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キトラの冒険
作:ごんぱち
その3『ぼくたちのひみつきち』
「うわぁ、なにこれ、へんなの!」
キトラは、おもわずこえをあげました。
はりをよこいちれつにあつめたきかいです。
「……センバコキっていう、おこめづくりにつかうもの」
ともだちのラグヤが、ぼそっといいました。
「こんなので、どうやってつくるんだよ?」
いちばんからだのおおきなサリスが、これまたいちばんおおきなこえでたずねます。
「そうそう、どうやってつくるんだよ?」
いちばんせのちいさなノクタがくりかえします。
「……ええとね……あった」
ラグヤはほこりのなかから、ちいさなくさのみが、ぶどうみたいにいっぱいついているふさをひろいました。
「それは?」
「……おこめ」
「え? それが?」
それをセンバコキにひっかけると、くさのみだけがきれいにくきからはずれました。
そしてくさのそのみのひとつをつめでひっかいて、そとがわをはがすと、なかからしろいおこめがでてきました。
「うわあ、ほんとうだ」
「へー、よくしってんな?」
「そうそう、よくしってんな?」
「……へへ」
ラグヤはちょっとじまんげにわらいました。
「……たぶん、ここはのうかだったんだ」
このふるい、だれもいないいえのなかには、ほかにもいろいろなどうぐがありました。
「へえ、おもしれえ」
「うんうん、おもしれえ」
「じゃあ、ここできまりだね」
うれしそうにキトラはいいました。
「……うん」
「おう、ここがオレたちトゲナシサボテンぐみのひみつきちだ!」
「そうそう、ひみつきちだ!」
そのひのよる、キトラはおとうさんのナラキさんとおふろにはいりました。
「――ひみつきち?」
ナラキさんがききかえします。
「うん。ほかのひとがはいってこれないように、ワナもつくってるんだよ」
うでをあらいながら、キトラはこたえます。
「ワナかぁ」
せっけんをあわだてながら、ナラキさんはなんどもうなずきます。
「たのしそうだね」
「うん。でも、あぶないから、ちかよったらだめだよ」
「どこにあるんだい? ひみつきちは」
「それをいったら、ひみつきちじゃなくなっちゃうよ」
「それじゃあ、きをつけようがないなぁ」
ナラキさんはわらいました。
「なにはともあれ」
キトラのせなかをごしごしこすりながら、ナラキさんはいいました。
「ひとにけがをさせないように、きをつけるんだよ」
「うん、わかってる」
「さぁ、つぎはシャンプーだよ」
「えぇーー?」
「……ここにロープをはって」
「そうそう、はるぞ」
ノクタがじょうずにロープをはしらにむすびつけます。
「じょうずだね、ノクタ」
かんしんしながら、キトラはノクタのゆびさきをみます。
「キトラ、よそみしないでちゃんともてよ」
「あ、ごめん」
センバコキを、キトラはサリスといっしょにはこびます。
「これがいちばんだいじなワナになるんだからな」
ずずっ……ずず。
「うん。こんなのにふくがひっかかったら、もううごけないもんねー」
ずずず……ずず……ずずずっ……。
きかいはおもたかったですが、ちからもちのサリスといっしょなので、なんとかうごきました。
「ふぅ、つぎいくぞ、つぎ」
「ちょっと、やすもうよ」
ひといきついているキトラとサリスに、ラグヤがたずねます。
「……ここにしかけるワナ、スコップとクワ、どっちがいい?」
「クワってののほうが、とんがってていりょくがあるぞ」
「だめだよ、そんなのがたおれてきたら、おおけがしちゃう」
「……スコップにする。ノクタ、よろしく」
「うんうん、スコップにするぞ」
――それからなんにちもかけて、ひみつきちはかんせいしました。
ある、にちようびのことです。
「まあまあまあまあ!!」
でんわをしていたおかあさんのアスタさんが、おおきなこえをだします。
「?」
おとうさんのナラキさんと、いもうとのタウラといっしょにおやつのビスケットをたべようとしていたキトラは、てをとめました。
「――ええ、はい、うちにはきてません、それじゃあしつれいします」
アスタさんはでんわをきりました。
「どうしたんだい、アスタさん?」
「なにがあったの、おかあさん?」
「キトラとおんなじくみに、ノクタちゃんっているでしょ?」
「ノクタがどうしたの?」
「しかられて、いえをとびだしたっきり、いなくなっちゃったんだって」
「ええっ!?」
キトラとナラキさんは、いっしょにこえをあげました。タウラはよくわかっていないらしく、ひとりでビスケットをたべています。
「しんぱいね、どこへいっちゃったのかしら」
だれにもみつからないばしょ。それは。
(ひみつきちだ!)
