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キトラの冒険
作:ごんぱち
その32『夜中の冒険』
まっくらな部屋の中でキトラは、またねがえりをうちます。
「ん……」
もう1かい。
「む……」
さらに1かい。
(……ねむれない)
キトラは目をあけます。
雨の音がきこえます。
(今日、そとであそべなかったからかなぁ……)
ぎゅっと目をとじますが、まったくねむくなりません。
(明日も、ようちえんがあるのに)
かた目をあけて、とけいをみます。
ふとんに入ってから、ちっとも時間がすぎていませんでした。
(ヒツジをかぞえるとねむれるっていうけど)
キトラはフッとわらいます。
(ラグヤが、あれはヒツジのシープとスリープのシャレだっておしえてくれたし……って、すなおにしんじてたらねむれるんじゃ……)
ねがえりをもう1つ。
(そうそう、アタマの中でゴルフをするといいって、なんかの本でよんだことがあるぞ)
キトラはアタマの中で、ゴルフをはじめます。
(ええと、たしか、お父さんはあのゴルフクラブをもって、こう、ふるんだよな)
ゴルフクラブをふるイメージをアタマにうかべます。
(それで、ボールをうつんだ……ええと、それから?)
キトラのアタマの中で、ボールがとんでいきます。
(それから、どうするんだろう?)
キトラは、ゴルフのルールなんてしりませんでした。
(おわっちゃった)
やっぱりねむくはありません。
「あーーー、もう!」
キトラは目をあけて、からだをおこしました。
キトラは足音をたてないように、かいだんをおります。
まっくらなリビングに入り、ドアをしめました。
「へへへ」
キトラはこえを出してわらいます。
「ねむくないなら、ねむくなるまでおきてればいいだけだもんね」
ポジティブです。
でんとうのスイッチを入れます。
リビングが、まぶしいぐらい明るくなります。
でも、あんまり明るいと、お父さんやお母さんに気づかれて、ふとんにもどされるかもしれません。ねむくないときに入るふとんは、ろうやとかわりません。
キトラはイスにのぼって、でんとうのヒモをつかみます。
パチ、パチ。
これで、ちっちゃなでんきゅうだけになりました。
キトラはソファにすわります。
だれもいないリビングはとてもひろく見えます。
「こうやって、ひとりですわってると、なんだか大人になったみたいだなぁ」
キトラはリモコンでテレビをつけます。
と。
とつぜん、ものすごい音がしました。
「うわっ!」
あわてて音を小さくします。
「――夜中って、音が大きく聞こえるんだなぁ」
キトラはチャンネルをかえます。
お父さんやお母さんや妹のタウラとみているときは、あんまりいろいろかえてはいけませんが、今はキトラだけ。
思うぞんぶんチャンネルをかえます。
夜中のばんぐみはいろいろで、えいがをやってたり、げいにんがくるしんでいたり、シロウトがいじめられていたり、キトラのぜんぜんしらないアニメをやっていたりします。
「こんなじかんも、テレビってやってるんだなぁ」
キトラには、テレビばんぐみのなかみは、よくわかりませんでしたが、なんだかこうやってチャンネルをかえていることがたのしく思えていました。
少しのあいだテレビをながめていたキトラは、ふと立ち上がります。
「なんか、おなか空いたなぁ」
だいどころに、キトラは入ります。
じぶんでたべたいものをえらんでたべられるなんて、大人になったみたいです。
「――あった」
だいどころのたなには、ふくろに入ったおかしや、カンヅメ、バナナやミカン、ナシもあります。
「ほうちょうがつかえれば、ナシがたべられるんだけどなぁ」
ミカンをとります。
「いや、歯をみがいたあとだから、ミカンはへんなあじがしてイヤだな」
ミカンをもどします。
「まてよ、歯をみがいたんだから、きっとなにをたべてもおいしくないにちがいないや」
キトラはなんどもうなずきます。
「そうだそうだ。これはしかたがない。ホントウはたべることもできるけど、あえてたべるのはやめておこう」
キトラはたべものを、あったばしょへもどしました。
「うん、こういうことをじぶんできめられるのも、大人ってもんだよね。べつに、あとでバレておこられるのがこわいからじゃないよ、うん」
