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キトラの冒険
作:ごんぱち
その6『バースディ・パーティー』
そのひも、キトラはゆめのせかいにきていました。
「さぁ、どうぞ」
ひねずみのカソが、ティーカップをキトラにさしだします。
「あ、ありがとう」
キトラは、おしりをもぞもぞとうごかします。
「だいじょうぶです。きょうはおねがいがあるのですよ」
「おねがいって、いわれても……」
「そうですか」
カソはがっくりとかたをおとしました。
「しんようされないのはむりありません。せんのことばをならべても、キトラ、あなたのよわみにつけこんで、だんろいろのはなをてにいれた、あのじじつはかわりますまい。ならば、わたしをぶってください、たたいてください。きがすむまでぶったら、そのあとにわずかでもかまいません、てをかしてください」
カソはなみだをうかべ、あたまをさしだします。
「さあ、ガツンといっぱつ、いや、にどでもさんどでも、わたしのあたまがわれるまで、けっぱくなこころのなかがみえるまで!」
「ぶ、そ、そんなにぶたないって」
「ですが、ねがいをきいていただくためには!」
「わかった、わかったって。ぶたないでもきくから」
「ほんとうですか?」
「ほんと、ほんと!」
「そうですか」
にまぁっとカソはわらうと――。
「カメのゲンさんのたんじょうびがらいしゅうなんです。わたしがまかされているのは、ゲンさんのれいふくをちゅうもんすること、ケーキをかいにいくこと、スピーチをスーさんにおねがいしにいくことです」
いままでのなみだがウソだったかのように、てきぱきとしじをしました。
「ひきうけたいじょう、きちんとしごとをしてもらいますからね! くちやくそくでもけいやくです。けいやくいはんは、いやくきんをはらわなければなりません」
(なんか、またうまくのせられたきがする……)
キトラとカソは、うみぞいのみちをはしっています。
うみぞいのみちは、すんだなみのおとがおんがくのようにひびき、こまかいみずしぶきをふくんだかぜが、やさしくキトラたちのほほをなでていきます。
うみはたいようのひかりをうけて、なないろにかがやいています。とおくのほうで、おおきな、おおきなさかながはねていました。
「きれいだなぁ……」
「そうでしょう。このうみは、てんかい――いやいや――ゆめのせかいで、いちばんきれいなところなのですよ」
「ふうん」
なんだかしおかぜをすっていると、どんどんげんきになっていきます。
「おまけにマイナスイオンがでていますから、ストレスかいしょうにもってこい。わたしもときどきくるんですよ」
カソのながいヒゲと、カソじまんの、しろいもえないせびろのすそが、しおかぜになびきました。
(……へえ、カソってそんなこともするんだ)
「さあさあ、したてやさんへいそぎましょう!」
「とうちゃく!」
かいがんのいちばんはしっこにある、ちいさないえのまえで、キトラとカソはあしをとめました。
「ヘイ! ヘイのダンナ!」
カソがどなりますが、へんじがありません。
「るすなの?」
「ちょっとあけてみてください」
「ドロボウとまちがえられない?」
「このせかいに、ひとのものをほしがるひとなんていません……なんですか、そのめは」
「ぶぇーつにぃ」
「はいはい、ぬすんでまでほしがるひとはいません。これでいいですね。わかったら、ほら、ドアをあけてください」
「はーい」
キトラはドアノブにてをかけます。ドアは、みためはボロボロでしたが、あんがいていれがよく、おともたてずにひらきました。
「こんにちは……」
「あ? なんじゃい」
こえといっしょに。
ドアいっぱいに、かおがあらわれました。
「わああああっ!」
おもいきりおどろいたキトラは、ひっくりかえってしまいました。
『あのかおはあんまりちかくでみるとびっくりするんですよねぇ。キトラにきてもらってほんとうによかった』
カソはつぶやいてから、キトラをたすけおこします。
「だいじょうぶですか? キトラさん」
「か、かお、かおが!」
「なんじゃい、しっけいな」
ヘイは、よこになってドアからぞわぞわでてきました。
ヘイはおおきなカニでした。せかなにさっきのおおきなかおがうきでています。
「ヘイケガニのヘイのダンナですよ」
「カソか。あいかわらずわるだくみしていそうじゃな」
「いやいや、これはてきびしい」
「それでそっちのちっこいのは?」
「あ、はい、キトラです」
キトラはあわててあたまをさげました。
「なんのようじゃい」
「ヘイのダンナに、またゲンさんのれいふくをつくってほしいんです」
カソがいいました。
「ゲンさんか。ええと、234532さいじゃったかな?」
「はは、まちがえたらおこられますよ。ことしで234531さいです」
(ええっ?)
