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キトラの冒険
作:ごんぱち
その50『ヘツィー幽霊 前編』
「あー、すずしい!」
キトラは、すっかりあせのひいたおでこをさわります。
「がはは、まったくだ!」
サリスもきもちよさそうに、目をほそめています。
「うんうん、すずしくてきもちいいぞ」
うれしそうにノクタはわらいます。
「……でも、そろそろ出ないと、またさむくなる」
ラグヤがドアに手をかけます。
「そうだな」
「そうだそうだ、そろそろ出よう」
キトラたちがいたのは、スーパーマーケットのれいとうこ。スーパーマーケットの店長さんが、ノクタのお父さんのしりあいなので、あつい日にたまに入らせてもらっているのです。
外に出ようとしてあるきだしたキトラは――。
「おっと」
なにかにつまづきました。
「ん?」
キトラがつまづいたのは、小さな木のハコでした。
「なんだろ?」
キトラはハコをひっくりかえしてみましたが、なにもかいてありません。
たなを見ても、れいとうしょくひんのダンボールばかりで、木のハコはありません。
「ねえ、ノクタ」
「なんだなんだ、キトラ? はやく出ないとさむいぞ」
「このハコ、しらない?」
「おじさんに聞くほうがはやいぞ。もって行こう」
「もち出しちゃっていいの?」
「はやく出ようぜ!」
サリスがさっさとドアをあけます。
「わっ、ちょっと! 十びょうしかあけちゃダメなんでしょ!」
キトラたちは、あわてて外に出ました。
外は、春だというのに、夏みたいにつよいお日さまが、ジリジリてりつけていました。
「うー、やっぱりもっとあつくなったなぁ」
「でもあのすずしさはやめられないぜ」
「そうだそうだ、きもちいいぞ」
「……人の業をみているようだね、フフ」
「やあ、わかダンナとそのお友だち」
スーパーの店長のおじさんがやって来ます。
「すずしかったかい?」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう、おじさん」
「ありがと、またおねがいするぞ」
「……どうもありがとうございます」
「先生によろしく、わかダンナ。じゃ、またおいで」
「ああっ、っと、おじさん」
もどって行こうとするおじさんを、キトラはよびとめます。
「こんなハコがおちてたんですけど」
キトラはハコを見せます。
「どこにおちてたんだい?」
「れいとうこの中の、ゆかに。かってにもって来ちゃってごめんなさい」
「いや、あやまることもないよ」
おじさんはハコのフタをひっぱります。
「あかないな」
「店長! レジ足りないんで、おねがいします!」
スーパーの店員さんが、おじさんをよびに来ました。
「っと、行かないと」
おじさんはキトラにハコをかえします。
「まあどうせ大したものじゃないな、あげるよ」
「うーーーーーん!」
秘密基地で、キトラたちはハコをひっぱります。
「ダメだなキトラは、オレにまかせろ」
サリスがハコをうけとって、フタをひっぱります。
「ぬぐぐぐぐぐうぐっぎっぎぎぎぎぎぎ!!」
こおってしまっているのか、ビクともしません。
「ノコギリかなにかで切らないとダメじゃねえか?」
「ラグヤ、なんかいい方法ない?」
「……かんがえてるところ」
ラグヤはゆっくりゆっくりかんがえています。こうなってしまうと、かなりまたないと何も出て来ません。
「ノクタにも見せろ」
「おう」
ノクタはサリスからハコをうけとります。
それから上、下、右、左とひっくりかえしてから。
カタッ。
ハコがまんなかからななめにずれました。
「えっ!?」
「な、なんだ、それ?」
ななめにずれてから、上にずれ、それから右に少し、左にぐいっと、さいごに下にうごいたところで、ハコはバラバラになりました。
「あいたぞ」
「……わかった、くみ木のパズルになってるんだ」
「あ、うん」
「今わかったぞ、ラグヤ」
