キトラの冒険
作:ごんぱち
その11『のろいのけん こうへん』

「ふぁふぁふぁふぁ……」
 キトラは、めをこすりながら、ふとんからおきあがりました。
 ズン。
 まくらもとに、けんがおいてあります。
「――え?」
 キトラはくびをかしげます。
「……リンガ?」
「ん、あ、あ?」
 けんが、しゃべりました。
「やっぱりリンガだ。どうして? ぼく、リンガをおみやげにしたおぼえないよ?」
「お、あ、おう、キトラ、やっとあえただ!」
 けんは、もと・のろいのけんのリンガです。なんだか、まえよりもずっとこえがはっきりしています。
「ぼくにあいにきたの? いったい、どうやって?」
 ズン。
「そんことだけんども――」
 そのときです。
『きゃあああああああっ!』
 だいどころのほうから、おかあさんのアスタさんのさけびごえがしました。
「おかあさん――わああああっ!」
 キトラも、おおごえをあげていました。
 なぜって、まどのそとに、おおきな、くびのながいきょうりゅう、セイスモサウルスのかおがあったからです。
 ズン!!
 ひときわおおきなあしおとがして、いえがゆれました。

『りんじニュースです! ツキトちょうに、きょうりゅうがあらわれました!』
 テレビは、どのチャンネルもニュースになっていました。
『――みなさんは、あまどをしめて、そとにでないようにしてください!』
(な、なんで、きょうりゅうが?)
 キトラにはさっぱりわかりませんでした。
(あんなのにふまれたら、いえだってつぶされちゃう)
「しんぱいしないで、キトラ、タウラ」
 おかあさんが、タウラをおんぶしたまま、キトラをぎゅっとだきしめます。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだからね」
 トゥルルルルルルル!!
 おかあさんがでんわをとりました。
「あっ、ナラキさん! ええ、ぶじよ……」
 おとうさんからのでんわに、おかあさんはすこしおちついたみたいです。
(そうだ、ゲンさんのぬいぐるみ、いまのうちにもっておこう。いえがこわされたらたいへんだ)
 キトラはじぶんのへやにもどりました。
 コンコン。
「え?」
 へんなおとがしました。
 コンコン。
「な、なに?」
 キトラがおとのほうをむくと、ラグヤが、そとからまどをたたいていました。

 キトラはまどのかぎをあけ、ラグヤをまどからへやにいれます。
「……たいへんだ、キトラ」
 ラグヤはあらいいきをしています。キトラのいえまではしってきたのでしょう。
「……あの、セイスモサウルスが、こっちへきてしまった」
「あの、って?」
 キトラはききかえします。
「……キトラ、おぼえてないの?」
「きょうりゅうにしりあいなんていないよ?」
「……そうか、あのときキトラは、きょうりゅうのタマゴをおみやげにして、ぼうけんのきおくはなかったんだ」
「え? きょうりゅうのタマゴ?」
「……ええと、それはいいから」
 かんがえがうまくまとまらないのか、ラグヤはくびをふります。
「……あのセイスモサウルスは、ゆめのせかいからきたにちがいない」
「ゆめのせかいに、あんなのいるの?」
「……ここにはセイスモサウルスのたべものはない。はやくもとにかえしてやらないと」
「でも、ぼくらになにかできるのかな?」
「できるだ! ぜひやってもらいたいだ!」
「……けんがしゃべった?」

