キトラの冒険
作:ごんぱち
その29『かじやのフツヌシ』

「うー、きもちわるいだ……」
 呪いの剣(いまは、ほうちょう)のリンガが、まないたの上でうなっています。
「だいじょうぶ、リンガ?」
 キトラは、しんぱいそうにリンガをさすります。
「ぐあいのわるそうなほうちょうなんて、はじめてみましたよ」
 カソは少しあきれがおです。
「わるいね、せっかく来てくれたのに」
 けいむしょしょちょうのビャッコのヤッコさんも、とってもしんぱいそうなかおです。
「げんいんはなんなの?」
「たぶん、これだね」
 ヤッコさんは、まだやいていないヤキトリをれいぞうこから出します。
「ヤキトリが?」
「やいてないから、トリですよキトラ」
「カソ、そーゆームダなツッコミはどうかと思うよ」
「めずらしくオンモラキが手に入ったんで、リンガで切ったんだけど、どうやらわるいタマシイをとりこんじゃったみたいでね」
「そんなにわるいタマシイなの?」
「まあ、ヨウカイなんだけど、くさってるんだよねタマシイが。あ、ニクはおいしいよ」
「つまり……」
 キトラはまないたの上で、カタカタうごくリンガを見つめます。
「しょくあたり、ってことだね」

「ほうちょうのしょくあたりかぁ」
 キトラとカソは、けいむしょからかえります。
「なんか、いい手はないかな、カソ?」
 かえりみちは、草原の中。草をしゃらしゃらとならしながら、きもちのいい風がふきますが、キトラとカソのカオはくらいままです。
「そうですね、しっていたら、そのじょうほうを高く売るところですが」
「売らないでよ!」
「まあ、あいにくとしりません。あ、そうだ」
 カソは、こめかみにゆびをあてます。
「あ、いや、それはダメかな?」
「なに? じらしたってお金出さないよ」
「ホントウに思い出せなかったんですよ。まったく、キトラ、キミはわたしをなんだと思ってるんです」
「金にきたない火ネズミ」
「……そう言っちゃ、ミもフタもない」
「で、どうなの、カソ?」
「ええ、どこだかに、どんないきものの、どんな呪いもびょうきもケガもなおすやくそうがあるとか」
「で?」
「それは、白い花らしい、と」
「うん、白い花。それで」
「それだけです」
 キトラはだまって草原を見わたします。
 草原の緑の中に、赤、青、黄、紫、桃、そして白。いろんな花がぽつぽつさいています。
 白い花だけでも、どれだけあるか分かりません。まさか、それがみんなクスリになるわけもありませんし。
「もっとこまかいことがわかってたら、きちんとお金とりますって」
「そんないばられても困るけどさ」
 キトラはためいきをつきます。
「呪いの剣には、おいしゃさんなんていないだろうしなぁ」
「そりゃそうですよねぇ」
 カソもためいきをつきます。カソはカソなりに、リンガのことをしんぱいしているみたいです。
「このまえ、宝さがしのときのおれい、これをなおせばチャラにできるんですけどねぇ」
「……ひとでなし」
「火ネズミですから」
「わりとさいきん、にたようなネタをやった気がするんだけど」
「かこをふりかえっていては、ロクなおとなになれませんよ」
「そういうハナシなのかなぁ……あっ、そうだ!」
「なんです?」
「剣のおいしゃさんなんだから、ぎしって、ちかくない?」

 キトラとカソは、ペンギンのきかいぎし、ケームのしごとばにやってきました。
「呪いの剣のリンガさんですか!?」
 ケームはびっくりして、メガネがずりおちそうになりました。
「ケームならなおせないかって、思ったんだけど」
 しごとばのなかには、いろんなきかいのぶひんや、どうぐがころがっています。つくりたてのほうちょうやスコップもならんでいます。
「あわわわ、ムリです、それはムリです」
「でも、ケームのうでだったら」
「わたしは、しゅぎょうちゅうですから、そんなフツヌシさまの作品に手を出すなんてできません」
「へ? フツヌシ?」
「しりませんでしたか? リンガさんって言えば、フツヌシさまの――」

