キトラの冒険
作:ごんぱち
その34『タウラと凧あげ』

「にいちゃん、おそい!」
 妹のタウラが、ふりむいてどなります。
「そんなにあわてなくても、公園はにげやしないよ」
 キトラは凧をもってあるきます。
 おとしだまで買った、大きな白いさんかくで、はしっこに黒いもようのついてる凧。アニメのキャラクタの絵がついているのと、どっちにするかまよいましたが、こっちのほうがずっとよくあがるって、おもちゃ屋さんが言っていました。
「おそい、おそい!」
「……もう、うるさいなぁ」
 風のつよい日です。ひろげた凧は、風にとばされそうで、あるくのもたいへんなのです。
(でも、これなら、よくとぶぞ)
「おーそーいーーー」
 タウラがやって来て、キトラの手をひっぱります。
「こら、タウラっ、うわっっ!」
 タウラに手をひっぱられて、風に凧をひっぱられて、キトラはバランスをくずして――。
 ドシン!
 しりもちをついてしまいました。
「いたたたた、こら、タウラ!」
「にいちゃん、おそいのがわるい!」
「おそいのはしかたないの! そんなに言うなら、ひとりで行って、ひとりであげたらどうなのさ」
「やーーーだーーーー! にいちゃんといっしょ!」
「だったら、いっしょにあるかないとダメでしょ」
「おそいのもやだーー!」
 キトラは大きなためいきをつきます。
「やれやれ、タウラなんかつれてくるんじゃなかったよぉ……」

 キトラとタウラは、公園にたどりつきました。
「さあて、あげるぞー!」
「あげる、あげるー!」
 ほかにはだれも、凧あげをしているひとはいませんでした。これなら、公園がぜんぶつかえます。
「タウラ、凧をもって、そこに立ってて。あいずしたら、手をはなすんだよ」
「うん!」
 タウラは凧をりょう手でもって、さしあげます。
 キトラは糸をのばして、タウラからはなれて――。
「あの……タウラ、さん?」
「?」
「えーと」
 キトラははやあしになります。
 どんどんはやあしになって、さいごには走り出します。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁはぁはぁ……」
 キトラは、となりにいるタウラを見ます。
「タウラ、どーしてついてくるのさ!」
「?」
「だから、凧をもって立っててって言ったでしょーがっ! じっとしてるの、うごいちゃダメなの」
「うごいちゃダメ?」
「そう!」

 しきりなおしです。
 キトラはタウラを立たせて、糸をのばします。
 10メートルもはなれて、凧をあげるにはじゅうぶんです。
 キトラは走り出します。そして、糸がピンとはったタイミングで――。
「タウラ!」
 ピン!!
 ぐいっ!
 ドテッ!
 糸にひっぱられて、キトラはおもいっきりうつぶせにころんでしまいました。
「い、いた、いたたた……」
 ふりむくと、タウラは凧をしっかりもったまま、ピクリともせずに立っています。
「……タウラ」
「にいちゃん、いたくない?」
「いたいよっ!」
 キズはできていませんが、うったおなかがジンジンします。
「あいずをしたら手をはなしてって、言ったでしょ!」
「でもにいちゃん、うごいちゃダメっていった」
「言ったけども! タウラ、キミねぇ、言われたことをなにもかんがえずに、そのままやっているようじゃ、いつまでたっても人につかわれるだけだぞ」
「?」
「どういうイミかよくわかんないけど、ラグヤがそう言ってた」
「ラグヤなら、ホントウだね」
「うん――って、にいちゃんが言うのはウソだっての?」
「にいちゃんは、ちょっとホントウ」
「――凧あげ、つづけるよ」

