ごんの株日記……その10
by ごんぱち
○六月某日『気分総会!』
六月です。
上半期です。
決算です。
梅雨です。
ジューンブライドです!
ブライトさぁん!
――失敬。
株主総会の通知が届いた。
聞きかじりの知識では、総会屋対策としてどの会社も大体同時期に開催するのだとか。
通知の到着日は、十一日に松屋フーズとアトラスの、十二日にゲオ。概ね同じ時期。なるほど。
開催日は、松屋フーズが二十四日(火)、アトラスとゲオが二十五日(水)。
って。
思いっきり平日である。
もうなんか、明らさまに来て欲しくなさそうな感じだ。
しかし、これが株式エッセイである以上、この大イベントを外す手はない。そもそも、株式自体を一ミリも動かしていないので、他にネタなんてないのだ!
いくらボーナスのない副業(パート)をしているとはいえ、特に脈絡なく二日連続で休むのは気が引ける。
さあ、どの一つに絞ろうか?
株主総会バトルロワイヤルー(違う)。
ふむふむ、アトラスは総会だけだけど、松屋フーズは懇親会もやるらしい。でも懇親会ならゲオもあるのか。
じゃあ、ひとまずアトラスは脱落。松屋フーズとゲオの線で絞り込もう。
おや、ゲオは午後四時始まりかぁ。ちょっと早退すれば休まなくても行けるなんて、気軽でステキじゃないか。業績も上がっている会社だし、ここはひとつゲオってことで。
んじゃあ会場は。
――名古屋?
松屋フーズに決定。
もう有無を言わさず決定。
会場は東京中野。
休みの報告をボスに出して――よし、有給休暇取得完了。ナウく言うと「ゲッツ!」。
後、ゲオの出欠確認葉書を出すと、ゲオのチケットかマックカードが貰えるらしい。
当方、酒以外の間食はせず、食事には米を食べないとダメなタイプの生物なので、マック利用確率はゼロに近い。従って、ゲオチケットに決定。
上がり調子の会社はしかし、羽振りが良いやね。
さて、いざ行くとなって、はたと気付いた。
「株主総会って、どんなん?」
この「どんなん」には様々なニュアンスが含まれ、それを知るために行くわけであるが、そうではなく。
「どんな格好で行こうかしら、ルンルン」
という事である。
何しろ、自分の服と言えば「ジーパン、スーツ、礼服、海水パンツ」の四種類しかない。
ラフ、サラリーマン、どフォーマル、ポリス沙汰の四天王と言っても良い。
さてさて。
まあこういう漠然とし過ぎる時は――。
「ヤホットォーー、たすけてぇ〜(どうやら『アボット&コステロ』のパクリらしい)!」
いろんな初めて者の味方、YAHOO! である。
キーワードは「株主総会 服装」。
400HIT。
チェックチェック。
最初のものは――株主総会なのでスーツが良いでしょう。そうでなくてもいいですが――。
うわ、曖昧な言い回しだぁ。
あれだ、電車のなかでいちゃつくアベック(死語)なんかを年寄りが見て、眉をひそめるけどひそめるだけで特に注意しない、みたいな状態だ。
その後「社員はビジネスカジュアルなので、株主もカジュアルで」とかいう、「平服でいらして下さい」並の地雷が仕掛けてありそうな表現があったり、「紋付き袴も可」なんてのがあったり。
……まあスーツにしよっかな。無難だし。
と、考えかけたところで、大きな問題に直面した。
スーツは当然ジャケットを着なければ、「昼休み、屋上でバレーボールをする若手社員」になってしまう。だが、時期は六月下旬。どう考えても梅雨まっただ中。
暑いっちゅーねん! ジメジメするっちゅーねん! 怒るでしかし! ボート好っきゃねん(無関係)!
こうなればやはり。
――省エネスーツを買いに行くしか!
しかしながら、数日間の探索の結果、青木にも青山にもコナカにも東京IGINにも、省エネスーツは売っていませんでした(この一文には事実と異なる表現が含まれています)。
ふん、もういい。
おいらは所詮スーツは似合わないヤクザな作家業である。
素のままの自分を出せば、きっとカレも分かってくれると思うの! ガンバ!
――どうも今回、どこかのネジが弛んでいるらしい。
そんなこんなで当日を迎える。
待て次号!
嘘。
そんなテンポをズダズダにして内容を小出しにしなければ、視聴者の注意を惹けない民放テレビ局みたいな真似はしませんって。
何だかんだで当日。
結局私の服装は、白のズボン(辛うじてブルージーンズでないタイプの)と赤チェックのシャツ(普段着にしている)。靴は(三千円ぐらいで買った、それなりに汚れた)スニーカー。
中野へは、新宿から中央線で百五十円ほど、東京から離れれば到着。
中野です。
サンプラザです。
サンプラザ中野ではなく、中野サンプラザです――というネタはみんながやると思うので、中野サンプラザが何であるかを解説。
結婚式とか会議とかやるビルらしい。形は三角っぽい。側にウツロの町から移築されたブラックタワー――否、NTTの黒いビルがあったりする。
別にホテルではないんだな。ふむ。
掲示板に「十三階 第二十八回松屋フーズ株主総会」と、表示が出ている。
うん、間違いなし。
さてエレベーターに。
と。
どやどやとエレベーターに乗り込む他の客。
年齢層中年以上、服装地味だがサラリーマンにしてはラフ。
これはもしや。
エレベーターに乗り込むと、すでに押されていた階数ボタンは十三階。
おお、やはり株主!
