キトラの冒険
作:ごんぱち
その74『草むしりをしよう』

 夢の世界のキトラ運送に、火ネズミのカソが来ていました。
「――草むしり?」
 キトラがカソにききかえします。
「たしかにそっちの方におとどけもので行くけど……」
「大地主のオータムという方が、自分の星であるルイーザ星の草むしりをしてくれるひとをさがしているそうですよ」
 カソがせつめいします。
「なんでわざわざ?」
「なんでも自然をのこしたテニスコートを作ったんだとかで、機械をつかいたくはないそうですよ」
「……そういうのって、自分の手でやってこそじゃない?」
「まあわたしもキトラにつたえるように言われただけで、こまかいところは分からないんですが。で、どうしますか? 給料はいいですよ」
 カソは求人のチラシを見せます。
「……本当だ、ぼくの給料よりもずっと高い」
「おや、キトラは給料をもらってたんですか?」
「うん。会社から給料としてもらったほうがとくなんだって」
 キトラもずいぶん世なれてきたものです。
「それでキトラ、やりますか?」
「そうだね、やろっかな。ちょうど、仕事もあんまりないし」

 宇宙船「イダテン」で、キトラはルイーザ星のそばまでやって来ます。
「小さい星でありますな」
 カモメのジョースターが、オールをこぎます。
「そうだね」
 キトラもこぎながらこたえます。
 イダテンの窓から見える星は、町一つぐらいの大きさしかありません。
「別荘用の小惑星ってところかな」
「社長はそういうの買わないのでありますか? そして、自分たち社員をまねいてどんちゃんさわぎをやったり……」
「そんなムダなお金使わないよ。もったいない」
「おっ、はやりのモッタイナイでありますな」
「もう、はやってるってほどでもないよ。そもそもぼくの世界のことを、どうしてジョースターが知ってるのさ」
「この前ラグヤさんに聞いたのであります」
「……あー、なるほど、これでもかってぐらいなっとくしたよ」
 キトラはものわかりのいい子どもでした。