「ぜんぶ、オラがわるいだ」
 リンガは(もしもあたまがあるなら)ふかくあたまをさげました。
「どういうこと、リンガ?」
「……けんが、しゃべってる」
「それはいいってば」
「オラ、カソのりょうりやで10000のいのちをうばって、いちにんまえになれただ」
「ええっ?」
 キトラはリンガをまじまじとみます。
 たしかにまえよりも、ずっときれいで、ピカピカひかっています。ちょっとほうちょうみたいなかたちになっていましたが。
「ちょっとまってよ、きのうのばんゆめであったばっかりだよね?」
「あのあと、なまシラスのみじんぎりていしょくが、たてつづけにはいっただよ」
「……おいしいの、それ?」
「はあ……まあ、よかったね」
「それがよくねえだ……」
 リンガのこえには、ぜんぜんげんきがありません。
「ほんとうに、なんでもきれるようになっちまっただよ」
「は?」
「……ゆめのせかいと、ボクたちのせかいのさかいめまで、きっちゃったってこと?」
 はなしをきいていた、ラグヤがいいました。
「んだ。おまん、キトラとちがって、アタマいいだな?」
「……えへへ」
「はじめてだったで、かげんができねえで、グッサリせかいをきっちまっただよ。んで、きょうりゅうが1ぴき、まぎれこんだだ」
 リンガは、ラグヤのほうにはなしています。
「わかっただか?」
「……じゃあ、もういちどせかいをきれば、あのセイスモサウルスは、もとのせかいにもどせるの?」
「んだ」
「せかいをきるって、どういうこと? なにがなんだかわかんないよ??」
「キトラはあたまがわるいだなぁ」
「ラグヤとくらべないでよ!」
「キトラ、ちょっとオラをもつだ」
「こう?」
 キトラはリンガのえをもちます。
「したら、くうちゅうにマルをかくだ」
「ええと……」
 キトラは、リンガをぐるりとまわしました。
 リンガのするどいきっさきがとおったところに、きれめができました。なにもないはずの、くうちゅうに、きれめができたのです。
 それから、きれめはあなになり、むこうがわにみどりのくさがみえてきました。
「えっ? あれは」
「……ゆめのせかいだ」
「ふぅ――んだ。これが、せかいのさかいめがきれたってことだ――ああ、しんどい」
「つながってるの?」
 キトラはあなのむこうの、くさをつかんでちぎりました。
 しゃらん。
 がっきみたいなおとをたてて、くさはちぎれました。
(ほんとうに、ゆめのせかいのくさだ)
 キトラがあなからてをぬくと、あなはしぜんにふさがっていきました。
「わかっただか? こうやって、せかいのさかいめをきるだ。つまり」
「……ボクたちがリンガをもって、セイスモサウルスのまわりを1しゅうすればいい」
「んだ」
「ぼくもいま、いおうとおもってたんだよ!」

 ファン、ファン、ファン、ファン……。
『みちをあけてください! みちをあけてください!』
 パトカーが、サイレンをならしながら、のろのろとおりすぎていきました。
 どうろは、じどうしゃだらけ。はんたいに、ほどうにはだれもいません。
 リンガをバッグにいれたキトラとラグヤは、パトカーのむかうほうへはしります。
「……けいさつが、セイスモサウルスをきずつけなければいいけど」
「ともかくいそぐだ!」
「いわれなくてもいそぐよ」
 おかあさんに、なにもいわずにいえをでているのです。のんびりはしていられません。
 いえのあいだをかけぬけ、おふろやさんのまえをはしり、こうえんをよこぎります。
 キトラたちがしばらくはしっていると、パトカーのサイレンのおとがどんどんおおくなってきました。
「……いた」
 ラグヤがぼそっとつぶやきました。
「うわぁ」
 キトラはおもわずこえをあげてしました。
 ゆっくりあるくセイスモサウルスを、なんだいものパトカーがおいかけます。
 セイスモサウルスのなんとまぁ、おおきいこと、おおきいこと。
 このみちをいままでとおった、どんなくるまよりもおおきいにちがいありません。
 バキバキバキバキ!
 ふとくてがっしりしたあしが、またいちだい、じどうしゃをふみつぶしました。しっぽにふれて、どうろひょうしきがまがります。
「……まえより、おおきくみえる」
「すごいなぁ……」
「かんしんしてるばあいじゃねえべ! さっさとあなをつくるだ!」
「……そうか」
「そうだったね」
 キトラとラグヤは、ぜんそくりょくではしりだしました。
「ギリギリまでちかづいたら、くうかんをきりはじめるだ!」
「わかった、けど」
 キトラとラグヤは、はしります。
 はしります、けど。
「ひぃ、ふぅ、へぇ、はぁ……」
「……はぁ、はぁ、ほぅ、はぁ、ふぅ」
「なにやってるだ! まだおいついてもいないだ!」
「ま、まってよ!」
 キトラははしりながら、どなります。
 ゆっくりあるいているみたいですが、セイスモサウルスは、おもったいじょうにはやいのです。しかも、リンガをいれたバッグが、もちにくくてたまりません。
『そこのぼうやたち! とまりなさい! ちかづいたらあぶない!』
 パトカーから、こえがしました。
(うわあっ!)
「……ひみつきちで、さくせんをねりなおそう」
「うん」
「あっ、おい、どこいくだ!」
 キトラたちは、セイスモサウルスからはなれていきました。