キトラはきがつきました。
「ぼく、さがしてくるよ」
「いるばしょ、しってるの? どこ!?」
「ええと、そのそれは……」
「アスタさん。ここはキトラにまかせよう」
ナラキさんは、おやつのビスケットをちいさなふくろにいれて、キトラにわたしました。
「キトラ、きずはつくってもいいけど、けがはしないようにね」
「うん、ありがとう!」
キトラは、ひみつきちへまっすぐはしります。
「……キトラ」
「あっ、ラグヤ! きみも?」
「……くるとおもったよ」
あんまりあしのはやくないラグヤにあわせて、キトラはゆっくりはしります。
「ノクタがいなくなるなんてね」
「……サリスもらしい」
「えっ、そうなの?」
「……ノクタがさいしょにきたのがサリスのうちだったって」
「なにがあったのかなぁ」
「……そこまではわからない。たぶん、ぼくらには、たいしたことじゃないかもしれない」
ようやくひみつきちがみえてきました。
いえのたくさんあるなかに、ぽつんとあるうち。まわりをいたのへいでかこまれた、だれもすんでいないふるいうち。
でも、キトラたちのてでひみつきちとしてつくりあげられたいまは、かんたんにはちかよれないおしろです。
「ねえ、ノクタ! サリス!」
キトラはおおごえでよびましたが、へんじはありませんでした。
「いないのかなぁ」
「……いや、いる」
ラグヤは、いりぐちのもんのしたのほうをゆびさしました。
そこには、ロープがはってありました。
ラグヤがあしだけのばして、ロープをひっぱります。
バタン!!
「うわっ!」
クワがたおれてきました。
きがつかずにはいろうとしたら、したたかあたまをぶたれていたにちがいありません。
「……ぼくらのしらないワナだ」
(あとは、おとうさんとおかあさんにしらせればいいんだよね)
キトラはふとそんなことをかんがえそうになりましたが、すぐにくびをよこにふりました。
このひみつきちをいちばんしっているのは、キトラたちです。
ノクタとサリスをいちばんしっているのはキトラとラグヤなのです。
キトラとラグヤは、にわをあるきます。
「……おとしあなもふえているかもしれない」
「うん」
キトラはじぃっとあしもとをみながらあるきます。くさがぼうぼうはえていました。
「あっ!」
すこしはなれたばしょの、くさがすこしへんでした。そのぶぶんだけ、くさのむきがちがいます。
「おとしあな、みーつけっ!」
キトラは、そのおとしあなをまたごうとしました。
「……まった、キトラ」
「えっ?」
ラグヤがキトラのあしもとをゆびさします。
くさがむすびあわされていました。もし、あしがひっかかってころんだら、あたまからおとしあなにおちてしまうところでした。
「あ、あぶない」
「……ノクタのしごとだ」
それからキトラとラグヤは、ゆっくりゆっくりにわをあるき、ようやくうらぐちにたどりつきました。
「ん?」
キトラがうらぐちのドアをあけようとしましたが、ひらきませんでした。
「カギがかかってるのかな?」
「……ここのカギはこわれている」
「だよねぇ」
キトラはおもいきりドアをひきました。わずかにドアはうごきますが、ひらきません。
「やっぱり、げんかんからはいろうか?」
「……ワナは、げんかんのほうにおおくしかけた。はいるなら、ここがいちばん」
キトラとラグヤがいっしょにひっぱると、もうすこしドアがうごきました。
「ぐぬぬぬ!」
「……むむむ!」
ぎり、ぎり、ぎり、ぎり――ばたん!
