マニエリストQのストゥディオーロ其の一クラス会の始まりマニエリストQ●感想などいただければ幸いです。


 しくしくと降る雨は、随分と昔に見た小さな窓外の風景のように、白く霞んだ景色を映していた。遠方に時折響く雷鳴が、幼く甘く曖昧に過ぎていった私の時間を引きずり出す。
 いつの間にか、私の思いは幾つもの雨粒が滑り落ちるオフィスの窓ガラスの向こう側に抜け出ていた。
 そぽ降る雨を小さな勉強部屋の窓から瞬きを失ったようにじっと見つめていたのは、確か十四の始まりの歳だったような気がする。待てば必ず何かしらの返事があると自分に言い聞かせ、それから六日の胸苦しい時間が過ぎていた。
「一方的で乱暴な手紙なんかに返事なんかあるもんか」そうと思いつつも十四の私は、はかない期待を抱いてひたすら待っていたような気がする。
 さっと吹く風で雨足を乱した景色が、ますます霞む。夕べのように闇まる。間もなく、幼い二つの瞳が涙でにじみ、景色はフィルターをかけたように真っ白なミルク色に変わった。
 気がつくと、三十余年の時を費やした私が窓のこちら側に立っていた。外は相変わらず雨に煙っている。
 Configiを入れる。娘からのメールが入っている。「お父さん、お母さんからの伝言だよ。─お父さん元気にしてますか。来週の土曜日にそちらに行きます。洗濯もの用意しておいてください。そうそう、あなたの中学校のクラス会の通知が来てました。来月の日曜日だから出席できますね。きっと懐かしいわよ。葉書そちらに送っておきました─」
 窓の向こうでは蜃気楼のように、雨に煙る風景が揺れていた。 翌日、妻からの封書が届いた。妻と娘のスナップ写真と一緒にクラス会を知らせる一葉の葉書が同封されていた。葉書はクラス会の日時と場所を知らせる簡単なものだった。数十年ぶりのクラス会だというのに随分と愛想が無い。おまけに出席の可否は横柄にも電話を入れよと指示があるが、肝心の幹事名が載っていない。
 ともかく電話を掛ける。
「はい…」
「わたくし、クラス会の件で…」そこまで言って私は息を呑んだ。
「お返事、遅れてごめんね」
 それが二人だけのクラス会の始まりだった。