キトラの冒険
作:ごんぱち
その113『キトラと流しそうめん』


『よぉーし、トイの取り付け完了だ!』
 宇宙服を着た鍛冶屋のフツヌシから、通信が入ります。
「計算通りに取り付け出来ています。フツヌシ様」
 フツヌシの作業を宇宙ステーションの窓から見ていたペンギンのケームが、カンテラを振ります。
「まわりに宇宙船ありません、いけます!」
 フツヌシは、宇宙ステーションのエアロックに、筒を取り付けているのです。筒はものすごく太くて、フツヌシの身長ぐらいあります。
『地上の連中、設置点の3メートル以内に近寄るなよ!』
『地上から連絡、離れました!』
 通信で、キトラ達の声がします。
『よし、行くぞ!』
 フツヌシが、筒の反対側のフタを、ハンマーで叩いて外しました。
 その途端。
 筒の中から、ちょっぴりだけ小さい筒が出て来ます、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒、その中にはもうちょっぴり小さい筒……。
 筒は各々端っこでひっかかって、起動エレベーターを中心に、どんどん地上に向けて、螺旋を描きながら一本の筒として伸びて行きます。
 筒が伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて伸びて……。
 伸びて行きました。

 空に光が一つ。
「見えた!」
「見えたであります!」
 地上では、キトラやキトラ運送のジョースター達を始めとした、セラハイス町商店会の皆さんが100人ぐらい集まっています。
「来たでヤス!」
「来ましたぞ!」
「来ましたね」
 最初、点に見えた光は、ゆっくりと円を描き、その後には、筋が残ります。筋は正確な螺旋を描きながら、どんどんその太さを増し、伸びて、そして……。

 ガチィィィッ!

 もの凄い音を立てて、地面の上10センチのところで、ぴったりと止まりました。
 空気との摩擦熱で、煙が出ています。
「おおっ!」
 みんなは拍手をします。
「流石はフツヌシ様のトイですな。軌道エレベーターから伸ばして、1ミリの狂いもない」
 カモメの親方ももの凄く感心しています。
 役員のヘイケガニのハセガワが、ヤットコを使って筒の上を外します。
 半分になった筒は、丁度、雨どいや、上が開いているウォータースライダーみたいです。
「商店街のみにゃさま!」
 商店会長の猫のアサネスが、みかん箱の上に立ちます。
「日頃のお仕事ご苦労様です。こ、今年のセラハイス商店街は、お客さんも去年と同じぐらい来て、繁盛しています。これも、皆さんが正直に商売をし続けているお陰ですにゃ」
 アサネスは、それなりに緊張しているようで、耳がちょっと倒れています。
「今日は、流しそうめんをおいしく頂いて、夏を乗り切り、今年の残り半分も頑張って商売しましょう! それではこれより、大流しそうめん大会が始まりますにゃ!」
 わっと拍手が上がりました。

「流しそうめんとはッ! すべり台のようなトイを使い、上から水といっしょにそうめんを流し、これを箸ですくって食べる、そうめんの給仕法の一つッ! その醍醐味は、水の流れによる清涼感と、通り過ぎるそうめんを箸で的確に捕まえるというゲーム性であるッ! 当然、そうめんが流れる距離が長い程、『流れてる感』は高まり、醍醐味は増すのであるッ! 従って、宇宙ステーションからそうめんを流す事にしたのであるッ!」
「フツヌシさまー、おそうめん、ゆで上がりましたー」
「おう、待ちかねたぞ、我が弟子ケーム! さあ、流れろそうめん! 地上へ届けッ!」
「あわわ、フツヌシさま、何だか声が熱血声優みたいになってますよ?」
「町内会の催しだろうが何だろうが祭りだッ! 祭りで盛り上がらねえで、一体、いつ盛り上がるんだッ!」
「は、はひっ、わかりました、たッ!」

