萎えた掌からこぼれた水は、幾つもの小さな水球となって、ミルクの上を曲線に沿って流れた。流れ落ちた水球は、褐色のシーツに紛れて消えていく。濁りのない滑らかな肌は白いミルクに万遍なく覆われ、その表面を手はゆっくりと這う。 膝を立てて左右に開いた両足の中心に、微かなユリの匂を醸している幼い実があった。 掌に包まれた実。失われた肉体の時。それは、異物の出会いのような、老人と少年の皮膚の密会だった。 銀色の重い光が少年の股間に忍び込む。すっと、動く鈍い輝き。褐色のシーツに再び一筋の鮮色が染る。見開いた少年の瞳に映るのは、ただひたすら華やかに舞う貴婦人たちの姿だった。 「僕は、カストラートになれたの?」 「なれたもさ。おまえはこれで立派なカストラートだよ」 老人は大理石を覆ったシーツを剥がし、慣れた手つきでそれを畳む。 「おまえの父さんには礼をたっぷり頂いているからね」 そう言って、消毒用の強い酒を嗄れた喉に流し込んだ。
音楽学校の生活は、朝から、歌唱パッセージの訓練と国語の学習。鏡の前で歌唱と演技の訓練。昼を過ぎると、音楽理論と対位法の五線紙訓練と実習。さらに即興の訓練と再び国語の学習。時に賛美歌の作曲。そうやって少年の年月は過ぎた。 春に、少年は18歳のカストラートであった。若く艶やかな貴婦人たちが彼を取り巻き、彼の声は裕福な家庭の妻や母親たちをも虜にしていた。驚くほどの数の女たちと愛の夜を過ごした。それは、日々華麗な時のはずだった。少年の素晴しい未来は、その時を止めた声で保証されていた。そのことは、音楽家独特の聡明な頭脳による直感でもあった。ただ一つの見えない事柄を除いては。
「おまえは私のもの」 男が少年の頬を萎えた指で弄びながら言った。黒いマスカラードの奥にねっとりとした眼球がある。緩い風が運河の水を微かに揺らしている。 「美しい肌。いとおしいおまえの声。おまえのためなら何も惜しまない。たとえ一文なしになっても、この首が落とされても、私はいい」 男の華奢な舌が、楽園の果実を蝕む白い蛇のように、微かな傷を残す少年の実に絡む。 「おまえが夢見た幼子のままに、私がおまえの全てを留めよう。時よ止まっておくれ」 そして再び、少年の透明な血が、墜ちて壊れた時計の砂に紛れた。 見えない「時」の報復だった。
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