当サイトはJAVAスクリプトを使用しています。JAVAスクリプトが無効の場合も、全てのページの閲覧が可能です。
キトラの冒険
作:ごんぱち
その102『フツヌシのたのみごと 後編』
暗い宇宙を、宇宙船『イダテン』がすすみます。
イダテンのハッチが開き、宇宙服を着たキトラとジョースターが出て来ました。
『ううっ、船外活動なんてひさしぶりだなぁ』
『たしか社長は、前回、宇宙自転車で宇宙を走っていたであります』
空気がないので、宇宙服の無線機で話をしています。
『……前回ってなんだよ、前回って』
宇宙服のクツについた磁石で、イダテンにくっつきながら歩きます。
『宇宙自転車は一種の宇宙船だよ。船外活動とは言わないでしょ』
こうしないと、無重力の宇宙ではすぐにイダテンからはなれてしまいます。
『ゴミが飛んで来たりとかしないだろうね? 親方』
『ははは、ここは衛星軌道や宇宙航路とちがって、めったにひとはとおりませんから、心配はいりませんぞ』
宇宙船の通信機ごしに、親方の声がします。
『ねんのため、法力スキャンいっぱいまで調べてみましたが、宇宙服をつきやぶるほどの砂つぶもゴミもこのあたりにはありませんな』
『ずっとむかし、死にそうになったからなぁ……』
『トラウマでありますな?』
『それほどじゃないけど、イヤな思い出だよ』
キトラとジョースターは、イダテンの後ろの方へと歩きます。
そして。
『このへん……かな?』
『そうでありますな』
ジョースターはイダテンの図面をひろげます。
『この装甲版の下が、船内の空気をきれいにするコスモクリーナーと、酸素タンクであります』
『星の上でやりたかったよ、こういう作業は』
『あのなんとかいう星では、ケンカになってしまったであります。しかたがないのであります』
『わかっちゃいるけどね』
キトラはせおっているタンクからホースをとります。
吹き出し口に引き金がついていて、ちょうど、火炎放射器みたいです。
『イヤなたとえだな……』
キトラは引き金をひきました。
しゅーーーー、と、キトラにだけ音がきこえて、吹き出し口から出たこまかい泡が、イダテンの装甲版をまんべんなくおおっていきます。
すると。
泡をかけたまんなかのあたりが、フツフツと動いて見えました。
キトラの小指の先ほどの大きさの泡が出つづけています。
『これだ!』
『見つけたであります!』
キトラとジョースターは、さっと泡が出ているところにとりついて、装甲版をはずします。
キトラの背よりも大きく、厚みもキトラのてのひらから手首ぐらいまであります。そのぶあつくがんじょうな装甲版に、アリの穴ほどの大きさの小さな穴が開いていました。
そして、その装甲版の下に出て来た金属の壁には、装甲版よりももっと大きめな穴があいていました。
大きい穴は、ゴムのようなものでふさがりかけていますが、ほんのわずかにスキマができていました。
『……ここから、酸素がもれてたのでありますね。いったいどうして――』
『さっさとふさごう。酸素がもったいないよ――親方、タンクの圧力止めてー』
『わかりました』
キトラとジョースターは、穴を接着剤でうめはじめました。
イダテン船内にもどって来たキトラとジョースターは、宇宙服をぬぎます。
「おつかれさまでヤス」
「おつかれさまなのだ」
ガースとダーさんが声をかけます。
「おまたせ。さ、スピード上げよう」
キトラたちは、動力室のシートにすわり、全力でオールをこぎはじめます。
「……また穴があかないか、心配でヤスね」
こぎながら、ガースがつぶやきます。
「んー、まあね」
キトラはリズミカルにオールをこぎます。
いつもやっているせいで、なれたものです。
