キトラの冒険
作:ごんぱち
その28『父の日』

 いつものお昼休み、雨がふったのでキトラたちはへやのなかであそんでいます。
「――しまった! きのう、父の日だったっけ!?」
 大きなこえで、キトラはラグヤにききかえします。
「……うん。6月の3ばん目の日ようびは、父の日だね」
 ポケットからてちょうをとりだして、ラグヤがカレンダーを見せました。
「なんだキトラ、ジニアスせんせいも、ずぅっと言ってたじゃないか、わすれてたのか?」
 サリスがニヤニヤわらいます。
「そうだそうだ……わすれたのか?」
 ノクタは、ふしぎそうなかおをしています。
「え、えーとさ、だって、ほら、日ようびは、ちょっとおそくおきて、朝ごはんたべて、朝のアニメみて、お昼ごはんたべて、ひみつきちであそんで、サザエさんみて、ばんごはんたべて、おふろにはいって、ちょっとあそんでねたんだよ。いそがしかったんだよ」
「……そこまで、きいてない」
「だいたい、みんなだってひみつきちに来てたのに、よくわすれてなかったね?」
「がははは、キトラとはちがって、オレはしっかりしてるからな。あさのうちに、プレゼントをしたぞ」
 サリスは、なんだかじまんげです。
「そうだそうだ、ちがうぞ。ノクタはまえの日の夜に、まくらもとにプレゼントをおいたぞ」
 ノクタもノクタで、ちょっとうれしそう。
「ノクタ、それはクリスマスじゃ……」
「……キトラ、そういうツッコミは、きちんと父の日のおくりものをしたひとが言うもの。ちなみにボクは、ばんごはんのあとにすませた」
「いじわるだ、キミらはいじわるだ!」
「へへへーん、キトラがわるいんだろ?」
「そうだそうだ、キトラがわるいぞ」
「……あるていどのイジワルさは、人生のスパイスだよ、キトラ」

「こまったなぁ」
 家にかえったキトラは、じぶんのへやでゲンさんのぬいぐるみの上にすわってかんがえます。
 ――ゲンさんにはわるいですが、大きなカメのぬいぐるみは、すわったり、ふみだいにしたり、マクラにしたりするのにちょうどいいのです。
「ゲンさん、どうしよっか?」
 こっちのせかいのゲンさんは、しゃべりません。
「父の日をわすれるなんて」
 ためいきをつきます。
「母の日はおぼえてたのに」
 それがよけいマズいです。
 トントン。
 そのとき、ドアがノックされました。
「ひゃあああっ!」
 かんがえごとをしていたキトラは、すわったまま20センチぐらいとびあがります。
「キトラ、ばんごはんのじゅんびするから、タウラ見てて」
 お母さんのアスタさんが、タウラをキトラのへやにいれてます。
「あ、はーい」
「にぃーーーー」
 おもちゃのハンマーをもったタウラが、ハイハイしてきます。
「うーん」
「にーーーーーー!」
「わかったよ、はいはい」
 キトラとタウラは、キトラのぬいぐるみであそびはじめます。
「タウラ、このまえはかいじゅうがすごかったんだぞ」
「に?」
「こうやって、どしーーーん、どしーーーーーんってな」
 ゾウのぬいぐるみで、せつめいします。
「んん!」
「でも、お兄ちゃんはつよいから、おっぱらったのさ! ホントだぞ」
「かーー?」
「カソがまた、すごかった。たしかに、すごかった。あいつはね、お金のことになると、ほんとうに力がでるんだ」
 タウラはうれしそうにキトラのはなしをききます。
「ねーーー」
「ああ、ネコの国のはなし? あれは、ラグヤと今、こまかいはなしを――ああそうだ、タウラ」
「?」
「父の日、キミもなんにもしなかったろ?」
「ち?」
「おとうさんの日だよ」
 タウラはくびをかしげます。
 タウラに父の日のことを言っても、まだわからないみたいです。
 はなしがわからなくなったせいか、タウラはへやの中をハイハイしはじめます。そして、キトラのつくえをつたって、立ち上がります。
「……そうか」
 キトラは、母の日のようすをおもいだします。
「たしか、母の日にタウラがはじめてつかまりだちできて、お母さんが『さいこうのプレゼントだわ』って言って、お父さんも『はんぶんこして、父の日のプレゼントにもしてよ』って……」
 キトラはりょう手であたまをかかえます。
「だああああっ! 父の日になんにもしなかったの、やっぱりぼくだけじゃないか!」