「シッパイ作だぜ」
 フツヌシは、ヘッドフォンステレオでおんがくをききながら、やけたテツをリズミカルにハンマーでたたいています。
 たたくたびに、火花がとびちって、キトラのからだの毛がチリチリになりそうです。
「……あついね、カソ」
「そうですか?」
 火ネズミのせびろをきたカソは、すずしいカオです。
「……ホントウに、あのときもらっとけばよかったよ、そのせびろ。こんなにひつようなことがおおいなんて、思わなかった」
「コウカイ先に立たずですよ、あははは」
「ハナシはそれだけかい。だったら、とっととかえってくんな」
 フツヌシはトンカトンカハンマーをうごかします。きがつくと、テツのかたまりだったものが、キレイなキレイなスプーンになっています。
「リンガがシッパイってどこがさ? すごいじゃない、せかいを切れるなんて」
「フツウなら、100人も切ればそれぐらいになるんだよ。こうりつがわるいったら」
「だからって」
「しかも、オンモラキでしょくあたりだぁ? まっとうな呪いの剣なら、とりいれたタマシイをきちんとかみくだいて、じぶんのものにするんだ! ったく、あんなものホントウなら、たたきおるところだが、おってもなおる呪いの剣だったせいでそれもできねえで、フウインしておいたのに」
「フウイン?」
「ああ。しょうにゅうどうにバッチリ。アレをやぶれるなんて、セイリュウたち四神か、テンテイぐらいのもんだ」
「あ……そ、どうりで」
「わかったらかえんな。リンガのびょうきなんて、しったことか! そのまま、きえたら大よろこびだ」
 フツヌシは、こんどは大きなテツのかたまりをたたいています。なんだか、エンジンみたいなものを作っていました。
「おねがいします、おねがいしますから」
 キトラはあたまを下げます。
「し・る・か! あんなできそこないが、オレのさくひんだってしられて、どれだけしょくにんとしてのなまえがおちたか、わかってんのか?」
「そこをなんとか」
 キトラはそのばにすわって、あたまを下げました。
 ホントウに、リンガがしんぱいでしかたがなかったのです。
「おねがいします!!」
「……あああー、もううるせえな、しごとのジャマだ!」
「おねがいしますから!」
「なおしたきゃ、ジブンでなおせ!」
 フツヌシは、まどの外に見える山をゆびさしました。
「1000年山の1000年ガケの下に、ナルシスってぇ白い花がさいてる。アレをくうなりぬるなりすれば、なんだってなおるぜ」
「ホントに!?」
「ホントウだからさっさと出て行け」
「そうそう、そういうハナシでしたよ、キトラ。ナルシスです、ナルシス。おもい出せてよかった」
「……いや、それはなんか、思い出したってカンジじゃないんだけど」

「ふわー、長い」
 キトラはロープウェイのまどから、ロープを見上げます。
 ロープウェイのロープは、山をまっすぐのぼって、てっぺんは雲の中にかくれて見えません。
 キトラもロープウェイにのるのははじめてではありませんが、こんなに長いロープウェイははじめてです。
「まさか1000年山にロープウェイがあるなんて」
「キトラ、このせかいをどんなイナカだと思ってるんですか」
 ロープはずいぶん高いところにはられていて、空をとんでいるみたいです。
「さて」
 カソはバッグから竹の皮のつつみをとりだします。
 ひろげると、中にはおにぎりが3つ、入っていました。
「おべんとうなんかもって来たの?」
「キトラはもって来なかったんですか?」
「べつにおなか空いたら、どっかでかおうと思ってたんだけど」
「このロープウェイは、てっぺんまであとはん日はかかります」
「そんなに!?」
 あとはん日、なにものまないで、たべないですごすかと思うと、キトラはきゅうにおなかがすいてきました。
「……あの、さ、カソ?」
「ふぁひ?」
 1つ目のおにぎりを、カソはむしゃむしゃたべます。
「その……」
「ふぁあ?」
 2つ目。
「はやい、はやいよカソ! おにぎり、わけてくれない?」
 カソは心からうれしそうに、にまあっとわらいました。
「たかいですよ」
「……むぅ」
「いらないんでしたら、わたしが」
「わ、わかった、買――」
 そのとき、ロープウェイのアナウンスがきこえてきました。
『これより、きゅうけいじょにとまります。これより、きゅうけいじょにとまります。おてあらい、おしょくじなどは、こちらでおすませください。なお、きゅうけいじょは、このあと1じかんごとにあります』
 ロープウェイは、てっとうの上にあるえきにとまります。
 えきには、ちょっとしたしょくどうや、おみやげやさんがありました。
「おしい、もう少しだったのに」
「カソ!」
「てっぺんまでははん日かかりますけど、きゅうけいじょがないとは言ってないですよ」
「……どうもぼくのともだちというのは、こういうタイプが多い気がしてきたよ」
「るいはともをよぶ、ですよ。気にしない気にしない」
「そんなこと言われたら、よけいに気になるよ!」

