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キトラの冒険
作:ごんぱち
その24『つりかわファイト』
ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……。
まどのそとを、ゆうひにそまったビルやいえやでんちゅうなんかが、とおりすぎていきます。
おとうさんのナラキさんとキトラは、でんしゃにのっていました。
きょうは、タウラのけんしんにでかけたおかあさんとまちあわせて、そとでごはんをたべるのです。
ガタン、ゴトン!
「うわたっ!」
「おっと、あぶないよ、キトラ」
でんしゃがゆれて、ころびそうになったキトラを、おとうさんがつかまえます。
「あ、ありがと、おとうさん」
「きをつけるんだよ。ぼくのてに、しっかりつかまってなさい」
「うん……」
キトラは、おとうさんのてをつかみます。
おおきくてがっしりしたて。
これならあんしんです。
でも。
(ちぇっ)
キトラは、なんだかおもしろくなさそうです。
(もう、ひとりでたてるのに)
とおくにあるドアをみます。
ドアのよこには、てつのてすりがついています。でも、でんしゃは、こんでいて、てすりにつかまりにいくことはできません。
(いまだって、ちょっとゆれて、よろけただけなのに)
キトラは、おとうさんのつかんでいるつりかわをみあげます。
(ぼくだって、あれにつかまれたら、おとうさんにたよらないでもへいきなのに)
つりかわは、キトラのあたまよりもずぅっとうえにさがっています。しろいつかまるわっかが、でんしゃのゆれとはんたいがわに、ゆらゆらゆれています。
(かっこわるいなぁ。まわりのおきゃくさんも、ぼくがひとりじゃたてないっておもってるのかなぁ)
そうおもいはじめると、とまりません。
みぎのサラリーマンも、ひだりのがくせいも、さっきせきをゆずったおじいさんまで、キトラをわらっているみたいにおもえてきました。
(じょうだんじゃない、ぼくだって!)
キトラは、キッとつりかわをにらみました。
ぐぅぅぅぅぅっとうでをのばして、キトラはつりかわをつかもうとします。
(もっとだ!)
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ。
(まだまだ!)
せのびをして。
(なんのなんの)
ゆびをのばして。
(もう、す、こ、し)
ゆびさきがつりかわにさわり――ません。
(くぅうぅ!)
そのときです。
でんしゃがガタンとおおきくゆれました。てをのばしていて、ただでさえバランスがくずれていた、キトラはころび――ません。
「あぶないよ? キトラ」
ころぶまえに、おとうさんがまた、キトラをささえていました。
(もう! かっこわるいったら! ころぶぐらいへいきなのに)
キトラはおとうさんのよこがおを、うらめしそうにみあげます。
それから、つりかわも。
(こんどこそ!)
キトラは、もういちどつりかわにうでをのばします。
そのとき。
「なんだいキトラ、つりかわにさわりたかったのかい?」
おとうさんは、キトラをだきあげようとします。
「やめてよ!!」
キトラはおもわずおおきなこえをだして、おとうさんのてをふりはらっていました。
「キトラ?」
「あっ、その、ご、ごめんなさい……」
「キトラどうして……あ、ひょっとして」
おとうさんは、キトラのめをみました。
「ひとりでつかまりたい、そうおもったんだね?」
「うん!」
さすがはおとうさんです。キトラのかんがえることが、よくわかってます。
「よし、わかった。ぼくはてだししないから、おもいっきりためしなさい」
「ほんとう!?」
「もちろん。ああ、いつのまにかキトラも、おおきくなっていたんだねぇ」
「えへへ」
キトラはつりかわに、うでをのばします。
さっきは、おとうさんにかたてでつかまっていましが、いまはちがいます。
さっきよりも、ずっとうでがのびます。
ぎゅぅぅぅ。
「ううううん!」
「がんばれ、キトラ」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ。
「もすこしっ」
「がんばれがんばれ、キトラ!」
ぎゅううううぅぅぅぅぅ。
ガタン!
そのとき、でんしゃがまたおおきくゆれました。
ビタン!
キトラはころびます。
「いたたたた」
でも、じぶんでたちあがります。もうおとうさんも、たすけません。
「なんのなんの!」
「まけるな、キトラ!」
「はいっ!」
あらためて、せのびをはじめます。
さっきより、ずっといきおいをつけて、おもいきり。
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「もっとだっ!」
「がんばれキトラ! もうすこし」
むぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
「くぅっっ!」
「まだのばせるぞキトラ、まだのばせるよ!」
ぶにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「へんなおとがしたって、がんばるぞっっ!」
「コンジョウだよ、キトラ、コンジョウだ!」
ぎゅぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!
「もう、ぜんぜんせのびのおとじゃないけど、まけるもんかっ、コンジョーだっ!」
「キトラ、ただのコンジョーじゃダメだっ! ドコンジョーや、ナニワのドコンジョーやっ!」
「ここって、カンサイだっけ?」
「コンジョーにりくつはいらないよ、キトラ!」
「わかったよ、おとうさん!」
のびきったあしさき、ひざ、こし、せなか、かた、ひじ、そしてゆびさき。
そのすべてが、ちょっぴりづつ、ちょっぴりづつ、たしかにのばされます。ねらいはただひとつ、つりかわだけ!
「キトラ、ファイトだああああっ!」
「うおおおおおおっ!!」
のびきったゆびのさきが。
つりかわに。
つきました!
ゆびさきにふれたつりかわを、キトラはゆびさきでたぐりよせてしっかりとつかみます。
「やった!」
「すごいぞキトラ!」
「やったんだよね、ぼく、ね? おとうさん!」
「そうとも。すごいぞキトラ。さすがはぼくのむすこだ!」
おとうさんは、かおいっぱいでわらいます。
「すごいなぁ。キトラはいつのまにか、こんなにおおきくなっていたんだなぁ。おとうさんはうれしいよ、やった!」
「えへへへ」
キトラは、つりかわにつかまったまま、わらいます。
なんか、もう、ちょっとあしがうきそうになっていましたが、たしかにキトラがつかんだつりかわです。
「ぼく、こんどから、つりかわにつかまれるからね!」
「うんうん。そうだね、そうだね……」
キトラとおとうさんが、かたをたたきあってよろこんでいると。
「あの……」
だれかがこえをかけました。
「え?」
「へ?」
キトラとおとうさんがふりかえります。
そこには、こまったようなかおをした、しゃしょうさんがたっていました。
「しゃしょうさん?」
「なんのようですか?」
「いや、なにって……しゅうてんなんですが」
「ええっ!」
「しまった! ああっ、アスタさんとのまちあわせじかん、すぎちゃってる!」
キトラとおとうさんは、ころがりおちるようにでんしゃからおりました。
――そのあと、30ぷんもまたされたおかあさんとタウラから、おとうさんもキトラもこっぴどくしかられたことはいうまでもありません。
【おしまい】