キトラの冒険
作:ごんぱち
その22『デンワばん』

「うん、うんうん、そうよね」
 おかあさんのアスタさんが、リビングのデンワではなしています。
「ええ。わかったら、れんらくちょうだい。るすばんデンワでも、ファックスでもいいから」
 いもうとのタウラとあそんでいたキトラは、アスタさんをみます。
(デンワのときのおかあさんって、なんかこえがヘンだなぁ)
「アスタさん、でかけるよ」
 おとうさんのナラキさんが、とけいをみながら、いいます。
「あらあらあら、もうこんなじかん! ラトンさんのおしばい、はじまっちゃう!」
 ピッ。
 アスタさんは、るすばんデンワボタンをおします。
『ただいまるすにしています、ファックスのかたはスタートボタンを、デンワのかたははっしんおんのあとに、おはなしください』
「じゃあキトラ、おやつはれいぞうこのなかだからね」
「キトラ、るすばんとタウラのせわ、たのんだよ」
 ナラキさんは、キトラのあたまをやさしくポンとたたきます。
「うん、まかせて」
「いってきます、キトラ、タウラ」
「いってきまーす。キトラ、タウラ!」
 アスタさんとナラキさんは、ちょっとあわてながらでかけていきました。
(おかあさんのくちべに、ちょっとはみだしてたけど……まあ、いいか)

 キトラとナラキは、デンワのあるリビングにもどります。
「タウラ、おとうさんとおかあさんは、おでかけしたから、きょうは、このキトラおにいちゃんが、このいえで1ばんえらいんだぞ」
 キトラはむねをはります。
 タウラは、わかっているのかわかってないのか、よくわからないかおで、おもちゃのハンマーをふりまわしています。
「きいてる、タウラ? おにいちゃんのいうこと、きちんときくんだぞ」
「やーーーつーー」
「おやつ? ちゃんとあとであげるから。さあさあ!」
 キトラは、タウラをつれて、ガラスのサッシのまえにきます。
「カギよーし」
 カギをゆびさしかくにんします。
「ほら、タウラも」
「カカ?」
「カギがちゃんとかかってないと、わるいひとがはいってきちゃうんだよ。ほら、カギよーーーーし」
「しーーーー」
 キトラとタウラは、かぎをゆびさします。
「さあ、つぎのカギだよ」
「やーーーつーーー」
「おやつは、おしごとをきちんとおわらせてから! タウラは、おやつをたべてるあいだに、わるひとがはいってきてもいいの? それ、1、2、1、2、キトラたいちょうにつづけー!」
「いーーーいーーーいーーーいーーー」
 キトラのあとを、タウラはハイハイでついてきます。
 と、そのとき。
 プルルルルルルルルル!!!
「うひゃあああああっ!」
 キトラは、ビクッとからだをふるわせます。
 プルルルルルルルルル! 
「な、なんだ、デンワか」
 タウラがじぃっとキトラをみます。
「び、びび、びっくりなんて、してないぞ、タウラ。おにいちゃんは、つよいんだからね」
 プルルルルルルルルル! 
 プツッ。
『ただいまるすにしています、ファックスのかたはスタートボタンを、デンワのかたははっしんおんのあとに、ごようけんを、おはなしください』
 ピーーー。
『ああ、もしもし。ロフサです。そろそろ、たんじょうびけんしんのじきですので、おこさんともどもどうぞ。せきをあけて、まってますよ。フフフ』
 プー、プー。
「……ノクタのおとうさんだ」
 キトラはブルッとふるえます。
「タウラはいいよね……はがあんまりないから、むしばにもならないし」
「ばーー?」
「さ、つぎのカギいこう!」