キトラはゆびをおってかぞえます。
(ゲンさんって、そんなにとしとってたんだ?)
「これがゲンさんのサイズで――」
カソがメモをわたそうとします。
「ムリじゃな」
「えっ、どうして?」
キトラがおもわずこえをあげます。
「ゲンさんはカメじゃ。カメのからだはコウラがあって、かなりとくしゅじゃからなぁ。ほんにんがいなければできん」
「ゲンさんほんにん、ですか?」
(ゲンさんがここまでくるのをまってたら、たんじょうびがおわっちゃうよ)
キトラはあわてます。
「だったら、ヘイさんがきてよ、ゲンさんよりはあしがはやいでしょ?」
「じょうだんじゃないわい。ワシだってほかにもちゅうもんをうけとるんじゃ。そんなにいえはあけられん」
「ケチ!」
「まあまあ」
カソが、キトラとヘイのあいだにわってはいりました。
「ようするに、ゲンさんとおなじかたちのものがあればいいんですよね」
カソはぴょいととびあがると――キトラのせなかにおぶさりました。
「わっ、わわ!?」
「ほらほら、じっとしていてください」
おどろくキトラにおかまいなしで、カソはまるくなります。まるくなったカソをせおったキトラのすがたは、カメそっくり。
「このまえきづいたんですけどね、キトラとわたしがこうやると、ゲンさんとおんなじおおきさなんですよ」
「おお、おお、これはすばらしい。よかろう、はからせてもらうぞ」
しゃきんっ!
ヘイはまきじゃくをとりだすと、キトラとカソのしゅうごうたいをはかりはじめました。
「ふむ、しんちょうはこれぐらい……」
「く、くすぐったいよぉ!」
「だまっとれ! むねまわりがこれだけ。コウラはかたいから、もうすこしきつくてもだいじょうぶじゃな」
「そんな、に、しめ、ないでよ、くるしぃぃぃぃぃ!」
「それから、こしまわり……なにをはらをへこませとるんじゃい。ほら、ゆるめんかぃ」
「わわわっ、おなか、を、ゆるめるとぉ!」
ひっしにカソのおもさをささえていたキトラが、おなかのちからをぬいたとたん。
ばたん!
「わわわわわ、な、なにをする! おもい、おもい、どくんじゃ!!」
ヘイのうえに、ばったりたおれてしまいました。
「ご、ごめん」
「これはしっけい」
キトラとカソはたちあがりました。
「い、いたたた、しっかりたっとらんかい! さあつづきじゃ」
「いやだよ、もう。カソっておもいんだよ!」
「しっけいな、わたしはこのなつで3キロもやせたんですよ」
「そんなのしらないよ!」
「しかたないのぉ」
ヘイは、キトラとカソのおもさでへこんだせなかのカラを、ぼんとたたきなおしました。
「じゃあ、しゃしんをとるから、1ぷんだけさっきのかっこうをするんじゃ」
「しゃしんでできるの?」
「あたりまえじゃ。ワシはこのきんじょでいちばんのしたてやじゃぞ」
「ああよかった――って、できるならさいしょからやってよ!!」
「まきじゃくではかったほうが、かんじがでるじゃろう?」
「あんたのこだわりなんかしらないよ!」
とびかういと、きりきざまれるぬの、きらめくはさみ、つきとおすハリ、おやつのココナツ、おどるかたがみ、やりなおすヘイ、はじけるボタン、なきわかれのジッパー。
めにもとまらないようなはやわざで、ゲンさんのれいふくができあがっていきます。
「……なんか、かんけいないものとか、しっぱいも、みえたきがするんだけど」
「キトラ、タイミングをはずしたツッコミは、ただのいやがらせですよ」
「そういうフォローも、どうかとおもうんだけど……」
――ともかく、ヘイのしごとはあざやかでした。なにより、カニのハサミは、そのままじょうとうなぬのきりばさみになっていて、じつによくうごきます。
「よし、できた!!」
「わあっ、すごい!」
「おや、できましたか」
「ほれ、みるんじゃ!」
ヘイはできあがったれいふくをりょうてでしっかりともって、みせました――そう、ハサミのりょうてで。
じょきん。
「あ」
「あっ」
「あ……」
れいふくは、まっぷたつにきれてしまいました。いうまでもありませんが、ハサミでものをもとうとしてはいけません。
「い、いや、べつにだいじょうぶじゃ、だいじょうぶ。こうこうこうやってぬいあわせれば――」
「わー、すごーい……」
「きれめはみえなくなりましたね」
