ごんの株日記……その11

by ごんぱち



●七月某日『ハイト!』

 配当が届いた。

 ――突っ込まれる前に言っておくけど、本当は届いたのは六月末でした。はい。

 ゲオが10000円、松屋フーズが1500円――から一割税金が引かれるから、9000円と1350円。よっしゃよっしゃ。
 送られて来た方法は、「郵便振替支払通知書」という、コミケの抽選に落ちた時に、参加費の払い戻しで使われたものと同じ(誰も分からない例えを使わない事)。
 為替みたいなもの――というと、詳しい人に袋叩きにされそうだけど、ともかく郵便局に持っていけばお金に替わる紙という点で一緒。
 夕方に行くと、窓口が開いていないので、昼休みに。
 田圃の中にある、小さな郵便局で、換金換金。
 受け取りました。
 10350円!
 おー。
 大台だ、大台。
 1000000円が、10000円を生んだ。
 凄いなぁ。
 やはり経営の上向きなゲオの配当は高い。ものすごい差だ――と、冷静に考えてみると、ゲオの買値が714000円で、松屋フーズが232000円だから、大雑把に言って、初期投資が三倍違う。だとすると――いや、やっぱりゲオ高いや。

 しかし。
 松屋フーズには株主優待の食事券があるんだな。
 総会の後に届いた優待券十枚は、割引券でもなんでもなくちゃんとしたタダ券。ほぼどんなメニューでも可(対象外なのはビールとか、高いサイドメニューだけかな?)、今年いっぱい有効。よっしゃよっしゃ。
 大体、5000円相当と思って間違いない。この費用対効果と、実益性(割引券の類は、結局使わない事も多そうだし)はかなり優良ではなかろうか。
 この優待券は、米四キロと交換してくれる制度もあるらしいが、今回はやはり食事券として使うのが面白い。
 というわけで、松屋へGO!
 が、しかし。
 大きな問題が浮上した。
 優待券の裏面には、メニューの記入欄がある。それだけでなく「記入しなくても、店員に言えばOK」みたいな文言も入っている。
 だがしかし。
 予め記入したら、「やっぱり牛飯じゃなくて、カレーにしよう!」とか、「大盛りにしようと思ったけど、普通盛りでいいや」とか、柔軟な対応が困難になる。
 その上、手元に「松屋最新メニュー」があるほど、松屋マニアではない。メニューを見ずに当てずっぽで「牛丼特盛り」とか「チーズハーブ牛丼」なんて書いた日には、店から叩き出される事必至。
 別に口頭で普通に頼めばいいじゃないか、とお思いの人もいようが、それは図々し学校高学年の発想。
 松屋は食券式のファーストフードショップであり、「注文を聞く」という業務に当たる店員は基本的にいない。
 テーブルを拭いたり、味噌汁を注いだり、忙しく動き回る店員を呼び止め、
「チミチミ、ええとね、カレーをくれたまえ。この優待券でね」
「並盛りでよろしいですか?」
「んーと、そーだね。今日は腹が減ってるから大盛り――」
「大盛りでございますね」
「いや、しかし、最近妻にカロリーを控えるように言われているから――」
「じゃあ、並盛りですか?」
「でも、大きくても小さくても、同じ一枚使うよね? だったら、多い方がいいかなぁ。食べ切れなければ残せばいいんだし」
「そうですね」
「あややや、いかんいかん。いくら株主でも、否、株主だからこそ、店の商品を無駄にするのは良くない」
「恐れ入ります。じゃあ、並盛りで」
「いや、食べられそうだから大盛り」
「はい……」
「それから百二十円以下でサイドが選べるんだよねぇ。うーんと、サラダとキムチとタマゴと――どれがいいかねぇ」
 などとやっていた日には、食べ頃温度のカレールーを衣服の内側に流し込まれかねない。
 身の振り方を決定せずに、松屋へ。案の定、昼飯時で混雑気味。
「あー、やっぱりちょっと迷惑かなぁ」
 と、思いつつ席に座って――。
 その場で書きました。ロールキャベツカレー(夏限定メニュー)。
 バイト氏は、特にどうというリアクションもなく、カレーを持って来てくれましたとさ。
 その後、久里浜でも入ったけれど、あっちは優待券を取り出すや否や「ご注文は?」と訊きに来た。接客としてはこっちの方が正しいけれど、ちょっと慌てたなぁ、やっぱり(小心者)。