「フツヌシの改造で、ものすごくがんじょうになっているはずだし、ちょっとした穴なんかはタンクの中にしこんだバルーンでふさがるはずなんだけど」
「なんとかいう星に着陸した時のダメージではありませんか?」
「酸素もれは、なんとかいう星に着陸する前からあったでしょ」
「おお、そうでありました」
「あの!」
ダーさんが手をあげます。
「なに?」
「スピードも安定したみたいだし、ちょっとトイレに行くのだ」
「ああ、どうぞ」
「自分も行くのであります」
ジョースターがシートから立ち上がります。
「え、あ、だったら、わたしはいいのだ。よく考えたら、もう少しあとでいいぐらいなのだ。あまりふんばると、ぢになるのだ」
「そうでありますか? じゃあ、お先であります」
ジョースターが動力室から出て行きます。
「そろそろ出るころなのだな?」
それから2分ぐらいたって、ダーさんも動力室から出て行きました。
イダテンは小惑星帯に、たどりつきました。
「――もっと右……右、それから、左に一つなのだ」
50メートルぐらいの、小さめな小惑星の近くで、イダテンはとまります。
「におうのだ、におうのだ、今度こそ今度は、ほんものなのだ!」
「……信じるよ? 本当に、今度こそ信じるよ?」
エアロックにひかえていたキトラとジョースターは、ランドボートでイダテンから出ます。
小惑星にとりついたキトラとジョースターは、ドリルのついた機械をおきます。
「行け、『鉱物ゲッター2号機』!」
「スイッチオンであります」
ジョースターは、鉱物ゲッター2号機は、マッハのスピードで地面にもぐっていきます。
ダーさんとはくらべものにならないせまいはんいですが、鉱物ゲッター2号機は、ダマスクスを感知して見つけることが出来るのです。
穴をほって、ほりぬいて、またほって、ほりぬいて、ほって、ほりぬいて、ほって、ほりぬいて……。
ミシンでこまかく刺繍をつくるみたいに、小惑星がみるみるうちに、穴だらけになっていきます。
「……これって、まちがいなく環境破壊だよね」
ランドボートで小惑星からちょっとはなれたところに避難しているキトラは、つぶやきます。
「キトラ社長、環境破壊というのは、ひとにつごうのよくない形に自然をこわすことを言うのであります。つごうがいいならば、ただ形がかわっただけであります」
「……ほかの生き物とかが困るって事じゃないの?」
「その生き物がいなくなったらひとが困るからであります。天然痘ウィルスなら、根絶と言ってよろこんだのであります」
「あー」
その時です。
『ダマスクス……ミツケタゾ……』
鉱物ゲッター2号機が動きを止め、アラームがなりはじめました。
「おかーちゃんのためなら!」
「えんやこーら!」
「らーむをひとびん!」
「でんーげきだっちゃー!」
キトラたちは、小惑星を掘ります。
宇宙船用のオールと同じ、バショウセンのエキスが使われたツルハシやスコップは、ふりおろす時だけものすごいいきおいが出て、一発づつダイナマイトを使っているみたいにクレーターができます。
「……すごい威力だね」
「ヘルメットがなければ、即死であります」
「そこまでではありませんがな」
「なんかちょっと楽しいでヤスね。童心に返るっていうか」
「いそぐのだ、いそいでほるのだ!」
とびちる石を、ダーさんはつぎつぎとひろって、ダマスクスがふくまれるものだけをコンテナにつみこんでいきます。
「いそいでるけど、あんまりあわてるのも危ないからね」
キトラはツルハシをふりおろします。
「ダマスクスって、どれなのかな? なんか、ぜんぶ石ころにしか見えないんだけど」
「色が濃くて黒っぽい、波みたいなもようが見えるものでしょうな。ダーさんが拾っている物を見ると」
「なんかすごいの?」
「しなりがあって固いぐらいで、作り方も知られているはずですぞ」