 つぎのひ、キトラとラグヤとサリスとノクタは、ひみつきちにあつまっていました。
「……それで、けっきょく、きのうもなにもしなかったんだね」
 すわるところがやぶれたソファーにこしかけたラグヤがいいます。
「なんだ、そうなのか? しょうがないな」
 サリスはゆかにあぐらをかいています。
「そうだそうだ、キトラはしょうがないな」
 ノクタは、なおしたイスにすわっています。
「そ、それは、そうだけど、お父さんのかえりがおそかったんだよ」
 あわててキトラはいいわけします。
「……なんじにねたんだい?」
「え? えーと、その、8じ」
「……フフフ。ずいぶんはやくねるんだね」
「そ、そうだよ。はやくねたほうがいいでしょ」
「……そうだね、フフ。お父さんが帰ってくるよりもはやくねたほうが、いいよね」
「うー」
 キトラはうなだれます。
「だって、父の日のプレゼントって、おもいつかないんだもん……」
「がははは、ばかだなキトラ、かたたたきでいいんだ、かたたたきで。うちの父さんは、それでよろこんだぞ」
「かたたたき……」
 キトラのあたまに、まえのできごとがおもいうかびます。
「ぼくのお母さんもお父さんも、かたがこることあんまりないんだよ」
「……そもそも、そういうのは父の日だからこうかがあるんだしね」
「そうか。ノクタはどうしたんだ?」
 サリスがノクタにたずねます。
「ノクタは、しっぽうのネクタイピンをつくったぞ」
「ネクタイピン!?」
「ネクタイピン……」
「ガラスはともかくテツをけずるのが、たいへんだったぞ。1ヶ月かかったぞ」
「……そういう、ひじょうしきなのはおいといて」
「ノクタ、ひじょうしきか?」
 ノクタはふしぎそうなかおをします。
「すまんノクタ。おれもそれはラグヤとおんなじいけんだ」
「で、ラグヤは?」
「……このまえようちえんでかいた、お父さんのカオの絵」
「あれ? たしかあれって、父の日のちょっとまえに、もってかえったんじゃあ?」
「……父の日まで、かくしておいて、うしろにてがみをかいてわたした」
「それは父さんよろこびそうだな」
「そうだそうだ、よろこびそうだ」
「うーん」
 キトラはあたまをかかえます。
「どれも、マネできないなぁ」
「……キトラ」
 ラグヤが、キトラのかたをポンとたたきます。
「……マネをすることはない。なにがプレゼントかなんて、大したもんだいじゃない。キトラのきもちがこもっていれば、いいんだ」
「キトラ、ラグヤの言うとおりだぞ」
「そうだそうだ、言うとおりだ」
「みんな……」
 キトラはラグヤとサリスとノクタをみます。
「つまり、じぶんでかんがえろ、ってこと?」
 みんな、大きくうなずきました。

 キトラはいえにもどります。
「――ただいまー」
「おかえりなさい、キトラ。おふろわいてるから、ごはんのまえに入りなさい」
 だいどころで、ごはんのしたくをしながら、お母さんが言います。
「はぁい」
 キトラは、おふろばのとなりのせんめんじょでふくをぬいで、おふろにはいります。
(こまったなぁ、なんにもおもいうかばない)
「キトラ、入るよ」
 と、ドアがあいて、お父さんのナラキさんがはいって来ました。
「あわっ! お、おお父さん」
 キトラはとびあがります。
「びっくりさせたかい? はは」
「あー、いや、そんなことないよ。おかえりなさい」
「ただいま……フゥ」
 お父さんはなんだか、ゲンキがなさそうです。
(うわぁ、やっぱり、ぼくが父の日をわすれたからだ!)
 でも、キトラにはどうしたらいいのか、やっぱりわかりませんでした。
 お父さんは、おふろにはいりながら、ためいきばかり34かいもつきました。

 ばんごはんがおわり、お父さんがしょっきをあらい、お母さんはタウラといっしょにおふろに入ります。
 テーブルをふいたキトラは、せんめんじょではをみがきます。
(もう、しょうがないか……)
 はをみがきおえたキトラは、おふろのドアをそっとあけます。
「ね、お母さん?」
「どうしたの、キトラ? そんなに小さなこえ出して」
 お母さんは、タウラといっしょにおゆにつかっていました。
「お父さん、ゲンキないよね?」
「ああ、そうね」
「やっぱり、ぼくが父の日わすれてたから……だよ、ね?」
「え? あらあらあら、そうだったかしら」
 お母さんは、クスリとわらいます。
「あなたたち、やっぱりおやこね」
「どういうこと?」
「ためいきといっしょに、ブツブツ言ってるから、こっそりきいてごらん」
「?」
 キトラはよくわからないまま、せんめんじょから出て、しょっきをあらっているお父さんのうしろで、ききみみをたてました。
「……こまったなぁ、こまったなぁ、こまったなぁ」
 お父さんはブツブツつぶやいています。
「お父さんの父の日わすれてた、どうしよう? もうおそいかなぁ? どうしよう、こまったなぁ……?」
 そう。
 お父さんも、じぶんのお父さん、つまりキトラのおじいちゃんにプレゼントするのをわすれていたのでした。
「ぷっ、ははは」
 おもわずキトラはわらってしまいました。
「うわっ、な、なんだ、キトラいつのまに」
「お父さんごめんなさい、父の日のプレゼントわすれてた。あははは」
「え? ああ、そうか。そうだ、あははは」
「ごめんなさい、ぷはははは!」
「あははははは」
「ははははははは」
 あやまりながらわらったのは、これがはじめてでした。

「でさ、キトラもわすれててさ、あはははは、わるかったね、お父さん」
 お父さんは、じぶんのお父さん、つまりはキトラのおじいちゃんにでんわをかけて、やっぱりわらいながらあやまっていました。
「うん、やっぱりぼくの子だよ。あはははは、なんかおかしくって、うれしくって。あはははははは!」
 なんだか、もう、すごいじょうきげんでした。
「え? お父さんもそういうことあったの、あはは、それじゃ、おやこ3だいのソコツものだよ。あはははははは! じゃ、キトラにかわるよ」
「あははは、おじいちゃん、ごめんねー。ぼくににて、うっかりもののお父さんで!」
 デンワのむこうのおじいちゃんは、とってもげんきそうでした。

【おしまい】