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キトラの冒険
作:ごんぱち
その9『かたいたたたたたき』
トン、トン、トン、トン。
キトラは、おかあさんのアスタさんのかたをたたいています。
「あー、きもちいい。そこそこ」
おかあさんは、まんぞくそうにためいきをついています。
「うまいわね、キトラ」
「えへへ」
おかあさんがうれしそうだと、なんだかキトラもつられてうれしくなってきます。いえ、おかあさんじゃなくても、うれしそうなひとをみると、きぶんがいいものです。
トン、トン、トン、タン。
(でも)
キトラはくびをかしげます。
「ねえ、おかあさん」
トン、タン、トン、タン。
「なあに?」
「どうして、たたいてるのにきもちいいの?」
「おとなになったらわかるわよ――あら」
おかあさんは、たちあがります。
となりのへやでねむっていた、キトラのいもうとのタウラが、ベッドのさくをよじのぼろうとしていました。
「ありがとね、キトラ。もういいわ」
おかあさんは、タウラのほうへいってしまいました。
「おとな……」
ひとりのこされたキトラはつぶやきました。
「……おとな、かぁ」
つぎのひ、キトラはようちえんにきていました。
「ねえ、ラグヤ?」
じゅうたんのうえで、つみきのおしろをつくっていたキトラは、ラグヤにこえをかけます。
「……なに?」
ブロックでひこうきをつくっていたラグヤは、てをとめました。
「かたって、たたくときもちいいのかな?」
「……おとうさんは、そういう」
「そうじゃなくて、ぼくたちのこと」
「……ダメだとおもう。かたこってないし」
「うーん。こるってどういうことかなぁ」
「……さあ?」
キトラはすこしかんがえてから、いいました。
「ねえラグヤ、ちょっとたたいてみてよ。ぼくのかた」
「……え?」
「ためしてみたいんだ」
「……たぶん、いたいよ」
「そのたぶん、をためしてみたいんだよ」
キトラはラグヤに、かたをむけました。
「……いいの?」
「いいってば」
「……じゃ」
ラグヤはてをふりあげました。
ドン、ドン、ドン!!
「い、いた、いたい、いたい!」
どんがどんがかたをたたかれ、キトラのあたまはグラグラして、かたがジンジンいたみます。
「……どう?」
「も、もっとやさしくたたいてよ!」
「……なんだ、そうか」
トン、トン、トン、トン。
ラグヤはさっきよりずっとやさしくたたきます。でも、やっぱり、かたにラグヤのてがめりこんで、いたいのなんの。
(ダメだ。やっぱり、いたいだけだ!)
キトラがラグヤにやめさせようとしたときです。
「キトラ、なにやってんだ!」
おおきなこえがしました。
ふりむくと、こえとおんなじぐらいおおきな、サリスです。
「そうだそうだ、なにやってるんだ」
そして、サリスにかくれるようにして、ちいさいノクタもいました。
「ええとね」
「わっ、キトラ、おまえかたたたいてもらってるのか? かたもこってないくせに、バカだな」
「そうだ、バカだな」
サリスとノクタにわらわれ、キトラのあたまに、かっとちがのぼりました。
そして。
「サリスたちは、こらないの? こどもだなぁ」
――こころにもないことを、いってしまいました。
「な、なんだと、オレだって!」
まけずにサリスも、いいかえしてしまいました。
「かたぐらいこるぞ!」
「そうだ、こるぞ――え?」
サリスは、どっかりとゆかのうえにすわりました。
「おうノクタ、ちょうどかたがこったところだ、たたいてくれ!」
ラグヤが、キトラのかたをたたきます。
トン、トン、トン、トン。
(いたい、いたい、いたい、いたい)
「ははは、きもちいいよ、ラグヤ」
キトラは、むりやりわらいます。
「ノクタ、オレはかたがすごくこってるから、ずっとつよくたたいてくれ」
「たたくぞ……でも、いいのか? おこらないか?」
「おこるわけないだろ」
「よし」
ノクタがサリスのかたをたたきます。
ドン、ドン、ドン、ドン。
サリスのめのあいだに、しわがよっています。
「が、ははは。きもちいい、きもちいい。うまいな、ノクタ」
(サリスめぇー)
キトラはぐっとかたにちからをいれます。
「ラグヤ、もっともっとつよくおねがい!」
「……いいの?」
「つ・よ・く、お・ね・が・い!」
あきらめたように、ラグヤがキトラのかたをたたきます。
ダン、ダン、ダン、ダン!
(い、い、いた、いたたたた!)
キトラはおもわずこえをあげそうになりましたが、ぐっとこらえました。
「ノクタ、キトラたちにまけるな」
「うん……まあ、まけないぞ」
バン、バン、バン、バン!!
たたかれているあいだ、サリスはぐっとくちをとじて、めをつぶっています。
「ん、いい。すごく、いいぞ。ははは……」
サリスのめは、なんだかあかくなっています。
「なんの、ラグヤ!」
ズン、ズン、ズン、ズン!!!
「ノクタ!」
ディン、ディン、ディン、ディン!!!!
「ラ、ラグ、ヤ、そのつみきで――」
「……いいかげんやめるんだ」
ラグヤはてをさすりながら、いいました。
「そ、そうだ、やめたほうがいいぞ」
ノクタもサリスのかたをしんぱいそうにみています。
「いや、でもラグヤ」
「そうだぞ、ノクタ」
キトラとサリスは、あわててふたりをひきとめようとします。
「……どうしてもやりたければ、ふたりでやれば」
「ほんとうは、いたそうだぞ、いたいのイヤだぞ」
ふたりにいわれ、キトラとサリスはかおをみあわせました。
「ま、まあ、ラグヤがそういうなら」
「ノクタがそうまでいうんなら」
そのひのばん、ようちえんからかえったキトラは、おかあさんのアスタさんとおふろにはいります。
「あらあらまあまあまあ!」
キトラがふくをぬぐと、おかあさんはおおきなこえをだしました。
「キトラ、かたにあざができてるじゃない? どうしたの?」
「え? あっ――いや、その、ちょっと、あそんでて」
キトラは、あわててこたえました。
まあ、ウソではありません。
「そうなの? まあ、ちょっとぐらいのキズはいいけど、ケガはしないようにするのよ?」
「わかってるって」
キトラは、いそいそとゆぶねにはいりました。
(い、いたたた。かた、いたたたた。おゆがしみる……)
おかあさんも、からだをさっとあらってから、ゆぶねにはいります。
「ふぅ」
おかあさんは、まんぞくそうにためいきをついています。
「ねえ、おかあさん?」
「なあに?」
「かた、たたこうか?」
「いまは、いいわ」
「――え?」
「いまは、こってないから」
「おとなって、かたがこるんじゃないの?」
キトラはおどろいてききました。
「こらないときのほうが、おおいのよ」
ちょっとうれしそうに、おかあさんはわらいます。
「とくにワタシは、ナラキさんが、いっぱいたすけてくれるしね」
「え、おとうさん?」
「かたこりはね、うんどうしなかったり、おしごとがたいへんだったりするとおきるの」
「それじゃあ、こってないときにかたをたたいたら――」
「おとなだって、いたいわよ」
おかあさんはわらいました。
「かたがこらないのは、むちゃながんばりなんかしないで、げんきにいきてるしょうこ。これ、ワタシのじまんかな」
(そっか)
キトラはじぶんのかたを、そっとさすります。
(こってなくていいんだ。がまんしてたたくこと、ないんだ)
なんだかうれしくなって、キトラはおかあさんのかたにつかまりました。
とってもやわらかい、かたでした。
【おしまい】