ハコだった木は、すっかりバラバラに外れ、一まいの紙が出てきました。
「地図……かな?」
手書きの地図らしきものに、×じるしがついています。
「どこの地図だ、見たことないぞ?」
「そうだそうだ、見たことないぞ」
地図というのは、どこの地図だかしっているから、地図に見えるのです。さもなければ、なにかのもようとかわりません。
「ラグヤ、わかる?」
「……ううん、分からない。知っているばしょの、どことも合わない」
「だとしたら……」
「おおっ、わかったぞ」
「ええっ、ノクタ、分かったの!?」
「でかした、ノクタ!」
「こうやると、またハコができあがる!」
ノクタはハコをまたくみたて直しました。
「ああ、すごいね、たしかに、すごいね」
「うん、かんしんはするぞ、ノクタ」
「……すごい、すごい」
キトラたちは、つっこみにくそうな顔で、心のこもらないほめことばを言いました。
「どこかの地図だと思うんだけどなぁ」
キトラは紙をじぃっと見つめます。
でも、見れば見るほど、どこだかわからなくなって来ます。
じっさい、じっと見ていると、分かっているものでさえ、なんだかおかしく見えて来るものです。
そのうちに、五時のチャイムがなりはじめました。
「もうそんな時間か。かえるぞ、ノクタ」
「うんうん、かえろうかえろう」
「あっ、サリス、ノクタ、地図は?」
「わからないんじゃ意味ないだろ。すてちゃえよ」
サリスとノクタはかえって行きました。
「ラグヤ、どうしよう?」
「……まかせるよ」
「えっ、ラグヤまで。こんなおいそそうなネタを」
「……地図なら、知っているかどうかしかない。かんがえても分からないよ」
「うーむ、まあ」
キトラは地図をもういちど見てから、おりたたんでポケットにしまいました。
地図はまだ、なんだかひんやりとしていました。
「ただいまー」
家にもどったキトラは、だいどころに行きます。
「おかえりキトラ、そろそろごはんだよ」
今日はお父さんのナラキさんがばんごはんを作っています。
「ごはんはなに?」
「やき魚と、けんちんじるだよ」
魚やきグリルから、いいかおりがします。
キトラはれいとうこをあけて、地図を入れます。
「なんかテーブルにもっていくものある?」
「そうだね、じゃあおはしをおねがい」
「うん」
キトラは、はしをテーブルにおいて、おさらをおいて、ちゃわんをもっていきます。
「さあ、ごはんがたけたよ」
お父さんが、おかまをもって来ます。
「アスタさんをよんで来て」
「はーい」
キトラは立ち上がって――。
「って、どーして、地図をれいとうこに入れてんのさ、ぼく!」
ものすごくおそい、ノリツッコミをしました。
キトラはれいとうこから、地図を出して、ポケットに入れて、お母さんのアスタさんのへやに行きます。
「おかあさん、ごはんだよ」
「あらあらあら、もうそんな時間?」
お母さんが、パソコンのでんげんをきって、ダイニングにやって来ます。妹のタウラは、テーブルについて、魚をつまみぐいしています。
「こらタウラ! いただきます言うまえにたべちゃダメでしょ!」
キトラはだいどころに行って、地図をれいとうこに入れてから、テーブルにつきます。
「ちゃんと言った。言ってからつまみぐいした」
「……あのね、いただきますは、一人で言ってもいただきますじゃないの」
「にいちゃん、それはおかしい。いただきますは、いただきますだ」
「そうじゃなくて――って、また!」
キトラはれいとうこから、地図を出します。
「また入れてるよ!」
「どうした、にいちゃん? うちゅうじんにカラダでものっとられたか?」
「……イヤなじょうだん言わないでよ、わりとリアルにありそうだから、それ」
ごはんをたべて、おふろに入ったあと、キトラは地図をれいとうこから出して、じぶんのへやに行きます。
「どこの地図だろう?」
キトラは地図をじぃっと見つめます。
それから、つくえのたなにある、お父さんのお下がりの地球儀をかかえます。
