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【ルネサンスダンスとバロックダンス】 ルネッサンス期の文化先進国イタリアの舞踏が各国に広まり、その中の一つ創作舞踏バレット(Balletto)がフランスに伝わってバレエ(Ballet)と呼ばれるようになった。バレエのルーツはルネッサンス期のイタリアにあったといえる。14〜15世紀のイタリアでは、メディチ家・ゴンザカ家・エステ家などが互いの文化レヴェルを競って舞踏会も盛んに行なわれた。貴族達は音楽や舞踏の創作も行ない、バレット(Balletto)もそのなかの一つだった。

 17世紀初期から18世紀中期のフランス国王ルイ14世時代にヴェルサイユ宮殿などの宮廷を中心にヨーロッパ中に広まったのがバロックダンス。祝祭や婚礼時に数多くの舞踏会が催され、身分の高い順から踊る男女のカップル、何組ものカップルが一緒に踊るコントルダンスなどがある。貴族や専門家が舞台で技巧的なダンスをソロで踊るスペクタクルでは太陽王と呼ばれたルイ14世も出演した。やがて舞踏会のダンスは社交ダンスに、舞台のダンスはバレエへと進化していった。 当時のダンス教師は音楽の専門家でもあり、「ポシェット・ヴァイオリン」を弾いてダンスを教えた。舞曲の作曲もした彼らの功績は、ダンスステップの記述法である「舞踏譜」を確立したことだ。この舞踏譜によって今もバロックダンスを踊ることができる。 また、教養として宮廷の子供たちは礼儀作法とダンスを学んだ。
 1588年に出版された舞踏書「オルケソグラフィー」 21のブランルが紹介され、楽譜にはステップの説明がそえられている。ブランル(Branles)とは、カップル全員が手をつないで、輪になったり鎖のようにつながったりして、ステップを踏みながら時計回りに進んでいく2拍子系の踊り。
【フランス国王ルイ14世】 (太陽王) ルイ14世は美しい脚線美を維持するために高いヒール靴を愛用し奨励した。

 国王がわずか5歳で即位した時、5時間におよぶバレエが催され、国王自身も出演した。 バレエに魅せられた国王は15歳で舞台デビュー、王立舞踏アカデミーを創立してバレエを奨励した。
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| マニエリストQの梯子部屋ストゥディオーロ其の十八*連載小説■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ steps3【舞踏家】
飽いて冷めてしまった二杯目の珈琲。読みかけた頁を開いたままの写真雑誌。中途でやめてしまった時間をやりすごすための片づけもの。真夜中の静寂と電気系統の小さな呼吸音。ブラインドのすきまから見る闇に舞う白い雪。ベッドに散らばる眠剤のカプセル……眠剤がきかないのはいつものことだから思いつくままのことをして時間をつぶそうとする。どんなに眠気がきても素直に眠りにつけないのだから、そうするしかない。 深夜二時。璃薇(りら)は掌を頬にあて少しあれたかなと自分の肌に思う。鏡を見る気力はない。ジッポで火をつけたメンソールを一口でやめて灰皿にもみ消す。外ではもっぱら百円ライターをつかい煙草もラッキーストライク。そのことにさしたる意味は璃薇にない。そうしたかっただけだ。ジッポを奪った昔の男を思うが顔を思い出せない。男がふたまわり近く年上であったことは覚えている。二十歳のころだったからすでに七年も昔のことになっていた。金メッキにU.S. MARINE CORPSと刻みこまれた文字が読めるジッポ。手にした重量感が好きなだけで、男との関係に意味を持たせるなにごともないジッポ。いつでもつかえるようにと、石とオイルだけは買い置きしてあるジッポ。男の裸体がおぼろげによみがえる。 争いを必要としない生活から生まれるのであろう男の広くて薄い胸。男は静かに横たわっているだけ。愛撫はいつも璃薇にリードさせていたから、璃薇は男になにもされたおぼえがない。男は被害者で璃薇は犯人という、ベッドでのふたりの構図はそういうことだった。男の行為は、とそのような言葉でいえるとするならば、それは男の勃起のみで、それはまた犯人璃薇の愛撫によるものであったから、男は被られし者なのだった。
「今夜も眠れない」SNCの日記にそう書きこんで、璃薇の気は舞踏会に向いた。璃薇が所属する古典舞踏の会の十周年記念舞踏会が、ひと月後にひかえていたのだ。白いカバーで覆われたルネサンス衣装がハンガーで部屋の壁に吊るされている。その下の床に二足の舞踏用シューズが置かれていた。 舞踏会は趣向をこらした仮面舞踏会になると会の責任者から聞いていたので、璃薇はそれまでに仮面をいくつか用意しなければならなかった。衣装デザイナーの聡美に連絡することにしたが、璃薇はすこしためらった。ここのところ疎遠になっている聡美と会えば、きっとまたしつこく関係を求めてくるのだろうから、それがうとましく思えたのだ。聡美とのことは酔いにまかせた悪ふざけにすぎなかったはずだ。ある舞踏会の打上げでふざけて見せた乳くりあいが、聡美をその気にさせてしまっていた。仲間の喝采が楽しくて興に乗りすぎたのがいけなかったと璃薇は後悔した。ショップでまにあわせてしまったほうが無難なのかもしれない。いずれにしてもまだ時間がある。あわてることはないのだと璃薇は自分に言い聞かせた。 外で騒ぎ声がした。窓のブラインドのすきまから見おろしてみると、通りの向こうで若い男と女らしい数人が雪を投げあってはしゃいでいるのが見えた。降りつづく雪が街路や街並を覆い、闇のなかに不定形な白い起伏をつくっている。璃薇はベッドに腰かけてメンソールを口にくわえた。ジッポの火はいつまでもつけられることがなかった。  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  |