キトラの冒険
作:ごんぱち
その92『秋と言えば?』


「――食欲の秋とか読書の秋とか言って、食べすぎたのに運動を全然しなくて、太りまくったワケなんだけど」
 公園へと歩きながら、キトラが言います。
「……やぶからぼうだね、キトラ」
 ラグヤがかるくつっこみます。
「がははは、キトラだらしないな」
「そうだそうだ、だらしないぞ」
 サリスとノクタがわらいます。
「ボクらの年で、そんなこと気にしてしかたがないんじゃない?」
 タオーゼが歩きながら、ネットに入れたままのサッカーボールをリフティングします。
「べつに食べ物をへらそうとか言ってるんじゃなくて、少しは動いたほうがいいな、って話だよ」
 さかをおりて、公園が見えて来ました。
「……天高く、キトラこえる秋……ククク」
 すべり台やブランコのあるぶぶんと、ひろびろとしてちょっとしたドッジボールぐらいはできるぶぶんとに分かれている公園です。
 キトラたちは、そこでサッカーをするつもりでした。

 この時までは……。

「いや、そんなくらい感じにしなくても――あれ?」
 公園では、すでにおじいさんとおばあさんたちが、ゲートボールをしていました。
「……サッカー、できないね」
 ラグヤがつぶやきます。
「できないなんてことはねえぞ。ほら、みてみろよ」
 サリスが、ゲートボールのコートをゆびさします。
「あ、広い」
「そうだそうだ、すごくひろいぞ!」
 ライン引きでかかれたコートは、サッカーができるぐらいに広いのです。
「……ルールでは、30メートルぐらいしかないはず」
「練習用じゃない?」
「ちょっとつめてもらえばいいぞ!」
 ノクタがつかつかと、おじいさんとおばあさんたちに近づいていきます。
「あっ、えっ、ちょっ、ノクタ!?」
「がはは、ノクタは、大人でもえんりょないからな」
 ノクタがゲートボールをしているなかの、白いヒゲのおじいさんと話をしています。
 キトラたちも、ちょっとおそるおそる、おじいさんの方へ行きました。

「――話は分かった」
 ノクタの話を聞いた白いヒゲのおじいさんは、笑ってうなずきます。
「じゃあ、つめてくれるのか? ありがとう!」
 ノクタが頭を下げようとすると。
「だれもつめるとは言ってない」
 おじいさんはさらりと言います。
「ええっ、話は分かったんじゃないのか?」
「たまには運動をしたいという君らの言い分は分かった、ということだ。しかし、わたしたちだって、ゲートボールの練習は大事だ。大事さはどちらも同じなのだから、早く来て場所をとったということで、わたしたちに分があるだろう?」
「ずるいぞ、おじいさん!」
「大人ならゆずってくれてもいいだろ」
 サリスとタオーゼが言いますが。
「子供のうちからガマンをしないと、ロクな大人になれないぞ」
「むぐぅ……」
 キトラはだまりこみます。
 はやいものがちと言われると、なんとも言い返しにくいものです。
「まあしかし、1つチャンスをやらんこともない」
 おじいさんはおかしげに笑います。
「われわれと、勝負をして勝ったら、つめてやろうじゃないか」