「2かいのベランダのカギよーし」
 キトラはさいごのかぎを、ゆびさしかくにんしました。
「よし、これでドロボウがきてもはいれないよ、タウラ」
 へんじがありません。
「タウラ?」
 ついてきていたはずのタウラが、いつのまにかいなくなっています。
「まったく。タウラは、このしごとのだいじさを、さっぱりわかってないんだから……」
 キトラはかいだんをおります。
「しごともしないんだったら、おやつあげないよ」
 ブツブツいいながら、キトラがリビングにはいると。
「うわっ! タウラ!」
 タウラが、デンワだいに、よじのぼっています。でも、てがはなれておちそう!
「あっ、あっあ、あぶないっ!」
 ドスン!!
「きゅぅ……」
 デンワだいからおっこちたタウラを、キトラは、かんいっぱつ、たすけました。
 ……というよりも、ただただ、したじきになっただけなんですけど。
「タウラ! のぼったらあぶないでしょ!」
 キトラはタウラのあたまを、てでたたきます。
「ぎゃああああああ」
 タウラはなきはじめました。
「ぼくだって、いたかったんだ。おあいこだよ!」
「ぎゃああああああああ!」
「おかあさんもおとうさんもいないんだから、ないたってしょうがないよーだ――ああ、いたかった」
「ぎゃああ……」
 タウラは、なきやみかけます。
「タウラはケガしてないだろうね?」
「ぎゃああああああああ!」
「……ぼくのカオみてなくの、やめてよ」
「うーー」
「ウソなきは、かっこわるいだけで、なんにもいいことないんだからね」
「むーー」
「なきやんだなら、おやつにしよっか」
 タウラは、とってもうれしそうにわらいます。
「それじゃあ……」
 プルルルルルルルルル! 
「わひゃあああっ!」
 プルルルルルルルルル! 
「な、なんだ、またデンワか。びっくりさせるなぁ」
 プルルルルルルルルル! 
 プルルルルルルルルル! 
「あ、あれ? るすばんデンワにならないぞ」
 プルルルルルルルルル! 
「まさか!」
 キトラはハッときがつきました。
 さっき、タウラがデンワだいにのぼったとき、なにかいじったにちがいありません。
「ポーテートーーーー!」
「ぎゃあああああああ」
「ないてもしょうがないでしょ!」
 プルルルルルルルルル! 
 まだ、デンワはなっています。
 とってもうるさくて、おどされてるみたいな、イヤなおとです。
 プルルルルルルルルル! 
 まるで、はやくでろ、はやくでろ、とおこっているみたいです。
 プルルルルルルルルル! 
「で、でよう、か」
 キトラはタウラをみます。
「でも、かってにデンワにでちゃいけないって、いわれてるし」
 プルルルルルルルルル! 
「だけど、それはるすばんデンワになってるときのはなしで、いまは、ちがう、し……」
 プルル。
「……とまっちゃった」
「やーーーつーーー」
「おやつはあとで!」
「ぎゃあああああああ!」

 キトラは、ふみだいをもってきます。
「るすばんデンワに、もどさなきゃ」
 ボタンをおします。
 ピ!
 もうひとつ。
 パ!
 おつぎはべつの。
 プ!
「うーん」
 デンワには、ボタンがいっぱいです。
「タウラ、どのボタンおしたの?」
 キトラはタウラにききますが、タウラはおぼえてません。おぼえてたって、うまくおしえられるかどうか、あやしいものですが。
「ボタンひとつなんだよ、たしか。ボタン。そんなにむずかしいことは、してなかったはずなんだ」
 キトラはボタンをじぃっとみつめます。
 ボタンには、もじがいろいろかいてありますが、なかなかよめません。
「しょうがっこうにあがったら、よめるようになるのかな。くやしいなぁ」
 キトラもすうじとひらがなは、まあまあよめますが、カタカナとなるとちょっとじしんがありません。かんじになると、おてあげです。
「やーーーつーーー」
「あとで!」
 キトラはすうじのボタンをおします。
 プ!
 ちいさなおとがでるだけです。
「すうじはちがう。だいたい、デンワばんごうをおすたんびに、るすばんデンワになったらおかしいや」
 あとは、いくつかのおおきなボタンと、ちいさなボタン。
「ちいさなボタン、かな? おおきなつづらと、ちいさなつづらでは、ちいさなほうがいいわけだし……」
 キトラはちいさなボタンを1つおそうとします。
「おしにくいなぁ――ん、まてよ」
 パッとてをひっこめます。
「るすばんデンワって、よくつかうのに、おしにくいボタンにするかな?」
 ボタンのよこには、なにかかんじがかかれていましたが、それはよめませんでした。
「だとすると、このボタンはなんか、めったにつかわないもの……そう、しゅうりをするときとかにつかうような」
 なかなかのすいりです。
「じゃあ、このおおきいボタンだ、け、ど」
 キトラはうなります。
 おおきいボタンは4つだけ。
「ええと、ス、ピ……こっちは、ス……ト?」
 カタカナはうまくおもいだせません。
「もう、ダレだよ、カタカナやかんじなんてつくったの! みんなひらがなでいいじゃない!」
 そうはいきません。ちなみに、カタカナをつくったのは、おぼうさんです。
 キトラはが、ボタンのまえでかたまっていた、そのとき。
 ぐらっ!
 あしもとが、ゆれはじめました。
「じしん!?」
 ぐらぐらっ!
「やーーーーつーーーー!」
 じしんではありません。タウラが、キトラののっているふみだいを、ゆさぶっていたのでした。
「タウラ、おにいちゃんは、いそがしい……」
 いいかけて、キトラはやめました。
 キトラも、もういいかげんに、おやつをたべたくなっていたのです。

