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キトラの冒険
作:ごんぱち
その15『すききらい?』
トン、トン、トン、トン。
おかあさんのアスタさんが、やさいをきっています。
おとうさんのナラキさんは、ちゃわんやおさらをよういしています。
キトラは――というと。
「こら! のぼっちゃダメ!」
キトラは、いすからテーブルにのぼろうとするいもうとのタウラを、ひっぱりもどしています。
いすにもどされたタウラは、キトラをおもちゃのハンマーでたたこうとします。
「それも、ごはんのときにもってちゃダメ!」
キトラはハンマーをとりあげて、なげてしまいました。
タウラがなきだしそうになったとき。
「さあ、できたわ」
おかあさんが、ゆげのたつおなべをもってきました。
「すききらいしないで、いっぱいたべるのよ」
「うんうん、たべるこはそだつ、だよ」
やきざかなをのせたおさらを、おとうさんがもってきます。
テーブルのうえは、ばんごはんのりょうりでいっぱいになりました。
きょうのごはんは、やきざかなと、ゆでたやさいのサラダ、アスパラガスとベーコンのいためもの、ゆでタマゴに、きのうののこりのキノコのシチュー、それにみそしる。
「いただきましょ」
「いただきまーす!」
「いただきます」
タウラもしゃべれないけど、いただきます。
キトラは、やきざかなをたべます。
でも――。
(むぅ……)
ハシをつきさすとホネにぶつかって、つかもうとするとホネにひっかかって、むりやりたべようとするとホネがくちのなかにのこります。
おとうさんとおかあさんは、きれいにホネをのこしてたべています。
(めんどうくさいなぁ――でも)
すききらいをいわずに、なんでもよくたべること。
それが、キトラのうちのルールです。
(あじはおいしいんだけど)
つぎに、ゆでたやさいのサラダ。
ニンジン、カリフラワー、ベビーコーン、ジャガイモ。
ちょっとにがてなものもあるけど、ゴマとマヨネーズのドレッシングがかかっているから、みんなおいしくまとまっています。
(ニンジン、むかしはきらいだったなぁ)
キトラはきょねんのことをおもいだしながら、タウラをみます。
タウラは、おとうさんがさしだすものを、なんでもかんでもよくたべています。
(タウラがきらいなものって、あったっけなぁ?)
カリフラワーをたべながら、キトラはふとくびをかしげます。
(あっ、そうだあった。おとうさんのおさしみのワサビをたべて、ないてことがあったっけ)
みそしるをひとくちのみます。
(でもボクも、ワサビはたべられないなぁ)
キトラは、あのワサビのにおいをおもいだすだけで、なみだがでそうになります。
(あれはあじっていうより、なんか、こうげきだよ)
こんどは、ゆでタマゴ。
しおをつけて、パクリ。
(うーん)
ぼそぼそしたきみが、くちのなかにのこって、なかなかのみこめません。
(タマゴやきとか、タマゴサンドなら、おいしいんだけど……)
キトラは、くちのなかにのこったゆでタマゴを、みそしるでのみこみました。
(おとなになったら、おいしいっておもうのかなぁ)
おとうさんをみると、とってもうれしそうにゆでタマゴをたべています。
(おとうさんって、タマゴならなんでもすきだなぁ)
キトラは、ごはんをひとくちたべます。
(そういえば、おおきなタマゴでつくったオムレツ、あれはおいしかったなぁ。一体何のタマゴだか、わからずじまいだったけど)
そんなことをかんがえながら、キトラはアスパラガスをたべました。
ぎにゅ。
(ん?)
アスパラガスです。
ベーコンといためた。
(む、むむ……)
キトラはくちをとじたまま、とまってしまいました。
にがみと、かたいスジが、くちのなかにのこります。
(う、う、う、おいしく、ない)
というよりも。
(まずい、すごく、まずい)
キトラはくちのなかで、ベロをひっこめます。
くちのまえのほうにアスパラガス、おくのほうにベロ。
まずいのです。
すごくまずいのです。
たべものとおもえないほど、まずいのです。
でも。
(すききらいしちゃ、ダメなんだ)
キトラはまゆげのあいだにシワをよせて、ゆっくり、ゆっくりとアスパラガスにはをあてます。
ぐっとあごにちからをいれて、かみくだく――。
じゅ。
かんだとたん、にがいしるがでてきました。
(うわあああっ!)
でも、すききらいはいけません。
さいしょはまずいとおもっても、なれればおいしくなるものです。
(の、のみこもう。これいじょう、かめない)
キトラは、アスパラガスをのみこもうとしました。
ごくん。
ごく――ん。
く、ん。
(ダメだぁ)
アスパラガスは、のどのてまえでひっかかって、それよりおくにすすみません。
おおきくはありませんが、それでものどをとおらないのです。
(ううう……)
おもわずはきだしそうになって、あわててくちをおさえます。
すききらいはいけません。
もういちどのみこもうとしますが、やっぱりできません。
(ど、どうしよう)
こまりはてたキトラは、テーブルのうえをみまわします。
すると。
(そうだ!)
みそしるがありました。
キトラはおわんをてにとります。
(ちょっと、あついけど、しかたない!)
おわんにくちをつけて。
ごく、ごく、ごく、ごく……。
(あつ、あつい、あつつつつ、あつい、あつーーーーーい!)
「あつい!」
「おいおい、キトラだいじょうぶかい?」
「あらあらまあまあ、あわててのんで。そんなにおみそしるすきだったかしら?」
「……うん、だいすき」
キトラはわらいました。
そんなにみそしるがすきってわけではありませんでしたけれど。
のどのおくがあつかったですけれど。
「だいすきだよ」
なんたって、おかげでアスパラガスをすっかりのみこめたのですから。
なんにちかあと。
(むぅ……)
キトラのめのまえに、アスパラガスとベーコンのいためものがあります。
(また、か)
キトラはおそるおそるハシをのばします。
できるだけちいさいアスパラガスをえらんで。
パクリ。
「――あ、れ?」
キトラはめをまるくします。
「おいしい?」
「ほんとうだ、このアスパラガスおいしいね、アスタさん」
おとうさんも、おいしそうにアスパラガスをたべます。
「ええ。そうでしょ」
うれしそうにわらいながら、おかあさんはタウラにアスパラガスをたべさせます。タウラもおいしそうにたべています。まあこれは、いつものことですが。
(やっぱり、すききらいせずにたべていれば、なんでもおいしくなってくるんだなぁ)
キトラはかんしんしながら、アスパラガスをたべます。
あまみがあって、やわらかいけれど、シャキリとしたはごたえがあって、でもスジなんかいっぽんもなくて、それがベーコンのしおあじと、アブラによくなじんでいます。
ようするに、とってもおいしいです。
「――このまえのは、ごめんなさいね」
おかあさんは、すまなそうにわらいます。
「このまえって?」
キトラがききかえします。
「このまえもこれ、つくったでしょ? あのときのアスパラガス、そだちすぎでスジだらけだったのよ。しかも、ひかげんをまちがえて、なまやけになっちゃったの。きづかなかった?」
「って、ことは?」
(じゃあ、ボクががんばってたべたアレは?)
「おいしくなかったでしょ?」
(すききらいじゃなくて、ただ、まずいだけ?)
「は、はは、いや、まあ、たべられないことは、なかったよ」
キトラはげんきなくわらいながら、アスパラガスをたべました。
とってもおいしい、アスパラガスでした。
【おしまい】