「作ったのでは意味がないのだ。天然で出来上がると、地の気をふくんだままになる、それが大事なのだ! 地の気脈がそのままもようにあらわれて、それぞれが小さな星と同じ気の通り道をもつのだ」
「よく分かんないけど、なんかすごいっていう設定だって事はよく分かったよ」
「設定とかは、言わぬが花ですぞ、はっはっは!」
「よし! この小惑星のダマスクスは、だいたい全部あつめたのだ! 帰るのだ、急いで!」
イダテンは宇宙をつっぱしります。
キトラ達は全力でオールをこぎます。
「そろそろワープ行く?」
『そうですな、周囲の安全を確認してから――!』
親方の声が止まります。
『なんだ、あれは』
「え?」
「どうしたのであります?」
「うしろでヤス!」
動力室のモニタのレーダーに、イダテンのすぐ後ろに、ぴったりと何かがくっついているのが映っているのです。
ものすごいスピードです。
「いつの間に?」
キトラはモニタを映像にきりかえます。
イダテンの後ろには、翼としっぽのあるガイコツみたいな顔をした、巨大な生き物がせまっていました。
「か、怪獣!?」
「急ぐのだ、ふり切るのだ! メタバイアに、おいつかれたら大変なのだ!」
ダーさんがさけびます。
キトラ達はオールをこぎます。
「ワープ用でふり切る!?」
『きりかえの時に、加速が止まってしまいますからな。むずかしいでしょう。しかし、一体どこにいたんですかな、ダーさん?』
「え? な、なんでわたしにきくのだ」
『あの怪獣の名前、知っていたではありませんか』
「何でもいいから、オールこいでよ!」
キトラ達はオールをどんどんこぎます。
怪獣は近づいて来ます。
『あの酸素もれと言い、この怪獣と言い、なにか、この仕事を失敗させようという考えが感じられますぞ。フツヌシ様は、何と戦っているのですかな?』
「知らない……のだ」
『あなたは、どちらの味方、なのですかな?』
「わたしは、フツヌシ様の味方なのだ。でも、こまかいことは話せないのだ、信じてほしい……のだ」
キトラ達はだまりこみます。
ダーさんのことを考えているのもありますが、スピードを上げるために全力でオールをこいでいるので、しゃべる余裕がなくなって来てもいるのです。
怪獣との距離はどうにかちぢんでいません。火を吐いたりはしないみたいですが、手のとどくまでに近づかれれば、イダテンがこわされるのはまちがいありません。
「親方、宇宙服で出て、オールで、ふきとばそうか!?」
『オール一つの出力よりもあちらの加速の方が上です。あぶないだけです』
「ワープ用なら!」
『作用反作用というものがあるのです、仮に怪獣をふきとばせても、それよりもずっと遠くに社長がとばされますぞ。宇宙船の上では足場が悪いし、命綱なんて、かんたんに切れてしまう』
「打つ手ナシ……で、ヤスね」
「あの……」
ジョースターがキトラ達を見ます。
「なにか考えがあるの? ジョースター」
「いえ、こういうシリアスな時、自分はどうしたら良いか分からないのであります」
「……だまれば、いいと思うよ」
『来ますぞ!』
怪獣が手のとどくところまで近づいて来ました。
怪獣は手をふりおろします。するどいツメがイダテンの装甲版をえぐります。黒板をひっかくような音が、あたりにひびきわたりました。
「うぎゃあああああ!」
『あきらめずに加速するのですぞ!』
攻撃をするためにバランスをくずした怪獣から、イダテンは少しだけ間をあけることができました。
けれど、逃げる以外のなにもできそうにありません。
「……ダマスクスを、すてるのだ」
ダーさんがぼそりと言いました。
『なんですと?』
「ダマスクスをすてるのだ。あいつは、わたしたちがダマスクスをもちかえることをジャマするように命令されているだけなのだ。ダマスクスをすててしまえば、助かるのだ」
