キトラの冒険
作:ごんぱち
その123『重たい星』


 無限に広がる大宇宙を、宇宙船イダテンは進みます。
「『重たい星』、ねぇ」
 ワープ用オールに付けかえながら、キトラがつぶやきます。
「それってどういう意味かな?」
「そのままの意味であります」
 隣りでカモメのジョースターが答えます。
 今日のイダテンのクルーは、コックピットで舵取りをするのが親方、動力でオールをこぐのがキトラとジョースター。ガースはキトラ運送に残って荷物の仕分けです。
『一応住むことができる星の中で飛び抜けて重力が強いから付けられたあだなですな』
 コックピットに繋がるスピーカーから、親方が言います。
「じゃあ、重力が強い星だなぁ」
『重たいのも確かですぞ』
「そうなの……って、星の重さってどうやってはかるの?」
 キトラとジョースターは、ワープ用オールをこぎ始めます。合図もしないのに息がぴったりです。
「知らないのでありますか? キトラ社長?」
「知ってるの? ジョースター」
「もちろん。そもそも自分は宇宙飛行士でありますから、宇宙のことはたいてい知っているのであります」
 ジョースターは自慢げです。
「星の体積、つまり大きさは、外から見れば分かるのでありましょう?」
「うん、まあ」
「つぎに、その星の土をひとすくいとって、重さを量るのであります」
「ふむ」
「星の体積と土の体積、星の重さと土の重さ、こうやってならべれば、あとはただのかけ算であります」
「……あのさ、ジョースター」
「何であります?」
「星って土ばっかりじゃないんじゃない? 水とか砂とかマグマとか、重さもちがうと思うんだけど」
「水なんて、星全体に比べたらタマゴの薄皮みたいなものであります」
「ふうむ、その通りのような、ごまかされているような……」
『そろそろですぞ。ワープ終了五秒前、四、三……』
 親方のカウントダウンが始まり、キトラとジョースターはオールをぐっとにぎりしめました。

 ワープが終わり、宇宙が普通に見え始めます。
『『重たい星』見えて来ましたぞ』
 モニタには、地球から見る月ぐらいの大きさで惑星が見えています。
 が。
「ん、ん?」
「あっちが下でありますな」
 惑星は前に見えていますが、こう、顔から落っこちているみたいな感じがします。その速さがどんどん増して行くのが分かります。
「こんなに離れてるのに、がっちり重力がかかってるのか」
「『重たい星』は伊達じゃないのであります」
『社長、ジョースター! ブレーキの用意を! 速度15をこえたら惑星に激突しますぞ!』
「分かってる」
「こぎはじめるのであります!」
 キトラとジョースターは、動力室の後ろのドアから出て、物置に行きます。
 物置には、キトラをひとまわり大きくしたようなロボットみたいなものが一台、ジョースターをひとまわり大きくしたようなのが一台。
 キトラが近付くと、ロボットみたいなものの前が開きます。キトラが入ると閉じられます。腕や顔はところどころおおわれていません。
「パワーアシストスーツ、対重力モードでの作動を確認……」
「こっちもOKであります」
 キトラとジョースターは、動力室に戻ります。
「ふむ、身体が軽くなったみたいな感じがするね」
「こんなこともあろうかと、フツヌシ様にお願いしておいてよかったのであります」
 二人は、動力室にもどると、シートに腰かけ、オールでこぎはじめます。
「オールが羽みたいに軽いね!」
「大したパワーアシストであります」
 キトラは軽々とオールをこぎ続けます。
 パワーアシストスーツを使ってわざわざオールを使うという事に疑問を持たなくなるぐらい、キトラは染まっているのです。
「い、いや、そこは後でつっこもうとしてたんだよ、マジで! いやマジで!」
 イダテンの加速はゆるんでいき、とうとう加速はゼロからマイナスに。
『速度14.7……14.6…………14.4……14.3……』
 スピードはゆっくりと落ちて行きます。
『速度14、このままこのまま。パワーアシストスーツの調子は良いようですな』
 キトラはオールの動きをゆっくりにしていきます。
 惑星はぐんと大きく見えて来ました。
「むー、オールは動かせるけど……」
「体全部が重いのであります」
 何だか身体中が重くて動かしにくくなっています。
『現在の重力は2Gですな。地表では4G、今の2倍かかりますぞ』
「スーツのスキマからこぼれ落ちそう……」
『惑星の周回軌道に入る事に成功しました。ランドボートに乗り換えて下さい』

 イダテンから、キトラとジョースターを乗せたランドボートが射出されます。
「うー、なんか、これだけですごく疲れた……」
 キトラが前の席、ジョースターは後ろの席です。
「キトラ社長、あとは任せたのであります」
 ジョースターは力つきてシートに倒れこみます。
「先にダウンするなぁあああ! さあこげ、こぐんだ! こがないと、墜落しておせんべいになっちゃうぞ!」
「うう、カモメ使いの荒い社長であります」
「社員と一緒に汗を流す、こんな立派な社長めったにいないよ!」
「そちらの世界ではそうかも知れませんが、こちらでは社長が立派なのは当たり前であります。自然の実りが豊かで働かなくても生きるのには困りませんから、社員にひどいことをすればすぐにやめてしまうのであります」
「くぅ、ユートピアめ!」
 どんどんどんどん惑星は大きくなっていきます。
 キトラとジョースターは、上がりそうになるスピードを食い止めるべく、反対向きにオールをこぎつづけます。
 パワーアシストスーツのお陰でオールは軽やかに動きます。
「ひぃぃぃ、重い、体が、重い」
「翼がおれそうであります、翼の折れたエンジェルは地上で暮らすしかないのであります」
「……まだ微妙に余裕があるな」
 キトラたちは。
 こいでこいでこいでこいでこいでこいでこいでこいで……。
「こいで、いいのだ!」
「CMネタはすぐ風化するのであります。しかも地域限定であります」
「ぬおおおおおお!」
 こいでこいでこいでこいでこいでこいでこいでこいで……。
「腕以外の部分がつらい、重い、もうやめたい!」
「法力エンジンを使うのであります、もうたえられないのであります」
「だああああ! それ使ったら、ぼくたちどうやって帰るんだよ!」
「そこはリンガにたのんで」
「そこまで軽々しく頼めるワケないでしょ!」
 こいでこいでこいでこいで。
「ラストスパーーート!」
 地面の木々の一本一本まで見えて来て――。
「着地ぃぃいいいーーーー!」
 どががあああああああああああああ!!

