キトラの冒険
作:ごんぱち
その45『温泉をほろう』

「いーいゆだなっと」
 キトラは、かえらずの森の中の温泉につかっています。
 木のあいだからさしこむお日さまの光が、おゆをキラキラかがやかせています。
 あたまがちょっとぐらいあつくなっても、すぅっとふきぬけていくほんのりすずしい風がさましてくれます。
「いいゆだなぁ」
「そうでしょう」
「……ここが、カソのやっている温泉でなければ、もっといいゆだったと思うなぁ」
「あはは、こりゃ一本とられました」
 りょうきんばこをかくにんしながら、カソはわらいます。
『かえらずの森 カソのゆ』
 かんばんには、そうかいてあります。
「だいたいさぁ、どうしてこんな、しぜんにわいてるものでお金とるのさ?」
 そう。かんばんと、カソがお金をとるための机と、あとはクーラーボックスいがいに、お店らしいものは何もよういしていないのです。
 そもそも、かえらずの森は、そこかしこから温泉がわいているのです。
「そりゃあ、はらうひとがいるからですよ」
 カソは、クーラーボックスをあけて、ビンのコーヒー牛乳のフタをぽんとあけます。
「もうかるの? こんなので。お客さんもぼくのほかにいないし」
「まあ、あんまりおきゃくさんは多くないですけど、もとでをかけずにかせげますからね」
 カソは、ごくごくとコーヒー牛乳をのみます。
 見ていたキトラも、なんだかノドがかわいてきました。
「ねえ、カソ、そのコーヒー牛乳は……」
「もちろん売りものですよ。ちょっと高いですけど」
「……いいよ、ちょっとぐらいなら」
「おっ、さすがは社長、ふとっぱら!」
「ちょっとぐらいまけようって気は……ないんだろうね、やっぱり」
「さすがキトラ、よくわかってらっしゃる」
 キトラは温泉から上がって、コーヒー牛乳をのみます。
「ぷはーー、おいしっ」
 カラになったビンをカソにかえします。
「でも、これだけきもちのいいものだったら、本当にもっとおきゃくさんが来そうなもんなのになぁ」
「町からはなれてしまうのが、いちばんモンダイなんですよ」
「そっか、町の中では温泉なんて出ないもんね」
 キトラの家のちかくにも、温泉はありません。
「いえ、出るんですよ。どこでも」
 カソはカラのビンをクーラーボックスにもどします。
「え?」
「温泉は、出やすいとこと、出にくいとこがあるだけで、がんばればだいたいどこでも出ます」
「がんばる? えーと、このばあいの、がんばるってのは、だれが何をがんばるのかなー?」
「キトラがちょーーーーっとだけ、お金を出してくれれば、町の中で温泉場ができますよ」
「えー、それは」
「おきゃくさんいっぱい来ますよ。おおもうけです」
「ちょっと、やってみよう、か」
「そうこなくちゃ!」
 カソはそそくさとかえりじたくをはじめます。
「……ねえ、カソ」
「なんですか?」
「さいきんぼく、金にきたないキャラになってない?」
「だいじょうぶですよ。社長っていうのは、それぐらいでちょうどなんですから」
「ねえ、フォローは? フォローは?」
「高いですよ」
「……ならいらない」

「ドリルをつくってくれだぁ?」
 宇宙港のドックで宇宙船「イダテン」のしゅうりをしながら、かじやのフツヌシがうるさそうに聞き返します。
「巨大ロボットでも作るのか?」
「……なんでドリルだけでそっちにいっちゃうのさ」
「キトラ、ドリルといえばロボット、ロボットといえばドリルだ。巨大なロボットがおどるようにうごきまわり、ドリルでのいちげきをかますのが、これすなわちダンスドリルだ」
「ちがうと思う、ぜったいちがうと思う」
「じゃあ、なにすんだ?」
 フツヌシの手はまったく止まっていません。ものすごいスピードでシゴトがすすんでいますが、なにしろ宇宙船が大きいのでまだまだ時間がかかりそうです。
「温泉をほろうと思ってさ」
「温泉だぁ? また、金になると思えば、なんでもしやがるな、おまえは」
「……そんなキャラ? ねえ、ぼくそんなキャラ?」
「まあいい、作っておいたドリルがある」
 フツヌシは、ドックのすみっこを指さします。そこには、キトラのからだよりもおっきな、上にハンドルのついたドリルがおいてありました。
「ひょっとして、『こんなこともあろうか』とか思ってたの?」
「んなワケねーだろ。これは、この惑星の中心に封印されているアスラのわるいタマシイがよみがえりそうになったのに、惑星エレベータがこわれてしまい、穴でもほっていくしかない、って困った勇者たちがないてたのみに来る時もあるんじゃないかと思って作っておいただけだ」
「にたようなもんじゃない」
「代金は宇宙船のレストアがおわった時に、まとめてもらう」
 フツヌシはせいきゅうしょをキトラにわたします。
「けっこうやすいけど、せいのうはいいの?」
「おう。100000キロだってほれるぜ!」
「……惑星つきぬけちゃうんですけど、それ」