「はぁ、はぁ……パトカー、おってきてないよね?」
 あるきながら、なんどかキトラはふりむきます。
「……だいじょうぶ、ボクたちをあいてにするひまはないみたい」
 ラグヤはしゃがみこんでいます。
「1しゅうするだけでも、タイヘンだんな」
 リンガのこえも、しょぼんとしています。
「どうしようか……」
「……けいかくをたてなおそう。ボクたちのあしじゃ、まわれない」
「じゃあ、おとなのひとにたのむしかないかなぁ」
 キトラたちが、ひみつきちのげんかんのドアをあけたとき。
 バタン!
「うわっ!?」
 めのまえに、スコップがたおれてきました。
「……あぶない」
(び、びっくりした。なんで、スコップのわながうごくんだ?)
「ん、キトラか?」
「そうだそうだ、キトラとラグヤだぞ!」
 ひみつきちのおくから、こえがしました。
「サリス、ノクタ!」
 おくのへやからでてきたのは、サリスとノクタでした。
「なんできみたちまで?」
「きょうりゅうをみにきたら、おまわりさんにおこられそうになってな。がははは」
「でもでも、おっきかったぞ!」

 リンガと、キトラたち4にんは、パトカーのいないどうろをえらんではしります。
「リンガをリレーするのかぁ」
 キトラはかんしんしたかおで、ラグヤをみます。
「……みじかいきょりなら、ぜんりょくではしれるから」
 すこしじまんげに、ラグヤはわらいます。
「かくにんするぞ。オレはセイスモサウルスのうしろはんぶんをはしる」
「うんうん、ノクタはひだりだぞ」
「……ボクはみぎ。そして」
 キトラはうなずきます。
「ぼくが、まえをよこぎる」
「だいじょうぶだか? キトラ、しっぱいしたらふみつぶされるかもしれないだぞ」
 リンガはしんぱいそうです。
「だ、だいじょうぶ。はしるきょりはみじかいんだから」
 そういいながら、キトラのしんぞうは、ドンガドンガあばれていました。
「それより、サリス、ノクタ、ありがとう。こんなたいへんなことに、てをかしてくれて」
「……ごめん」
「なにいってんだ、キトラ、ラグヤ。こんなおもしろそうなこと、なかまはずれにしたらそのほうがおこるぞ」
「そうだそうだ、おこるぞ」
 とおくに、こうそくどうろにまえをふさがれて、ほうこうをかえている、セイスモサウルスのおしりがみえてきました。
 キトラたちは、かおをみあわせうなずき、それぞれのばしょへ、はしっていきました。