「そうじゃろ、そうじゃろ……ちょっと、やぶれやすくなっとるが、だいじょうぶ、これをきたままぜんりょくではしったりしないかぎり、だいじょぶうじゃ」
ヘイは、れいふくをはこにつめると、きれいなリボンをかけました。
「……ありがとう」
「ありがとうございました、だいきんです」
れいふくをもって、キトラとカソはおかしやにむかいます。
キトラたちが、もりのなかにあるおかしやについたのは、つぎのひのあさでした。
「――へい、できてますぜ」
カソとキトラのかおをみるなり、おかしやのアリは、おおきなはこをもってきました。
はこはとてもおおきく、キトラたちがみあげるほどです。
「はいたつもしやすんで、ごしんぱいなく――どうなさったんで、ぼっちゃん?」
「いや、なんのトラブルもないんだな、とおもって」
「コツコツかくじつしつじつごうけんが、わがパティシエ・クロヤマのモットーでがす」
アリはむねをはります。
「ことしもゲンさんのたんじょうびだとおもいやしてね、おととしからつくっておいたんでさぁ」
「おととし?」
「さあて、ようじがすんだらかえってくだせぇ。さらいねんのケーキのしこみをはじめなけりゃいけません」
キトラたちはみせからおいだされました。
「くさってないの? あのケーキ……」
「くさらないために、ちのにじむようなどりょくをしたそうですよ。くさらないざいりょうをえらんだり、おおきなおおきなれいぞうこをつくったり、ゆうめいなまほうつかいとけいやくしたり。おみせにならんでいるふつうのケーキなんか、200ねんぶんはつくりおきしてあるってうわさですよ」
「なんか、どりょくのつぎこむばしょがちがうきがするんだけど……」
たいようがおちて、のぼって、おちました。
キトラとカソは、スーさんのすむというやまをのぼっていました。
きぎはせがたかく、たいようのひかりをあびてきらきらとかがやき、みちのいしころもほうせきのようなかがやきをみせます。
「ねえ、まだ?」
「よていよりすこしおそいですね……」
ですが、あるきつづけるキトラとカソに、それをたのしむよゆうはありません。
「このまえのテンノウざんじゃないの?」
「あれはいねむりをしていただけです。スーさんのいえは、このシュミセンのかこうですよ」
「いえなんかあったんだなぁ」
キトラはあせをふきます。
やまのてっぺんからは、モクモクとけむりがあがり、マグマのねつがここまでかんじられます。
「……ここにすんでちゃ、おかしい!?」
そのとき、とてもおおきなこえと、ものすごくあついかぜが、まうえからふきました。
「あっ」
「あ……」
「ワタシがいえをもっているようにみえないって? ワタシがホームレスだっての!?」
キトラたちのまうえに、まっかにかがやくおおきなとり、スーさんがいました。
「え? なんとかおっしゃって!?」
ばさり。
スーさんがはねをひとふりすると、しゃくねつのかぜが、あたりのくさをもやしながらせまってきました。
「あぶない、キトラ!」
あわててカソがキトラをかばいます。
カソのもえないせびろのけっかいが、かぜをふせぎます。
「ス、スーさんがこわい……」
「スーさんはへんなおきかたをすると、いつもこれだ。ひねずみのせびろがなかったら、まるこげになってましたね」
「ねぼけたからって、あそこまでやる!?」
「ちからのあるひとですから、そんなにすごいことをしているつもりはないんですよ――そら、またきますよ!」
またしゃくねつのかぜがきます。
「うわぁっ!」
「ひゃっ!」
「どわああっ!」
「ひぃっ!」
キトラとカソはなんどもなんどもかぜをかわします。
「うひょひょ!」
「どひゃああっ!」
キトラのからだじゅうのけは、ちりちりになってしまいました。れいふくのはこも、はしっこがこげています。
「……カソ」
「おはなししてるばあいじゃ――」
「よーくかんがえたら、キミはそのふくのおかげで、なんにもあつくないんじゃないか! さっさとスーさんをおこしてきてよ!」
「……いわれてみれば」
「いわれるまえにきづいてよ……」
キトラがいわかげにかくれているあいだに、カソがきにのぼって、そらをとぶスーさんのちかくによります。
「こんにちはスーさん、さっさとめをさましてくださいよ!」
