キトラの冒険
作:ごんぱち
その7『すなばのけっとう』

 そのひのごご、キトラたちトゲナシサボテンぐみのみんなは、ようちえんのすなばであそんでいました。
 あっちではトンネルをつくっています。こっちではひとのかたちをつくっています。そしてそっちでは、ただただあなをほっています。すなばそっちのけで、はしりまわっているこもいます。
 ざっく。
 ざっく。
 キトラはというと、シャベルをつかって、バケツにすなをいれていました。
 ざっく。
「キトラくん、なにをやってるの?」
 ジニアスせんせいがこえをかけます。
 せのたかくて、がっしりした、おとこのせんせいです。
 キトラはすなをいっぱいいれたバケツをもちあげ――。
 がばっ!
 すなをこぼさないように、すばやくひっくりかえしました。
 それからそうっとバケツをとると。
「ほら!」
 バケツのまるいかたちそのままに、すなのかたまりができました。
「ああ、すなのやまだね?」
「うん。きれいでしょ?」
「なるほど。ただすなをもりあげるよりも、きれいだ。よくかんがえたね」
 それだけいうと、せんせいはキトラのそばからはなれました。
(ふふふ)
 キトラがすなのひょうめんを、そっとなでて、まんぞくげにわらったとき。
 どさっ。
「よーし、これで3つめ!」
 すこしはなれたばしょで、サリスがおなじようにすなのかたまりをつくっていました。しかも3つをぴったりとくっつけて。
 サリスは、キトラのほうをみてにんまりわらいました。

 ざく!
 ざく!
 キトラはシャベルでバケツにすなをどんどんいれます。
(これはちょうせんだ)
 サリスはなにもいいませんでした。でも、キトラにはわかっていました。
『どっちがたかいやまをつくれるか、しょうぶだ!』
 サリスは、そういっているのです。
 ちょうせんは、うけなければなりません。そうでなければ、たたかわないでまけたことになります。
(けっとうだ、バトルだ!)
 いままさに、くもりぞらのした、たたかいははじまったのです。
 どさっ!
 ふたつめ。
(サリスなんかにまけられないよ!)
 キトラはすなをざくざくほって、バケツにいれます。
 サリスはからだもおおきいし、ちからもあります。でも。
(すなのやまづくりは、そんなことだけじゃきまらないん、だ、よっ!)
 ざく。
 ざく。
 キトラは、うえのほうのすなをえらんですくいます。すなばは、したのほうにいけばいくほど、たくなってほりにくいからです。
 どささっ!
 あっというまに、3つめのすなのかたまりができました。すごいスピードです。
(どうだい!)
 キトラがじまんげにサリスをみます。
 ところが、サリスはすでにバケツにすなをいれおわっていました。サリスのちからだと、すなのかたさなんて、かんけいないみたいです。
 どさっ!
 サリスのやまは4つめ。またキトラがおくれてしまいました。
(くっ、このままじゃ、どんどんさがひらいちゃう――!)
 そのときキトラは、すなばのすみっこに、だれもつかっていないシャベルがあるのにきづきました。
(よおし!)
 キトラは、2ほんのシャベルをどうじにつかいはじめました。シャベルのにとうりゅうです。
ざくっ!
 ざくっ!
 ざくっ!
 どんどんすながバケツにたまっていきます。
 キトラは、すながたまったバケツを、もちあげて――。
 どさっ!
 とうとうこれで、サリスとおなじになりました。

(へへん、どうだい)
 ですが、キトラにとくいになっているひまは、ありませんでした。
 サリスがすかさず、ちかくにいたノクタからシャベルをかり、キトラとおなじ、にとうりゅうをはじめたのです。
(まねするなんて、ずるい!)
 ざくざくざくざくざくざくざくざく。
 ちからのあるサリスは、シャベルいっぱいにすなをすくいます。
 このままでは、キトラにかちめはありません。
「……キトラ、てつだおうか?」
 そばでみていた、ともだちのラグヤがこえをかけます。
(どうしよう?)
 ふたりがかりなら、かてるにちがいありません
(サリスはぼくのまねをして、ずるいからこれぐらい)
 でも、キトラはくびをよこにふりました。
(いや、ちがう。サリスがさきににとうりゅうをおもいついてたら、ぼくだってまねしたはずだ)
「……キトラ?」
「ひとりでやるよ。ラグヤにてつだってもらったら、ぼくひとりじゃかなわないっていってるのとおなじだもん」
「……そう。じゃ、がんばれ」
 キトラはいままでどおり、シャベルをりょうてでもって、にとうりゅうですなをすくいます。
 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ!
「よしっ!」
 どさっ!
 キトラはバケツのすなをあけます。
 5つめ。
 でも、ラグヤはもう6つめのすなのかたまりをつくっています。
(そろそろ、うえにのばそう)
 どだいは、すなのやまを5つをあわせたもの。このうえに3つ、1つとのせれば、3だんのやまになります。
 サリスも、いままでの6つをどだいにして、やまをつくろうとしています。
 このしょうぶ、よりたかいほうが、かち。
(すなつぶ1つでもいい、サリスよりたかく!)
 キトラは、ひっしにバケツにすなをいれました。

