
INDEX
■プロローグ
■7月16日:第15ステージ レザ・スュル・レズ〜サン・ラリ・スーラン 205.5km [前編]
■7月16日:第15ステージ レザ・スュル・レズ〜サン・ラリ・スーラン 205.5km [後編]
■7月17日:休息日 ポー [前編]
■7月17日:休息日 ポー [後編]
■7月18日:第16ステージ ムレンクス〜ポー 180.5km [前編]
■7月18日:第16ステージ ムレンクス〜ポー 180.5km [後編] ■7月20日:第17ステージ ポー〜レべル 239.5km [前編] ■7月20日:第17ステージ ポー〜レべル 239.5km [中編] NEW
■番外編1:クイックステップのチームバス&トラックがあら素敵〜の巻 ■番外編2:魅惑のサコッシュ美術館の巻
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 谷間に浮かぶヘリコプター。選手は、この下を走行中なのです |
 やってきたのは黄色と白のジャージを着たフォナックの選手。が、彼の後ろに重なるようにヒンカピーが!
 ……そして生選手に見とれるあまりシャッターを押すのが遅れる私たち。肝心のヒンカピーはお尻だけの登場と相成りました。ごめんよジョージ。そして、このとき先行していた選手はオスカル・ペレイロ(スペイン出身/フォナック)。……だったことは後で知りました
 次々に入ってくる選手。この選手はステージ3位になったピエトロ・カウッキョーリ(イタリア出身/クレディ・アグリコル)。……というのも後でわかったことであります。写真を撮るときにわかっていたのは、チーム名だけ。よっぽどのことがないと、とっさの選手の判別は素人には不可能です
 ステージ4位のマイケル・ボーヘルト(オランダ出身/ラボバンク)。ジャージと同じデザインのチームカーがすぐ後にいます。屋根には、数人分のスペア自転車がドカドカ乗っかっています。選手がすぐに修理のきかないメカトラブルに見舞われたときには、自転車まるごと交換してしまうのです
 ついにやってきた、黄色いジャージの王者ランス・アームストロング。その後ろにイヴァン・バッソ。そして手前に兄さんのドタマ。ガッデム! ランスが着ている黄色いジャージは、ステージ開始時点で総合1位の選手に着用が義務付けられているものです。一般に「マイヨ・ジョーヌ(“黄色いジャージ”の意のフランス語)」と呼ばれます。「選手達の中で誰が現時点でトップなのか一目でわかるように」と1919年導入されたものだそうですが、また実にわかりやすいのです。このアイデアを考えた人は素晴らしい!!
 次々にやってくる選手に熱狂する、酔っ払ったクレイジーおじさんとそのご一行。そして、彼らをばっちりマークしている警備のおまわりさん。おまわりさんの後ろの人はいい迷惑ですが、ちょっと自業自得かも
 レース観戦後、私たちと同じく山道を降りてゆく観客。彼らが持っているのは、黄色い地に黒い獅子が描かれたフランドル地方(ベルギーの北半分)の旗です。ベルギーは選手もチームも強豪ぞろいで、自転車ファンもたくさんいます。この旗は、これから行く先々で見かけることになりますが、おそらく旗の主は毎回別人です |
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7月16日:第15ステージ レザ・スュル・レズ〜サン・ラリ・スーラン 205.5km [後編]
午後17時。キャラバンが通り過ぎてから約1時間以上経ちました。そろそろゴール予定時刻なのですが、選手がやってくるような気配はありません。テレビもラジオも無い私たちには、レースが今、どこまで進んでいるのかわかるはずもなく。相変わらずひっきりなしに通り過ぎる報道やオフィシャルの車にいちいち感動するのもそろそろ疲れてきたところに、かなり近くまで迫っているらしい選手団の先触れと見られる車がやってきました。その車は、フランス語でレース実況を流しつつ、屋根に乗っけた電光掲示板に一人の選手の名前を表示しています。
「ヒンカピーって書いてあったよ?」 「実況でも名前言ってたよね」 「もしかして、今、ヒンカピーが先頭だったりするわけ?」 「ええっまさかー」 「じゃあ何であんなところに名前がっ」
などと出口のない会話をダンナと交わしていると、遠くから聞こえてくるものがあります。
ヘリコプターの飛行音です。
そうです、選手の一団の上には、中継用の空撮ヘリが飛んでいるものなのです。テレビの実況で当然わかってたはずなのに、ヘリの音が聞こえてくるまで、そんなことはすっかり忘れていました。
