キトラの冒険
作:ごんぱち
その71『お金をかせごう 後編』

「うーん、やっぱり、社長イスで飲むお茶はおいしいであります」
 キトラ運送の社長室で、カモメのジョースターがお茶を飲んでいます。
「キトラ社長も、こんなイスにいつもすわっているなんて、ズルイであります」
 ずずずず。
 言いながら、ジョースターがお茶をすすっていると。
 社長室のまんなかがゆがんで見えはじめました。
「んぶっ!」
 ジョースターはあわててイスから立ち上がり、湯のみをもって社長室から出て行こうとします。
「ジョースター」
 そこには、いつの間にか、キトラがいました。現実の世界から、夢の世界にやって来たところだったのです。
「な、なんでありますか?」
「また、かってにぼくのイスにすわってたよね」
「あはははははは、な、なにをこんきょに、そんなことを言うのでありますか? じ、自分は、そんけいする社長のイスがほしいなんてこれっぽっちも」
 キトラは社長イスを手でさわります。
「じゃあ、どうしてイスがあったかいのさ」
「そ、そそそそそ、それは、冬でさむいので、あたためていたのであります。さいきんは、石油も高いのであります」
 いいわけをするジョースターの目は、ものすごくオドオドしています。
「……タイムリーなネタをうまくいれたつもりかも知れないけど、夢の世界のエネルギーって石油じゃないでしょ」
「ぐはあっ!」
「まあいいよ」
 キトラは、ためいきをついて、社長イスにすわります。
「このネタもわりとマンネリになって来たし」
「そんな社長! 自分からこのネタをとられたら出番がへるであります!」
 あわてるジョースターをほうっておいて、キトラは社長イスのせもたれにぐっとたおれこみます。
「なんか、授業中に来ちゃったみたいだなぁ」
 カベにかかっている時計を見ます。
「まあ、時間のすすみかたがちがうから、あんまりモンダイないけど」
 キトラはつくえにひじをつきます。
「――お父さんへのプレゼント、か」
「ん? キトラ社長、人にタダでプレゼントをあげるのでありますか? 社長が?」
「どんなキャラだよ、ぼくは。プレゼントぐらいあげるよ、タダで」
 じっさいは、おこづかいをほしくてやっているんですから、ちっともタダではありませんけどね。
「ねえ、ジョースター」
「なんでありますか?」
 みれんがましく、社長イスを見ながら、ジョースターはこたえます。
「大人がもらってうれしいプレゼントってなにかなぁ?」
「お――」
「お金とか、商品券とか、株券とか、切手とか、クオカードとか、そういうのはダメね」
 ジョースターはそのままの口の形で、固まってしまいました。

 キトラは市場へ来ました。
 つまようじから宇宙船まで、色んなモノが売られています。
「やっぱり、ものを見ながらの方がまとまるよね」
 キトラはネクタイ屋さんを見ます。
「なにをおさがしじゃな?」
 ネクタイを売っているのは、仕立屋のヘイケガニのヘイです。
「うん、お父さんのプレゼント、なんか良いのはないかなぁ」
「そうじゃな、これなんてどうじゃ」
 ヘイは、赤いネクタイをハサミの手で――。
 ちょきん。
「あ、切った」
「なに、しんぱいはいらんぞ」
 ヘイはハリと糸で、あっという間に、ネクタイをつないでしまいました。
「さあ、なにがいいんじゃ?」
「……なんか、長くなりそうだから、ほかのさがすよ」
「また来るんじゃぞ」
 ネクタイ屋さんをあとにしたキトラは、おかし屋さんの前を通りかかります。おかし屋さんは、アリのパティシエクロヤマのうちのひとりがやっています。
「いらっしゃ――」
「お父さんのプレゼントに、こんな店のまずいおかしもないよね」
 キトラは立ちよらずに、となりのパン屋さんを見ます。
「らっしゃい、やきたてだよ!」
 イナゴの店員さんが、キトラに声をかけます。
 まるくてゴツゴツした、いなかパンは、すぐちかくのお店から持ってきたせいで、ゆげが出ていてとっても良いかおりです。
「おいしそうだけど、プレゼントじゃあないよなぁ」
 キトラはパン屋さんも通りすぎます。
 それから、少し入ったところの本屋さんをのぞきます。
 いろんな色の本がいっぱいです。
「そうだなぁ」
 キトラは「おしごとシリーズ ITしゃちょう」をパラパラとめくります。
「本……ねぇ」
 少しかんがえてから、キトラはふと思いつきます。
「そうだ、本、いいじゃないか」
 なんどもうなずきます。
「お父さんのプレゼントにしても良いし、ダメだったら、たしか古本屋さんで買ってくれるはずだぞ」
「なにかおさがしですか?」
 本屋の店主がたずねます。
「この本だなの本、ぜんぶちょうだい!」

