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キトラの冒険
作:ごんぱち
その126『イギリスってどんなとこ?』
今日も今日とて、キトラたちは秘密基地でゴロゴロしています。夏休みも半分を過ぎて、ダラダラしたい頃なのです。
「いやぁ、すごかったね、オリンピック」
キトラは床にスポーツ新聞を広げます。お父さんが買ったものを持って来ているのです。どこの国がどれだけメダルを取ったかが表になっています。
「……男子柔道は残念だったね」
ラグヤも寝そべって新聞を見ます。
「メダルばっかりがオリンピックじゃねえんだぞ、ええと、勝つことよりも負けた事があることが大きな財産になるとか」
「そうだそうだ、大きな財産だぞ」
将棋を指しながら、サリスとノクタが言います。
「なんかちがう気がするけど」
「……参加する事に意義がある、だね」
「ロンドンか……」
キトラは起き上がります。
「ロンドンって、イギリスだよね」
「……うん」
「今日はオリンピックに敬意を表して、ここをイギリスって事にしよう!」
「おいおい、大丈夫かキトラ」
「いやサリス、だから、昔やったオーストラリアみたいに……」
「ギネスの飲み過ぎじゃねーか?」
サリスはにっと笑って、ぐっと親指を立てます。
ギネスというのは、イギリスのビールなのです。サリスもノリノリだったのです。
お酒は二十歳になってから。
キトラたちは一度家に帰って、色々な物を持って秘密基地にまた集まりました。
「イギリスと言えば、ロックだぜ!」
サリスはラジカセを出して、音楽を流し始めます。
「……日本語だね」
ラグヤが言います。
「カッパとか非力とか聞こえるぞ?」
ノクタも同じ意見です。
「し、しかたないだろ、父さんのCDには、ロックなんてこれぐらいしかなかったんだよ!」
「でも良い曲だね」
「……認める」
「うんうん、すばらしいぞ」
「だろ? うん、そうだろう」
「じゃ、ぼくはこれだよ」
キトラはバッグから旗を出します。
「ユニオンジャック、イギリスの旗だよ」
「……あ」
「かぶったぞ」
ラグヤとノクタも、イギリスの旗でした。
「上等上等、壁は広いんだ、貼れ貼れ!」
サリスはノクタの旗をとって、壁に貼り付けます。
「そうだよね」
「……うん」
壁にイギリスの旗が3枚並びました。
「これでイギリスっぽくなって来たね」
「がはは! そうだろう、これ以上ないってぐらいイギリスだ!」
「そうだそうだ、イギリスだぞ!」
「……イギリス、かな」
キトラたちは、イギリスっぽくなった秘密基地の中で――。
「オリンピックの何か、やる?」
「そうだそうだ、柔道やるぞ」
サリスとノクタは乗り気ですが。
「真夏の室内でその発想が出て来る?」
「……空き家をこっそり使ってるだけだから、窓も開けられないしね」
「ううむ、まあ、それは確かだな」
「がっかりだぞ」
「でも何かやりたいのは確かだね」
キトラは部屋のスミに転がっている野球のボールを取ります。
「イギリスのスポーツって、なんだろ」
「確か、サッカーじゃねえか?」
「いいね。じゃ、PKやろう」
キトラはサリスの方に野球のボールを転がします。
「おっと」
サリスはさっと手でうけると、反対にキトラの方に転がします。
ボールが行って、来て、行って、来て、行って……。
「……サッカーっていうか、エアホッケーみたいだね」
「でもこれはこれで面白い、ぞ」
サリスがラグヤの方にボールを転がします。
「……タタミだからあんまりまっすぐ転がらないね」
ラグヤはノクタへ。
「ほっ!」
ノクタはキトラに転がすと見せかけてサリスへ。
ごろごろごろごろ、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
「これで決まりだ!」
サリスが思いっ切り手を振り上げてボールを転がします。
「あまい!」
すごいスピードでせまって来るボールをキトラは両手でがっしり止めました。
「ふー、なんか汗かいちゃった」
キトラはタタミの上に寝転がります。
「やっぱり今日は、身体を動かすには向いてねえな」
「サリス、動かないでイギリスっぽいものはないのか?」
ノクタがたずねます。
「そうだな……」
「……インドアだと、作家かな。シェークスピアがあるね」
ラグヤが答えます。
「ああ、知ってる知ってる。ハリウッドで映画化してたもんね」
「……確かに『ウエストサイドストーリー』なんかは、『ロミオとジュリエット』が元になってたりするね」
「しまった! ボケそこねた!」
「バカだなキトラ、こういう時には、『ああ、確か乱歩賞をとったんだよね』ぐらいの事を言っておけば良かったんだ」
「そうだそうだ、ポプラ社小説大賞とか言えば良かったんだぞ」
「どんな作品書いた人だ?」
ノクタがたずねます。
「……そうだね」
ラグヤは少し考えてから答えます。
「……さっき言った『ロミオとジュリエット』」
「よく漫画の学園祭の演劇でやるヤツだね」
キトラは椅子の上に立ちます。
「おおロミオ様、あなたはどうしてロミオなの?」
「……『ハムレット』」
「生きるべきか死ぬべきか!」
「……『ヴェニスの商人』」
「ゲンキデスカー!!」
「それは違うアントニオだぞ、キトラ」
「……ほかに、『マクベス』『リヤ王』『夏の夜の夢』『オセロ』」
「オセロ?」
「いいな、あるぞ」
「やろうやろう!」
キトラたちは、手作りのオセロ盤を押し入れから引っぱり出して来ました。
「……そのオセロじゃ……ないともあるとも言えるなぁ……リバーシだとイギリスともあながち関係ないワケでもない」
盤の上は黒石で七割ぐらい埋めつくされています。
キトラは最後の白石を置いて、一枚ひっくり返しただけ。
「無念……」
「がははは! おれの優勝だ!」
「すごいな、サリス」
「がはははは!」
「……おめでとう」
みんなで拍手です。
「ラグヤなんか、こういうの強そうなのにね?」
「……興味のない事になると頭が働かないんだ」
「そういうもんなのかな」
そういうもんなのです。
「でも」
サリスはオセロを片付けながら首をかしげます。
「これ、イギリスっぽいか?」
「そうだそうだ、イギリスっぽいか?」
「いーんじゃない? なんか面白かったし」
「……同感」
ラグヤが自分のバッグから水筒を出します。
「……お茶でもどう?」
「おっ、麦茶か! くれ!」
「……ミルクティだよ」
紙コップを並べて、ミルクティを注ぎます。湯気が立ち上ります。
「なんだってこんな暑苦しいものを」
「暑いときは熱い物、でしょ。いただくよ」
「良い香りだぞ」
キトラたちはミルクティを飲みます。
「ふぅ。甘くておいしいや」
「確かに。暑くなるけど」
「熱いけどおいしいな」
「……フフ」
こうしてキトラたちは午後のお茶を飲んでのんびりと過ごしました。
水筒が空になる頃には、イギリスの事はもうほとんど忘れてしまっていました。
【おしまい】