そして大晦日・はち探し最終回 いよいよはち探しも最終回。 おしまいの始まりなのだ、という事で、連載の最後と次なる連載への新たな一歩を踏み出すに相応しい、二年参りです。 場所は、京王八王子駅のすぐ近くにある、子安神社。八王子最古の神社で、子供関連に利益があるとか。 ――はち関係ない? と、思うのが素人の浅はかさ。 子安神社は、八幡太郎義家、すなわち源義家が欅を奉納したという曰くのある神社なのだ! ……まあ、先に二年参りがあったのは認める。 さて、二年参りに当たって、最も重要なのは帰る足である。独りで初日の出まで見る気はサラサラない。 ええと、初詣合わせの臨時列車はあるかなぁ。 ぐぐってみる。 ああ、中央線と小田急線と相鉄線は走ってるね。やっぱり東京近辺は違うねぇ。これなら帰りも安心――。 って。 肝心の相模線と横浜戦が平常通りの運行だよ! とすると、新宿へ抜けてから小田急か。本来の往復よりも500円ぐらい余計にかかるけど、漫画喫茶で夜明かしよりは時間も金も節約出来るな。 しかし、何か手はないかなぁ。バス……は、ないか。京王線もイマイチ……と、Yahoo!路線情報を確認していたところ。「0:14分発町田行」 ……あ。 横浜線の終電が、午前〇時を跨いでいる事に気が付いた。 町田まで行けば小田急に乗り換えられる。 これなら、運賃は相模線とほとんど変わらない。もさほどかからずに済む。 よし、これだ! そして大晦日。 二十三時前に八王子駅に到着した。 こういう時間だから人はまばらだなぁ。 公式サイトの略地図をプリントアウトしたものを見つつ、北口から甲州街道方向へ進む。ええと、ここを右、と。 子安神社、子安神社……頼れる兄貴キャラポジションの子安神社……あ、何か提灯と篝火。これだな。十分かからない距離。 まだ参拝客はほとんど来ておらず、氏子の人に個別認識された為、曖昧な挨拶をして境内に入る。 街中の神社なので、長い参道とかはなく、奥に社がある。両側におみくじ類の販売所になる予定のテントが設置されている。更に、右奥に社務所らしきものが、左手には氏子でやっている食べものの露店と、ビニールの風よけ仕切りの付いた飲食スペースが設置されている。更に奥には舞台があり、牛の大きな絵馬が飾られていた。 参拝客はそこな、藁で作られた謎の輪の付いている、小さな鳥居の前に並ぶらしい。 今のところ、三、四組並んでいる。 どうしたものかな。 これ、一時間並んでいた方が良いんだろうか。それともどこかで時間潰した方が良いんだろうか。 露店で何か買って食べて待つという選択肢は……ないな。町内会の手作り感が強いので、完全部外者の身では近寄り難い。 何しろ氏子の人たちの目が多すぎて、余所者の参拝客としては、あまりウロウロし難い。 暫し迷った末、並んで待つ事に決定。前から四、五番目ぐらいか。 立ったまま、図書館で借りた『ニセモノ師達』(中島誠之助)なんぞを読む。 処々は面白いエピソードもあるけれど、身内を庇う感じが強めで、主張にブレがある気がする。暴露本て訳でもないから、仕方ないかも知れない。 ああ、しかし寒いな。 Tシャツをいつもより一枚増量しているのだが、このジャンパーが少々薄手なのかも知れない。作業用で首周りの密閉度は高いのだが、全体的な生地があまり厚くないので、寒さが染みこんでしまう感じ。 今度もっと空気を遮断する機能の高いものを買おう。インナーと分けられて、願わくば防水機能があると良いけれど、案外お手頃価格でそういうものがないんだよなぁ。特に防水機能だ。大体、コートやジャンパーなんて物は、雨を避けられてナンボだと思うんだけども、ぽすぽす水を吸い込んでしまうものが多いからなぁ。 これで十一時半頃になると、ぼちぼち物販の準備が始まった。 ベテランとバイトの巫女さんが、おみくじや絵馬なんかをテントの売り場に並べていく。 あー。今さら取り立てて言う事でもないけど。 巫女さんかわいーなぁ。 袴は腰板があるせいで背筋がぴんと伸びて、背中から腰に至る形が大変美しく見える。 黒髪は言わずもがな。全くの独自解釈だが、例の双子の髪が紫色なのは、「艶やかな黒髪」の漫画的表現ではないかと思う。黒ベタのキャラについては、お手入れ不足の記号という事で。長さはロングが基本だが、時折ショートが混じってると逆に貴重に見える。 後、外見だけでなく、仕事をしている人というのは、自然と真剣さが出て凛とした雰囲気になるというのもあらぁね。 とはいえ、巫女さんをあんまりじろじろ見続けるのは、「紳士たれ」というクラーク先生の教えに反するので、『英国式午後の紅茶』など読みつつ更に時間を潰す。 寒さがずんずん染みこんで来るが、ぼちぼちサーモスタットが切り替わった感じで、耐えられない事はない。 前の方で焚き火が始まり、火にあたっている人もいる。あれは参拝客なのか、氏子なのか良く分からんなー。