ごんの株日記……その5

by ごんぱち



●一月某日『ファースト・カブ』

 正月も終わった頃、家に一通の封筒が届いた。
 ウツミ屋証券から、口座の収支報告である。
 ええと、お預かり残高は、銘柄「お預り金」の数量が百万円で、評価金額は、なんと百万円!
 百万円。
 どうやら、日本の通貨はまだ価値を持っているらしい。
 良かった良かった。まだお金は使えるぞ! コーヒー一杯にトランク一杯の札が必要になったりはしない! 素晴らしい、やったぜ大蔵省(現存しません)!
 ――馬鹿な事言ってなんで、さっさと買いましょう。
 ええっと、それじゃ、ヒツジ年にちなんで、ラム肉の先物取引を――やりません。御免なさい。

 さて、口座も出来たので、株を買おうと思うが、目星が付かない。
 などと言うと、社会の動きに鈍感な最近の若者、とか思われるかも知れないが、そういう話でもあるまい。
 社会の動きという現象があったとして、それがどこの会社のどういった部分にどう影響するかという発想は、まあ言ってみれば専門知識に近い。
 風が吹いたら桶屋が儲かるとしても、その中間を繋ぐ複雑怪奇な連携のうちの知識の一つでも欠ければ、風が吹いたという現象が桶屋株高騰の予兆であるなんて分かりゃしないのである。
 それなら桶屋株ではなく、途中の猫屋株を買え?
 その程度の発想だったら、既に他の人に買われて値上がりした後だしねぇ……。

 屁理屈をこねた結果、自分の興味のある分野にしよう、と相成った。別に工夫や奇想天外な発想はない。悪しからず。身銭切るんだし。
 で、その業界は――ゲーム業界である。実に若者らしい。
 ゲームと言えば、セガバンダイ……違う、エニックス・スクエア――みたいな、爆弾抱えてそうなのは除外。そうでもない? あなた、ドラクエ8の画面写真見た? 丸々一ヶ月同じ写真だぞ。多分、シナリオも出来てない筈。活気がないんよ、つまり。

 そんなわけで、ウツミ屋証券HPの証券取引情報サービス「パワーチャート」(口座開設者対象のサービス)でザクザクと調べていく。
 方法は単純。思い浮かぶ会社名を、端から入力、検索。要するにYahoo!と一緒。そして出て来た会社の株式の値動きをチェック。
 やはり結構社名は出て来る。フレンドパークで「ゲームソフト会社名を五つお答え下さい」なんて問題が出ても答えられそうだ。あ、時間制限あるから混乱するかな。
 取捨選択に移る。
 商標商法で有名なコナミは手を広げ過ぎて怖いし、不思議にタイトーが高く見えるが、作品がファミコン版『六三四の剣』しか思い浮かばなくて不気味だし、カプコンは実力はありそうだけどゲーム買った覚えがほとんどないし、コンパイルは検索してもやっぱり出て来ないし。
 そんな中、そこそこ手堅くて、自分も好きなメーカーに焦点が絞られた。
 アトラス。
 そうそう、当方プリクラが大好きで――嘘です。『女神転生』シリーズのファンなだけです。旧約、真1、真2、if、デビルサマナー、ソウルハッカーズ、ロンド、ペルソナ、罪ぐらいはやってました(分からない人にはさっぱりだろうな……)。
 値動きグラフを凝視。ロウソクがどうたらこうたらいう形式は初見だが、何となく分かるのがグラフの良いところ。
 過去の大きな動きのあった時に付いて、ショートコメントなんかもある。これだと、経済情報を読まなくてもある程度は分かる……かも。
 ――えーと株価は、最高値800円位で、今は下がって来て500円ぐらい。
 これはどん底だろうか、それともまだまだ下がるのだろうか。
 ただ、この会社は真・女神転生3が開発中である。スーパーファミコン以来になる、正当派続編にファンが食い付かない訳がない。正しくキラータイトル。ネットゲームに手を出しているのが少々気掛かりではあるが、しばらくは無事と見て良いのではなかろうか。