 宇宙船は親方にまかせて、キトラとジョースターはランドボートでルイーザ星におりました。
「うわぁ、キレイだなぁ」
 ルイーザ星は、大きなタンポポがいっぱい生えています。
 それいがいには、とくに何も生えていません。星ぜんぶがタンポポだらけ。
「なんかオムライスの上にでもいるみたいだなぁ、ふふっ」
 キトラはタンポポの間をひょいひょいと走ります。
「ね、ジョースターもそう思わない?」
「……とても話しにくいことであります。なにしろカモメでありますから、タマゴはいろいろとさしさわりあるのであります」
「今さらそんなとこにつまづかれても。ケーキとかパンとかも食べてるでしょ」
「言われてみればそうでありますな。まあ、牛もそういうことをさせられていたという話もありますし」
「君はどこへ話をもって行きたいんだよ!」
 一つつっこんでから、キトラはあたりを見回します。
「……テニスコートはどこかな?」
「地図をもらっているのであります」
 キトラはジョースターが持っていた地図を見ます。
「ええと」
 ポケットからコンパスを出します。
「ええと、北がこっちだから、こうむけて、こっちか」
 地図の上をコンパスのさす北に合わせます。
「むきは分かったけど、今、地図のどのあたりかな?」
「ここであります」
 ジョースターが、地図のまんなかあたりをさします。
「へー、よくわかるね」
「カモメのカンを信じるのであります」
「カンじゃイミないでしょ!」
「この星は、とっても小さいからだいじょうぶであります」
「そうだけどさ……って、ジョースター」
「なんでありますか?」
「飛んで上から見てよ。カモメでしょ」
「!」
 目を見開いてジョースターはキトラを見ます。
「……おどろいたであります」
「なにが?」
「自分に、やくにたつ能力づけがしてあったことにであります」
「……あー、なんか、そういうのないキャラっぽかったもんね」
「ウサギをぜんぜん生かせていない社長とはあつかわれ方がちがうであります」
「ふだん目立たないキャラにスポットが当たると、よくないことがおきるとも言うけどね」
「全然目立っていないのであります。目立つのは社長におまかせであります」
 ジョースターは逃げるように飛んで行きました。
「……そもそもジョースターは目立つ方のキャラだよ。目立たないって言ったら、ガースとかだよ。今回なんか、他のところへ配達に行ってていないってセッテイだもんね」
 空を飛んでいるジョースターを、キトラは見上げます。
 すいすいと飛んでいます。
「空飛べるのって、うらやましいなぁ」
 キトラは、なんとなく背のびをしてみます。
「ウサギも一羽二羽ってかぞえるよね、たしか。耳でもうごかしたら飛べないかな」
 航空力学的にムリです。
「ここは、ファンタジーっぽいなにかの力で、飛ばしてくれたりしないの?」
 ムリのありすぎる、頭のよくない絵はきらいなんです。
「わかるけどさ」
 ジョースターはくるりと円をえがいてから、すぅっとおりてきました。
「またデンパと話してたのですか?」
「デンパとか言わない」
 そうです、しっけいな。
「……あんたも、あんまり出しゃばらない。そういうのは、人気のあるお話でたまにやるからいいんだよ」
 ……ごめんなさい、なんかすっごい、ごめんなさい。
「ジョースター、空から見てどうだった?」
「北へ4キロと南へ1キロもしくは、南へ3キロほど行ったところに、テニスのネットが見えたのであります」
「なにそれ? けっきょく、こっちへ3キロなの?」
 キトラは北をゆびさします。
「ちがうであります。そっちへは5キロすすむのであります」
「じゃあ、北へ5キロじゃないか」
「ふふん、社長は頭が悪いでありますな」
「なんだよ、しっけいだな。北へ4キロすすんでから南へ1キロもどるんだから、北へ3キロじゃないか」
「ふはー」
 ジョースターは、かたをすくめてアメリカンにためいきをつきます。
「いいでしょう、社長にも分かるようにせつめいするであります」
「……ものすごくいい気になってるな、ジョースター」
「まず、北へ4キロすすむと、北極点にたどりつくのであります」
「北極? そんなにちかいの?」
「小さい星ですから」
「そういやそうだったけど……」
「そして、北極点からしゅっぱつすると、かならず北が後ろで前が南、右が東で左が西になるのであります」

<北極点に立つと、まわりはぜんぶ南>
  南
  ↑
南←北→南
  ↓
  南

「あー」
「ですから、ここから北へ5キロすすむということは、北へ4キロ、南へ1キロすすむことになるのであります」
 ジョースターはじまんげにむねをはります。
「どうです、分かったでありますか?」
「ジョースター」
「ふふ、かんしんしたでありますか?」
「ややこしい言い方しないでよ! 南へ3キロでいいじゃないか」
「社員のやる気をそぐ、ひどい社長であります」
「そんなやる気はいらないよ」

 キトラとジョースターは、テニスコートにやって来ました。
 テニスコートにも、やはりあちこちからタンポポが生えています。
「さっさとはじめよう」
 キトラはタンポポに手をかけます。葉っぱをぎゅっとにぎって、引きぬこうとすると。
「ん、かたいな」
 タンポポのねっこは、ぎっちりと土にくいこんでいて、ビクともしません。
「ははは、社長はだらしないのであります。こんなものは、こうやってつかんで」
 ジョースターは、となりのタンポポのねっこをつかんで、引きぬこうとしますが――。
「ぬけない、でありますな」
「ひとをわらう時には、自分にふりかかってこないことでわらうべきだと思うね」
 キトラはタンポポをぎっちりとにぎって、ヒザとこしとうでの力をつかって、一気に立ち上がるいきおいをのせて引きぬ――けませんでした。
「だあああっ! なんなのさ、このタンポポ!」
 タンポポのねっこはひきぬきにくいものですが、このタンポポはそれどころではありません。まるで、コンクリートにうめこまれたみたいにびくともしないのです。

