|
ラブレター
三島由紀夫は年上の看護婦の笑うと漣が立つ眼に感じる
高見順は四つん這いになって押し入れを覗く和服の女に感じる
久世光彦は女のもう一つの口がしゃべるのだとそこに感じる
村上春樹は赤くなったさきっちょについて考察する
近所の小父さんは裸でエプロンした女の背に感じる
隣の家のお兄さんはつがって飛ぶシオカラトンボに感じる
僕はといえばまだ剥けていないから痛い
痛いけれど隣のきれいなお姉さんに感じる
お姉さんはときどき僕に手づくりのカレーライスをおごる
二人で食べる
辛いし痛いし
痛いし辛いし
きれいなお姉さんは察しがよい
辛いし痛いし浮遊する16歳
だれでもだいたいそんなものだよとワガハイハ猫デアル
それで僕はきがねなくロケットを打ち上げる
小父さんよりもお兄さんよりも高く高く高く
三島よりも高見よりも久世よりも村上よりも夏目よりも天空へ天空へ天空へ
上がれば落ちる地獄の季節にメランコリー
さて
きれいな隣のお姉さん聞いてください
僕はこれでも第一級の詩人です
(第10回 QBOOKS乱取バトルチャンピオン作品)
貴重な感想票をいただきました
●自分の作品はあんまり「料理」と関係ない気がして、他の方の美しい作品達と肩を並べるのがちょっと恥ずかしいくらい。ごんぱちさん『ベーコンエッグを作ろう』は最初の二行が核心で、もっとすんなりまとめても良かった。石川順一さん『セックスと料理に関する小説と詩』は全作品中一番技巧的で好きな作品なのだが、決定的なセンスがなくて後に残らなかった。 小説の方でも投票したzippohさん『ラブレター』に票を投ずるのはなんだか悔しい気もするけれど、今回は自分も含めてこの作品に勝るものが見当たらなかった。包茎文学青年のやるせなき性が辛いし痛い。シオカラトンボにグッときた。
●詩の感想というのは何だか難しい。一応2つのテーマが十分に感じられる作品を選ぶ事にしました。で、特に気に入ったのは、「ベーコンエッグを作ろう」「スープ」「セックスと料理に関する小説と詩」「ラブレター」の4作品です。 「ベーコンエッグを作ろう」は、作者の心情がそのまま吐露されている感じが面白かった。 「スープ」は、これで終わりなのかと少し残念。読み足りない気分にさせてくれた。 「セックスと料理に関する小説と詩」 何だかよく判らなかったけど、印象に残った。 「ラブレター」は、辛いのが、カライのかツライのか、はたまたツラくてカライのか、どちらとも読める文字を使うという発想に脱帽
●怪しい直感だけど「辛いし痛いし浮遊する16歳」というフレーズは、QBOOKS史上において屈指のものといえるのではないだろうか。ぼくはこの部分を飽きることなく音読し、その妙を楽しんでいます(植)
(第10回 QBOOKS乱取バトル感想票より転載)
累々たる累
砂漠に穴陥没してる 潜りこむ真っ黒な蛇よじ登る自分がいる 落ちる熟した果ての実の果て 素っ裸で追い出しくらってさ 必定しかるべき歴史の心証てやつだ
青い空はひとつ 繋がるひとつの天
嘘でしょ
少女知らぬ川に沈む 母堂かくれんぼうのまま燃える 帚に油塗る闇夜暗夜真っ暗くら
青い空はひとつ 繋がるひとつの宙
爺三乗は認めるさ地平線は真直ぐだった
争奪血戦紅の蒼い空 円い昂で怪物たちが只今合戦中 リポーターが叫んでいやがる 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
爺三乗たち潰れた今もこのざまあのざまざまあない 君の背後婆三乗がケタケタ嘲ってる