「ただいまー」
 キトラはキトラ運送にかえって来ました。
「うわっ、なんでありますか、それは?」
 ジョースターがおどろくのもムリはありません。
 キトラは本をいっぱい入れたリヤカーを引いているのです。
「見れば分かるでしょ、本だよ。これをおみやげでもって帰って、現実の世界でもお金持ちになるんだ」
 ウキウキ顔で、キトラは本を手にとります。
「社長」
「なに?」
「たしか、むこうの世界の本は、字が読めなくなるんじゃ?」
「……あ」
 キトラはイヤなあせをかきはじめます。
「そ、そ、そそ、そんなこと知ってたさ!」
 キトラは本をひらいてたしかめはじめます。
「だから、絵本だけをまとめてもってかえるんだよ! ほら、ジョースターも絵本さがして!」
「カモメづかいがあらいでありますなぁ」
 キトラとジョースターは、本をわけはじめます。
「これはダメ! こっちもダメ! これもダメ!」
「ないであります、これもダメであります」
 ジョースターも、自分の羽をちらしながら、いっしょうけんめい手伝います。
「絵本、入っているのでありますか?」
「まとめて買ったから分かんないよ!」
 本をどんどんよりわけていきますが――。
「うっ、なんだか……ねむく……」
 キトラの体がうすくなっていきます。現実にもどりそうになっているのです。
「……くっ、いねむりじゃ、これが時間いっぱいかっ」
「まだ絵本が見つかってないであります」
「なんでもいい……とにかくもって帰……る……」
 キトラは本を1さつつかみます。それとほとんど同時に、ふっと消えてしまいました。
「帰ってしまったでありますな」
 ジョースターが本をまとめなおしていると。
「ただいまでヤス」
「今帰りましたぞ」
 ちょうど配達をおえたカモメのガースと親方が帰って来ました。
「ん、どうした、ジョースター、そのたくさんの本は?」
「ああ、親方。キトラ社長が、自分の世界に持って帰ろうとしてしっぱいした本であります」
「社長もいろいろ考えますな」
 親方は、本をパラパラめくります。
「ほほう、『おしごとシリーズ うんそうや』なつかしいですな」
「あっしは、『うちゅうパイロット』でヤスね」
 ガースもなつかしそうです。
「なつかしいのは良いのでありますが、こんなところにおきっぱなしにされても困るのであります」
「ふむ……」
 親方は少しの間考えた後、言いました。
「キャンペーンはどうですかな? おとどけものに好きな本をそえられるようにするんですぞ」

 1週間がすぎました。
「ただいまでありますー」
「うでがヘロヘロでヤスね」
「きもちのいいつかれですな」
 キトラ運送に、ジョースター、ガース、親方が帰って来ました。
「キャンペーン、大当たりでしたな」
「そうでヤスね」
「こんなにウケるとは思わなかったであります」
 本をそえられるサービスは大人気で、本がなくなるまでの1週間、おとどけものの仕事がいつもの3ばいも来たのです。
「これだけ売り上げがあれば、社長もおおよろこびですな」
「そうでヤスね」
「ボーナスでもほしいでありますな」
 話していると。
「ふぁああ、こんにちは、ジョースター、親方、ガース」
 社長室のドアが開いて、キトラが出て来ました。
「こんにちは、キトラ社長」
「こんにちはでヤス、キトラ社長」
「なんだかひさしぶりであります、キトラ社長」
「ぼくの世界では、半日ぶりだよ。じゃ、ちょっと市場へ行って来るから」
「お気をつけて」
「いってらっしゃいでヤス」
「いってらっしゃいであります」
「はいはーい」
 キトラはあくびまじりに外に出て行きました。