 地上では、キトラ達がめんつゆと箸を持って、待ちかまえています。
「あれ? キトラ社長、そのハシ」
 隣りのジョースターがたずねます。
「ん? マイハシだよ。やっぱり、エコが大事だからね!」
「はあ、その心がけは立派でありますが――」
「来たぞぉおおおお!」
 誰かが叫びます。
 上空のトイのそうめんが通っているあたりに、ランプが点きます。これで、下から見ても、今どこにあるのか分かるのです。
「……フレンドパークのパクリだよね、つまり」
 そうめんは螺旋のトイをものすごいスピードでぐるぐると回りながら――。
 ずしゃあああああああっ!
 キトラは箸を突き出します。
 ずるずるずる。
「そうめんはええのぅ」
 キトラのハシは一歩遅く、ずっと下流にいたロックイーターのおじいさんが食べていました。
「ぐぬぬ……思ったより早いぞ、これは」
 そうこうするうちに、次のが来ます。
「せいやっ!」
 ずるずるずる。
「やっと食べれたよー」
 前の方の竜の子供が食べています。
「前の方で取られたらどうしようもないな」
「あきらめない事がカンジンであります」
 また流れて来ます。
(今度は、最初からトイにハシを立てておけば良い! これなら自動的に引っかかるぞ!)
 ぱきぃいいいい!
「なんだとッ!?」
 折れた箸の先が吹き飛びました。
 衛星軌道から流しているのです。もの凄いスピードですから、キトラのハシなんかじゃ、受け止められるワケがないのです。
「おかしい、おかしいって! 普通に食べられてる人もいるじゃないか!」
「キトラさん、それじゃ駄目だにゃ」
 アサネスが、キトラにハシを差し出します。
「これは……?」
「フツヌシ様に作ってもらった、大流しそうめん用ハシにゃ。ヒヒイロカネ合金をアモルファス化し、ファイバーとして再形成した超弾性物質を法力処理しているから、とっても丈夫で手にも衝撃が伝わらないにゃ。これ一本で、軌道エレベーターのケーブルと同じ強度があるにゃ」
「……たかだかハシに何やってんだ、あの男は」
 キトラはハシを受け取ります。
 赤っぽくぴかぴか光っている金属ですが、アルミニウムよりも軽いです。
(かたい、のかな?)
 両手で握って、ちょっと曲げようとしてみます。
 僅かにしなりますが、それよりも曲げようとすると、びくともしません。これなら、そうめんに折られる事もなさそうです。
「めんが来たぞおおおおお!」
 ランプの灯りが頭上をめぐって近付いて来ます。
「うおおおおおお!」
 キトラは腕を振り上げて、トイに突っ込みました。
 ばしぃいいいいいいい!
 宇宙から滑って来たそうめんのもの凄い衝撃に、腕が持って行かれそうになります。
「負けるかああああああ!」
 キトラは箸を両手で持ち、足をふんばり、歯を食いしばります。
 そして。
 キトラのハシには。
「とったああああああ!」
 そうめんがひとすくい、かかっていました。
「やった、やったよ、ジョースター!」
「やったでありますな、さ、早く、熱いうちに」
「うん」
 キトラは湯気の立つそうめんをめんつゆに入れて――。
「……ん?」
「どうしたのでありますか?」
「これ、あったかいんだけど。っていうか、さっき、熱いうちに、とか言ってたけど」
「ははは、社長は知らないのでありますか? この星の回りには大気圏というものが存在していて、もの凄い勢いで動くと、空気との摩擦で熱が出るのであります。流れ星が光って見えるのも、燃えつきるからで」
「そういう知識はあるけど、なんでそうめんが温かいのさ?」
「だから、大気の摩擦熱であります。同じ事を二度も言わさないで欲しいのであります」
「なんだそれ! 全然涼しくないじゃないか! なんだそれ! そしてなんだそれ!」
「そういう方の為に、こちらをどうぞにゃ」
 アサネスが町内会のテントを指さす。
 流れていないそうめんが、大きなボウルに用意されていました。

「……まあ、アレかね」
 ずずずっ。
「なんでありますか?」
 ずずっ。
「流しそうめんって」
 ずずっ。
「見てる方がマシって事かね」
 ずずずずずっ。
「流れてない方が食べやすいのは当たり前であります」
 ずずっ。
「これがいわゆる、花より団子であります」
 ずずっ。
「……意味は通る気はするけど、何か違う気もするなぁ」
 ずずずずずずっ、ずぞずずっ。


【おしまい】