ふりかえる小さな蜥蜴の愛らしさ……歌うようにアヤカが言った。なんだいそれ? 蜥蜴は美しくふりかえり、時計の針は薄すらあかりをいそしむ。白秋の詩よ。気味が悪いな。見返り美人みたいで可愛いと思うわ。アヤカは薄桃色の舌を突き出してちろちろと動かす。やめなよ気持ち悪い。蜥蜴もキスをするのかな。アヤカの舌が入りこむ。洞窟を手探りするように口のなかであちこち動きまわる。ちろちろ……二つに割れた舌の先がまるで内視鏡のように洞窟の闇奥へと伸びていく。アヤカのモニターはなにを視ているのか。
ナニかを呑みこんだ蛙はみるみる黒ずんで固まっていく。見開いた眼が血走り瞳孔は真赤に充血している。やがて身動きしなくなった蛙の口がゆっくりと開く。口は内部からこじ開けられている。ぬっとナニかが現れて、やがて胃液にまみれた全体が抜け出る。ナニかは、振り向きもせず、ゆったりと森奥へと消えていく。
なんともグロテスクだな。あなたに似てるわね。それはどうも。二人はベッドに寝転び顎を枕にあててテレビをみている。朝のワイドショーからみつづけ、今は夜の八時から始まった動物アワーをみている。クーラーの冷気が裸に心地よい。今夜、鰐が食べれるわ。アヤカは枕元に食べこぼしたパン屑を払いながら言った。ああ、あれか。刺身にでもするのかな。背の半分ほど水に浸かり半円に円まっていた金盥の鰐。行きつけの店の親爺が食べにこいと言っていた。煮込みにするんですって。俺は遠慮する。わたし食べてみたいな。再び薄い舌がちろちろと入りこむ。絡まれた舌が真赤に染まっていくような気がして慌てて抜く。どうしたの? いや、なんでもない。パンだけじゃお腹すいたでしょ。ちょっと待っててね。キッチンに立った裸のアヤカをみながら煙草を喫む。ちくりちくりと、ほかに女ができたことを咎めている……アヤカ特有のさり気なさを装いながら。だから一日中、こうやってベッドにつきあっている。けれどそのあざとさが通じるようなアヤカではない。具体的に責めてこないのがなによりの証拠だった。
ベッドに胡座をかいてホワイトシチューを食べる。具がほとんど蕩けて原形がない。よく煮込んであるからおいしいでしょ。食材には苦労したのよ。きみは食べないの? わたし? わたしはいいの。あなたのためにつくったんだから。そう……ところで、これなんのシチュー? 可愛いは、おいしい……わたしにふりむいてね。
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