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キトラの冒険
作:ごんぱち
その128『ごはんはカレー』
「つぎは、にいちゃんの番だぞ」
妹のタウラが言います。
「まだまだ、どって事ないね」
キトラはサバのぬいぐるみを手にとります。
キトラの部屋の真ん中には、ぬいぐるみをつみかさねたタワーが出来上がっています。タワーはもうタウラの背ぐらいあります。
そのてっぺんに、キトラが今、サバのぬいぐるみを……置きました。
「さあ、タウラの番だ」
「だったら……これで、どうだ」
タウラはゾウのぬいぐるみを取って、タワーにのせます。
タワーがぐらりとゆれます。
もう一つゆれます。
そしてゆっくりと――止まりました。
「よし! どうだにいちゃん、もう置けないだろう!」
キトラはホタテのぬいぐるみを取ると、タウラが置いたゾウのぬいぐるみの上にのせます。
タワーはぴくりともゆれませんでした。
「ぐぬぬ……タウラの記録をあっさりと」
「残念だったね。その高さは、ぼくが幼稚園の時に通り過ぎたよ」
「そ、それなら!」
タウラが背伸びして、エイのぬいぐるみを置きました。
タワーはゆれて……。
「ああっ!」
ついに倒れてしまいました。
「またまけた!」
タウラはイラだちまぎれに、イルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめます。
「フフフ、ぼくの持っているぬいぐるみは48体。考えられる積み方は全部ためしているのさ!」
「これで勝ったと思うな、にいちゃん!」
「勝ってるでしょ。それ、なんか言いたかっただけでしょ」
キトラはカメのゲンさんのぬいぐるみの上に座ります。
「だったらポーカーで勝負だ!」
タウラは引き出しからトランプを出します。
「ギャフンと言わせてやるぞ」
「どんなに負けてもギャフンとは言わないねッ!」
と。
カードを配り始めたタウラの手が止まりました。
「……カレーだ」
タウラがつぶやきます。
「え?」
「カレーだぞ!」
「ああ」
キトラはうなずきます。台所の方から流れて来るのは、カレーの香りです。実は、キトラもさっきから気づいてはいました。
「晩はカレーみたいだね」
「兄ちゃん、テンションひくいぞ! カレーだぞ!」
「昭和の子供じゃないんだから。それに、テンションっていうのは、元の意味からすると、こう、ピンと引っぱる強さのイメージで、高いとか低いじゃおかしんだぞ」
「そんなことはどうでもいい! カレーだ! おかわり2回しよう。うん、そうだ、おなかをへらしておこう。すもうするぞ兄ちゃん!」
「イヤだよ。投げられたらタウラ泣くじゃないか」
「じゃあ、兄ちゃんが投げられればいいぞ。ハンドバッグだ!」
「……それを言うならサンドバッグだけど、すもうで使うのはまたおかしいよ」
「はっきょーいのこった!」
つっこんで来るタウラをキトラは迎え撃ち、がっぷりよつです。
キトラはそのままタウラを持ち上げて、ひっくり返します。
「なんの、まだまだ!」
タウラはキトラの足にタックルして来ます。
「よいしょおっ!」
キトラは足をつかまれる前に、腕をつっぱってタウラの肩をつかんで、押し合います。タウラもがんばりますが、キトラの力には勝てずにそのまま床につぶれます。
「まだまだまだぁ!」
その後、5回繰り返して、タウラが負けたのが3回、ほとんど一緒に転んだのが2回でした。
「ふー、疲れた」
「にいちゃん、ちょっとだけ強いな!」
キトラとタウラは床に寝ころがります。
息切れして吸い込んだ空気に、カレーの香りが混じります。
「これならカレーがおいしく食べられるぞ」
「あんまり疲れると食べる気が起こらなくなるって言うけどね」
「カレーはいいな。なんと言っても」
「なんと言っても?」
「おいしい」
「……他には?」
「ほかになんかひつようか?」
「いろいろあるでしょ」
キトラは寝ころがったまま、天井の電灯を見ます。丸い電灯は、なんか顔みたいに見えます。
「栄養があるとか、安くできるとか、作るのがカンタンとか」
「にいちゃん。それ、ぜんぶ、子供が気にすることじゃないぞ」
「そういう事じゃなくて、つまり、はしゃぎすぎではずかしいって言うんだよ」
「にいちゃんだって、タウラぐらいの年には、はしゃいでたろう? わかものおこるないつか来た道、としよりわらうないずれ行く道、だぞ」
「……キミは、覚えた言葉をすぐに使うなぁ」
「ああ、カレーだ、タウラには食べられるカレーがあるんだ、こんなうれしいことはない」
「はいはい、おめでとう」
キトラは時計をちらりと見ます。
17時50分。
大体、お父さんのナラキさんが会社から帰って来る19時ぐらいが、キトラの家では夕食です。
「カレーをたたえるおどりをおどろう」
タウラが立ち上がり、クネクネと体を動かし始めます。
「……意味分かんないよ」
「わからないのか? カレーといえばインド、インドといえばインド映画じゃないか。さあ、歌って!」
「インド映画っぽい歌い方なんかわかんないよ」
「ともかく、うたえば、いいんだよー♪」
「それ、歌っていうか、ただ、イントネーションを平らにして、ドミソで動かしてるだけだよね」
「ちがうー、ファラド、なんだぞー♪」
「言われてみるとファラドにも聞こえて来たな」
キトラとタウラに絶対音感はありません。
「さあ♪ カレーだ、カレーだ、カレーをたべよう、ほら、カレー、カレー、あんなカレー、こんなカレー、あんなカレー煮な♪」
「あのさ……タウラ」
「ノリがわるいぞ、にいちゃん♪」
「こう言っちゃなんだけど」
「なんだ♪」
「……こう、あんまり、浮かれてるとさ『実はカレーライスじゃなくて、カレー炒めでした』みたいなオチへのフラグが立ちそうな気、しないか」
「!!!!!」
――メタ発言でオチを潰すのは、悪い登場人物です。
「……図星か」
「にいちゃん、また電波か?」
「違う……けど、まあそういうのだよ」
キトラは立ち上がります。
「これで、心配事はなくなったよ、タウラ」
「なにを心配するんだにいちゃん♪ カレーがまっているっていうのに♪」
「そうだね、カレーだ、カレーの日なんだ♪」
「ふたりのみらいは♪」
「カレー色なの♪」
「カレーの色のもとになっているスパイスは♪」
「う♪」
「こ♪」
「「んーーー♪♪」」
玄関の方で、ドアが開く音がしました。
晩ご飯は、もうすぐです。
【おしまい】