 空き缶が10本、ならべられます。
 いちばん前が1本、つぎが2本、3本とならんで、上からみると三角形です。
「なんで……ボウリングなのかな?」
「ゲートボールで勝負をしたら、ルールも知らない君らにわたしたちが勝つのは目に見えている。かと言ってサッカーでは、わたしたちに勝ち目がない。走り回るスポーツは、年よりにはつらい」
「ボウリングか……」
「ノクタはそれでいいぞ」
「そうだな、おれもだ」
「……いいんじゃない」
「やるからには勝とうぜ」
 みんな、なっとくしています。
「まず、ノクタがやるぞ!」
 ノクタがまずは、サッカーボールをもちます。助走をつけてから、ボールを思い切りころがします。
 かなりのスピードで転がるボールに、缶が1本はじきとばされました。
「し、し、しまったぞ」
「ドンマイだ、ノクタ。おれがノクタのぶんも点をとってやる」
 おちこむノクタを、サリスがなぐさめます。
「いいいきごみだね。でも、じゅんばんは、こっちだ」
 白いヒゲのおじいさんが、ボールをもちます。
「どれぐらいたおせると思う?」
 キトラがタオーゼにたずねます。
「ボクのおじいちゃんとボウリングに行ったこと、あるけどね。ボールが重すぎるって、ぜんぜんたおせなかったよ」
「そっか。そうだよね」
 キトラは、ちょっとホッとした顔になりかけましたが。
「――重さ?」
 おじいさんは、かるく4歩、するすると助走をすると、ボールを転がしました。
「え?」
「あ」
 ものすごいスピードのボールが、缶をはじきとばします。
 10本ぜんぶ、たおれています。
「お、たおれたね」
 おじいさんはうれしそうに笑います。
「ま……まぐれだろ、そんなの」
 つぎは、サリスのばんです。
「うおおおおおりゃああああ!」
 思い切り助走をして――投げます。
 ボールはいきおいよく缶をたおします。
「ううっ……」
 けれど、右に3本、のこってしまいました。
「つぎは、あたしかしら?」
 おばあさんが投げます。ゆったりしていますが、キレイなフォームです。
 また、10本ぜんぶたおれました。
「いつまでもやられっぱなしってワケにはいかないぞ!」
 タオーゼが投げます。
 8本たおれました。
「玉に穴があいてないと、投げにくいですな」
 頭のはげたおじいさんが、ボールを転がします。
 10本たおれます。
「……体をつかうものは、あまりとくいじゃないな」
 ラグヤが、かるく転がします。
 ゆっくりしたボールが、缶を5本おしたおします。
「ワタシもなげていいの? しっぱいしたらはずかしいわね」
 ちょっと太ったおばあさんが投げます。
 やっぱり10本たおれます。
「ちょっ、おじいさん!」
 キトラが、白いヒゲのおじいさんにつめよります。
「みんな、メチャクチャ上手いじゃないか!?」
「上手いよ」
 しれっとおじいさんはこたえます。
「ひょっとして、ボウリングとくいなの?」
「わたしたちの若いころに、ボウリングブームというのがあってね。本物をやっても、みんな、アベレージは200ぐらいだ」
「それがすごいのかどうかは分からないけど……ずるいよ、インチキじゃないか!」
「ボウリングのうでまえをきかなかった君たちが甘い。勝負はきびしいものさ」
「ううっ、なんて大人げない大人だ……だれかにそっくりだ」
 キトラはボールをかまえます。
「せめて、せめて10本たおして、見かえしてやる!」
 キトラは思い切り助走をつけて――。

 足がつまづいて。

「うひゃああっ!」

 ころびました。

 ボールははねて、ころがって、缶の中におちます。缶は1本のこらず、ぜんぶたおれました。
「ふ、ふん、たおしたぞ、どうだい」
「ほほう、やるものだね」
 白いヒゲのおじいさんは、にやりと笑います。
「それなら、こうするかい? 今のは第一回戦、次で勝てれば引き分け、その次に勝てば逆転だ」
「いいよ! やってやろうじゃないか!」

 日がかたむき、町内放送のスピーカーから、「ゆうやけこやけ」の音楽がながれはじめま
した。
「ぜぇ、ぜぇ……ううっ」
「これで128回戦ぜんぶ、わたしたちの勝ちだ」
 キトラたちは、クタクタになっていますが、おじいさんたちは元気なものです。
 よろよろとキトラたちは立ち上がります。
「もう、おそいから帰るけど」
 キトラは、白いヒゲのおじいさんをびしりと指さします。
「こんどはゼッタイまけないぞ!」
「かえりうちにしてあげるよ。ただ、あんまりモタモタしていると、ポックリ行っちゃうかもしれないから、早めにな」
 おじいさんたちは、笑います。
「おぼえてろおおおお!」

「あー、ウデいたい」
 キトラたちは、帰り道を歩きます。
「それにしても、大人げないおじいさんたちだったなぁ」
「まったくだぜ」
「そうだそうだ、子供みたいだぞ」
「公園、使えなかったな」
「……いや、なんだかんだで、公園で遊んでるよ。ぼくたち」
「え? あ……」
「言われてみれば」
「そう、だぞ」
「なんてこった」
 考えてみれば、サッカーはできませんでしたが、ボウリングを午後いっぱいやっていました。
「……いや、気づくでしょ、ふつう、とちゅうで」
「も……もちろん、気づいてたさ! ああ、気づいていたとも! 気づかないでか! おとしよりと遊ぶのは、このショウシコウレイカシャカイにおける子供の役割としては十分にイギのある事であるから、ぼくはケイロウセイシンにノットリ、全力で相手をしたワケだよ!」
「もちろん、オレもケイロウセイシンだ!」
「そうだそうだ、ケイロウカンシャの日だぞ」
「ボクらがおじいさんのあいてをしたから、10月15日はケイロウキネンビだ!」
 ごまかしながら、キトラたちは笑いました。
「……おじいさんたちにしてみれば、かわいくてしかたがないんだろうな、こういうバカな感じとか」
 ラグヤはつぶやいて、頭をかきました。

 夕焼けにそまった空には、もう気の早い星が一つ二つ、すがたを見せはじめていました。

【おしまい】