 さんさいの天ぷらに、さかなのしおやきに、キノコごはん。
 きゅうけいじょのしょくどうは、オープンになっていて、見はらしがいいし、風がとってもきもちいいです。
「ちょっとにがいなぁ」
 キトラは天ぷらをたべます。
「こんなにしんせんなさんさい、ほかではそうそうたべられませんよ」
 カソはうれしそうに天ぷらをたべています。
「カソ、さっきおにぎりたべてなかった?」
「ああ、あれはうまくやったら、キトラからお金をまきあげられるんじゃないかと思ってもって来ただけですから、あんまりおなかにたまらないんです」
 となりのテーブルを、ヘビのてんいんさんがかたづけています。
「……カソ、そういうことやってると、ホントウにともだちなくすよ?」
「わたしがわたしのいいと思うようにして、それでともだちがいなくなるなら、しかたがないじゃないですか?」
「……もう」
 ちょっとあきれたようにわらって、キトラはキノコごはんをたべました。
「あ、これはおいしい」
「さかなもおいしいですよ」
「ホネがとりにくくってさぁ」
「このさかなは、まだ小さいからあたまもホネもたべられますよ」
 カソはさかなをあたまからパリパリたべています。
「えっ、ホントウ?」
 キトラもさかなをかじります。
 なんだかかたいものが口の中にのこりますが、まあかみくだけないことはありません。
 それに、いつもかんじるなまぐささがなくって、とってもいいかおりがします。
「……思ったよりおいしいんだね」
「そうでしょう」
 キトラたちはごはんをたべます。
 まわりはちかくに山、とおくにふもとの町がみえて、手のとどきそうなところに空と雲がみえます。たまに、すずしい風がふき、その風にのるように、小さなトリやリュウ、ドウシなんかがとんでいきます。
「いいとこだねー」
「そうですね」
 ふたりはおちゃをのみました。
「さて、ごはんもすんだし、かえりましょうか」
「うん、そろそろ――って、ちがうでしょ! 花でしょ、花! ナルシス!」

「あー、さすがに長いなぁ」
 キトラはロープウェイのイスに、だらりとこしかけます。
「ホントウですねぇ」
 カソは本をよみながら、手をうごかしています。
「……さっきから、なにやってるの、カソ?」
「こんど、おんせんやどでバイトをするので、マッサージのべんきょうですよ」
「そういうふうに、いつもじゅんびしてるの?」
「そうですよ――あ、ほら!」
 カソがまどのそとをゆびさします。
 ようやく、てっぺんが見えてきました。
 トンネルみたいなロープウェイのえきが、どんどんせまってきます。じめんも、どんどんちかくなってきます。
『しゅうてん、しゅうてん、1000年山てっぺん、1000年ガケ入口でーす。おわすれものないように、おおりください』
 アナウンスがおわったころ、ロープウェイはしゅうてんにとうちゃくしました。
「やー、ついたついた」
 キトラはかいだんみたいになっている、ホームにおります。
「かえりを思うと、ちょっとうんざりしますけどね」
「……イヤなこと言わないでよ」

「うわ」
 キトラはまっすぐにきりたったガケをのぞきこみます。
 たかくてたかくてたかくてたかくてたかくてたかくてたかくてたかくてたかくて、もうたかいんだかひくいんだかわかりません。
 そもそもとちゅうが雲になっているので、さっぱりです。
「こんなにたかいとは、思わなかったよ」
 ガケのサクをぎゅっとにぎりしめます。
「ホントウに、じっさいに見るとすごいですね」
 カソも、ヒゲが少しふるえていました。
「ナルシスっていう花は、この下なんだよね? これをおりるなんて、たいへんそうだなぁ」
「なにしろ1000年ガケですからね。これって、山のまんなかをアスラ王にふみぬかれてカンボツしたものらしいですよ」
 のぞきこんでいると、なんだか下から風がふき上がってきます。
「コースが2つあるんですけど、どっちにしましょうか?」
「……やっぱりそういうことになるんだよね」
「なんですか、そんないじられゲイニンみたいなひらきなおりは」
「だって、どうせ1つは1000年かかるけど、もう1つは――」

「5分でつきますよ」
「やっぱりだ! やっぱりこういうことだ! ひねりもなにもありゃしない!」
 キトラとカソは、ベストを――ゴムのついたベストをきて、ガケのまえに立ちます。
「ガケがあるからとびおりるなんて、そんなのタンジュンすぎるよ! いまどきバンジーなんかでしちょうりつとれないよ! きいてないよ、うったえてやる!」
「さかさま星をはっけんした男が、なに言ってるんです。さあ、ちゃっちゃとおりましょう」
「ガケが見えるぶん、あのときよりこわいんだってば――うわっ!」
 カソにひきずられるようにして、ゴムをいのちづなにしたキトラは、ガケ下にまっさかさまにおちていきました。