「……ククク、今ごろキトラはぬけないタンポポに大よわりだろうぜ」
 宇宙コンビニ「サイトウ・セブン」で立ち読みをしながら、星の持ち主はわらいます。
「オレサマが海賊としての隠れ家にするために、あの星を金もちから苦労してだましとったんだ」
 オータムという大地主――ではありません。
 変装した宇宙海賊、カピバラのカピタンでした。
「星タンポポは、星いっぱいに根をはってしまうから、ゼッタイぬくことはできない。キトラは『すみません、できませんでした』って、オレサマにペコペコあやまるしかないのさ!」
 ようするに、キトラにいやがらせをしたいだけでした。
「今こそせきねんのうらみはらしてくれる! フハフハフハハハハ!」
 というようなことを、ひとりごとで小声でぽそぽそ言うカピタンでした。

「ダメだ、ぜんぜんぬけない!」
 キトラはすわりこみます。
 引っぱりすぎて、手がまっ赤になっています。
「ビクともしないでありますな」
 ジョースターもあせだくです。
「これは、できませんでしたと言って、ペコペコあやまるしかないのでは? 社長」
「んー、そうするしかないのかなぁ。でも、あやまるのも、一度ひきうけたものをやめるのも、イヤだなぁ」
 タンポポは風にそよそよとゆれています。
「そうだ、タンポポが生えてるテニスコートなんて、ステキじゃないか、みたいないい話にもっていけないかな」
「……テニスコートにタンポポがあったら、つまづいてころぶし、ボールがうまくはねないのであります。ムチャを通して花をのこして、奇跡が起こって、なんとなくいい話で終わるなんてのは、やりつくされているパターンであります」
「だよねー」
 キトラはタンポポを引っぱります。
「きれいだからぬかないとか、きれいじゃないからぬくとか、そういうのもおかしいしね」
「ということで、ペコペコあやまるであります。ヘタの考え休むににたりであります。今ならまだキズはあさいであります、自首するであります」
「べつに悪いことはしてないよ!」
 つっこんだところで、ふと、キトラは首をかしげます。
「ん? 自首?」
「なんでありますか、本当につかまりそうな何かをしていたのでありますか? わかりました、その間、社長のイスはきちんとこのジョースターが使うであります。安心しておつとめをしてほしいのであります」
「ジョースター、電話ある?」
「ありますが?」
「刑務所のリンガに電話だ!」

 キトラは、電話で呪いの包丁のリンガと話しています。
「リンガって、なんでも切れるよね」
『どいつを殺すだ? どんなにはなれていても、どこにかくれていても、名前を言えば1秒後にまっぷたつにしてやるだ。キトラのたのみだったら、別の世界のヤツでもぶったぎってやるだ』
 電話のむこうのリンガは元気そうです。
「……いや、だから、そういうのはダメだって」
『あ、すまねえだ。わかった、そいつの命いがいの全てを切りきざんでやるだ』
「こわいよ! よけいにこわいよ!」
『それでなに切るだ?』
「うん。今ぼくがいる星に、タンポポが生えてるんだけど、ぜんぜんぬけなくって」
『ぬいてほしいだか? でも、オラは切ることしかできねえだ』
「ものは言いようだよ。ぬけやすくすればいいのさ」
『どういうことだ?』
「つまり、根と土とのつながりを切ってほしいんだ」
『終わっただ』
「早っ!」

 キトラは、ぐっとタンポポをつかみます。そのキトラを、ジョースターがつかみます。
「せぇええええええのおおおおおおおお!!」
 さっきまでビクともしなかったタンポポが、少し動きます。
「すぅえええええええなぉおおおおおおお!」
 みり。
 みりみりみり。
 めしめしめしみりみりみり。
 みりみりめりみしみりみしみしみしみしみし!
 ぼごおおおおおおお!
 ずるうっるるるうるるるるるるるるるるうる!
 タンポポの根が、ぬけはじめました。
「うわぁあ、うわぁああ、うわぁあああ」
 太くて長い根がどんどんどんどんどんどんどんどん。
 ぶぼぶぼずぼずぼずぼずぼずぼずぼ。
 どんどんどんどんどんどんどんどん。
 ぬけていきます。
 根がどんどんぬけていきます。
「うおおおお、ぬけるぬける、ぬけるよおおおお!」
 キトラはどんどんひっぱります。
「すごいであります、おわらないであります、ネバーエンディングルーツであります!」
 ジョースターも手伝ってどんどんぬきます。
 根はどんどんどんどんどんどんどんどんぬけて。
 キトラたちのわきに、どんどんどんどんどんどんどんどんたまっていきます。
 根はほかのタンポポともつながっていて、ずるずるといっしょにぬけていきます。どうやら、これはぜんぶ一本のタンポポだったみたいです。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「おふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ!」
 キトラたちはどんどんぬけていく根に、もうなんか夢中になっています。
「おおおおおおおおおのおおおおおおのおおおおお!」
「ひほおおおおおおふほおおおおおうおうううう!」
 そしてついに。
 ずるるるるるるっるるるるうっるうっるる。