 さて。株取引である。
 元本割れしているので、優待と配当を生かさぬよう殺さぬよう取る事に決定した松屋フーズと、僅かに上がる事もあるものの、手数料が高くて今一つ売りに出せないアトラスは放っておいて(これを塩漬けって言うらしいよ! イヤな表現だね!)。
 ゲオの値が、550000を上限にもたついている。40万円台になったり52万円台になったりフラフラフラフラ。
 株取引では、安く買ってホールドし続けるのが、まあ堅実なやり方という印象が強い。元来物価は上がるのが資本主義の法則であるからして(そうでなければ経済的崩壊が起こる)、損をしない方法ではある。
 ところが。
 よくよく考えてみると、高いときに売って少し下がった時に買えば、その差額はホールドした時よりも多くなるじゃありませんか(よく考えないと分からんかったのか)。

 だがゲオは上がり調子。ちょいと手放したらそのままスコーンと騰って、二度と再び買えなくなるかも知れない。あたかも高校時代に振った男が、十年後に会ってみたらアラブの石油王になっていた時と同じように、バリバリと臍を噛む羽目になるかも知れない。
 しかし、恋は女性を美しくするもの。辛い恋も、素敵な恋も、眠れぬ夜もいくつも越えて、いつの間にか少女は密かに、音も立てずに、哀しいぐらい、大人になっている事もある(錯乱気味)。
 決めた! アタイ、素敵なレディーになるために、憶病だった自分とサヨナラする!
※男はレディーにはなれません。

 まあホールドしとくばかりでは、面白くないし、エッセイ的にも盛り上がらないし、どうせゲオは分割して二株だから(この辺重要)一株残しておけば、来年の株主総会には行けるし、損覚悟でちょっと動かしてみよう、と決心したのである。

 早速、最近YAHOO!のチャートを使ってばかりなので、めっきりアクセスの機会が減ったウツミ屋証券のページへアクセス。
 ――えーと。
 口座番号とパスワード覚えてた。良かった。
 じゃ、買付注文!
 ゲオを1株!
 指し値528000円で勝負じゃあ(注:その日の終値は510000円ぐらい)!
 翌日!
 約定出来ず!
 翌々日!
 約定出来ず!
 翌々々日!
 約定出来ず! というよりも、むしろ安くなって来ている!
 ――はい、お分かりの通り、ちょっと高めに指し過ぎました。ええ、ええ。以前、安めに指して買い付けていたのと全く同じ心理です。石橋を叩いてツッコミとんねるず、です(タカさんの事を知りもしないくせに)。
 なんですな、これで売れないよーなら、まあ今は売り時じゃぁないんじゃないかな、と。そう思ったわけで。だって、自分で売りたいと思った値段で売るから気持ちが良いのであって。そもそも指し値自体が、自分的には結構妥協な産物なわけで。

 その翌日。
 売れちゃいました。エヘッ。

 金です。
 マネィです。
 貨幣です。
 通貨です。
 円です。
 元です。
 ドルです。
 ドラクマです。
 ピストールです。
 メセタです。
 ギルです。
 ゴールドです。
 ウツミ屋証券の口座に、株式評価額という半分透けたような数字ではなく、実弾が! 久々に!
 528000マイナスの手数料1029円(980円と消費税49円)。
 元々は714000円(プラス手数料)で買ったものが二分割されているのだから、大体360000円。ここから引くと、


約170000円の利益!
割合にして1.5倍増!


 うおっ、凄え(但し、松屋フーズに20000円ぐらいの含み損あり)!
 えーと、今の金利を仮に0.1パーセントと考えると、1.001でx年、つまり1.001のx乗が1.5だから……あれ? logとか出て来ない? その計算。
 ――ま、まあいいや。ともかく五百年近くかかるってこと。
 つまり、株は。
 タイムマシンだ!
 いや、そーでなくて。

「同じ割合で損をする事もあるんだね。あくまで余裕のある資金でやらないと駄目だよ」
「はーい、お兄さん! これからは、ボクも無理な投資ローンなんかに手を出さなで、戦うヤツを笑うだけの社会の歯車になって、ささやかな幸せに汲々として生きるよ!」
「うん、それがキミにはお似合いだね! じゃ、教育テレビ『小1 みんなのかぶ』はおしまいでーす!」
「バイバーイ」
 そうそう、教育テレビ系マスコットの中では、算数のタップ君(たまに身体が伸びる白いオバケ)が好きで。いつも最後に出て来る「終」の文字がNHK独特だったので、何か特別な記号かと思ったりしたっけな――じゃなくて。いや、損をする可能性は「そう」だけど。