 ところで、よくよく見ると、アトラスの株は取引単位が100株になっていた。
 ?
 通常の取扱の十分の一である。
 ミニ株対応という意味だろうか。
 でも、1株単位の銘柄もあるから、また別の事なのか?
 下手の考え休むに似たり。
 とにかくミニ株扱いで買えるかどうかを、実際に試してみた。
 取引画面にログインして、買い付けフォーム、を。
 よし、上のタイトルは確かに「株式ミニ投資 買付注文」となっている。間違いない。
 さっき検索したアトラスの銘柄コードを、フォームの記入欄に貼り付けて、と。
 念のため、時価情報をチェックすると、アトラスの名前が出て来た。うん、間違いない。表の中に呼び値とか、売気配とか、なんかよく分からない項目があるけれど、無視。
 んで、買付株数の決定。
 え?
 ……ええと、株数、だよね?
 株ってのは、1000株一単位らしいけど、この場合、1っていったら、1株って事? それとも、1000株の事? 100とか入れたら、100単位100000株買った事になったり!
 ――考え過ぎ。
 念のため、で、1を入力してみる。
「単位株数の倍数でご指定下さい」
 やっぱり、100を入れろって事か。
 どや。
「株数が最大限度額を超えています」
 は?
 ええと、まあ考えても仕方ないので、10を入力。
 あっ、出た。
 変だな。こんな単位で取引出来るのか?
 しばし考える。
 考える。
 考える。
 ――そうか!
 普通が100株なんだ、この銘柄は。
 んで、ミニ株だと10株単位!
 うーむ、奥が深い(深くない深くない)。
 それじゃ、1株一単位なんてのは、ミニ株ではどうするんだ? って、それはミニ株取引の対象になってないだけか。
 ええと、んで、10株を買付た場合の金額はっと。
 ――6600円?
 もしもし?
 あたしが買おうとしている株は、1株500円位だよねぇ。
 それを10株だから、5000円だよねぇ。じゃあ残りは?
 ――手数料高過ぎ!
 手数料最低額は、どんなに安くても一定額は取られる。あんまり安い株を少量買うと、こういう目に遭う。
 今度は50株で見てみる。
 28000円ちょい。
 買付額は五倍なのに、手数料は二倍に満たない。やはり、多く買った方が、手数料の割は良いらしい。
 ふと原点に立ち戻って考える。
 ミニ株を選ぼうとした理由は、慎重を重んじるが故。
 だが、アトラス株は最初から100株単位で取引されているのだから、支払う金額は充分小さい。それなら敢えて割りの悪いミニ株を使う意味は――ない。

 ここで、不満溢れるミニ株取引に引導を渡し、普通の取引に切り替え。口座は兼用なので、どちらでも利用可能。
 そしてまた買付フォームへ飛ぶ。
 記入する項目が増えている。東証とか何とかいった市場を選んだり、買付額を指定したり出来るわけか。
 コードを入力して、時価情報でチェックを。
「銘柄コードが正しくありません」
 あれれ? と、市場をいじってみたら、JASDAQで出て来た。
 はあ。そういうもんなんだ。
 買付額は、指定するものと成行というのがあるけれど、難しい事は分からないので、成行に――と、思ったら、JASDAQでは出来ないそうな。指定は、現在値の495円とした。下手に低くして買えないと面倒だし。執行条件とやらは、「出合(週中)」に合わせる。これが今週一杯粘ってくれるらしい。
 大体、この世界の言葉は独特で、門外漢にはさっぱりだ。
 ――誰にも相談せずに、徒手空拳でやろうって事自体がでっかい間違いには違いないのだが。でも、いちいち出て来る言葉を解説されるのも面倒だし、習うより慣れろとも言うし(それにしても少しは習った方が良いぞ)。

 で。
 JASDAQのアトラスを100株で、買付をクリック。
 買付注文確認画面が、JAVAスクリプトエラーの後に現れる(これはよくある事)。
 100株。指値495円。執行は出合(週中:1/31)。ふと気付いたが、土曜は取引やらないのだなぁ。
 そして、概算金額は、50529円。
 つまり、正味が100株49500円なわけだから、手数料が1029円の計算。ちなみに、ミニ株だと90株ぐらい(正確には91株だが、そういう単位はない)しか買えない。
 ……ミニ株よぉ。
 それから、暗証番号を入力して、インサイダー取引でない事を制約して、確認を選んで、実行っと。
 JAVAスクリプトエラー?
 先へ進みません。
 どうしろと?

 改めてウツミ屋のHPをチェック。対応ブラウザが、ネットスケープ4.6〜4.75――えーと、自分のブラウザは――ヴァージョン4.0でした。
 ――その後、数時間必死になって検索して、ネットスケープの古いタイプのホームページで、ヴァージョン4.7をダウンロード、インストールした事は言うまでもありません。ハードディスクは限界に近づいております。

 無駄な部分で疲労困憊の末、ともかく買付完了。
 買えるかどうかは神のみぞ知る。紙のみそ汁。髪の三十路竜。
 ふしゅるるるる……。

 翌日、取引成立のメールが到着。
 やれやれ。


<コラム:五分ぐらいで分かる「風が吹けば……」>
 風が吹く
→砂埃が立つ
→砂埃が人々の目に入る
→視覚障害者が増える
→(この理論が成立した当時は)視覚障害者の職業として多かった三味線弾きが増える
→三味線の材料の猫が減る
→天敵が減ったお陰でネズミが増える
→増えたネズミが桶を噛じる
→桶を修繕するためにタガ屋が大忙し
→隅田川の花火大会の火にも道具箱をかついで橋を渡るタガ屋
→この混雑へ馬で乗り入れる非常識な侍
→タガ屋にぶつかった時に、タガの竹がはねて侍の編み笠が落ちる
→侍激怒、タガ屋を無礼打ちにしようとする
→窮鼠猫を噛む。タガ屋、刀を奪って侍の首をすっぱり
→高く飛ぶ首
→「上がった上がったぃ!」
→「ターガやぁー!」

――続きは、次回。
――その4 その6




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