 ぽんっ!

 根が全部、ぬけました。
「うわ、わああ、すごい」
「なんか、むちゃくちゃでありまするな」
 キトラとジョースターは、ぬけたタンポポを見上げます。
 タンポポと根は、ものすごい大きいカタマリになっています。ぐるりとひとまわりすれば、多分、8キロメートルぐらいはあるでしょう。
「……ん? ねえ」
 なんですか。
「何キロって、言った?」
 8キロぐらいですが。
「それは……つまり」
 キトラは足もとを見ます。
 土がボロボロとくずれかけています。
「今までぼくたちが立ってた星と、同じぐらいの大きさってことで、それがぬけてしまったってことはつまり、むしろ星のほとんどがタンポポだったってことで……」
「星がこわれるであります! はやくボートに乗るであります!」
 ジョースターに引っぱられるようにして、キトラはランドボートに乗りこみました。
 そのすぐ後。
 ルイーザ星は、タンポポのかたまりのうえにくずれおちていきました。
「……ねえ、ジョースター」
「……なんでありますか、社長」
「これって、仕事したことになるのかな」
「ぬけと言われたタンポポをぬいたであります。これが仕事にならなければ、世の中に仕事をしていないひとはものすごく多くなってしまうのであります」

「なんだ、なんだってんだ、おい、なんだってんだ」
 カピタンは元ルイーザ星のタンポポのカタマリの上で、ガックリひざをつきます。
「オレサマの隠れ家が、オレサマの……何日もかけてだまして、やっと手に入れたオレサマの星があああああ!」
 タンポポのカタマリの上ではテントもたてられません。
「おのれ、キトラ、ゆるさないぞ、ゼッタイゆるさない、ゼッタイに」
 カピタンはギリギリと歯をかみしめます。
「こんどあったらタダじゃおかな……」
 言いかけて、足もとのタンポポを見ます。
「……まてよ」
 カピタンは首をかしげます。
「キトラは、どうやって星タンポポをぬいたんだ? どんだけ力があるんだ? まさか」
 ぶるりとカピタンはふるえます。
「怪獣よりも強くて、こう、メリメリとムリヤリ……おいおいおい、じょうだんじゃ、じょうだんじゃねえ」
 宇宙自転車にまたがります。
「そんなバケモノとやりあったら、命がいくつあっても足りねえ!」
 ものすごいスピードで走り去りました。
「たすけてくれええええええええええ!」

 キトラとジョースターは、キトラ運送のまわりを草むしりします。
「いやー、タイヘンだったね」
「けっきょく、仕事をたのんだオータムってひともいなくなってしまったでありますな」
「カソもいーかげんな仕事おしつけて」
 キトラは草をぬきます。
「そうでありますな。こんどただ働きさせてやるであります」
 ジョースターも草をぬきます。
「ダメだよ、カソはお金にならないとゼンゼン力が出ないんだから」
「だったら、力のいらない仕事をやらせるであります。ドモホルンリンクルが出来るのを見てるだけとか」
「……見てるだけでいいなら、ぼくがやりたいよ」
 草はすっかりなくなりました。
 キトラとジョースターは立ち上がります。
 それから、そわそわとあたりを見回します。
「……なんか、ないかな、ほかに、草」
「草がほしいであります、草をぬきたいであります」
 そう。
 あのタンポポをぬいた時の感触がわすれられず、キトラとジョースターはすっかり草むしり好き――というか、中毒になっていたのです。
「草ああああああ、草ああああああ!」
「草をぬかせろであります、草がほしいのであります!」

【おしまい】