 儲けたなぁ、自分。

 もう、まごうかたなきビギナーズラックですな。
 最初にこういうのあったら、身を持ち崩すのも分かる。
 ま、本当言うと、まだこの時点でウツミ屋のページのお客様情報は書き換えられてなかったんだけども。
 そして、入金を確認する間もなく、買付注文を出したんだけども。
 今回の売りの目的は、あくまでホールドよりも儲ける事。最終的に、金と株がなければ失敗なのだ。

 今まで終値ばかり見ていたが、ゲオの場合、値動きを見ると、一日の中でも20000円ぐらいの幅で変動する(こともある)。
 つまり、終値が多少不本意でも、上手い指し方をすれば、それよりも高く売ったり、安く買ったりは出来るという事。
 事実、この528000円で売れた時も、終値は514000円(前日比△7000円)だった。その日の高値は535000円、安値が500000円。
 だとすると買い注文も、前日の終値の前後5000円ぐらいみても悪くはないのではなかろうか。

 そんな事を踏まえ、買付の指し値を考える。
 まず、確実に損をする額。
 それは526000円以上の価格。つまり、売った値段プラス、売り手数料と買い手数料コミ。本当は端数が出るが、呼び値が1000円なので、100円単位の値段は付けられない。
 かといって、525000円で買うようなら腰抜けだ。腰抜けが駄目なら間抜けだ、タネがないから天カスはタヌキだ。
 せめて10000円は利益を出したい。
 繰り返すが、いくら上がり調子でも、一日の中で下がる瞬間がある。
 問題は、どこまで下がるか?

 ここから、売り手株主との心理戦開始。
 まず、400000台はないと言って良い。
 今までの感触や、掲示板のやり取りを見物していた様子からしても、数字の区切りは気分の区切り。
 だとしたら、500000か?
 いや、それは明らさま過ぎる。前日の最低価格であるし、終値は7000円騰っている。平均的に言えば、高値安値とも7000円の上げ底で考えるべき。
 すると507000円?
 可能性はある。
 しかし、今回は「買えたら買おう」ではなく、「確実に買おう」である。ゲオはまだ騰る気がするし、今手放す気はない。
 となると、もう一つの区切り、510000円が浮上する。
 510000円。良い区切りに思える。利益も多い。売り手にとっての割安感も少ない。
 が、このキリの良さが、どことなく気になる。
 509000円を厭う売り手が、果たして510000円という見え見えのエサに、食いつくだろうか? 509000円と510000円の間には、所詮1000円しか差がないのだ。
 決定。指し値511000円で買い。
 翌日買付約定。
 差益で現金が13000円増えた。ホールドよりも得が出た。成功!

 ふー、やれやれ。
 買えなかったらどうしようかと思った。

 で。
 ここへ来てはたと考えた。
 今までのゲオ株は、714000円で買ったものが二分割されたものだった。
 でも、今は片方はその値段だが、もう片方は511000円で買ったものになっている。
 とすると、500000とかで売ると、損になるのか?
 あれ?
 あれれ?
 得はしてる筈なんだよなぁ。
 でも、買った時の値段は511000円なんだから、500000円で売ると確実に赤字の筈で。
 ――って、壺算じゃないんだから。
 この場合は、一番最初に自分で出した金を基準にしていれば良いだけ。ホールドしてるのと変わらないと思えばいーんだぁね。

 昔、漫才で「豚を殺さずに豚肉を食べる方法」ってのが載っていた。
 豚をひっぱたいてタンコブを削ぐという、結構ブラックなネタであったが、今回の取引はそれに似ている。
 こんな風にして集めたタンコブが、豚一頭分まで溜まれば、晴れて「資本ゼロの投資ゲーム」となるんだけど。

 と、思って、また売り付けてみたら、今度は下がる一方。一週間経っても約定出来ず。
 思うようには行かないねぇ。
 まあ、欲出したら終わりって気もするから、のんびり行こう。カレーでも食べながら。まだ松屋のタダ券は八枚も残ってる事だし。


<学びと気付き>
 大盛りは結構多い。
 二十代後半は、思った以上に喰う力が落ちてるんだな……。


――続きは、次回。

――その10 その12




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