「うーんと、ニッポンじゃない、キタチョウセンじゃない、ベトナムじゃない、ソビエトじゃない、ポーランドじゃない、キューバじゃない……」
どの国のカタチにも、にていません。
「だとしたら」
これもまた、お父さんのおさがりの地図ちょうをひらきます。
「オキナワじゃない、ナガサキじゃない、ヒロシマじゃない、トウキョウじゃない……」
どの県のカタチにも、にていません。
「地図って、やくにたたないもんだなぁ」
キトラは地図をあかりにかざしたり、ひっくりかえしたり、れいとうこに入れたりしました。
「うわっ、また入れてる!」
ひんやりする地図をもういちど見ます。
「にいちゃん、どうした!」
タウラがへやに入って来ます。
「ああタウラ」
「さっきかられいとうこをなんどもあけて、どうしたんだ?」
「れいとうこはカンケイないんだけどさ」
キトラは地図を見せます。
「タウラは見おぼえない? この地図」
「ちずなのか? これ」
「……たぶん」
「ラグヤはなんていってた?」
「分からないって。知ってるばしょじゃないって」
「ははは、にいちゃん、だったらかんたんだ」
「えっ、タウラわかるの?」
「ラグヤがわからないことを、にいちゃんがどんなにかんがえたってわかるわけないじゃないか」
「うるさい!」
キトラはどなります。ひとは、本当のことをいわれると、とくにハラが立つものです。
「……本当にうるさいよ」
キトラは地図を見ます。
「うーん、どこの地図だろうなぁ」
パジャマのむねポケットに入れて、ねるまえにトイレに行って、それかられいとうこに地図を入れ――。
「いくらなんでも、おなじネタがつづきすぎじゃないかなぁ」
ぼやきながら、ふとんにはいりました。
キトラが目をあけると、夢の世界の「キトラ運送」の社長室でした。
「こんにちはであります、社長」
カモメのジョースターがおじぎをします。
「ねえ、ジョースター」
キトラは、パジャマから、キトラ運送のせいふくにきがえます。
「なんでありますか?」
「ぼくがこっちの世界に来た時、よく社長室にいるよね」
「ぎくり! い、い、い、いや、な、な、なななな、なんにもたくらんでなんて、ゼッタイいないであります」
「……で、なにをたくらんでるの」
「ぜんぜん、ぜんぜんであります」
「イスがさ、あったかいんだよね。いつも」
「気、きききき、気のせいであります、社長イスのすわりごこちをたしかめたくて、すわっていたことなんて、いちどもないであります」
「そんなことでおこりゃしないよ」
キトラはつくえの上につみあがったしょるいを見ます。
「社長なんて、そんなにいいもんでもないよ? げんばではたらくほうが、ずっとおもしろそうだよ」
「いえいえ社長、げんばもそんなにおもしろいものではないであります。そのてん社長は、イスにふんぞりかえって、はんこをついて、せったいをうければいいだけですから、しあわせそうであります」
「……ひとのしごとをあれこれ言うのはよくないね」
「……で、ありますな」
キトラははいたつ用の地図をひらきます。
「今日は、手、たりてる?」
「だいじょうぶであります」
「そろそろ宇宙船、かんせいするよね?」
「フツヌシさまによると、今日明日がとうげということであります」
「……それ、ビョウキの言いかたでしょ」
ゆるいツッコミをしながら、ぼんやりと地図を見ていたキトラは――。
「あ、れ?」
「どうかしたでありますか?」
「いや、それが」
キトラはぬいだパジャマのむねポケットから、れいとうこで見つけた地図を出します。
右左がひっくりかえっていますが――。
「見つけた!」
「な、なにを見つけたでありますか?」
「そっか、夢の世界の地図だったのか! すっかりわすれてた!」
「なるほど、そうだったんですかい。いやいや、そうかんがえればなっとくがいく」
「え? ジョースター、どういうこと?」
「は? じぶんはなにも言っていないであります」
