キトラの冒険
作:ごんぱち
その14『あらしのたのしみ』

 びゅぅぅぅぅうぅぅうぅぅうぅぅぅ!!!
 はげしいかぜが、きをゆらします。
 ばちばちばたばちばたばたばちばち!!
 あめが、きのはっぱをたたきます。
「――やっぱり、そとにでないほうがよかったんじゃない?」
 キトラは、リュウさんからかりたレインコートをきていました。
「ははは」
 リュウさんは、ながいからだをおおきくして、キトラをおおいます。
「かぜにさからわず、あめにぬれたからだをうけいれれば、あとはただ、たのしみだけがのこりますよ」
「ぬれたら、かぜをひくとおもうんだけど」
「かぜをひいたって、いつかはなおります。だいじょうぶですよ」
「……どこも、だいじょうぶじゃないよ」
(やっぱり、ゲンさんのいえにいたほうがよかったかなぁ)
「そもそも」
 リュウさんは、すこしからだをちいさくします。
「こんなあらしは、このゆめのせかいでもめずらしいです。たのしまないてはありませんよ」
 そのとき、ものすごいかぜが、キトラとリュウさんをふきあげました。

「うわ、わわわ!」
 キトラとリュウさんは、とんでいました。
 レインコートは、かぜをうけてまるでパラシュートみたいにひろがります。
「うわっ、わ、お、おちる!」
「だいじょうぶ。さっきのんだ、ふうせんのみのおちゃは、1じかんはもつんですよ」
 キトラのよこを、リュウさんはきもちよさそうにとんでいます。
「さぁ、りょうてをひろげて、かぜにのって」
「ええと、こう?」
 キトラはりょううでをひろげます。
「うわわっ」
 みぎうでをまげるとみぎに、ひだりうでをまげるとひだりに、あたまをあげるとうえに、とんでいきます。
「うごけるんだ」
「ええ。じゆうに、とはいきませんけどね」
 しばらくのあいだ、キトラとリュウさんは、かぜにのってとびました。
 したに、まちがみえます。
 がいとうはついていますが、あらしのせいで、くるまもとおらず、コンビニエンスストアやホテルもまっくらです。
 あめがつよくなってきたので、キトラは、あまつぶをよけながらとびます。
「えへへ」
 みぎへよけて。
 ひだりへよけて。
 うしろ。
 まえ。
 ちゅうがえり!
 キトラとリュウさんは、きのはっぱみたいにとびます。
 ぴゅぅひゅうとなるかぜは、だれかがうたっているみたいです。
 ざわざわとゆれるきぎは、がっきのおと。
 ばちばたとなるあめは、はくしゅみたいです。
 たまにひかるカミナリは、しょうめい。
 まるで、おおきなステージで、えんそうをきいているみたいです。
 キトラはあおむけになって、かぜのなかをただよいます。あめにかおをうたれましたが、なんだかどうでもよくなっていました。

「あー、たのしかったけど、さむいや」
 1じかんほどして、キトラとリュウさんは、まちへおりました。
 まちのいえは、みんなあまどをしめています。
(やっぱり、あらしのひにであるくのは、リュウさんだけなんじゃ……)
「すこしあたたまりにいきましょう」
 リュウさんは、おおどおりをあるいていきます。
 ときどき、かぜにふきとばされたきのえだや、はっぱがリュウさんにへばりつきますが、おどろくようすもいやがるようすもありませんでした。
「つきましたよ」
 リュウさんがたちどまります。
「え、ここ?」
 それは、シャッターをしめたコンビニでした。
「おやすみじゃない?」
「あらしのひは、いうなればハレ。ハレのぶたいには、いつもとちがったことがおきるもの。かくれていたものはあらわれ、おもてにいたものはかくれる。せいじゃがぎゃくてんするのです」
(……またリュウさんが、わかんないこといいだしたぞ)
「つまり」
 リュウさんは、コンビニのうらにまわります。
「こういうことです」
 うらぐちがひらきました。
 いえ、うらぐちのとびらいがいのかべが、ぜんぶがばりとひらきました。

