ。それでそれで、どうなったの? どうしたの?」と思わず話しかけたくなる『都の子』は、私にとって新しくできた友人のような存在かもしれない。でもなぜか何年も付き合ってきた親友のようにも感じるから、不思議でたまらなく面白い。
 無論エッセイだけではなく、小説作品も同様。中でもちょっぴりへんてこな家族の物語、『流しのしたの骨』は私がいちばん好きな色をしている。まぁ好みは人それぞれなのであえてお勧めはしないでおく。

 ロクに書けない文章を書こうと思ったのは、『都の子』をきっかけとして江國氏の世界に触れたから。少しでもあんなふうに書ければいいなと思いながらチラチラと江國作品を読み返し、今日もボォ〜っとする私がいる。

06/5/3/ぼんより

お次は左槙子さんです
                                   

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