巷の母の無精子卵の 彼奴の足裏は薔薇色豪華絢爛 救ったが殺しもした そう 殺したのだ累々と
累々たるに何が浮かぶ 見ようとすれば浮かぶ見なければ沈む 俺はといえば 累々たる ○ ● ▲ ■
累々たる
屍
退嬰の月並み累々たる累がリターンマッチ 満ちて欠けて満ちて欠けて 浮遊している累々累々累々累々累々累々累々累々累々累々累々累々
空はひとつ 繋がる青い空 円い星
いつまでも詩ってろ
俺が地平線を平らにするお前とな 審問不問母不在怪物少々父要らず
トラック学校が砂漠にやって来る一日遅れ胸膨らます 砂漠の地平線背伸びし待つ少女 砂漠が黄色ミルクが白色紅茶が紅色珈琲が黒色酒精が琥珀色俺は泣けたさ トラックは来れないかもしれないからね
俺は赤い花を折るお前とな 明日は明日は きっと
(第34回 QBOOKSタイマンバトル作品vs Tsu-Yoさん)
貴重な感想をいただきました
マニエリストQさんの「累々たる累」に描かれる楽園を追放されて砂漠に墜ちた成れの果ての末裔。それはわたしだし、きっとあなただ。そんなふうに思えて。
○●▲■の記号の並びと累という文字は何処となく似ているように思えてますます不穏な気持ちにさいなまれながらも胸の水面はざわつくことなく、何故か何処かしら来るべきものを予定調和的に待っているような荘厳ですらもあるような心持ちになる。それにしても文字、単語、行、連。それぞれを構成する全てになんと重い量感があることか! リズミカルに展開しながらも、速度を絶妙に重みで制御して、読み流すことを許さない。最終連に置かれた花の赤のイメージが鮮烈。黄色い砂に、一輪の赤。何とも強い一篇。
(第34回 QBOOKSタイマンバトルの佐藤yuupopicさんの感想票より)
遠くの月
麦茶おむすびシガレット コンビニ袋ぶらさげた 深夜
黒く流れる水音お伴に 爺がご帰還
おやご覧
アスファルトに真黒ぽかり 肩幅ほどの円い穴がある
思いきや閉じる
こいつ川に棲む鯉の退屈しのぎか悪戯か 鴨も棲む
思いきや開く
爺の首は穴のなか 暗中模索でキャタピラ工事の看板ひとつ見る
薔薇一輪がご愛嬌 綺麗事の裏にはいつでも闇がある
これはプラネタおむすび 海苔で丸める突貫工事
地下1メートル地中1000メートル どれだけ違う
海苔が腐る
糊塗が剥げる
腐水が増す
塩気がたっぷり
いつのまにやら プラネタ海苔茶漬け
おっと穴ぽこ閉じる
薔薇一輪の底に 挟まれた爺の首がころりと落ちる
ボゥボゥ お精霊様が川で啼く が 啼くに啼けない首なし爺
鯉の生き血もやれず 鴨の首もひねれず 蜻蛉釣りさえままならぬ
しかたない 廃れた川辺の墓場で平胡座 蝙蝠が笑いやがる 貴君も笑う
酒ほどほどにバスあるうちよ 支度あるにおむすび か
うたうはよかれ どうともよかれ くりごと婆さんの小言幸兵衛
さて
爺の首は穴の底 ころ ころ ころ と 貴様の首と駈けっこ
婆さんの永久の子守唄 遠くの月が眠っている
(第36回 QBOOKSタイマンバトル作品vs イグチユウイチさん)
舞踏機械である神話の引用
頭蓋骨と頸を蝶番いで留めて
頸と胴体を螺子で繋ぐ
華奢で白い胴には器用な手がぶら下がり
とれかかったビスが鈍色に輝く
尻も腿も脚も似たりよったり
凡庸な繋がりとぶら下がり
いっそのこと
すべての螺子をはずそうか
半端なビスを灼熱で凍らせようか
それとも零下で溶かそうか
いずれにしてもどっちでも
一知半解な苦悩は五里の霧中に飛び火して
ちょいとばかり他人に類焼するが
赤い服着た世間の冷水
影も形も消え去って
薔薇は薔薇
菫は菫
人は人