「はぁ、ふぅ、ひぃ……」
 キトラのすなのどだいのうえに、2だんめがつみかさなります。
 これでバケツに6ぱいめのすなです。
 キトラのうでは、もうクタクタでした。
 くもりぞらで、さむいぐらいでしたが、キトラのかおはもうまっかで、からだじゅうからあせがふきだします。
 サリスのほうも、あせびっしょりで8はいめのすなを2だんめにつんでいます。
「ふぅ、ふぅ……」
「どうしたの、キトラくん、サリスくん?」
 せんせいが、しんぱいそうなかおをして、やってきました。
「すなのやま? なかよくつくったら? そのほうが、ずぅっとおおきいのができるよ」
 みんな、なかよく。
 それがだいじなのは、キトラもしっています。
 でも、いっしょにやることだけが、なかよしってわけじゃ、ありません。
 おなじになることが、ともだちってことじゃ、ないのです。
 おおきいやまをつくることそのものが、うれしいわけじゃ、ないのです。
「けんかしないで、いっしょにさ」
「……けんかじゃ……ないよ」
 キトラはそれだけいって、またバケツにすなをいれました。

 5つのすなのかたまりうえに、3つのすなのかたまり。
 とうとう、キトラが2だんめをつくりおえました。
 ラグヤのほうも、2だんめがかんせいです。6つのすなのかたまりのうえに、4つのすなのかたまり。キトラよりも、2だんめがひろくなっています。
(さいごの1だん!)
 キトラはバケツにすなをつめます。
 サリスもつめています。
 キトラはバケツにぎゅうぎゅうすなをつめます。できるだけかたくなるようにつめます。
 キトラのすなのやまは、サリスのものよりちいさいのです。いちばんうえのだんも、ちいさくなります。だから、いちばんうえのだんは、さらにすながつめるように、じょうぶにつくらなければなりません。
 ざっく、ざっく、ざっく、ざっく……。
 キトラのバケツに、すながやまもりになりました。
「えい、えいっ!」
 キトラはそのすなを、バケツにおしこみます。
 ぎゅぅ、ぎゅぅ、ぎゅう、ぎゅぅ。
(かたくするんだ、すごく、カチコチに、いしみたいに)
 やまもりだったすなは、おしかためられて、バケツにすきまができました。キトラはさらにすなをいれます。
 ざっく、ざっく、ざっく。
 ぎゅう、ぎゅぅ、ぎゅう。
 ざっく、ざっく、ざっく、ざっく。
 ぎゅぅ、ぎゅぅ、ぎゅっ!
 ざっく。
 ぎゅ。
 ざっく。
 ぎゅ。ぎゅぎゅぎゅっぎゅっ!
(よし!)
 バケツのすなは、これいじょうないぐらいにぎゅうぎゅうにつまりました。
 キトラはバケツをもちあげて、さいごのいちだんをかんせいさせようとします。
 ところが。
(あ、あれ?)
 バケツがもちあがりません。
(あれれれ?)
 むりもありません。
 キトラのうではもうクタクタのヘロヘロで、そのうえバケツには、いままでの2ばいもすながつまっておもたくなっていたのですから。
「むきーーーーー!」
 キトラはおもいきりちからをいれます。
「えええいいっ!」
 からだじゅうのちからをつかって、ようやくバケツがもちあがりました。
 キトラはバケツにふりまわされるようにして、よたよたとすなのやまにちかづきます。
 そしてさいごの1だん。
「お、おもいーー!」
 2だんめの、さらにうえに、すなのつまったおもたいバケツをもちあげるのです。もってあるくのもたいへんなバケツを、たかくたかくもちあげるのです。
「ぎぎぎぎ!」
 キトラははをくいしばって、バケツをもちあげて、ひっくりかえし――ました。
 どさっ!
 バケツは、ひっくりかえりました。
 キトラも、ひっくりかえりました。
 すなは、やまのうえにおちました。
 キトラも、やまのうえにたおれました。

「うぇっ、ぺっ、ぺっ、ぺっ!」
 キトラはおきあがると、くちのなかにはいったすなをはきだします。
 すなのやまは、くっきりキトラのかたちにへこんでいました。だいなしです。
「あああああ……」
 キトラは、すなだらけのかおのままで、すわりこんでしまいました。
「わああああっ!」
 サリスのさけびごえがしました。
 ふとみると、サリスのすなのやまが、くずれていました。おおいそぎでつくったやまは、かためかたがゆるかったせいで、いちばんうえのだんのおもさにたえられなかったのです。
「あーあ……」
「ひぃ……」
 ふたりは、そのばであおむけになりました。もうクタクタで、ゆびいっぽんうごきませんでした。
 キトラとサリスは、ねころんだまま、くもりぞらをみていました。
 すると。
 ぽつり。
 ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ。
 あめが、ふってきました。
 あつくなったかおを、うでを、おなかを、あしを、つめたいあめがさまします。
「つめたくて、きもちいい」
 キトラはつぶやきました。
「そうだな」
 サリスがいいました。
 あめのつぶといっしょに、つかれまでながれおちるみたいでした。
「――ふたりとも、さっさとなかにはいりなさーい!」
 とおくで、せんせいのこえがしました。
「もうちょっと、ねてる」
「ほっといてくれ」
「なにいってるの! ほらほら、はいったはいった!」

 おおきなおとをたてて、あめがふります。
 きのはっぱをたたき、くさをたたき、ようちえんのやねをたたきます。
 キトラたちがつくったやまも、あめがたいらにしていきます。
「あしたには、すっかりなくなっちゃうね」
 キトラが、まどからすなばをながめながら、いいます。
「そうだな」
 サリスはわらいました。
「なんにものこらないな」
「やま、かんせいしなかったね」
「そうだな」
 キトラとサリスは、かおをみあわせると、おおきなこえでわらいました。
 あめはどんどんつよくなっていきます。
 すなばには、もうなぁんにも、のこっていませんでした。

【おしまい】