 キトラとカソは、ドリルをもってキトラ運送のにわにやって来ました。
「はー、にわに温泉をほるのでありますか?」
 カモメのジョースターがかんしんしたふうに、ドリルを見あげます。
「うん。町の中でほれるばしょってあんまりないし、わざわざ土地を買うのももったいないしね」
「さすがキトラ社長、ぬけめがないであります」
「ほめられてる気がちっともしない……」
「さあさあ、はやくはじめましょう」
 カソがふみだいにのって、ドリルのハンドルをつかみます。
「あ、うん」
 キトラもハンドルをつかんでから。
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
 力いっぱい回しはじめました。
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
 フツヌシのつくったドリルだけあって、じめんにずぶずぶとつきささっていきます。
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
 たちまちドリルはよこからは見えなくなるぐらいまで、じめんにつきささってしまいました。あとはドリルについたぼうをどんどんつぎたして、ほっていくみたいです。
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
「温泉のためなら!」
「えんやこら! お金のためなら」
「えんやこら――ってちがう、ぼくはただ、みんなのよろこぶカオがだね!」
「ほらほら、手がやすんでますよ!」
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
「よいしょっ!」
「よいせっ!」
 カチンッ!
 かんだかいおとがしたかと思うと、ハンドルがきゅうにうごかなくなりました。
「ん?」
「なんでしょうね?」
 ふたりは、ドリルをもどして穴の中をのぞいてみます。
 穴の中には、岩が見えました。
「岩だね」
「つきぬけてしまいましょう」
「できるのかな?」
「ごらんなさい、岩の方がもう少しかけてますよ」
 カソのいうとおり、岩はドリルですこしかけています。
「すごいきれあじだなぁ、このドリル」
「さあさあっ、温泉温泉っ」
「わかってるよっ、よいしょっ!」
「よいせっ!」
 がり、がり、がりがりがりがりり!
 ドリルはものすごい音をたてながら、ゆっくり岩をえぐっていきます。
「はあっ、よいしょっ!」
「よいせっ!」
 がががりっ!
「ふぅっ、よいしょっ!」
「よいせっ!」
 がりりっ!」
「ひぃっ、よいしょっ!」
「よいせっ!」
 がががが、がごっっ!
 ついに岩をつきぬけてしまいました。
「やったっ、かるくなったぞ!」
「どんどんいきましょう」
 ふたりは、またドリルを回しはじめます。
「よいしょおっ!」
「えんやとっと!」
「うんしょお!」
「えんやとっと!」
「どっこいしょ!」
「あ、よーい、よい!」
「力のはいらないあいの手いれないでよ!」
「このほうが長つづきするんですよ。けいぞくは力なりです」
「ほんとうかなぁ」
 キトラもちょっとふしをつけてみます。
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
 リズムがとれていいかんじです。
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
 がりりっ!
「ん? また岩かな?」
「ひょっとしたら、たからものかもしれませんよ」
「まさかぁ、このじだいに」
「……キトラ、キミの会社、どうやって手に入れたかおぼえてますか?」
 キトラとカソは、ドリルをひきぬきます。
「あれ、まっくらでなんにも見えないや」
「ふかいですからね」
 カソが、大きなかいちゅうでんとうで穴の中をてらします。
 するとずぅぅぅぅぅぅぅぅうっと下に、白いものがみえました。
「なんだろ?」
「ああ、あれは、恐竜のホネですよ」
「えっ、化石?」
 よく見ると、たしかに目と歯があって、ホネみたいなカタチをしています。
「いえ、ただのホネです。ほりぬいちゃいましょう」
「そんな、もったいないよ! ゼツメツしたのに、ぐうぜん何億年ものこっていたものを!」
 キトラの世界では、恐竜の化石はとってもだいじなものです。
「あの……キトラ?」
「なに」