「うわああああああああああああああああっ!」
 キトラはおちます。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 カソもおちます。
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 と、じめんが見えて来ました。
「あっ、いがいとひくい」
「言ったでしょう、さかさま星ほどじゃないって」
 でも。
 じめんがちかづいたところで、のびていたゴムがちぢみます!
 びよよよよよよよよよよよよん!
 キトラとカソは、いっきに上にあがります。
「うひゃああああああああああああああ!」
「うぉぅうぉうぉうぉうををををををををを!」
 おりて――。
「ひひいぃっぃいぃぃぃぃぃ!」
「むぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!」
 上がって――。
「にぎゃあああああああ」
「おわわわわわわわわ」
 おりて――。
「うりぃぃぃっぃぃ!」
「きしゃぁぁぁぁぁ!」
 上がって――。
「ぎゃふんん……」
「はんぎゃゃ……」
 かぞえきれないほど、のぼったりおりたりしたあとに、ようやくゴムは止まりました。

「あー、からだの中、ぐちゃぐちゃにされたみたい」
 『←ガケ下』というたてふだのある道を、キトラとカソはあるきます。
「まあ、これほどのやくそうですから、多少のくろうはしないといけないってことですよ」
「くろうなんて、わざわざしたくないよ」
「わかいころのくろうは、買ってでもしろっていいますよ?」
「めんどうなことを、よろこんでやってたら、せかいはなんにもよくならないじゃない」
「まあ、そりゃそうですね」
 カソはガケを見上げます。
 ガケはキトラたちをぐるりとかこむかたちできりたっていて、空がずぅっと上のほうにみえます。
「そうだキトラ、あのお金でここに下りのロープウェイかフリーフォールつくったらどうですか?」
「イヤだよ、なんかいも来る気ないし、お金とるにしてもおきゃくさん少なくてもうかりそうにないし」
「それもそうですね、ううむ」
 ふたりがあるいていると、むかいがわからりっぱなヨロイと剣をみにつけた、ふるきずだらけの人が3人、やってきました。
「あ、こんにちは」
 キトラはあいさつします。
「こんにちは」
 カソもあいさつします。
 山のぼりでは、すれちがうひととあいさつをするのがルールというものです。
 でも、その人たちはあいさつをかえさずに、いそいそとさかをのぼっていきました。
「しつれいな人だなぁ」
「ことばがわからなかったんじゃないですか? あれは、たぶんほかのせかいの人ですよ」
「えっ、そんな人がいるの!?」
「……キトラ、じぶんのたちば、わかってますか?」

 キトラたちはようやくガケの下につきました。
 けれど……。
「ない、ないないない! どこにもない!!」
「ナルシスらしきものは、ありませんねぇ」
 白い花はおろか、草もありません。
 いくつもの足あとと、ほりかえされた土ばかり。
「これじゃ、リンガがなおせないよ!」
「だれかがもっていってしまったみたいですね」
「だれかって……あっ、さっきの!」
 キトラははしりだします。
「おいかけよう!」
「いいですけど……」
 キトラとカソは、さかみちをかけのぼります。
 しばらくはしると、さっきのヨロイの人たちが見えて来ました。
「ちょっと、ねえ、そこの人たち!」
 キトラはどなると、1ばんうしろの人がふりかえって――。
「モンスターか!」
 剣をぬきました。
「うわっ、わっ、わっ、ストップストップ!」
 キトラとカソは、きゅうブレーキでとまります。
「――む、なんだ、村人のじゅうじんか」
 1ばんうしろの人は、剣をおさめました。
「……村人?」
「なんのようだ? われわれはいそいでいるんだが」
 その人は、からだがおおきくて、なんだかテツみたいなにおいがしみついています。
「さっき、白い花をとったでしょう? それ、わけてくれない?」
「お金ならいくらでもだしますよ、キトラが」
「――カソはぜんぜん出す気ないわけ?」
「わたしのじしょに、たくわえというもじはありません!」
 3人は、キトラとカソをにらみながら、剣をぬきます。
「……金のもんだいではない」
「ナルキッソスはだいじなやくそうだ、やるわけにはいかない」
「われわれのせかいをささえるかみさま、アツァトホをめざめさせるために、このせかいにきたのだ。力づくでというのなら、このいのちなくなるまで――」
「い、いい、いらない、いらないから!」
「たたかわないのか?」
 ふしぎそうなカオをして、3人は剣をしまいます。
「たたかわないから、さよなら、さよなら、さよなら!」
「うむ、はなしあいでかたづいてよかった」
 3人はさかをのぼって行ってしまいました。
「……ああ、こわかった」
「アレのどこが、はなしあいなんですかね?」