だれに、いいわけしてるんでしょう。
「水をのむだけにしよう」
キトラはコップをとります。それに水をくんで、れいぞうこのれいとうしつから、こおりを1こ。
水の入ったコップをもって、キトラはまたテレビのまえにすわります。
コップの中で、こおりが小さい「シュウシュウ……」というおとをたてて、とけます。
「なんだか、おさけみたいだなぁ」
キトラはコップをすかして、テレビをみます。
うすぐらいリビングの中で、テレビはまぶしいぐらいあかるくて、コップとこおりはキラキラとひかります。
「キレイだなぁ」
しばらくながめてから、キトラは水をのみました。
「えへへ、つめたくておいしいや」
水をのみおえたキトラは、カラになったコップをしずかにあらいます。
それから、しっかりふいて、もとにもどします。
テレビはあいかわらず、よくわからないばんぐみをやっています。
「だれかとはなしができないのは、ちょっとつまらないなぁ」
テレビのむこうのひとは、にぎやかにしゃべっています。
「そうだ」
キトラは、デンワだいのそばに、ふみだいをもってきます。それから、デンワのじゅわきをとりました。
「あー、もしもし、ゲンさん? ぼく、キトラだけど。げんきー? そう、げんきなんだ。ゲンさんがげんきじゃなかったら、なまえだおれだもんねー。なに? ちがう? そのゲンじゃない? あはは、じょうだんだよ、なんかしらないけどカメのなまえなんでしょ? うんうん、じゃあまたねー」
キトラはじゅわきをおきます。
「あははは、ホントウにでんわしてるみたいだ」
もう1ど、じゅわきをとります。
「はぁい、ラグヤ? いくらなんでも今日はやりすぎだったと思うよ? となりのクラス、ずっとなきごえがきこえてたじゃない? まあ、もとはと言えば、ラグヤをつきとばしたひとがわるいんだけどさ、あれはウソだってしっててもこわいよ。ゆめに出るよ。いや、そりゃ、ちょっとスッキリはしたけどさ」
じゅわきをおきます。
「ふふ、なんだかおもしろいや」
――キトラは、ひとりであそぶのが、かなりじょうずでした。
「サリス? このまえの虫しょうぶさ、アレ、たぶんぼくのかちだよ。あんなにでっかい虫、ぜったいサリスなんかにゃつかまえられないよ。へへへーん。でさでさ、こんどは玉のりでしょうぶしようよ。ぼくなんか、もう2ビョウのってられるから、サリスなんかにまけないよっ!」
こんどはどこでしょう?
「あー、ノクタ? あれ、まちがえた? ネコのくに? ああそうか、このまえのケガのてあてをしたネコのネコロマンサーさんだね。たのむよ、ハンカチきちんとかえしてくれないと。そりゃあ、キミのつかえるネコの王さま、チンギス・ニャーンが、あんこくだいじゃしんニャルラトホテプのいけにえにされそうだったのはしかたないけど、かりたものはきちんとかえせって、えらい人も言ってるでしょ? なに? えらい人はかえさない? それはウソのえらい人だよ――ふぁあああ」
キトラは一つあくびをします。
「あー、なんか、ちょっとねむくなってきたなぁ」
クビをブルブルとよこにふります。
「いやいや、ねむくないねむくないっ!」
キトラはじぶんの足をつねります。
「イタタタタ……ふぁふぁふぁふぁ、ねむ、イタタ、ねむくないタタタ……ふぁあああああ」
おおあくびです。
でもキトラはがんばります。
「いや、ここはコンジョウだ、コンジョウ! きちんとおきて――おきて……って、あれ?」
キトラは、リビングの明かりをけして、じぶんのへやにもどって、ふとんに入ります。
(ねるんだよ、ねむろうとしてたんじゃないか)
目をとじます。
(――まったく、ノリツッコミなんてしてるばあいじゃない。ねむくなるまでってことなんだから、ねむくなったらねればいいんだよ)
ねがえりを1つ。
「……ん」
(そうそう、さっさか、ねよう)
もう1つねがえり。
(ねむいときは、ねるのが1ばん)
目をぎゅっととじます。
(だいたい、明日もようちえんあるんだし、しっかりねないと、おひるねまえに、ねむくなっちゃう)
でも、どんなに目をとじていても、今日にかぎってちっともねむくなりません。
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