エレベーターの扉が開くと、結婚式っぽいロビーに、結婚式よりも少しくだけた感じの受け付け。
総会の通知の中の招待状みたいな奴を差し出し、株主出席票なる紙を貰い、控え室へ。
開始間近ということもあり、控え室はそれなりの混雑っぷり。
入口でコーヒーを貰い、空いている(といっても、相席)テーブルへ。
真ん中で、松屋フーズの食材加工工場か何かの説明映画が流れていたが、さほど見ている株主はいない。
さて。
コーヒー(砂糖抜きデニーズ並み)を飲みつつ、株主たちの観察。
スーツ着用率は七割ぐらいか。
それ以外は、ポロシャツにスラックスという、いわゆる中年普段着ファッション。やっぱりブルージーンズ組はごくごく少数派。まあ比較的違和感ない方かな。自分。
ガチガチにフォーマルである必要はないけれど、流石に短パンに丁シャツでは浮く、そんな感じ。
年齢層で言うなら、髪の毛は黒いが、若くはない、五十がらみと思われる人が多い。これは、株式投資を行っている人数と合致するのだろうか。それとも、ただ単に平日に株主総会に出かけられるような時間は、それぐらいの年齢でなければ取れないのか。
男女比率で言うと、圧倒的に男が多かった。
さて、特に声はかからなかったが、時間となりぼちぼち皆移動し始めた。
その流れに沿って、総会会場へ。
うーむ、何だかやっぱり結婚式場だ。絨毯敷き、シャンデリア、飾り窓! そもそも部屋の名前が「鳳凰の間」!
逆に汚いコミュニティセンターの会議室か何かだったらどうか、と言われるとまあ返す言葉はないが。
総会の配置は、前に役員席があり、中央に議長席がある対面式。
株主席は椅子がずらりとならんだ卒業式並び。
その後ろに、傍聴席があった。
まあこちとら株主様なので、遠慮なく前の方に腰を落ち着ける。
全員が集まった、という風でもなかったが、総会は開始(途中から入って来る株主もいくらかいた)。
社長が議長席に立ち、総会開始。
総会と言えば、総会屋。
飛び交う怒号、絶え間ないヤジ、キレる寸前の役員と、指一本動かしても飛びかかる体勢の警備員――という事はなく。
経営の報告が終わり、質疑応答も至って和やかに進むのであった。
唯一もめ事らしいもめ事と言えば、ある株主の質問が長すぎる事に別の株主が文句を言ったぐらいか。それも別にもめたわけではなかったし。
質問内容は、株価下落へのテコ入れ策はあるのか、という株主本位な質問から、新しいメニューの提案まで様々。その全てに議長(つまり社長)が答えていたのが印象的だった。
――能力はありそうだけど、ワンマン社長だな、多分。
そーして切れ目ない質問タイムを議長の鶴の一声で終わらせ、議案の承認へ。
「議案一を承認するひとー」
(パチパチパチパチ)
「賛成多数なので可決されました」
おしまい。
そもそもが、委任状(とは、ちょっと違うけど)が欠席した株主から山ほど届いている上に、社長自身の持ち株数が多いので(持ち株数=投票数)、総会出席者自体の票は、全くと言って良いほど影響はない。
議題がすんなり通る総会を、「シャンシャン総会」とか言うらしいけれど、そのシャンシャンは、拍手の音だったのね(シャンシャンを拍手の擬音にするセンスについては、多少疑問が残るがここでは触れない)。
つまり、会場の株主全員が反対しても通る構造。
だとすると株主総会に出席する意味は何なのか?
面白半分。
これに尽きる。
後、「社長」と呼ばれる人に対し、直接物を言えるチャンス。日頃その辺のストレスが溜まっている人は、こういうところで、八つ当たりをするのも良いかも知れない(何を勧めてるんだ)。
総会終了後は、懇親会へ。
懇親会というと分かり難いが、要するに立食パーティー。
料理は――普通。
ビジネスホテルの朝食よりはマシ。
焼きソバとかスパゲッティとかサンドイッチとか、あとはオードブル色々とか。
軽食という表現は当たってたと思うなぁ。
後で商店街で何か食べて帰ろう、等と考えつつ、社員と株主の会話に耳をそばだてる。が、語句が脳内辞書にない場合、カクテルパーティー効果は起こらないもので、さっぱり聞き取れず、ただ闇雲にウロウロするだけで、誰とも懇意にも親密にもならず、懇親会は終了と相成った。
十時開始で全スケジュール終了が十二時三十分。
結局その後、中野の駅前商店街の回転寿司屋で、ビールを飲んで帰った。
<学びと気付き>
株主総会は、どんな服装でもつまみ出されない感じだが、守っておくと良さそうな事が一つある。
「衿と胸ポケットのある服を着ること」
流石に、ランニングや丁シャツは見なかったし、株主出席票を胸ポケットに入れている人が多かったから。
それから、中野の回転寿司屋、旨い。
ネタが大きいだけじゃないな。
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