「なにかかんちがいしていると思うんですけど、このあたりって、300年ぐらいまえまで、恐竜いたんですよ」
「……そうなの?」
「べつにゼツメツもしてませんし」
「そうなの?」
「だから、かいじゅうをみせものにしても、あんまりもうからなかったんですよ」
「そうなの……」
「さあさあっ」
 ごりごりごり。
 岩よりもはるかにカンタンにあながあきました。
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「ねえ、カソっ?」
 ドリルを回しながら、キトラはこえをかけます。
「なんです?」
「出ないねーー」
「お金はそんなにカンタンにかせげま、せ、んっよっ」
「そうだろうけっどっ!」
 がしゅっ。
 とたんに、手ごたえがかわりました。
「んっ!?」
「キトラ、なんか出ますよ!」
 ぶしゅうううううっ!!
 水がふきだしてきました。
「うわっ、つめたい!」
「温泉じゃないみたいですね」
 二人はびしょぬれです。
「あー、でも、ガスでわかしなおしたら? じめんから出てるのはいっしょだし」
「それじゃあ、ただのおふろといっしょです。温泉と言ったら、だますことになりますよ」
「ちぇっ」
 キトラたちは、またドリルでほりはじめます。
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
「えんやーーー」
「とっとおお」
 ぼふっ!
「ん?」
「あっ、これは」
 ぷしゅううううううううう。
「なんか、風みたいなものが出てくるような……」
「キトラ、あぶないっ!」
 ぼんっ!!
 あたりが、火でいっぱいになりました。火ネズミのせびろをきたカソがキトラの上におおいかぶさったおかげで、あまりあついことはありませんでしたが。
「な、なな、なんだ?」
「天然ガスですよ」
 しゅうしゅうふきだすガスは、まだもえています。
「なんでじめんの中に、こんなものが?」
 キトラはチリチリになった毛をはらいおとします。
「……いや、ガスはじめんの中から出るものですよ、キトラ」
 カソは、火ネズミのせびろのおかげで、なんともありません。
「えっ、じゃあ、ガスやさんは、じめんから出て来るようなものを、たかいねだんつけて売ってるの?」
「キトラだって、じめんから出て来るような温泉でひともうけたくらんでるじゃないですか」
「なるほど……って、いや、べつにたくらんだりしてないから!」
「しかしやっかいですね」
「え?」
「天然ガスが出てしまったってことは――」
 ぶしゅううううううっ、だくだくっ!!
 ドリルのあなから、まっくろい水みたいなものがふきだしてきました。
「うわあっ、きたないっ! なにこれ?」
 キトラのカオや体にくろいものがつきます。
「石油ですよ」
 いつの間にか、カソは石油のとんでこないずぅぅぅぅぅぅぅっととおくににげていました。
「え?」
 たしかに、ガソリンスタンドとにたようなにおいがします。
「石油がうまってるんじゃ、温泉はムリですね。出てもくさくて入れたもんじゃありません」
 カソがためいきをつきます。
「そうだね――って、カソ!」
「なんです?」
「石油だよ、石油! よくはしらないけど、石油って高く売れるんでしょ?」
 ガスのことはしらなかったくせに、キトラのちしきはかたよっています。
「いいえ?」
 ちょっとつかれたように、カソがこたえます。
「またまた、そんなひとりじめしようと思って」
「ほんとうに、売れないんですよ」
「だって、エネルギーのもとでしょ? 石油がないと、トイレットペーパーがなくなったり、トラックがはしらなくなったりして、タイヘンなんでしょ?」
「それは、キトラの世界のハナシでしょう?」
「へ? だって、どこだってエネルギーは」
「リュウミャクからとれたり、お日さまからもらったり、もちはこぶなら電鉱石でもいいですし。すくなくとも、石油はつかいませんよ」

 キトラは、かえらずの森の中の温泉につかっています。
「はたらいたあとの温泉は、きもちいいですね」
 となりで、カソもつかっています。
 石油でよごれた体も、さっぱりキレイになりました。
「そう、それだよ。お金で買えないかちがあるんだ。だからいいんだよ」
「買えるものもいっぱいありますけどね」
「もう、おわったことだから、どうでもいいでしょ!」
「まあ、たしかに、どうでもいいですけど。なにはともあれ」

 ふたりは温泉にかたまでつかって――。
「「ふぅぅぅぅぅ、いいゆだなぁ……」」

【おしまい】