キトラの冒険
作:ごんぱち
その59『雪割草で大もうけ』

「おとどけものでーす」
 キトラは、大きな木をくりぬいた家の、ドアをたたきます。
「はーい」
 中から、カミキリムシのおくさんがカシャカシャ出てきました。
「キトラ運送です、おとどけものにあがりました」
 キトラは小さなハコと、うけとりをさしだします。
「ああっ、雪割草がとどいたのね。ありがとう、これでずいぶんらくになるわ!」
 おくさんは、にっこり笑ってうけとりにサインをしました。
「ありがとう、本当にありがとう!」
「いえいえこちらこそ」
 キトラはおじぎをして、げんかんから出ました。
 自転車にのって、軌道エレベーターへむかいます。
「今日のおとどけものも、雪割草だったなぁ」
 自転車で走りながら、キトラはサインのすんだうけとりを見ました。
 もうしばらく走って、軌道エレベーターにつきました。
 キトラは自転車をおして、軌道エレベーターに入ります。
 大きなへやぐらいの広さで、窓のついたエレベーターに、お客さんはキトラだけでした。
 ゆっくりエレベーターが動き始めました。
 エレベーターは、のぼっていきます。キトラは窓から、どんどんはなれていく地面をながめます。
 星のまるい形が分かるぐらい高くのぼってから、エレベーターはとまりました。
 キトラは自転車で、宇宙船のドックを走ります。
 ドックは3つありますが、とまっている宇宙船は、いちばんおくの、キトラの宇宙船『イダテン』1台だけです。
「おかえりなさいであります、キトラ社長」
 宇宙船の乗り口の前にいたカモメのジョースターが、羽をふります。
「ただいま、ジョースター」
 キトラとジョースターは、ハッチを開けて宇宙船『イダテン』にのりこみます。
「おかえりなさいでヤス」
 宇宙船の中をそうじをしていたガースが、モップをもったまま頭をさげます。
「やあおかえりですな、行きましょう」
 親方は、バケツをロッカーに入れます。
「ただいま、親方、ガース」
 キトラとジョースター、ガースは動力室へ。親方は操舵室へむかいます。
 動力室に入ったキトラたちは、席にすわって、シートベルトをつけて、オールをもちます。
『たのみますぞ』
「わかった」
「いきヤス」
「せーの、であります」
 キトラたちは、一気にオールをこぎはじめました。

 窓から見える星が、流れるように動いていきます。
「あー、ワープ用のオールは、やっぱり重いなぁ」
 こぎつかれたキトラたちは、席でだらりとします。
「かたでももみヤスか?」
「かたはこってないからいいよ――こるっていうのがどういうことだか、よく分かんないし」
「でもそういうひとにかぎって、マッサージ屋に行った時に『こりやすい体ですね』とか言われたりするのであります」
「そんなのは、みんなに言ってるんでしょ」
「夢がなくて、小学生らしくないでありますな」
「夢とかじゃないでしょ、それ。社長をやってるのは、小学生らしくないかもしれないけどさ」
「いえ、小学生社長なんていうのは、アニメでもマンガでも、よくあるキャラであります。ありきたりであります。ボツこせいであります。いくらでもかわりはいるのであります」
「そこまで言われたくないよ!」
 まったくです。
「気にしなくていいでヤス、ジョースターは社長の前ではああ言ってヤスが」
 ガースがキトラにほほえみます。
「社長のいないところでは、『いつか社長のイスを手に入れるであります、社長なんてだれがなってもいっしょだから、自分がなりたいのであります』って、いつも言ってヤスから」
「そーかい、うらおもてなくて、正直だねぇ、ジョースター」
「ほめられるとてれるであります」
「ほめてないよ!」
 キトラは窓の外に目をむけます。
「ったく、社長をなんだと思ってるんだか。配達までさせるし――あ、そうだ」
「どうしたでありますか? 社長をやめたくなったでありますか?」
「ならないよ! もしやめたって、会社はラグヤにあげるか、カソにでも売りつけるかするから、きみが社長になる日は来ないよ! そんな話じゃなくて、今日の配達でもさ」
「なんでありますか?」
「雪割草があったんだけど」
「ああ、ありヤシたね」
 ガースがうなずきます。
「けんこうになれるので、今はやっているのであります」
「病気がなおったりするの?」
「なおるとはだれも言っていないのでありますが、なおったという話はいっぱいあるのであります」
「それって……なおるってことじゃないの?」
「こうかには、個人差があります。だから、なおらなくても、だれもセキニンをとらなくてよいのであります」
「なんかだまされてるみたいな……」
「なおるかどうかはともかく、雪を割るぐらいでヤスから、パワーというか、えいようはたっぷりあって、たしかに体にはいいみたいでヤスよ」
「なるほど、ガースが言うならそうなんだね」
「社長はうたぐりぶかいのでありますな」
「うたがう気もちは、世界をよくするんだよ――ふうむなるほど」
 キトラは少し考えていましたが。
「雪割草さ、ただとどけてるだけじゃなくて、ぼくたちが自分であつめて売れば、丸もうけじゃない?」
「新しい仕事でありますかぁ?」
「イヤなの?」
「イヤとは言っていないであります。どんなにつまらない仕事がふえても、自分は社長の命令にさからったりしないのであります」
「……もうかったら、ボーナスかんがえとくよ」
「やるであります、さっそく行くであります、雪割草なら、サガルマタ星によく出るそうであります! 親方、とりかじであります!」
 ジョースターは、テキパキと動きはじめました。
「……ゲンキンでヤスね」
「そういうイミでは、つかいやすい社員なんだけどね」