 ちかみちをしたキトラたちは、セイスモサウルスを4つのほうこうからかこみます。
 うえからみて、セイスモサウルスのみぎまえがキトラ、ひだりまえがノクタ、ひだりうしろがサリス、みぎうしろがラグヤ。
 リンガのリレーは、ノクタからはじまって、サリス、ラグヤ、キトラのじゅんばんでひだりまわり。
 リンガのはいったバッグは、ノクタがかいぞうして、はしるのにじゃまにならないかたちになっています。
(いちについて)
 キトラは、セイスモサウルスのむこうがわのノクタにむけて――。
(ようい)
 てを、あげました。
(ドン!!)
 リンガをいれたバッグをせなかにかついで、ノクタがはしりだしました。
 キトラは、セイスモサウルスをみあげます。
 いえよりもおおきく、あたまのさきからしっぽのさきまで、ものすごいながさ。からだもやまみたいにおおきくて、あしおとは、じしんみたいにあたりをゆらします。
(これの、まえを、はしるのか)
 カチカチカチカチ……。
(あれ? なんのおとだろう?)
 ノクタがサリスにリンガをバトンタッチしました。
 サリスはものすごいスピードではしります。
 カチカチカチカチカチカチ……。
(やっぱり、サリスはすごいや)
 カチカチカチカチカチカチカチカチ……。
 セイスモサウルスのうしろと、よこはんぶんぐらいをいっきにはしりぬけ、サリスがラグヤにリンガをバトンタッチ。
(はやいはやい。ぼくたちひとりひとりだったら、ぜったいこんなにはやく、ながくはしれないよ。ラグヤすごいなぁ)
「……キトラ!」
 ラグヤがまえにたおれこむようにしながら、リンガのはいったバッグをキトラにわたしました。
 キトラはバッグをせおいます。
(すごくもちやすい。さすがノクタだ)
 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
 キトラは、はしりだそうとしました。
(あれ?)
 ところが、ぜんぜんすすみません。
 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
「……キトラ!!」
 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
(ぼく、ふるえてる)
 ふるえて、はがカチカチなっていました。からだじゅうがしんぞうにバクバクゆらされてるみたいで、あたまがきゅぅっとしめつけられるみたいにいたくなります。
 みあげるほどおおきなセイスモサウルスのあしが、すぐそばにあるのです。こわいなんてもんじゃありません。
(こんなにこわいこと、どうしてやるなんていったんだろう?)
 もう、いっぽも、はしれそうにありませんでした。
「キトラ、もう、ええだ」
 とおくで、リンガのこえがきこえたきがしました。
(ほら、リンガもいいっていってる)
 キトラのあしは。
(いいって)
 ――あしは。
「それは」
 キトラは。
「それじゃ、かっこわるいよ!」
 キトラは、ものすごいはやさで、はしりだしました。
 リンガのつくったきれめが、キトラのはしったとおりに、すぃっとのびていきます。
 セイスモサウルスのおおきないっぽが、キトラにせまります。
 でも、もうキトラはとまりませんでした。
 セイスモサウルスのましょうめんをはしりぬけ、さいしょにノクタのいたばしょへ。
 きれめは、つながりました。
 きれめのうちがわがあなになり、きょうりゅうのくににつながります。
 すると、まるでうみにおおきなふねがしずむみたいに、セイスモサウルスはあなのなかにきえていきました。
「はぁ、はぁはあ、や、やた、やった……」
 はしりおえたキトラのよこを、パトカーがとおりすぎていきました。

「いやー、つかれたー」
 ひみつきちにもどったキトラは、ゆかのうえにあおむけになります。
「……うん。でも、よかった」
 ラグヤも。
「そうだな」
 サリスも。
「うんうん、よかったぞ」
 ノクタも、ねっころがります。
「かってにいえをぬけだして、おかあさんにしかられるかなぁ」
「……それはしかたない」
「がはは、いつもおこられてるから、オレはなれっこだ」
「そうだそう……じゃ、ないな。ノクタはあんまりおこられないけど、まあいいぞ」
「ぷっ」
 キトラはちょっとおかしくてわらいます。
(あんなにこわいおもいをしたのに、いまはおかあさんにしかられるのがこわいなんて)
 キトラはからだをおこしました。
 きがつけば、みんなねむっていました。
「……リンガも、おつかれさま」
『なんてことないだ』
 ピカピカかがやいていたリンガは、なんだかくすんでいました。
「だ、だいじょうぶ? げんきなさそうだけど」
『せかいのさかいめをきるのは、つかれるだよ』
 リンガは、こえにもげんきがありませんでした。
「そうなんだ」
『しんぱいするこたぁねえだ。かえるあなぐらいは、つくられるだよ』
「もう、かえっちゃうの?」
『かってにせかいのさかいめをきっちまっただ。さっさとあやまりにいかないと、たいへんだべ?』
「やっぱり、わるいことなの?」
『そらそんだ。ま、ゲンさんか、ヤッコさんあたりに、こってりしぼられるべな。あはは』
 リンガはわらいました。
『――キトラ、オラをたててくれねえだか?』
「こう?」
 キトラは、リンガのきっさきをしたにして、ゆかにたてました。
『せわになっただ。みんな』
 きっさきのぶぶんに、ちいさいちいさいあながあきました。
 リンガは、まっすぐにしずんでいきました。
「リンガ、またあおうね?」
『んだな。いつか、どっかで……』
 リンガはきえ、そのちいさなちいさなあなも、きえました。あとにはもう、なにものこっていませんでした。
 キトラたちのきおくのほかには。

【おしまい】