「プレゼント、プレゼント……」
 キトラは市場を歩きます。
 この前来た時と、少し店がかわっていますが、キトラには「この前」の記憶がないので、ぜんぜん気づきません。
 キトラは、この前と同じようにネクタイとパンを見ます。
「んー、本は持って帰っても読めないワケだし、なにがいいだろう」
 考えながら歩いていると。
「あいや、またれい、そこの方!」
 とつぜん、声をかけられました。
「ん?」
 見ると、店と店の間のせまいスキマに、占い師がいました。ぼうしをかぶって顔を布でかくして、目しか見えません。
 台の上の水晶玉が不思議な黒い光を出しています。
「あなた、よいソウをしている」
「ソウって?」
「……顔ってことです」
「スカウトならおことわりだよ?」
「い、いや、そういうイミではなく、ウンの話です」
 占い師は手まねきします。
「まあ、この水晶玉をごらんになって下さい、おもしろいですよ、しかもタダです」
「まあタダならいっか」
 キトラは水晶玉を見つめます。
 すると。
 すぅっと気がとおくなります。
 それから、元に戻ると。
「あ、あれ?」
 目の前に占い師はいませんでした。それどころか、占い師がいたはずの、店と店のスキマそのものがありませんでした。
 そしてキトラの手には、人形がありました。
「うわぁ、なんてステキな人形だろう」
 人形はとてもステキでした。
 とてもとてもステキで、キトラはどうしても持っていたくなりました。
 形がちょっとヘンだとか、ポーズがおかしいとか、そんなことはぜんぜん気になりませんでした。

「ヒッヒッヒ、うまくわたせましたね」
 ものかげから、占い師がキトラのようすをうかがいます。
「この世界をほろぼす呪いをかけた人形を」
 占い師は、ぼうしと顔の布をとります。
 にやにや笑う口から見えるキバ、とがった耳、そして影には矢印みたいなシッポ。
「この悪魔ヘッテルギウスの手にかかれば、夢の世界だろうとカンタンなものです」
 そう、どこからしのびこんだのか、夢の世界に地獄の悪魔のヘッテルギウス氏が入りこんでいたのです。
「あの人形の呪いは、夢の世界の強い気で動くのです。つまり、夢の世界はみずからの力でほろびるのです、あーーーはっはっはっは! これで、つぎのボーナスはバッチリだ!」
 悪魔のヘッテルギウス氏が笑っていると。
 人形をもったキトラが、フッと消えてしまいました。
「……え?」
「ああ、あれは、現実世界のひとですよ。なんとなく分かるでしょう?」
「気の感じとか」
「え、って、ことは、あの、呪いの人形は」
「現実世界に持っていかれたんでしょう。現実世界では、ただのガラクタですね」
「んー、もうこわしてしまったようですね」
「そんなバカな、よりにもよってそんなあいてに!」
「夢の世界は、良いグウゼンが、ちょっとばかり多くおこるんです」
「だから悪魔も手を出さないんですよ。キミの上司ナベルス君は、教えてくれなかったんですか?」
「……あの」
「なんです」
「なんですか?」
「で、あなたがたは?」
 ヘッテルギウス氏の後ろには。
「通りすがりのエクソシストです」
「通りすがりの四神です」
 悪魔ばらいのかっこうをしたカソと、体を小さくしたセイリュウのリュウさんがいて――。
 0.02秒で、ヘッテルギウス氏は、地獄の4丁目へもどされてしまいました。