「だれのうちに、おふろもトイレもないですって! ひあたりがわるいですって? シロアリがすんでるですって? あまもりがするですって!?」
ばさっ。
ねぼけきっているスーさんは、はねをばさりとふりました。
もえないせびろのけっかいのおかげで、カソはびくともしませんでした。
が。
カソがのぼっていたきが、いっしゅんでもえつきてしまいました。
「わっ、わわわわわっ!」
「カソ!」
キトラはおもわずさけびます。
「おわたっ!」
おっこちそうになったカソは、おもいきりジャンプして、スーさんにしがみつきました。
――と。
「きゃあああああああああああっ!」
スーさんのひめいがひびきわたりました。
「きゃあ、きゃあ、きゃあ、きゃあ!」
きゅうじょうしょう、きゅうこうか、みぎひねり、ひだりひねり、ちゅうがえり、きりもみ、ぎゃくかそく。スーさんはひめいをあげながら、ありとあらゆるめちゃくちゃなとびかたをつづけました。
「ス、ス、ス、スーさん! ちょ、ちょ、ちょっと、まってください! カソ、カソです、おともだちの、カソです、よおおおお!」
カソはスーさんにひっしにつかまりながら、どなりました。
すると。
「え?」
スーさんのうごきがとまりました。
「あら? カソさん?」
ちじょうにおりたちます。
「もう、いねむりしているところにいたずらするなんて。いじわるね」
「こっちはからだのなかみを、フードプロセッサーですりみにされたみたいなきぶんですよ」
スーさんからおりたカソは、へたへたとすわりこみました。
「……だいじょうぶ? ふたりとも」
キトラもいわかげからようやくでました。
「あ、キトラさん、おひさしぶり」
キトラとカソは、スーさんのせなかにのってとびます。
「ゲンさんのたんじょうパーティーのスピーチですの?」
「はい。ともだちだいひょうのあいさつだとおもっていただければよいですよ」
スーさんはすこしこまったかおをします。
「しゃべりにはじしんありませんけど」
「いいんですよ、なかのよいおともだちがおいわいをいってくれる、ってことだけでもりあがるものです」
「そうだよね」
「そうね。わかりましたわ。なんかいまからドキドキしてきましたわ」
カソはキトラのそでをひきます。
『ちなみに、スーさんは20000かいぐらい、ゲンさんのたんじょうびのスピーチやってますからね』
『……そんなきはしてたよ』
「なにかおっしゃって?」
「いえいえ」
「ぜんぜん」
キトラとカソは、あわててくびをよこにふりました。
キトラたちがかいじょうにとうちゃくしたのは、パーティーとうじつでした。
「おお、キトラ、カソ、すまねえな! スーさんもわざわざありがとう!」
ゲンさんがおおごえでわらいます。
「あ、はは、はい、れいふく」
「いやー、つかれましたねぇ」
「さあ、キトラさん、カソさん、ワタシたちもきがえましょ」
パーティーようのタキシードにきがえたキトラは、テーブルにつきました。
「わぁ……」
はしがみえないほどながいテーブルが、ちへいせんのむこうまでならんでいます。
そしてそのテーブルいっぱいに、いろいろなひとたちがすわっているのです。
「ね……ねえ」
キトラはとなりにすわっているカソにこえをかけます。
「なんです?」
「ゲンさんってすごいひと?」
「まあそれなりに。それに、1まんねんも2まんねんもいきていれば、ともだちもふえますよ」
『それでは、ゆうじんだいひょうとしてスーさんにごあいさつをおねがいします!』
しかいのこえで、スーさんがたちあがりました。
「――ゲンさん、おたんじょうびおめでとう。ゲンさんとはずいぶんながいおともだちですわね。たしか5さいのときは、まだ――」
『……カソ』
『スピーチちゅうですよ』
「――そして120さいのときは――」
『いや、ひょっとして、これってものすごくながいはなしじゃない?』
『だいじょうぶですよ、はんにちもすればおわります』
(はんにち!?)
キトラはこえをだしそうになって、くちをおさえます。
ようちえんのえんちょうせんせいのはなしだって、ながいながいとおもっていても5ふんていどです。それをはんにち。
かんがえただけで、キトラはねむくなってきました。
(――あ、だめだめ、ねむっちゃ!)