 キトラとカソは、フツヌシのところへもどって来ました。
「ナルシスがなかったか。まあアレだけのやくそうだしな」
 こんどは、ハンマー1つでじどうしゃをつくっています。
「ほかの人がもっていくなんて、インチキだよ!」
「ウソは言ってねえだろ」
 しゃべりながら、フツヌシの手はぜんぜんみだれません。せいかくはともかく、ペンギンのケームよりも10000ばいも、うでがいいことはたしかでした。
「ほかに手はないの?」
「しらんね。このまえも言ったとおり、しょくにんは、しっぱいさくなんて、けしさりたいんだよ!」
「ぼくがなおすし、リンガがフツヌシさんのさくひんだって言わないから、なんかほかに手がさぁ!」
「ねえよ! そんなつごうのいいクスリが、2つも3つもあるわけねえだろう」
「おねがいだよ、なおしてよ、こうなったらフツヌシさんしかいないんだよ!」
 キトラはあたまを下げます。
 なんどもなんども下げます。
 でも、フツヌシはそんなことは気にもとめずに、しごとをつづけています。
 リンガとはじめてあってから、ほうちょうの生きかたをおしえて、せかいを切れるようになって、きょうりゅうのせかいとつないでしまって、それからたからさがしのときにはけっかいを切ってくれた。
 呪いの剣ですけど、キトラにとってはだいじなともだちです。
 そのともだちがくるしんでいるのです。
「おねがいだよぉ、リンガが、リンガが!」
 なみだがこぼれます。
「――フツヌシさん」
 と、そのとき、こうぼうのかたすみの本をもって、カソが言いました。
「このりょうきんひょうの、しゅっちょうしゅうりって、呪いの剣もやってくれるんですか?」
「ああ、やるよ。わりだかになるけどな」
「じゃあ、おしごとたのみます。リンガって剣をなおして下さい。しはらいは、キトラがやりますから」
「はいよ。3日ごになるけど、いいかい」
「ええ、けっこうですよ」
「……ち、ちょっと、フツヌシさん!」
 そのやりとりとポカンと見ていたキトラは、ようやくこえを出しました。
「なんだ?」
「どうしてカソの言うことはきくのさ?」
「お前は『リンガをたすけてくれ』ばかりで、『しごとをたのむ』なんて、一言も言わなかったじゃないか」
 キトラはパクパクと口をうごかします。
「ちゃんとしたしごとなら、オレはなんだってひきうけるぞ。なんたって、しょくにんだからな」

「おおおっ、スッキリしただ!」
 リンガはぴょんぴょんはねまわります。
「あぶない、あぶ、リンガあぶない!」
 キトラとカソとフツヌシは、とびまわるリンガからかくれます。
「っと、すまねえだ。それから、フツヌシさま、いちおうおれいは言っておくだ」
「フン、しごとでなければ、だれがなおすか」
 リンガとフツヌシはにらみあいます。
「じゃ、しはらいはしていのこうざにふりこんでくれ」
 フツヌシは、せいきゅうしょをキトラにわたします。
「……えっ、やすい?」
「きていどおりだ。ほかにしごとがあったら、またりようしてくれ」
 フツヌシは、つい、と出て行きます。
「もうセワにはならねえだ!」
 リンガはガタガタいいながら、ほうちょう立てにもどりました。

 キトラとカソは、けいむしょをはなれました。
「やっぱりあのふたり、なかわるいんだ……」
「そりゃそうでしょう。まあ、ムリになかよくすることもないと思いますし」
「ぼくも、フツヌシはすきになれないなぁ。たしかにうではいいけどさ、すごく」
「わたしは、スジがとおってて、すきですよ」
「そんなもんかな?」
「そんなもんです」
「これからどうしよっか、なんかぼく、まだ目がさめないみたいなんだけど」
「それなら、おんせんやどにでも来ますか? わたしはしごとですけどね」
「いいね。やすみじかんに、ピンポンやろう」
「ほほぅ、わたしにちょうせんするとは、いいどきょうですね――」
 キトラとカソは、のんびりとあるいて行きました。

【おしまい】