「――いらっしゃい」
 みせにはいると、てんいんがあいさつしました。
「あらしのなかおつかれさま。どんなものをおさがしですか?」
「……リュウさん」
「なんですか?」
「ふしぎなかんじのコンビニだけど」
 てんいんをゆびさします。
「なんで、カソがみせばんしてるわけ?」
「キトラくん、ひとをゆびさすのはしつれいですよ」
「おしごとですよ、キトラ」
 カソはわらいます。
「このまえは、きこりしてなかったっけ?」
「よのなか、いろんなしごとがあるものですよ。ねえ、リュウさん?」
「ああ、そうだね。さあて、なにをいただきましょうかね」
(なにを、って)
 キトラはみせのなかをみまわします。
 うすぐらいあかりにてらされたみせには、たながならんでいます。
 が。
(なんにもおいてない……)
 そうです。
 たなも、れいぞうこも、にくまんをふかすおんぞうこも、みんなからっぽです。
「――では、タオタオをいただきましょう。しはらいは、ゲキリンのカケラで」
 リュウさんは、そういってあごのしたのウロコをおって、カソにさしだしました。
「はい、まいどありがとうございます」
 カソは、カウンターにおおきなまるいものをおきます。
 キトラのあたまぐらいおおきくて、みじかいけがはえていて、うっすらピンクいろで、ビクビクとうごいています。
「うわっ、なにそれ?」
「タオタオですよ」
 リュウさんはうれしそうに、そのまるいものをのみこみました。
(うわっ、たべものなんだ、それ)
「ふー、あらしのひはこれがいちばんですね」
「リュウさん、もっといいものをかえばいいのに」
 カソはそういいながらもうれしそうに、リュウさんのウロコのカケラをレジにしまおうとします。
「カソくん、おつりはキトラくんのおかいものにあててください」
「え? あ……はい、そうですか。まあ、かまいませんよ」
「キトラくん、えんりょせずになにかかうといいですよ」
「ありがとう、リュウさん」
(カソはぜったいそんをしないだろうから、べつにえんりょするきはない……けど)
「ねえ、リュウさん」
 キトラはたずねます。
「なんですか?」
「ここって、なにをうってるの?」
「コンビニでうっていないものですよ」
 わかったような、わからないようなこたえです。
(コンビニでうってないもの?)
 リュウさんがさっきかっていた、タオタオとかいうものをおもいだします。
 たしかに、あんなきみのわるいものは、コンビニではうっていません。
(でも、あれはほしくないや)
「うーんと……」
 コンビニでうっていない、それでいてキトラがほしいもの。
(ええと、おかしとか、ほんはうってるし……おもちゃだってうってるし)
 ふしぎなものです。
 いつもはほしいものがいっぱいあったきがするのですが、いざとなると、なかなかおもいうかばないものです。
 とくに、なにもないみせのなかでは。
「ねえ、カソ?」
「はい?」
「どんなのがあるの? たとえば」
「それはおおしえできませんね」
 カソがにまっとわらいます。
「もちろん、そのじょうほうをかいたい、とおっしゃるなら、はなしはべつですけど――たかいですよ」
(……だろうとはおもったけど)
 キトラは、じろじろとカソをみます。
(いっそ、ひねずみのせびろでも、もらっちゃおうかなぁ。でも、いまはそんなにほしくないし、ほしくないものをもっててもしょうがないし。ああ、こんなことなら、ほしいものをきめとくんだった……)
 キトラがいろいろいろいろかんがえていると、コンビニのあかりがあかるくなってきました。
「え? なに? なにがおきるの?」
「そろそろあらしがやみます」
 カソは、にやにやわらいます。
「おかいあげは、おはやめに。べつにかいたいものがなければ、それでいいんですよ。さあさあさぁさあさあ」
 たなに、ぼんやりとふつうのしょうひんがあらわれはじめます。
「わ、わかった、えーと、それじゃ、それじゃあ!」
(うってないもの、うってないもの!)

 ガラガラガラガラ。
 シャッターがひらかれます。
 あらしはやみ、あおいそらに、あさひがのぼっていました。
 あかるいみせのなか。しょうひんがぎっしりならんだたな。レジには、てんいんさん。
 コンビニは、すっかりもとにもどっていました。
「あらし、やんじゃったね」
 キトラはコンビニからでます。
「ええ」
 リュウさんが、ぐっとからだをのばします。
「――キトラくん」
「わぁ……」
 リュウさんがゆびさすさきには、おおきなにじがかかっていました。
「かえちゃった」
 そう、キトラがかったのは、にじでした。
 ゆめのせかいのにじが、あおくすみきったそらに、きらきらとかがやいていました。
「こんどのあらし、いつかなぁ」
「それはですね」
 リュウさんはふわりとそらにあがって、からだをおおきくします。
「わからないから、たのしいんですよ」
 おひさまのひかりをあびてかがやくリュウさんは、もうひとつのにじみたいでした。

【おしまい】