キトラはあわててあたまをあげました。
がたん!
そのときです。
あんまりおもいきりおきあがったために、キトラはひざをテーブルにぶつけてしまいました。
ガタン!
テーブルはそのままひっくりかえりました。おさらをならべたながいながいテーブルがひっくりかえったのですからたまりません。
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン……。
テーブルのながさのぶんだけ、おさらのわれるおとがつづきます。
「え? え? なに?」
スーさんがおどろいてスピーチをとめます。
「……あ、スピーチのなかみわすれちゃった!!」
スーさんが、かおをおおってさけびます。
「きゃああっ、はずかしい、はずかしい、はずかしいわ!!」
ばさばさとはねをふったために、かいじょうじゅうにかぜがふきあれます。
みんなはテーブルのしたにかくれましたが――。
「うわっ、わわわっ、うわああ!」
、ねむたくてヘロヘロになっていたキトラは、かぜにふきあげられてしまいました。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
このままでは、じめんにげきとつしてしまいます。ゆめのなかとはいえ、いたいことにはちがいありません。
「キトラッ!」
「キトラさん!」
「キトラぁぁぁぁあぁ!」
れいふくをきたゲンさんが、キトラをたすけようと、ぜんりょくではしって――。
ビリッ。
れいふくは、まっぷたつにやぶれてしまいました。
「なんだこりゃぁ?」
ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅずぼっ。
キトラは――キトラは、おおきなケーキに、まっすぐつきささって、やっととまりました。
(あ、くちのなかあまい……でもボソボソしてて、おいしく、ないなぁ)
そのとき、キトラのあしをだれかがつかみました。
『わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!』
ぎゅうぎゅうあしがひっぱられます。
(わっ、わっ、わわわ?)
すぽん!
クリームだらけのキトラが、ケーキからぬけました。
わあああああっ!
かんせいがあがりました。
みんながいっしょにキトラのあしをひっぱって、ケーキからすくいだしてくれたのでした。キトラのあしをつかんでいたのは、カソで、そのうしろはゲンさん、スーさんでした。
「やっとぬけましたね」
「おもたかったぞ、がははは」
「とばしちゃってごめんなさい」
キトラはあわててあたまをさげます。
「ご、ごめんなさい、ゲンさん! その、ぼくのせいでパーティーがめちゃくちゃになっちゃって」
「がははは、そんなことか」
ゲンさんはキトラのクリームだらけのあたまを、ぽんとたたきました。
「ほんとういうと、きゅうくつなれいふくも、パッとしないあじのケーキも、ながいスピーチもいいかげんあきあきしてたんだ」
(え?)
「こんなにわらえるたんじょうびは、ひさしぶりだ。ぎゃくにおれいをいいたいぜ、キトラ!」
ゲンさんはわらいました。キトラもつられてわらいました。
「さぁ、みんな、かたくるしいのはここまでだ! にぎやかにやってくれ!」
わあああっ!
みんなのかんせいがあがり、えんかいがはじまりました。
(あきあきしてた……か)
キトラはそのようすをぼんやりとながめます。
「――どうしました、キトラ」
カソがキトラにタオルをわたします。
「いや、ゲンさんはぼくをなぐさめてくれたんだとおもうけど、ぼくたちのじゅんび、ムダだったのかな……って」
「ゲンさんがいま、たのしんでる。それは、やっぱりわたしたちのじゅんびがあったからですよ」
「そう、かな」
「そうですよ。どうぞ」
カソはカップをさしだします。
「ソーマのおちゃ、こうきゅうひんですよ」
キトラはカップをうけとって、そのとてもいいかおりのするおちゃをのみました。
「ちかくにいいおんせんがあるんですよ。そのクリームだらけのからだをあらいにいきませんか? じゅんびのきゅうりょうをいっぱいもらいましたから、おごりますよ」
「――って、カソ、おきゅうりょうもらってたの!?」
「わたしが、ただばたらきするわけないじゃないですか」
「ぼくにはなんにもいわないで、ずるい!」
「このせかいのおかねなんてもらっても、キトラにはつかえないでしょう?」
「そういうもんだいじゃないよ! もう、きょうはいっぱいおごってもらうからね! さあ、おんせんいこう、おんせん!」
キトラとカソは、はしってパーティーかいじょうをあとにしました。
このゆめがどこでおわったのか、なにをおみやげにしたのか、しっているのはキトラとカソだけでした。
【おしまい】