 またまた、タウラが凧をもって立ちます。
 キトラは糸をのばしてはなれて、走り出します。
「いまだっ、タウラ!」
 タウラが凧から手をはなすと――。
 バササッ!
 風をうけて、凧が空にまいあがりました。
 キトラは、糸まきからどんどん糸をのばします。
「にいちゃん、あがった!」
 タウラがかけよって来ます。
「どうだ、すごいだろう、高いだろう!」
 キトラは糸がたるまないように、糸をのばしたり、ひいたりします。
 凧は青い空にのみこまれそうなほど、小さく見えます。
「にいちゃん! にいちゃん!」
 タウラが、キトラの手をつかみます。
「タウラももちたいの?」
「うん!」
「タウラひとりじゃムリだから、ほら、ここの糸をもちな」
 キトラは糸まきをしっかりもって、タウラに糸だけをつかませます。
 タウラは糸だけをつかんで、ひっぱっていましたが――。
「それももつ!」
 キトラの糸まきをとろうとしました。
「ダメだってば、タウラだけじゃささえられないの!」
「もーちーたーいー!!」
「ダメ」
「ケチ」
「ケチじゃないの」
 ぶつぶつ言いながら、タウラはまた糸だけをつかんで、うごかします。
 そのときです。
 ひゅうううううううう!
 つよい風が、よこにふきました。
 タウラのもっている糸が、ぐいっとよこにうごいて――。
 ドテッ!
 糸にタウラはたおされてしまいました。
「うわああああああああん!!」
 タウラはなきだします。
「わわ、糸だけでもころんじゃった。ゴメン、タウラ」
 キトラはいそいで凧をおろして、タウラをだきおこします。
「わあああああん!!」
 タウラはヒザをちょっとぶつけていましたが、キズはありませんでした。
「ほらほら、キズしてないキズしてない。いたくない、なおったなおった」
「いたいー!」
「いたいのいたいのとんでけ!」
「――にいちゃん」
「どう、いたくなくなった?」
「とんでいっちゃいたいのは、どうなるの?」
「ああ、それね。ラグヤがおしえてくれたんだけど、いたいのはものすごいスピードでとんでいくから、空気のまさつでもえつきちゃうんだって」
 キトラは下ろした凧の糸をまきなおします。
「もえつきる?」
「ながれ星みたいに、シュッて。だから、いたいのがとんで来ることはないんだって」
「そんなわけないね」
「うん。ぼくもそう思うけど、うまいこと言うでしょ」
「うん」
「さーて、凧あげなおそう」
 糸がまきおわりました。凧も、いそいでおろしたときに、はしっこが少しやぶれてしまいましたが、だいじょうぶ。こわれていません。
「イトもつー! ぜんぶもつー!」
「……ねえタウラ、さっきころんだのおぼえてる? ねえ?」

 キトラが糸まきをにぎって、タウラが糸をひっぱります。
 凧はどんどんあがっていきます。
「にいちゃん?」
「なに?」
「うちゅうまで、あがる?」
「それはムリだよ。夢の世界のうちゅうならともかく」
「なんだ」
「ガッカリすることでもないって。ほら、あんなに高くあがって、キレイだよ」
 キトラは糸をのばしていきます。
 どんどんあがってきます。
 どんどん。
 どんどん。
 どんどん。
「くもまでとどく?」
「どうだろ? そんなにはとばないんじゃないかなぁ」
「なんだ」
「いや、だからタウラ、凧あげのたのしみは、そういうとこではなくって――」
 どんどん。
 どんどん。
 ど。
「え?」
 キトラは糸まきをみます。
「あ」
 いつのまにか、糸がぜんぶくりだされていました。
 糸まきのシンと糸がくっついているだけで、もうよゆうがありません。凧のあがっていく力が、そのままキトラのうでにかかります。
「うわっ、わわっ!」
 キトラはりょう手で糸まきをひっぱって凧をおろそうとしますが、ビクともしません。
「タウラ、てつだって!」
「うん!」
 キトラとタウラは凧をおろそうと、糸をひっぱりました。
「ううううううん!」
「むうぅぅぅぅぅ!」
 いっしょうけんめいひっぱりましたが、おりません。
「むきーーーー!」
「ぎゅーーーー!」
 むりやりひっぱりましたが、やっぱりおりません。
「ぬぬぬぬ」
「ぶぶぶぶ」
 ぷつっ。
「あああああっ!」
 糸が、切れてしまいました。
「うわああああああああっ!!」
 キトラはおいかけます。
 でも、凧はどんどん、どんどんあがって、強い風にとばされてどんどん、どんどんたかくとおくへ。
「買ったばっかりだったのに……」
「にいちゃん?」
「カッコイイ、凧だったのに、ぐすっ」
「にいちゃん、あの――」
「う、う、うわあああああああん!」
 キトラはなきだしました。
「うわあああん、うわあああああん!!」
「にいちゃん、ないちゃおかしいよ。もう4がつからしょうがくせいになるんでしょ」
 あわててタウラがキトラをなだめます。
「タコ、くもにかくれたよ。くもまでとぶんだね」
「うわあああああん!」
 それはぎゃくこうかでした。
「にいちゃん、にいちゃんってば」
「わああああん!」
「もう……」
 タウラは大きなためいきをつきました。
「にいちゃんなんか、つれてくるんじゃなかったよ」

【おしまい】