「たしかにそうすれば助かるかも知れないのであります、でも」
ジョースターが言います。
「最後まで、あきらめたらいけないと思うのであります。たのまれた仕事をきちんとやるのは、運送屋のほこりで――」
「運送屋でもなんでもさ!」
キトラはシートから立ち上がるなり、貨物室へ走ります。
「あっ、社長! ちょっと! せっかくひとがかっこいいキメ台詞を言おうとしているのに!」
貨物室のドアの窓から、ダマスクスの鉱石が見えます。
「出社した社員を、『おつかれさま』って無事に帰らせるのが」
キトラは貨物室のドアのかたわらのコントロールパネルを操作します。
「社長の仕事のいちばんの事だと思うよ」
貨物室の後ろのハッチが、一気にひらきました。
空気といっしょに、ダマスクスが宇宙に飛び出して行きます。
怪獣は、ダマスクスを追って、方向をかえ、イダテンからはなれて行きました。
『――周囲の安全を確認しました。ワープしますぞ、オールをとりかえて下さい』
打ち直しの終わった七星剣を、フツヌシは研ぎます。
研ぎ澄まされた七星剣は、七色ににぶく光っていました。
フツヌシは、七星剣の刃を上にして置き、自分の髪の毛を一本ぬいて、刃の上に落とします。髪の毛は、刃にふれて二つに切れて落ちました。
「……よし」
フツヌシは、剣の腹にダイヤのカッターで文字を切りこみはじめます。
ものすごいスピードで、びっしり文字が切りこまれた後、七星剣はあわい光につつまれました。
「七星剣、天帝との距離を断て!」
「御意」
次の瞬間、フツヌシのすぐそばに、天帝があらわれました。
天帝は七星剣をかかげます。
「七星剣よ! アスラ王のあらゆる力を断て」
「御意!」
「アスラ王の怒りと、それに侵された心を切りはなせ!」
「御意!」
「アスラ王のしかけた機械式のワナを切れ、同じく法力式のワナを切れ、呪術式のワナを切れ、魔術式のワナを切れ」
「御意!」
「魔法の剣から切る力を奪ったという事実を、切り捨てよ」
「御意!!」
「魔法の剣イザヨイから、切る力を切れ」
「御意!」
アスラ王との戦いをすませていく天帝を見ながら、フツヌシは作業場のイスにこしかけます。けれど、ずっと熱にさらされていたイスは、すっかり炭になっていて、くずれおちて、フツヌシはそのままあおむけにたおれました。
「おい、フツヌシ?」
天帝がかけよった時には、すでにフツヌシは寝息を立てていました。
「えー? べつのひとがダマスクスをとって来てくれてた?」
おどろきと不満の顔で、キトラは声を上げます。
「急ぎだったんでな。他に、二〇〇〇ぐらいの業者にたのんでた」
フツヌシはハンマーをふるって、マイクロチップを作っています。
「けっきょく、怪獣におそわれただけじゃないか」
「怪獣のオトリになってたなら上等だ」
「なんかなぁ……」
「気休めで言ってるんじゃねえぜ。メタバイアは今回の作戦で心配していた一番大きな妨害だ。オレのイダテンじゃなけりゃ、どれだけ被害が出たか分からん」
「……それでも、何があったかは教えてくれないワケ?」
「天帝の奥さんのアクセサリー作りだ、つってるだろ。あのひとがキレると天変地異がおきるから、急ぐ必要があったんだよ」
「いいけどさ」
キトラは仕事場のわきに置いてある、新しいイスにこしかけます。
「そろそろ帰るよ、ずいぶん長くいちゃったから」
「おう」
ハンマーをふるいながら、フツヌシはこたえました。
それからすぐ、キトラは夢の世界からふっと消えました。
「また来い」
誰もすわっていないイスを見つめながら、フツヌシは小さく笑います。
「お前にはその権利がある。この世界を救った、英雄の一人なんだからな」
【おしまい】