とつぜんドアがひらきました。
いきおいがつきすぎて、キトラとラグヤは、しりもちをついてしまいました。
「い、いたたた、だいじょうぶ、ラグヤ?」
「……いたい」
みると、ドアのうちがわのノブに、ロープがむすびつけてありました。
キトラはあしもとや、うえをみましたが、もうワナはありませんでした。
「……やっぱりうらぐちは、ワナがすくない」
「よし、はいろう」
キトラとラグヤはひみつきちのなかにはいりました。
そのときです。
ずず……ずずず……ずずっ……。
おくのほうからかすかに、ものをひきずるおとがしてきました。
「!!」
「……ワナのいちをかえてる」
「いそごう!」
「……でも、どんなワナがあるか」
「ノクタたちがあわててる。ワナがかんせいしてないしょうこだよ!」
キトラは、はしりだしました。ラグヤもそれにしたがいます。
へやをしきっているドアをいきおいよくあけ、なかにとびこみます。
ドアにしかけてあったバケツが、キトラとラグヤのすぐうしろにおちました。
ずずずず……ずず……ずっ。
「……ええと」
「おとは、こっちからしてる!」
キトラははしります。
はずれるようにしたゆかいたも、おおきないとまきみたいなものをつかったしかけも、いっきにとびこえます。
ず、ずずず、ずず。
ぶらさげておいたタケに、あたまをぶつけかけたり、ムシロをしいたゆかでころびかけたりしましたが、とにかくはしります。
ず、ずず……。
『はやくしろ!』
『でもでも、おもいよぉ!』
「ノクタ、サリス!」
ばんっ!
キトラはドアをあけてへやにとびこみました。
そのとき。
あしにロープがひっかかっていました。
(しまった!)
スコップがたおれてあたまに――。
キトラはおもわずめをつぶりました。
――が。
「あ……あれ?」
なんにもたおれてはきませんでした。
へやには、ノクタとサリスがいました。ふたりは、ワナにつかうはずだったスコップをてこにして、センバコキをうごかそうとしていました。
「はぁはぁ、ま、まにあわなかったー」
ノクタは、あおむけにたおれました。
「おれたちのまけだよ、ちくしょう!」
サリスも、すわりこみました。
ふたりがつかれているのもむりありません。ずっとワナをしかけなおしていたのですから。
「つかれた……」
「……もう、はしれない」
もちろん、キトラとラグヤだって、へたへたとすわりこんでしまいました。
「はらへったなぁ……」
「うんうん、はらへった」
「……おやつをちゅうだんさせられた」
「あっ、そうだ」
キトラはポケットからビスケットのはいったふくろをだしました。
「みんなでたべ――あ、あれ?」
ビスケットは、ばらばらにわれていました。
「われちゃってる……」
「わけやすくなっていいってもんだ! そのでっかいカケラもらいっ!」
「いい、いい。こっちのもらうぞ」
「……かたちとあじはかんけいない」
キトラとラグヤとノクタとサリスは、ビスケットをたべたあと、いえにかえりました。
「うん、これでよし」
ナラキさんは、しょうどくのふたをしめました。
「もう、ほんとうにだいじょうぶだった?」
やぶれたキトラのズボンをぬいながら、アスタさんがたずねます。
「へっちゃらだよ。ちょっと、しみるけど」
「でもみんなけががなくて、ほんとうによかったわ――あら?」
ふとアスタさんはくびをかしげます。
「ノクタくんって、けっきょくどうしていえからでていっちゃったの?」
「ええと……あ、きくのわすれてた」
「ははは、それぐらいでいいんだよ。ともだちっていうのはね」
ナラキさんは、わらってタウラをだきあげました。
「さ、ごはんにしよう。きょうはぼくがうでをふるったからね」
「はーい」
【おしまい】