瞬く間に不実の匂いが出来あがり
永久の仕掛けを捕捉する
(第1回 QBOOKSタイマンバトル作品vs葉月みかさん)
たとえば
たとえば 僕が珈琲を飲むなら 君は緑茶で煎餅を齧る
たとえば 僕が街に出ようよというと 君はめんどうだからという
たとえば 僕は猫が好きだが 最近の君は小犬が好きになっている
たとえば 僕はつい先日花の名前をひとつ覚えたが 君は植物学者みたいに花知り
たとえば 僕は即席らうめんが得意だが 君は冷蔵庫の残り物でご馳走を料理する
たとえば 僕と君にこどもはいない
そうやって 僕と君は 君と僕は
たとえようのない 長い歳月
いまも いまも いまも いまも いまも いまも
庭の植木に水をさす
僕は煙草の煙りをくゆらせ 君は煎餅を齧りながら
(第1回 Q書房突然バトルチャンピオン作品)
メランコリア
黒猫 ころがれ 悶えし 天鵞絨の匂い
硝子玉 ころがれ もどかし 絨毯の深く
曇天の 晴らせよ 憂鬱 この刹那
ころがれ ころがれ 洋つ海と久方を
悶えし もどかし 憂鬱に 透いておくれと ギヤマンの玉 見つ
さっき見たばかりのモッズな奴の夢
とってもかわいいねえちゃんが 今夜もステップらりぱっぱ あっちに落ちてこち落ちて シャリダン シャーリダン
コンビニ前の朝ん中 うんこすわりでおはようさん ヌードル喰ってモクやって モッズな奴がローリング けたけた笑って泣いてみる シガレット シーガレット
横断歩道でどんずまり モッズな奴がこんにちは おったてヘアがサラサーテ 顔など知らぬおまわりが 棒きれ握って盾たてて ジュラルミン ジューラルミン
フランスの ムーランルージュの ロトレック おまえのとおちゃん禿頭 おまえのかあちゃんでえべえそ おいらも描くさねえちゃんと オールナイトで塗ったくる ペインティング ペイーンティング
シャーリダン シャーリダン シャーリダン
蓬莢の鬼来たり十二夜
一 赤鰯
赤鰯の烟 微かに漂う薄青色 鬼打豆を撒くほての上、 あえかなる身に微笑(ほほえみ)を泛ぶ。
忽闇に蓬莢の族(やから)来て、 三つ目の怒り知らぬとて 唇にする小唄 輪廻の旋律(メロディー)。
小槌とり 愛敬(あいぎょう)の嘘偽り、 立つ春。
今生の命、 族の追われし後日 小豆(こまめ)のひとつ。
| 二 遊園地
弥生、卯月の午後 小さな老婆、小脇に何やらかい挟み あたふたと寺門に駆け込んで 騒々しい餓鬼共掻き分ける。
袈裟掛坊主がくどくど 愚痴をこぼすその透きに 糞垂坊主、市電通りを駆け抜けて 裸足の逃走を試みる。
冬の残したまばらな薪 急勾配の屋根の下、 乗り越え走り抜け一目散。
行きつくは、何時も定めし 常春藤の縺れあい 紫匂う廃れし墓場が遊園地。
| 三 輝く影
渇いたうなじを剃りおとす 薄紅色の細い剃刀 深い輪郭に眠る。 暗闇の演出者 双の眸の猫目石 今生の証と光明を。 海神(わたつみ)の匂い漂わせ エレキと逆巻きの時を刻む 褥の壷。 永遠の陽傘を目蓋の皮膚に 涯の海の紺碧の音 幼姿を呑みこむほどに捉え 薄紅色の小さき貝殻を漁る。 古に、数多の肉を貪った荒波 陽傘の中の輝く影までは 紺藍の深い色には染められぬ。
| 四 幼き鳥
鳥よ、幼き鳥よ すでに巣なき屋根に何故飛び戻る あの嵐の空に 鳥よ、何を見たのだ。
父もなし、母もなし、家もなし それでも、鳥よ 何故にその屋根を歩むのか 鳴くのか。
撒きし豆に、鳥よ 飛び去りて飛び返る 餌(え)ではないのか、家ではないのか
それでは、鳥よ 一体、何が残っているのだ その黒い塗炭の屋根に
| 五 間歇性悶着症