 それから夢の世界では、もうなん日かすぎました。
 宇宙船イダテンが、宇宙をすすみます。
『ひと休みしてから、ワープしますぞ!』
 スピーカーから、操舵室の親方の声がします。
「おっけー」
「りょうかいであります」
「りょうかいでヤス」
「分かりました」
 イダテンの動力室では、キトラとジョースターとガースとカソが、オールをおき、ずっと大きなワープ用オールととりかえます。
「社長、どうぞでヤス」
 ガースが紙ぶくろにつめた宇宙食をくばります。
「ありがとう、ガース」
「サンキューであります」
「ありがとうございます」
 キトラたちは、宇宙食のふくろをあけます。ほしたサツマイモ、カボチャ、いり豆、コンブ、それにビンに入りの水が入っています。
「おいしいんだけど、やっぱりふつうのご飯がこいしいよね」
 キトラは、ゆびでビンの口をおさえながら飲みます。ぜんぜんこぼしてうかせることもなく、なれたものです。
「自分は気にならないのであります」
「そうでヤスね、気になりません」
「わたしは、『お金があったら食べたいものリスト』に入ってないものは、そもそもみんなどーでもいいです」
「……食べものネタはツッコミにくいなぁ」
「キトラ」
 カソがいり豆を食べながら、たずねます。
「くじら星系7ばん惑星に、いったいなにをしに行くんですか?」
「あそこには、キトラのしりあいのイースさんというひとがいるのであります」
「グレートビートルの女のひとでヤス」
「うん、クワガタが高いんだけど、あんまりいい虫が見つからな――」
 キトラは言いかけて、かたまりました。
(……ちょっとまて、なんかおかしいぞ)
 頭の中がひえていきます。
(ぼくは、イースをつれてかえって、売りとばすつもりだったのか?)
「どうしたのでありますか?」
「顔がまっ赤でヤスよ?」
「キトラ、だいじょうぶですか?」
(うわぁ、なんてひどいこと考えたんだ、はずかしい!)
 キトラはたなから新しい宇宙食の入ったふくろをとると、それをぎゅっとかかえます。
「ごめん、帰る!」
 言うなり、キトラはふっと消えてしまいました。
「あ、社長……」
「帰ってしまいヤシたね。どうしたんでしょう?」
「そっとしといてあげましょう。あれはコウカイする男の顔でしたから」
『そろそろワープ行きますぞ』
 スピーカーから、親方の声がします。
「あー、いや親方、ワープはとりやめであります」
「社長が帰ってしまったでヤスよ」
『なんですと?』
「まあ、まあ、こういうこともありますよ」
 カソが笑います。
「せっかくですから、宇宙コンビニのサイトウ商店にでもよっていきませんか。年末ふくびきのほじょけんがのこってるんですよ」
「あ、自分もあるであります」
「たしか、1等が南の国のリゾート旅行でヤシたね」
『そうですな。とりーかーじいっぱああああい!』
「らじゃー!」
「りょーかいでヤス!」
「……いや、まずはオールをとりかえないと、通りすぎちゃいますから」

 夢の世界で3日ほどして、キトラ運送にキトラがまた来ました。
「おつかいおつかい……」
 社長室から、キトラは出ます。
 けれど、明かりがついていません。
「今日はお休みじゃなかったと思うけど」
 キトラはうけつけのある1階におります。
 シャッターがしまっていて、まっくらです。
「なにかあったのかなぁ」
 キトラは外に出ます。
 シャッターには「社員旅行のため、30日までお休みします」というはりがみがしてありました。
「そんなのやってるんだ」
 キトラは会社の中にもどります。
「でも、なんでいきなり。ぼくに言ってくれれば、合わせて来たのに」
 社長室にもどって、社長イスにこしかけます。
 それから、ズボンのポケットからメモを出します。
「まあいいや、買いもの買いもの――あ」
 キトラはメモを見てかたまります。
 買いものメモは、ヘンな線がくみあわさっているだけ。読めません。
 くりかえしますが、夢の世界では現実の世界の字が、現実の世界では夢の世界の字が読めないのです。
「しまった、いつものクセで」
 キトラは、買いものの時はいつもメモをたよりにしているのです。
「いやまてまて、おちつけキトラ。たしか、ねむる前に見たはずだ」
 記憶をたよりに、ひとつひとつ、書き出していきます。
「よし、これでいいだろう」
 キトラは電話をかけます。
「あー、もしもし? はいたつおねがいします!」

 夢の世界でつぎの日。
「ただいまであります!」
「いやー、すっかりリフレッシュしたでヤス」
「ふくびきが当たるとは、ついている時はついているものですな」
「南の島、楽しかったですね」
 ジョースター、ガース、親方、カソが、キトラ運送にやって来ます。
「じゃ、わたしはこれで」
 カソがかえっていきます。
「またこんどであります、カソ」
「なにかあったらよろしくでヤス、カソ」
「おつかれさまですぞ、カソさん」
 ジョースターたちは、キトラ運送のシャッターをあけます。
 ジョースターは、2階へ上がって社長室のドアをあけます。
「キトラ社長はいないでありますね――ん?」
 ゆかに紙がおちていました。
「社長の字でありますな」
 ジョースターはひろいます。
「ずいぶんきたないでありますね、『ニシン』『さとう? しお?』『ねばり』『?んぶ』」
 ジョースタは首をかしげながら、紙をゴミばこにすてます。
「ん」
 ゴミばこに、レシートがすててありました。
「なになに『みがきニシン』『サトウダイコン』『オクラ』『さくらでんぶ』……ああ、なるほど、買いものメモでありましたか」
 なっとくした顔で、ジョースターはレシートを丸めてすてたすぐ後。
「ジョースター、また社長イスにすわってたんでしょ」
 キトラがあらわれました。
「心外であります、今日は1回もすわってないであります!」
「『今日は』って言ってるとこで、ダメダメだよ――はぁ」
 キトラはためいきをつきます。
「どうしたんでありますか?」
「あ、社長! なやみごとでヤスか?」
「なんか、さいきんおかしいですぞ」
 ガースと親方も社長室にやって来ます。
「いや、そんなどうってことも……」
「かくしごとはナシであります、キトラ社長!」
「そうでヤス、話してほしいでヤス」
「恩のあるキトラ社長のためなら、たいていのことはしますぞ」
 ジョースター、ガース、親方は、キトラにやさしくほほえみます。もちろん、南国リゾートで思いっっっっっっっきり楽しんだから、心がいつもよりちょっぴり大きく、やさしくなっているだけです。
「みんな」
 キトラはちょっとなみだのうかんだ目で、ジョースターたちを見つめました。