 れいぞうこにはいっていたおやつは、おとうさんがつくったババロアでした。
「はい、タウラ」
 ババロアのうつわとスプーンを、タウラのちいさなテーブルにおきます。
「いただきまーす」
「あーーーうーーーー」
 キトラは、ババロアをたべます。
 つめたくて、ふわふわで、なめらかで、とってもおいしいババロアです。
「おいしー」
 キトラはおもわずつぶやきます。
 タウラは、なんにもいわずにドンドンたべます。
(デンワ、どうしよう?)
 たべながら、キトラはふとかんがえます。
(へんなボタンをおして、デンワをうけられなくなったら、こまるし。おかあさんも、なんだかデンワまってたみたいだし)
 かといって、デンワがきているのにしらんぷりをするのは、むずかしいことです。
「よし」
 キトラは、からになったうつわに、スプーンをおきました。
「ぼくが、デンワをとろう」

 キトラはふみだいにのって、デンワのまえにたちます。
「さあ、いつでもこい!」
 これなら、いつデンワがきても、すぐにじゅわきをとれます。
(でも、それから、どうすればいいんだろ?)
 キトラはかんがえます。
(ええと、デンワがかかってきて、これをとって、『もしもしキトラです』……いや、おうちのデンワだから、『はい、ナラキです』っていうのかな? でも、ウソをつくのはまずいかもしれないし)
 かんがえればかんがえるほど、わからなくなってきます。
(おとうさんと、おかあさんがるすだから、かわりにはなしをきいておかなきゃいけない)
 でも、おとなのおはなしです。キトラがきいてわかるかどうか。
(もしもはなしをきけても、わすれちゃったらどうしよう?)
 あいてのひとは、つたえたつもりなのに、キトラがわすれてしまったら、たいへんです。
「そうだ、れんしゅうすればいいんだ!」
 いいかんがえです。
「タウラ、デンワかけてきたひとやってね、ぼくがうけるから」
「わーーー?」
「そ、デンワ」
 タウラは、うれしそうなかおをします。
 キトラは、じゅわきのかわりに、スプーンをもちます。
「プルルルルル、もしもし、キトラですけど」
「にーーーーにーーーー」
「えっと、あの、その、え…………おかけになったデンワばんごうは、げんざいつかわれておりません」
 じゅわきがわりの、スプーンをおきました。
「に?」
「だあああっ!」
 キトラはくびをよこにふります。
「そうじゃないよ! なにいってるんだよ、ぼく! デンワうけるんだから、いるすつかっちゃダメなんだよ!」
 タウラはふしぎそうなかおです。
「タウラ、もう1かいだ」
「ん」
「プルルルルル、もしもし、キトラですけど」
「にーーーにーーーー」
「え? チャーハンのでまえ? 1つだけのちゅうもんじゃ、でまえはやれませんよ!」
 キトラはスプーンをおきます。
 おいてから。
「ちっっがああああう! だれが、おしばいやれっていったんだよぉ。そうじゃないでしょ!」
 キトラはあたまをかかえます。
「ええいっ、もう1かい! タウラよろしくっ!」
「うーー!」
「プルルルルル、もしもし、キトラですけど」
「ラーーー」
「ああ、なんだ、ラグヤ? めずらしいね、えっ、これから? うん、いくいく! じゃ、まっててね!」
 キトラはスプーンをおいて、そのままげんかんへ――。
「だあああっ! でてっちゃダメでしょでてっちゃ! タウラをおいて!」
「おーーー」
「つぎっ、プルルルル、もしもし、キトラです!」
「むーーー」
 キトラのとっくんは、2じかんぐらいつづきました。

