キトラの冒険
作:ごんぱち
その10『のろいのけん ぜんぺん』

 くらい、ながい、せまい、どうくつでした。
「うひゃっ!」
 えりくびに、しずくがおちて、キトラはおもわずこえをあげます。
「どうしたキトラ!」
 まえをあるいていたカメのゲンさんが、ふりむきました。どういうしかけなのか、ゲンさんのコウラはライトみたいにひかって、まわりをてらしています。
「あ、いや、くびに、みずがおちただけだよ」
「なんでぇ、おどろかすなぃ! がははは」
 がははははははは。
 がははははは。
 がははは。
 がは……。
 ゲンさんのわらいごえが、どうくついっぱいにひびきわたります。
「えへへ」
 えへへへへへへへ。
 えへへへへへ。
 えへへへ。
 えへ……。
 キトラのわらいごえも、ひびきました。
 それからふたりは、またどうくつをあるきはじめました。
 10ぷんほどあるいたあと。
「キトラ、あっちみてみな」
「え? うわっ!」
 にじいろのスイショウが、ならんでいました。
 おおきいの、ちいさいの、ちゅうぐらいの、すなつぶみたいなの、はしらみたいなの。
 ぜんぶが、きらきらにじいろにかがやいています。
「すごい……」
「だろう」
「カソがすきそうだね」
「ああ、あいつはなんどももってかえった」
「やっぱり」
「でも、そとにでると、ただのスイショウなんだ、これが」
「へぇ、そうなんだ?」
「ひかりのぐあいらしいんだがな」
「それじゃ、ここにあったほうがスイショウもうれしいだろうね」
「ただのスイショウはどこにいっても、いつになってもスイショウだとおもうけどな?」
「そんなことないって」
 キトラとゲンさんは、どうくつのおくへとあるきます。
 と。
 ちゃぷ。
「うわっ! つめたい!」
 キトラはあわててあしをひっこめます。
 ふときづくと、めのまえにおおきなみずうみがありました。
 どうくつはおくへいけばいくほどひろくなっているみたいで、みずうみのむこうがわはみえません。
「こんなにひろいみずうみがあるんだ……」
「おうよ。これで、どうくつたんけんのしゅうてんってなもんだ」
「ふうん。ありがとう、ゲンさん、おもしろかったよ」
 キトラがおれいをいって、かえろうとしたときです。
 あしもとのぬれたいしが。
 つるっ。
 ばっっしゃああああああん!
 ばっしゃあああああん!
 ばしゃああああん!
 ばしゃあああん!
 しゃあああん!
 ゃあああん!
 あああん!
 あぁん!
 ぁん!
 ……きりたいー。
「つめたいぃぃぃぃぃぃぃ!」
 つめたぃぃぃぃぃぃ!
 つめたぃぃぃ!
 つめたぃ!
 めたぃ!
 ぃぃ!
 ……だれかくるだー。
「おいおい、だいじょうぶかキトラ!」
「だ、だいじょうぶ」
 びっしょりぬれたおしりをさすりながら、キトラはたちあがりました。
「それより、なんかおくのほうから、こえ、しなかった?」
「こえ?」
「きりたい、とか。だれかこい、とか」
「がはははははは、まさか!」
 がははははは、まさか!
 がははは、まさか!
 はは、まさか!
 さか!
 ……ちを、よこすだー。
「うわっ、ほんとうにしやがった!」
「だれかいるよ、たすけなきゃ!」
「よし、キトラ、のりな」
「うん」
 キトラをコウラにのせ、ゲンさんはみずうみをおよぎだしました。

 ひろいひろいみずうみでした。
 みずはスイショウみたいにきれいで、こおりみたいにつめたくて、かがみみたいにたいらです。
 ただ、ゲンさんがおよぐなみだけが、どこまでもひろがっていきます。
「ゲンさん、つめたくない?」
「ゲンブのゲンさんにゃ、このぐらいへでもねえって」
「……ほんとうは?」
「ちょっとつめたい――って、なにいわせやがんでぃ!」
 いわせやがんでぃ!
 せやがんでぃ!
 がんでぃ!
 でぃ!
 ……いのちよこせー。
「なんか、へんなことばっかりいってるみたいな……」
「すごくつらいんじゃねえか? いそごう!」