 ランドボートは、地面を1キロもえぐってからようやく止まりました。
「つ、ついた……」
 キトラはランドボートからおります。フラフラです。
「生きてるってすばらしいのであります」
 ジョースターもフラフラです。
「ランドボートが浮かないよ……」
 キトラは片手でランドボートを持ち上げ、離します。風船の木で出来ていて、何もしなくても浮かぶはずのランドボートは、ゆっくりと地面まで落ちました。
「これが『重たい星』……」
 キトラたちが着陸したのは野原です。草や木がいくらか生えていますが、どれもこう、上から押しつぶしたように背が低いです。
「おお、待ちかねたぞ!」
 パワーアシストスーツを身に着けた、髪の毛のない男のひとがやって来ます。少し後ろには、一斗缶で作ったようなロボットもいます。
「あ、ピカット博士ですね」
「いかにも。物理学者にして医学学士のピカットだ。ちなみにこれは、助手のデビット君だ」
『コンニチハ』
「キトラ運送です。おとどけものです」
「助かる。研究所まで運んでくれたまえ」

 野原と山のさかいめ辺りに、ピカット博士の研究所はありました。
 研究所と言っても、宇宙船の貨物用コンテナを3つならべただけのものですが。
「これで全部です。受け取りにサインをお願いします」
「ご苦労さん」
 ピカット博士は、受け取りにサインをします。
「デビット君、お茶をお出ししなさい」
『ハイ、博士』
「あ、おかまいなく」
「そうであります、お茶菓子はそれほど豪華でなくても良いのであります」
「ジョースター!」
「いや、茶菓子までは出せんよ。この星には店がないからな」
『オチャ、デス』
 デビットがおぼんにお茶をのせて戻って来ます。
 おぼんの上にはお茶が3つのっていて、それを支えるアームはプルプルとゆれて……。
 がしゃん!
『イレナオシマス』
「あの……本当、おかまいなく」
「重力のせいで茶碗がよく割れるんだ!」
 ピカット博士は笑います。
「畑も作って自給自足出来ているのだが、食器だけはこうやって届けて貰わねばならん」
「そうまでして、なんでこんなところで暮らしているのでありますか?」
「ジョースター!」
 キトラはジョースターをしかろうとします。
 ぶしつけな質問だったから……ではありません。
「うむ、よくぞ聞いてくれた。実はワシは重重力健康法について研究をしていてな」
(うわぁ……話が長くなりそうだぁ。ジョースターめぇ、よけいなことを!)
 キトラは頭を抱えました。

「――と、そういう理屈で、ひとはこの惑星ガル程度の重力で暮らした方が、ずっと健康になれる、そういう結論に達したのだ」
 かれこれ3時間、ピカットは資料を出したり何たりしながら、自分の説を話しに話しまくりました。
(本当に長かった……)
 ただでさえ長い話しを、4Gの重力の中で聞くのです。一応体はパワーアシストスーツに支えられていますが、体の内側からグダグダに疲れています。
「さあ、君もこのガルで重重力生活をしたまえ! ワシはもう大人で体も出来上がってしまっているが、君の若さならばしっかり重力に適応してより強い体が作られるだろう!」
「あ、はは、考えておきます」
「自分はもういい歳なので関係ないのであります」
「さあ、パワーアシストスーツなど外して、重力を体全体で受け止めるんだ!」
「じょ、冗談じゃない! スーツを外したら歩けないよ!」
「大丈夫、一年もすれば動けるようになる! ラットの実験ではそうなった!」
「一応齧歯目設定だけども! 同一視されても困るよ!」
「イヤよイヤよも好きのうち! やれ! デビット君! 彼のパワーアシストスーツを外すのだ!」
『ハイ、ハカセ』
 デビットがキトラにつかみかかります。
「うわあああああ!」
 キトラが大慌てでデビットのアームをふりほどこうとすると。
 ぽきっ。
 アームが折れて、ピカット博士の方に飛んで。パワーアシストスーツの強制パージボタンにぶつかりました。
「あ」
 ピカット博士のパワーアシストスーツが一気に外れます。
「ぬおおおおお! お、起き上がれん、た、た、助けて、重い、体が重い!」
 パワーアシストスーツが外れたピカット博士は床の上でもぞもぞ動くことしか出来ませんでした。
「今のうちに逃げるのであります!」
 ジョースターが逃げようとします。
「……見捨てるワケにもいかないでしょ」
 キトラは、ピカット博士のパワーアシストスーツを組み立て直します。
「それより、ジョースター?」
「なんで、ありますか?」
「さっき、ぼくを置いて逃げようとしたね?」
「ぎくっ! そ、そそそ、そんな事ないであります。自分はいつも社長と一心同体筋肉少女帯であります」
「CMネタは風化するって、自分で言ったでしょうがああああ!」
「ひぃぃ!」
 逃げるジョースターを、キトラは怪獣みたいな足音を立てながら追いかけて行きました。


【おしまい】