 キトラたちは、タコツボ型をしたムナカタ星に来ていました。
 なくしたものがながれつく、リサイクルセンターのある星です。
「おおキトラ、まってたで!」
「ひさしぶり、タコさん」
 警備員のタコが、リサイクルセンターの『ワケありストアー』の中まであんないしてくれました。
「キトラの世界のお金は、このへんやな」
 タコはワゴンを足でさします。
「うわぁ」
「いっぱいあるでありますな」
「こんなに落としたんでヤスね」
「言ったとおりだったでしょう?」
 1円玉、10円玉から1万円札、外国のもの、石のもの、ワゴンには色んなお金が売られています。
「ちなみに、うちの所長が、キトラの世界の警察にとどけて、もちぬしが出なかったものばっかりや」
「ぼくの世界のお金、こっちにもあったんだ……」
 キトラは千円札を手にとります。まちがいなく、ほんもののお金です。
「お金でお金を買うって、ちょっとヘンなかんじでありますな」
「はは、そうだね」
 笑いながら、キトラはお金をあつめます。夢の世界のお金でけっこう高いねだんがついていますが、なにしろ夢の世界のキトラはお金もちです。
 小銭とお札をあわせて、10万円ぐらい集まりました。
「それでええですか?」
 キトラはじぃっとお金を見つめます。
「……でもさ」
「なんでありますか?」
「どうしたんでヤス?」
「ニセ札でもまざってましたかな?」
 キトラはジョースターたちを見ます。
「いきなりたくさんお金もってたら、みんなおかしいって思うよね」
「それはそうでありますな」
「ってことは、少しへらしたほうがいいな」
 キトラは1万円札をもどします。
「……いや、そもそもお札なんて、お年玉でしかもらわないし」
 5000円札と、1000円札ももどします。
「おこづかいよりも多いお金がサイフに入ってるのも、なんか……」
 キトラはお金をどんどんへらしていき――。
「これぐらいなら、あんまりおかしく……ないよね」
 100円玉が5まい。
「それで、どれくらいのものが買えるのでありますか?」
 ジョースターがたずねます。ジョースターたちにとって、キトラの世界のお金はほとんどはじめて見るものなのです。
「んーと、マンガなら1冊、おかしなら3、4ふくろかなぁ」
「それくらいならよさそうでヤスね」
「そう思いますぞ」
「じゃ、タコさん、これ」
「へい、まいどあり!」

「……あの500円って、そういうことだったの?」
 夢の世界で5日ほどあと、キトラはまた夢の世界に来ました。
「そうであります」
 イダテンのオールをみがきながら、ジョースターはうなずきます。
「やっぱりなにもおぼえてないんでヤスねぇ」
 オールをこぐためのイスをふきながら、笑います。
「それでは、あまり使いにくかったでしょうな」
 親方は、天井をふきます。イダテンのとめてあるドックは無重力なので、親方はさかさまです。
「う……うん、あんまりきもちわるいから、募金しちゃった」
「なんだか道徳みたいなオチでありますな、キトラ社長」
「いいひとみたいでヤスね、キトラ社長」
「ははは、じっさいいいひとですぞ、キトラ社長は」
「ふん、なんとでも言うがいいさ」
 キトラは窓をふきます。
「この記憶をもって帰って、こんどは、もっとうまくやるさ!」

【おしまい】