ヘリコプターの音の大きさで、先頭までの距離の見当がつきます。まだ少し距離があるようですが、ここまでかかる時間は10分?15分?よくわかりません。ヘリが見えれば、先頭の選手の位置はかなり正確に把握できるでしょう。 ヘリ音につれて増してゆく動悸を抑えつつ、私は空を見上げて必死でヘリを探しました。でもこれが、見つからないのです。焦っている間にヘリ音はどんどん大きくなり、もう頭の上くらいを飛んでてもおかしくないほど、というか、もううるさくて隣のダンナと会話するのも大変な状態に。音はこんなに近いのに、いったいどこを飛んでいるのか。 実はまだ遠くにいたりして、と選手が来る方に向かってコースを覗き込もうと柵から身を乗り出したとき、私は見たのでした。
谷間に、ぽっかりと浮かぶヘリコプターを。
ヘリは、私の目線よりもずっと下を、低空飛行していたのでした。そして、ヘリの下で、先頭の選手――おそらくはヒンカピー――が走っている。もう、すぐ近くです。
あと何分くらいだろう、瞬きしている間に見逃したらどうしよう、本当に先頭はヒンカピーなのかしら、柵の中にいるID下げた兄さんの頭が激しく邪魔だけどこやつのおかげで選手を見られなかったらどうしてくれよう、ということを頭の中でぐるぐると考えながら。選手が来る「その瞬間」を決して逃すまいと息を詰めてときどき視界の端にヘリを確認しながら身構えていると急に。
張り詰めていた空気が緩んで、少し遠くから歓声が寄せてきて、私と同じようにコースのあちらを見つめ続けていた人たちが動き出してそれが波のようにこちらに伝わってきて。同時に寄せてきた歓声がヘリコプターの音すらもかき消すほどに高まると視界に先導白バイが続いて選手が。
後ろに審判車とカメラバイクを従えて最初に現れたのは黄緑と白のジャージ。うわ、誰だあれ知らないよ!と思う間も無く選手が近づいてくると、見えましたヒンカピーの青ジャージ、黄緑ジャージの真後ろにつけてますいい位置です。サングラスをはずして、前を見据える厳しい表情のヒンカピーが、目の前を、巨大水槽を泳ぐジンベイザメのような迫力で、過ぎていきます。
うわああああーーーーーー 生ヒンカピーだーーーーーっっっっっっ
二人の選手が1kmのゲートをくぐるのを見届けながら、「ついに見たよ!」「やったよ!」と大興奮の私、そんな余韻に浸るまもなく、3位の選手が、そして4位と次々やってきます。ジャージのデザインでどこのチームかはわかりますが、選手が誰かはわかりません。
いやはや本当にあっという間。峠の坂道の途中なのに思った以上にスピード出てます。ヒンカピーの表情が確認できるぎりぎりの速度で、それも、あらかじめ彼が来ると予測してるから顔が判別できるというもの。他の選手は顔の確認から入らねばならず、でもって確認完了前に通り過ぎてしまうため、誰だか全くわかりません。しかも、生選手を鑑賞しながらカメラを構えてるとシャッターが全く間に合わ……。
うお!ラーンス! ランス来たーーーーーー!!!
全てをかき消す大歓声に導かれつつやってきたのは、ツールの帝王、優勝候補の筆頭、現時点総合順位トップのアメリカ人、ランス・アームストロング*1です。なんと、後ろでランスをぴたりとマークしているのは、もう一人の優勝候補、現時点総合3位のイヴァン・バッソ*2!、緊迫した展開です! しかしこのとき、ついに、ついに私の杞憂が現実のものに!おいそこの柵の内側の兄さん!お前の頭がじゃまだーーーーー!!!きーーーーーー
兄さんのドタマに遮られた私の視界を、ランスはヒンカピー以上の速度と迫力で過ぎていきました。ヒンカピーが堂々としたジンベイザメなら、ランスのキレた走りは海のハンターホホジロザメと言ったところでしょうか。位置取りは後ろにいたバッソのほうが有利なのかもしれませんが、彼は、戦略として後ろにつけていたというより、ランスにやっとついていけているという様子で。それほどランスはスピードが出ていて、しかも余裕がありました。ランスがあのまま先にゴールしても、不思議は無いでしょう。
「そういや、ヒンカピーはどうなったかな」 「勝ったんじゃないの?さっき、向かいのおっちゃんが『ヒンカピー!ヒンカピー!』って叫んでたよ」 「ええっいつよそれ」 「ランスが来る前」 「ホントに?でもあのおっちゃんが騒いでたからって、勝ったとは限らないじゃん?」
結局、ステージ優勝、総合順位、レース展開等々の詳細は、翌日レキップ紙を手に入れるまではわからないのでした。リアルタイムで情報を得られない私たちは、選手を待ち受ける緊張感とはうらはらに、レース展開に関してはこのように間の抜けた具合で、ツールを追いかけることになるのであります。