 1じかんほどすすんだあと、ようやくむこうぎしにとうちゃくしました。
「……うー、うごかないじめんだ」
 キトラはゲンさんからおります。
「のりものによわいな、キトラ」
 ゲンさんも、みずからあがります。
「――あれ?」
 キトラは、あたりをみまわします。
 いきどまりです。
 そして、キトラとゲンさんいがい、だれもいません。
「みょうだな?」
 ゲンさんが、くびをかしげます。
「だれかがいたのは、たしかみたいだよ」
 キトラは、いわにつきささっているみじかいけんをひきぬきました。けんは、とってもきれいでした。
『おお、よくきただな』
 どこからか、みょうなこえがしました。
「え?」
「すがたがみえねえなぁ」
 キトラとゲンさんはキョロキョロします。
『ここだ、ここ!』
「ひょっとしたらゆうれいか?」
「まさか、そんなのが」
『ここだ、っつーに』
「だよなぁ。ゆうれいはキトラのせかいのいきものだし」
『こらああああああ!』
「おわっ」
「うわっ!」
 キトラはおどろいて、けんをおとしました。
 かしゃん!
『いたっ、いたた、なにするだ!』
「ねえ、ゲン、さん?」
 じめんにころがったけんを、キトラはみます。
「それ、しゃべらなかった?」
「どうも、そういうことらしいな」
 ゲンさんはなぜか、こわいかおをしました。
『やっときづいただな、オラはリンガってなまえで――』
「キトラ、そのけんいわにもどしとけ」
『そ、そそ、そっただこど!』
「え? いいの?」
『いいわけねえべ! これからおまんをあやつって、いちまんのいのちをうばわなきゃいけねえだよ! そうして、いちにんまえののろいのけんになるだよ!』
「いちまんにんを、ころす?」
「こいつはのろいのけんだ」
 ゲンさんはけんのリンガをにらみます。
「ぜったいにこわれないし、さびないし、きれないものはない。でも、もっているといきものをきらずにはいられなくなる、おそろしいけんだ」
「べつに、なにもきりたくならないけど」
 リンガのヤイバが、ギラリとひかります。
 いわにささっていたというのに、おれてもいないし、かけてもいないし、さびてもいません。
「……どうやら、まだつくられたばかりの、よわいけんみたいだが、あぶないことにはちがいねぇ。さ、いわにもどすんだ」
『ま、まつだよ!』
 リンガがあわててさけびます。
『オラはべんりだ、ぜったいだ、そんはさせねえだ』
「どうべんりなの?」
「キトラ、はなしをきくな!」
『おまんのきにいらないやつ、だれでもきりころしてやるだ』
 ギラリとリンガがひかります。
「そ、そんなひといないよ! だいたい、きったらいたいよ!」
『そげなこといわねえで! いちまんのいのちをうばったら、なんでもきれるようになるだ。いえのかべだって、くうきだって、せかいのさかいめだって、なんだってきりさけるだ!』
「そんなあぶないもの、もっていられないよ」
『たのむだ、おねがいしますだ! オラぁ、 オラぁうまれてすぐに、しっぱいだっていわれて、ここにふういんされて、もうきりたくってしかたないだ! おまんだって、メシくわなきゃハラへるべ? シュミやらなきゃストレスたまるべ? どうくつのおくにとじこめられてたらブルーになるべ?』
 ぽかっ。
 ゲンさんがリンガをたたきました。
「わかったろ、キトラ? こんなけん、ロクなもんじゃねぇ。ただただあぶないだけだ」
「でも……」
『たのむだよー、たのむだよー!』
 リンガは、なみだをながしながら(たぶん、めがあったなら)さわぎます。
 キトラはそのようすに、なんだかリンガがかわいそうになってきました。
「ねえ、リンガ?」
『なんだべ?』
「いちまんのいのち――って、いったよね?」
『んだ』

「――おおっ、これはよくきれますね!」
 りょうりにんをやっている、ひねずみのカソが、おおきなサカナをきります。
 どうくつからもどったキトラとゲンさんは、りょうりやさんにいました。
「おまえ、なんでもやるな……」
 ゲンさんは、カソのてもとをしんぱいそうにみます。
「どうリンガ?」
 キトラがたずねます。
『ああ、ええだ、ええだ! すばらしいだ!』
 カソのての、ほうちょうがわりのリンガが、よろこびのこえをあげていました。
「はい、おさしみ、おまちどうさま」
 カソが、ゲンさんにおさしみをだします。
「たしかにほうちょうなら、まいにちいのちをうばうけど……」
 ゲンさんはむずかしいかおで、おさしみをみます。
「のろいのけんできったとおもうと、なんだかなぁ」
「ゲンさん」
 キトラはおさしみをとります。
「おさしみをきったんだから、リンガはのろいのけんじゃなくて、ほうちょうなんだよ」
「そういうもんかねぇ」
「――あげだしどうふおまちどうさま」
『またせただ!』
 ほうちょうのリンガは、とってもうれしそうにキラリとひかりました。

【おしまい】