『ブレーキだ!』
 親方のかけごえとともに、キトラたちはワープ用オールをぎゃくにこぎます。
 流れて見えていた星がとまり、行き先にまっ白い星が見えて来ます。
「うわ、ぜんぶが白い! 冬なのかな?」
「星を丸ごと見ても、夏も冬もないであります」
「あー、日本は冬だけど、オーストラリアは夏みたいなイミね」
「おっ、せんでんでありますか?」
 そんな気はありません。
「サガルマタ星は、いわゆる太陽から、ちょっとはなれているんで、雪が多いんでヤス」
「たくさんの雪っていうと、カソと雪かきしたのを思い出すなぁ」
「せんでんでヤスね」
 そんな気はありません。
『では、着陸ボートにうつって下さい』
「ここ、エレベーターないの?」
「だから、雪割草が手つかずでのこっているのであります」
「そか」
 キトラとジョースターが、ボートにのりこみます。
 ボートは水にうかぶボートに、透明なおおいをつけた形で、シートが三つついています。シートはとってもすわりごこちがよく、オールをこぐのにとってもむいています。
「えーと、どこにおりればいいのかな?」
 キトラは、法力ナビゲーションのボタンをおします。
「雪がとぎれるあたりにおりるといいのであります」
「すごい大ざっぱだけど、まあ、分かったよ」
 ナビゲーションの地図のてきとうなところに印をつけました。
 キトラとジョースターは、合図もしないでオールをこぎ、ボートは宇宙へ飛び出します。
 何だかんだで息はぴったりでした。

 ごおおおおっ!
 ボートは、空気との摩擦熱でまっ赤になりながら、星におりていきます。
 キトラたちは、たまにオールをぎゃくにこいでスピードをゆるめていきます。
「前に見たことあるけど、雪割草ってキレイだよね」
 ぎぃこ、ぎぃこ。
「そうであります。キレイであります」
「あんなのが雪を割って出て来るんだから、命って不思議だなぁ」
 ぎぃこ。ぎこぎこ。
「自分もそう思うであります。まったく、不思議な命であります」
 いよいよ、地面がちかづいて来ます。
 ぎ、こ、ぎっ、こっ、ぎっ、こっ、ぎっ、こ!
 キトラとジョースターは、全力でオールをこぎます。
 スピードはゆるんでいき、そのまま――。
 ぶわあああっ!
 ものすごい雪けむりとゆげを上げて、ボートは地面におりました。
 まあ、ボートには風船の木が使われているので、地面からちょっぴりうかんでいるので、本当におりているかどうかはあやしいのですが。

 キトラは、ボートから出ます。
「うわあああっ、寒っ!」
 見わたすかぎりのまっ白。
 雪と、たまに木が見えるだけで、ほかにはなにも見えません。
 いきの中の水がこおって、キラキラ光ります。
「本当に寒いところでありますな」
 ジョースターが、雪をひとつかみひろって、ひょいとなげます。とおくまで飛んで、コロコロころがりました。
「ここの雪は玉になるんだね」
 キトラは雪をつかみます。
 上の方が固くこおっていて、中がやわらかくて、玉にしてぎゅっとにぎると水が少したれてきます。
「雪割草は、春にちかいこういう雪がとけかけの時に出るものであります」
「そっか、いつも見る雪国の雪とはちがうんだね」
 キトラは、ボートのロープをこしにひっかけて、歩きはじめます。
「雪割草、どこにあるかな」
「ウロウロしていたらじきに見つかるんじゃないかと思うのであります」
 ふみかためられていない雪ですが、こおっているせいでふつうに歩けます。
「そんな気もしなくはないけど……」
 キトラは歩きながら、あたりを見まわします。
「こんなことなら、フツヌシに雪割草レーダーでも作ってもらっとくんだったなぁ」
「……社長」
「なに」
「そんなふうに、いちいちお金をかけてしまっては、会社はつぶれてしまうのであります」
「まじめな顔で言わないでよ! こんなのネタでしょ! むしろ、先にジョースターの方が『こんなこともあろうかと』ってボケるべきところを、ひろってあげたんでしょ!」
「社長、自分は、昔、ジョーとよばれていた気がするのでありますが?」
「よびかたなんて、かわるもんでしょ。そんなことより、今はもっとだいじな話をしてるの! まったく、カソはもっと空気読むよ?」
「よそとくらべると、良い子がそだたないのであります」
「子どもはそだたないだろうけど、社員はどうにかなるよ」