「え?」
ジョースターが見ている先は、キトラのうしろ。
キトラがふりむくと、なにもいません。
「え? え?」
「社長、まえであります」
まえをむくと、また、なにもいません。
「社長、うしろうしろ!」
うしろをむいてもなにもいなくて。
「社長、まえまえまえ!」
まえをむいても。
「ねえ、ジョースター」
「なんでありますか」
「お父さんからきいたんだけ」
キトラは、話しているとちゅうに、いっきにふりむきました。
目のまえには、白いきものに、さんかくのぬのをあたまにつけた、あおじろいカオの男の幽霊が立っていました。
「うわああああっ!」
「おわああああっ!」
キトラと幽霊はびっくりしてひっくりかえります。
「な、な、なんで幽霊なんか!」
「いや、その、あやしいものじゃ、ございやせん」
幽霊はあわててあたまをさげます。
「あやしいよ、すごくあやしいよ! この世界って、ゆうれいなんていたの?」
「じぶんもはじめて見るであります」
いろんなものがしゃべっても気にしなくなったキトラですが、幽霊ははじめてでした。
「あっしは、その地図にとりついていました、幽霊のヘツィーというケチなヤロウでございまして」
「ケチなの?」
「いや、そこにひっかかられても」
ケチなヤロウというのは、大したことのないひとというイミです。キトラは、ことばをあまりしらないのです。
「……小学生になにをきたいしてるんだよ」
「あっしは、現実の世界でこごえ死んで幽霊になったんでございやすが」
「それで、れいとうこに行きたがったのか……」
「地図にとりついているうちに、キトラのダンナに、夢の世界へつれて来られやして」
こんどはキトラがげんいんみたいです。そうなんでもかんでも、リンガのせいにはできません。
「それじゃ、わるいことしちゃったね」
「いえ、あっしもこの地図の宝をもういちど見たくてしかたがなかったんでございやすが、幽霊はねむらないのでこちらに来ることができなくて、こまっていたところで」
「そ、そっか。だったら、わるいことじゃないよね、ね、ジョースター」
「じぶんは、社長が白いものを黒と言えば、本当は白だと思っていても、口さきだけは黒と言うであります」
「……しんじていいのかどうか、さっぱりわからないよ」
「宝とは聞きずてなりませんね」
「うわ、もっとしんじられないのが来た」
「なんですか、しっけいな」
そうじどうぐをかかえた火ネズミのカソが、ヒゲをぴんとはじきます。
「きちんと給料をいただいている間は、けっしてうらぎりませんよ、わたしは」
「まあそーだけどさ」
キトラは地図を見ます。
「ヘツィー、それで宝はどんなのなの? この×じるしのばしょにいけば、すぐにわかるのかな」
「どうでしょう?」
「へ?」
「あっしも、おぼえてないんです」
「ええっ? どうして」
「キトラさんも、夢見るひとなら、おわかりでやしょう? この世界のルール」
「ルールって……おみやげ?」
「ええ。この世界からもってかえれるのは、ひとつだけ」
ヘツィーは地図を手にとります。
「あっしは、地図をもってかえってしまった。ですから、宝をかくした――か、どうかもわからないですが――きおくは、なにひとつもってかえっちゃいないんで」
「どうして、そういうめんどうなことをするかなぁ」
「ひとをあざむくにはじぶんから。ぜったいに、だれかにとられたくなかったんでしょう。よく分かりますよ」
カソがなんどもうなずきます。
「幽霊になってしまっては、宝をどうすることもできません。でも、せめてひと目、見てみたいのです。宝はさしあげますから、どうか宝さがしにつきあってください」
「え? くれるの? なんかわるいなぁ、でもたしかに幽霊じゃつかえないよね、わかったよきょうりょくするよ」
いきもつかずに、キトラは言いました。
キトラはすっかりよくばりになっていたのです。
「……よくばりじゃない、宝さがしはロマンなんだよ!」
【おしまい】