遠く近く フリュートの音が、緑の風にのり 木陰の透間を通り抜ける。 髪はさらりと横にわけ 洗晒の開襟シャツ、黒いズボンの折返し。 窓の外は 広くて静かな運動場。 人気のない廊下には 弾む声がいつかあったはず。 きっと 運動場の入口に、幼くてはちきれそうな 君の姿があるはずだ。 僕は思う このことは、ずっと続くんだ 永久なんだって。
ちびた鉛筆が。 ころりと転がった。
| 六 夢
冷たい褥の中 双の眸を閉じる瞬時(とき)、 忽然と目醒める宙に浮く遠方の陽炎 光輝の輪郭を縁どる。
紫暗の壷からむっくり その姿露れるを、 睡魔の邪鬼が充満する脳裡 官能の頁を愛撫する。
姿、 煙管(パイプ)の甘き香りの匂うが 透きた肉体。
海原を馳す主神の巨体、 褥の狭しと小魚が群る 共に眠るはただ一尾の魚。
| 七 美術家たち
緑の肉体に稚気を秘め そっと廻転する透きた頬、 遠く隔てし故郷の春を忘れ 飾られる精なき物体。
古に人の航路巡り見た 神秘の技が夢、 剥ぎとり摩替えられ 今では馴染みの玩具セルロイド。
綾なすは 根も葉も知らぬげな美術家たち、 エレキの波に調べよい。
遠目が紅き唇の笑み 薄物の微光の気球に舞う姿、 いつか見し人形の光箱。
| 八 歴史
紫が夜を勤務(つとめ)と染むるころ 盈虚の暦を知り尽くす 「退嬰」の星が現れて 無価値になれと唆す。
欧亜の空と時の間に 否応なしにひきこんで 戸惑いと憧憬の媚体、 傾く痼を弄ぶ。
麻薬もエレキも益なしと 糊塗の粘土で縁どりし 手鏡をひとつ用意して、
逆巻く時の宇宙の暗闇に 末世を刻む役割を 惜しげもせずに全うす。
| 九 整える羽毛
万能の術師、運行の透間を見せ、 倦怠の夕が隈なく コールタールの皮膚を反射して、 五指を茜に染める。
術師が食する犠牲(いけにえ)の生血 宙(そら)より紅絹の糸となりて滴り落ち、 全ての芥子粒たちの螺旋(ネジ)を巻き、 術師の意志の大劇場の中 無言の輪舞を唆す。
一方、軽やかなる鳥人、 今や機会(チャンス)と白き羽毛を整える。 待つは薔薇(そうび)の裏よ、安息の夜。
| 十 鉢巻
土人女が見極める あらゆる色彩のサンプルが如く、 怪しく花々が咲き乱れる 土手の上、 バビロンの塔が繰返す。 巨大に聳える建物の上方に 幾つかの断雲が白く流れる 影の道、 長い鉢巻を拾う。 巨大な建物の窓から 女が手を伸ばし、 紫色の長い鉢巻を掴取る。 停車場で、 妻は逸れた。 そして、妻は相変わらず 停車場で待っている。
| 十一 鳥の絵
沈黙の黒布を身体中に、透間なく顔まで覆い、 勾玉の歪んだ光を処々に飾りつけ、 繰返す無限の暗闇の反射の中で 執拗に絡み合う唐草(アラベスク)、迷宮の巨大な森影。
静寂と惣暗の舞台装置を最善と 舞踏家は踊る、爪先立ち、俯いて 足占いの歩、一歩、二歩 細い指先から放つ精気、無の愛楽(あいぎょう)の身振り。
渦巻く小さき閼伽を掌に たっぷりと満ちる夕影鳥が生血、 普遍の沼の顔に登場する。
優しい旋律を、鳥の血を 囁くように、語るよに 曇硝子の内外(うちそと)に、影の気配で謳うのか。
| 十二 眠ろう
眠ろう、永遠の眠りにつこう 明日は神が定めし休息日 眠ろう、母が囁く子守唄 柔らかな白いシーツの我が舟 風の叩く戸の音も、 硝子に映る木の影も、 全て忘れてひたすらに。 白い雪降る静かな夜に 母が語った夢物語、 白い布団の連絡船 いつか運ぶよ根室の里。 眠ろう、永遠の宇宙の夢 明日は霊知の神の休息日 白いシーツを撫で廻し タイムマシンの針あわせ 眠ろう、永遠の霊知の里へ 旅立ちだ。
|
|