無論、火にあたりに行く事はせず、並び順を死守する。 右斜め前で、振る舞い甘酒の準備をしているようだが、凝視すると「寸志お願い」とか書いているように見えるし、お参りした後は時間に余裕がないのでスルー決定だな。 そうこうするうちに、午前〇時が近付いて来た。 賽銭を用意してポケットに突っ込む。帰りの切符と自転車の鍵を投げるというギャグはベタ過ぎるので、きちんと別のポケットに入れ直しておく。 後ろに並んでいる恐らくは中国の人の一団が、「明けましておめでとう」の言葉の練習なんかしていた。 そうこうするうちに、残り一分を切った。『それでは、カウントダウンをしたいと思います!』 氏子さんから拡声器越しに声がかかる。『……5、4、3、にーーい』 って、オイ! 時計見てやってんじゃないんかい。『いち、おめでとうございまーす!』 みんなで拍手。 鳥居と謎の藁の輪をくぐって、階段を上り、参拝。 かなり前なので、ほとんど待つ事なく参拝出来た。 さて、帰ろ……う? ふと気づくと、自分の後ろに参拝客の長い長い行列が出来ていた。 境内の中に収まらないのは当然として、神社前の道にずらりと人が並び、最後尾が見えない。 そうか、こんなに混むのか。本当に街中だから、ご近所の皆さんだけでもそりゃあ結構集まるも道理。 ……並んでおいて良かった。 では、駅に向けて走るべし、走るべし、走るべし。 割と時間に余裕はあるけど、走るべし、走るべし。 この辺はいわゆる「初詣産業」で儲けている街では全くないので、時折浮かれた人がいるぐらいで、閑散としたもの。走る事に何の支障もない、ただの夜の街。 よし、JR八王子駅に到着! 八王子駅よ、私は帰って来た! 時刻は〇時五分か六分か。 よし、間に合った! おみくじの一つも引いて行ける程の余裕はあったな。まあ、やんなかったろうけど。 こうして、横浜線の終電に乗り込む事に無事成功したのであった。 町田に到着。 Yahoo!路線情報で調べたもののプリントアウトして来たのだが、どうも別のルートを出してしまったようで、相模大野から大和へ抜けて相鉄乗り換えとか書いてある。 それはないだろ。 小田急一本で行けるだろ。 自分の曖昧な記憶を信じ、小田急線の行き先別最終列車の相武台前行きに乗る。前に乗った時は、そこから海老名まで歩いたもんだったが。 相模大野で降りる。〇時五十四分。 さあ、案内表示を確認……うむ、一時二十五分発で小田原行きがある。よっしゃよっしゃ。 三十分も吹き曝しのホームにいる事はないので、階段を上って駅舎の中へ入る。 流石に今日は駅コンビニ開いてるな。寒さしのぎにちょっと入ってみよう。あー、暖かい。 酒の一本も買うという選択肢はあり得るのだが、正直年越し蕎麦を食い過ぎた感があり、飲み食いはしたくない。後、あまり金も使いたくない。毎月そんな事言っているが。 改札から出ると運賃が余分にかかるので、駅舎の隅っこで、本を読む事にした。同じ感じで列車待ちをしている人もぽつぽついる。 ふうむ、英国式のティーは大袈裟なのか。ミルクティに冷たい牛乳を使えというのは、要は風味の問題。ロイヤルミルクティは、水と牛乳がハーフ&ハーフ、牛乳のみがセイロン風、それは勘違いしてた。 読んでいると、向こうの方で「はっぴー・にゅー・いやー!」とか叫んでいる外国人の人とかがいた。こういう時に、みんなでその場で宴会が始まってしまうような国民性だったら……楽しそうだけど、案外独りで思索する時間というのも大事なのだよな。 頭から何かが生まれる時というのは、独りでいる時だ。人と過ごす時間は大事だがそれだけでは素材だ。独りの時間があって初めて整理され、形になり意味を伴う。そんな気がするのだ。 駅員さんが「小田原行き到着しています!」と、声をかけ始めたので、乗り込み、寝過ごす事もなく、海老名に辿り着いた。 海老名から乗り込む客が案外多かったが、どういう客だろう。寒川神社や、横浜方面から帰って来る客だろうか、大山や小田原辺りの神社に行くんだろうか。 後はまっすぐ家に帰り、風呂に入って寝た。 身体が冷え切っていたが、風邪とかはひかなかった。まあ、寒ければひくというものではないし。 さて。 はち探しは第八回の今回をもって終了です。 基本ブラブラしてただけなので、八王子に詳しくなったとはお世辞にも言えませんが、脳内地図の中で、八王子の街がより鮮明に記憶されるようになった事は確かです。 これは実に面白く、貴重な事であると思います。 さて、はち探しは終わりますが、八王子散策の連載は続行します。 どんな縛りで行くかは、まだ決めてませんが、確実に言える事は、次回も書く、という事です。 またのお越しをお待ちしております。 お付き合いありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。