<本日のレース結果> @ステージ順位 1位 ジョージ・ヒンカピー(ディスカバリーチャンネル) 2位 オスカル・ペレイロ(フォナック) 3位 ピエトロ・カウッキョーリ(クレディ・アグリコル) 〜 6位 イヴァン・バッソ(チームCSC) 7位 ランス・アームストロング(ディスカバリーチャンネル)
@総合順位 1位 ランス・アームストロング(ディスカバリーチャンネル) 2位 イヴァン・バッソ(チームCSC) 3位 ミケル・ラスムッセン(ラボバンク)
結局、バッソはランスよりも先にゴールしてました。総合3位の選手にも十分な差をつけており、総合2位に浮上しています。
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さて、話はまだ終わりません。
生ランス・アームストロングを見て満足した私たちは、上りのゴンドラ2時間半待ちを繰り返すまいと、早めに乗り場へ向かいました。このとき時刻は17時45分。ツアーバスの集合時刻は20時。観客の多くは表彰式を見てから移動するはずですから、その前ならば最悪30分待ちくらいでゴンドラに乗れて、指定時刻までにバスに戻れるという算段です。 が、ゴンドラ乗り場で恐ろしい事実が判明するのであります。
「頂上ではゴンドラ乗車券を売ってない」
つまり、下りのゴンドラに乗るためには、ふもとの乗り場で往復のチケットを買っていなければならなかったのです。そして、私たちが買ったのは片道の乗車券。
ええ、歩きましたさ10km、ヒンカピーやランスが上ってきたキツイ峠をひたすら逆向きに歩いて下りましたとも。バスの集合時刻に遅れまいとほとんど競歩状態でもう必死でしたよ。 このあと、20分遅れでバスに到着し添乗員さんに平謝りした私たちですが、その時点でツアー参加者の半数しかバスにたどり着いていなかったのでした。嗚呼、フランスの峠道を10km歩いて下る者たちに幸いあれ!
さらにまたこのあと。参加者を全員収容して21時過ぎに現地を出発したツアーバスは大渋滞に巻き込まれ、ホテルに着いたのは25時半。ホテルの部屋でその日着たものを洗濯し、お風呂に入った私たちがベッドに落ち着いたのが27時。
観戦ツアーは、このように体育会的ファイト一発気合勝負手加減無用な展開で、初日からかっ飛ばしてくれたのでした。それではおやすみなさい。
※1:ランス・アームストロング(Lance Armstrong) 1971.9.18生、USA出身。チーム・ディスカバリーチャンネルの選手。1999年から2004年まで6年連続でツールを優勝しており、これまでの連続優勝記録5回を塗り替えた。今年は7連覇という記録がかかっているとともに、今回のツールを最後に引退することを表明している。1996年秋に睾丸ガンを宣告され、選手生命どころか自らの生命の瀬戸際に立たされたが、見事にこれを克服。1998年に選手としても復活を果たしたばかりでなくその後先述の大記録を打ち立てている。伝説のレーサーそしてキャンサーサバイバーとして、おそらく世界で最もその名を知られている自転車選手。だと思う。
※2:イヴァン・バッソ(Ivan Basso) 1977.11.26生、イタリア出身。チームCSCの選手。昨年のツール・ド・フランスでは3位に入賞。他にも大レースで多くの勝利を重ねている、CSCの若きエース。今年のツール前に母親を癌で亡くしており、彼女の闘病中からキャンサーサバイバー・ランスとは個人的に親交がある。のだが、この辺の人間ドラマは私の生半可な知識で書くにはちょっと重過ぎるので詳細はパス。美しい顔立ちで有名。
■ 参考サイト @ディスカバリーチャンネル ツール・ド・フランス特集 http://team_discovery.weblogs.jp/blog/2005/06/post_6ac6.html ランス・アームストロング特別番組をディスカバリーチャンネルで放送!だそうです。
@チームCSC公式サイト http://www.team-csc.com/ny_index.asp
@イヴァン・バッソプロフィール(チーム公式サイトより) http://www.team-csc.com/person_profiles.asp?p_id=5
05/8/19 | |
rucktun●Edited and published by Q-nets & QSHOBOU Japan. No reproduction and republication is permitted. ●全ての無断掲載転写を禁じます
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