「あっは、嘉朗、新聞に載っちゃったよ」 見舞の花束を胸に抱いたまま嬉しそうにケイが言った。淡い色でまとめられた花束が、やけに眩しい。 「言ってんじゃねえよ」 嘉朗は妙に明るいケイを苦々しく感じたが、それでも、わざわざ自分のために見つくろった花束を抱えているケイに悪い気はしなかった。近所のテキヤとやりあって、救急車でこの病院に運び込まれたのは、つい3日程前のことである。幸い、刺された腹の傷は浅く、大事に至らずに済んだのだった。 「おまえさ、随分じゃない。自分だけとっとと逃げちまってよ」 ベッドの毛布の中で目から上だけ出した嘉朗が恨めしそうに言う。 「あんたが突っ張ってるからいけないんじゃない」 ケイの瞳が意地悪くキョロンと回転する。 「でね、いつまでも馬鹿やってらんないから、私、手伝うことにした」 「おふくろさんとこか」 「そ。画廊けっこう忙しいのよ。だから不良の嘉朗とはチャラね」 「不良が不良って言ってどうすんだよ」 「あんたもさ、そろそろ考えたら。歳なんだしい」 毛布の中でそっと手を当てた腹の傷が疼く。見舞の花をありあわせの花瓶に差しているケイを横目で見る。柔らかい朝の陽が差し込む病室に、ケイの微かな鼻歌が途切れ途切れに聞こえる。 「俺さア」と言って、嘉朗は言葉を切った。目は天井を見つめたままだった。 「私、絵また始める。画廊の仕事にも必要だし。母さんも安心するし」 「おお、いい子だこと」憎まれ口が白々しい。 「ダッセえ」嘉朗はもどかしい自分につぶやく。 「俺はケイに何が言いたいんだ」漠然とした気持ちが嘉朗を不機嫌にする。 「なにふててんのよ、アホクサ。そうだ、アパートよって取ってきてやったよ。これね」 ケイは、嘉朗の足元の上にサイドバックを置くと、バイクのキーをチャラチャラと指で回す。 「行くのか」 相変わらず天井を見つめたまま嘉朗が言う。何故かケイに顔を向けられない自分が腑がいなかった。
ラッタッターて、ケイのバイクの軽い音が、病室の窓から聞こえた。 煙草をくわえ、バックを開く。 「畜生! あのアマあ〜」 嘉朗の絶叫。なんてこった、やられちまった。通帳残高100円。 ラッタッターて、ふざけた音が遠のいていく。 「不良だよな…」 情けない嘉朗の日々は更に続く、だろう。
|