「はぁ、はあ、はぁ……」
 キトラはあせだくで、デンワのまえにたちます。
「よーし、カンペキだ!」
「かーーー」
 ぐっとスプーンをにぎりしめます。
「ええと、デンワがきたら、『もしもし』だろ。それで、あいてがなんかいったら、『おとうさんとおかあさんは、いまでかけてるから、よるにかけてください』これでいいんだ」
 タウラはすっかりつかれてしまい、おふとんでねむっています。
「さあ、いつかかってきてもだいじょうぶだぞ」
 キトラはじっとデンワをみつめます。
 と。
「ふぁあああ」
 なんだか、ねむくなってきました。
 そういえば、とっくんのせいで、おひるねもしていないのです。
「おきてなきゃ!」
 キトラは、じぶんのほっぺたをぎゅっとつねります。
「ねむったら、デンワにでられない!」
 あたまがぼんやりしてきます。
「おきるの! おきてデンワにでるの!」
 キトラのあたまはどんどんぼやぁっとしていき、いつのまにかすわりこんで……。
「ねむっちゃ、いけ……な……い」
 ねむってしまいました。

「しまった!」
 キトラは、めをさましました。
「あれ?」
 なぜだか、キトラはふとんのなかにいます。
「ああ、キトラ、おきたね」
 たたんだせんたくものをもったナラキさんが、キトラのへやにはいってきました。
「おとうさん、デンワは!?」
 キトラはとびおきます。
「デンワ? どうかしたのかい?」
 ふしぎそうにナラキさんがききます。
「いや、その、ぼくがねてるあいだに、デンワがきたりとか」
「ああ、こなかったとおもうよ」
「そうなの?」
「じゅわきがずれてて、ずっとはなしちゅうになってたみたいでね」
 ナラキさんは、ポケットからけいたいデンワをだします。
「みんな、こっちにかかってきたから」
「ええっ!?」
 そうです。
 キトラがさいしょに、デンワをとったとき、ちゃんとじゅわきをおろしていなかったのです。
「アスタさんもあれで、けっこうあわてものだからなぁ。あはは」
「ちがうんだよ、おとうさん、ごめんなさい。その……アレはね」
 キトラはぜんぶはなしました。
 タウラがるすばんデンワをとめてしまったこと、キトラがじゅわきをおろしわすれたこと、デンワばんのとっくんをしたこと。
「なるほど、そういうことだったんだね」
 ぜんぶきいてから、ナラキさんはいいました。
「デンワなんてどうでもいい。でも、タウラがケガをしたら、タイヘンだよ。わかるね?」
「はい」
「つぎは、タウラからめをはなさないね?」
「はい」
「よし。このはなしはおしまい」
 ナラキさんは、にっこりわらいました。
「じゃあ、とっくんのせいかをみせてもらおうかな」
「うん! じゃあ、じゃあ、おとうさん、デンワかけてくるひとやって!」
「いいよ。プルルルルルル」
「ガチャッ。もしもし、キトラですけど」
「あー、ラーメンやさん? ごもくヤキソバとチャーシューメン1つづつ」
「うちはでまえやってないよ――って、おとうさん!」
「あはははは」
「ふふ、あはは」
 キトラとナラキさんはわらいました。
 だいどころから、ばんごはんのよいかおりが、ただよってきます。

【おしまい】