 キトラとジョースターは、森の中を歩きます。
「雪割草、雪割草……」
 地面は、やっぱり雪ばかり。
 草なんてまったく見えません。
 そもそも、植物が、葉っぱをおとした木ばっかりで、おおよそ緑色がありません。
「これじゃあ、生きものはなんにも食べるものがないね」
「そうでありますな」
「一体どうやって生きてるんだろう?」
「知らないのでありますか? ウサギなの――ぶふぁああっ!」
 ジョースターの上だけに、木からものすごくたくさんの雪がおちてきました。
「ちょっ、ちょっと、ジョースター!?」
 ジョースターは足だけのこしてすっかりうまっています。
 キトラはジョースターの足をつかんで。
「んしょっ!」
 思いっきり引っぱります。
「うんとこしょ、どっこいしょ!」
 それでもジョースターはぬけません。
「ひとりがダメなら、ふたりで!」
 ふたりがかりです。
「うんとこしょ、どっこいしょ! うんとこしょ、どっこいしょ!」
 それでもジョースターはぬけません。
「ひとりよりふたりがいいさ、ふたりよりさんにんがいい!」
 こんどは3にんがかりです。
「うんとこしょ、どっこいしょ! うんとこしょ、どっこいしょ! うんとこしょ、どっこいしょ!」
 まだまだジョースターはぬけません。
 どんどん数をふやしていって、6にん目になったところで。
「うんとこしょ、どおおおっこいっしょおおおおお!」
 すぽん!
「ぶふぁっ!」
 ようやく、ジョースターはぬけました。
「し、死ぬかと思ったであります」
「まったく、口はわざわいのもとだよ」
「イヤというほどわかったであります」
 わかってもらえて、よかったです。
「みんな、ありがとね!」
 みんなは、かえって行きます。
「たすかったで――」
 ジョースターは頭を下げます。
「ああああああっ!!」
「なに、どうしたの、ジョースター?」
「あーー、あーーーーー!」
 ジョースターは、みんなを指さしました。
「ジョースター、指さすのはシツレイだよ」
「そうじゃなくて、雪割草であります!」
「え? どこ、どこ?」
「だから、そこ!」
 みんなもおどろいてあちこちさがします。
「どこ?」
「そこ!」
 みんな、わからないみたいです。
「どこさ?」
「ここであります!」
 みんなのうちのひとりに、ジョースターが指をつきつけます。
 みんなのうちのひとりが、自分を指さして、首をかしげます。
「そうであります、君たちであります!」

 キトラと、ジョースターと、雪割草たちが輪になります。
「――まあたしかに、この夢の世界が」
 キトラはじぃっと雪割草を見ます。
「スイカがとびはねて、あっちこっち行く世界だっていうのは分かってたよ」
 雪割草は、茶色くてつるんとしていますが、手足と頭があって、人みたいな形をしています。
「マンドラゴルァっていう植物も、人みたいだった。でもさあ!」
 キトラは雪割草を指さします。
「これちがうでしょ、配達してた雪割草とゼンゼンちがう生きものでしょ!」
 雪割草たちは、困った感じで、おたがいを指さしています。しゃべることはできないみたいです。
「そう言われましても、これが雪割草であることは、まちがいないのであります」
「どうやって売るのさ、こんなの。箱に入らないし、入ったってどんなマニアが買うんだか」
「それは――」
「もういいから、帰って帰って、助けてくれてありがとう」
 キトラは雪割草たちにおじぎをします。
 雪割草たちは、ちょっとてれた感じで頭をかいて、あちこちへかえって行きました。
「社長、そんな!」
「ああ寒い、もうあきらめて帰ろう。草なんてゼンゼン見えないし」
 キトラは、ボートにのりこみます。
「社長、ちょっと」
「ほら、おいてくよ!」
「あっ、まってほしいであります!」
 あわててジョースターも、ボートに乗りこみました。
「さあ、こぐよ!」
 キトラはオールをこぎはじめます。
「せっかく雪割草が……」
 ジョースターが後ろを見ると。
 雪割草のひとりが、うでをふりあげて、固くこおった雪をなぐりはじめました。ものすごい力で、どんどんなぐって、雪を割っていきます。
 そして、雪がすっかり割れて、土があらわれると。
 雪割草は高く高くとびあがってから、ドリルのように回りながら土にもぐりこんでいきます。すごい回転です。
 すっかり土にもぐりこむと、頭のてっぺんがわれて、芽が出てきました。
「社長!」
「ほら、キリキリこぐ!」
 そして、それはみるみる育ち、小さなうすい紫色のキレイな花が開きました。
「ああ、もったいない」
「ちゃんとこいでる!?」
「分かったであります、こぐであります!」
 ジョースターは、ガッカリした顔で、オールをこぎはじめました。
 とおざかっていく雪の上には、少しづつ、雪割草の紫色が広がっていきました。

 もうすぐ、春がやって来ます。



■この物語はフィクションであり、実在の雪割草とは一切関係がありません

【おしまい】