株日記外伝
『知識ゼロからの確定申告』
……その15

by ごんぱち



○十月某日『思い出の苦渋久里浜』

 作品に船を出したくなり、取材として東京湾フェリーに乗りに行く事にした。
 親からデジカメを借り、目指すは久里浜港。
 京急久里浜駅に到着した時に、そろそろ船が出る時間になっていたので、港まで小走りに進む。
 二度ばかし行った事のある場所なので、迷う事はなく進んだが――。
 膝が嫌な感じに痛くなってきた。
 なんだこりゃ。
 バッグを肩にかける体勢が不自然なのか、元々膝があまり良くないからか、それとも一キロばかし泳いだ後だったからかは分からないが、しまいには足を引きずるぐらいになってしまった。
 何はともあれ、久里浜港に到着。
 ああ、船が、船が、お船が遠く霞んでる……。
 すっかり遅れやがりましたよ、ええ、ええ。

 今の時期の東京湾フェリーは四十分に一本の田舎の列車風ダイヤで運行しているので、時間はたっぷりある。
 まずは、久里浜港の撮影をした。
 最近は個人情報の問題で色々とあるし、無用なトラブルを避けるべく、出来るだけ人が入らないように心がけつつ。
 しかし、写真と言えば、数年前に出た携帯電話のCMで「結婚式で、記念写真をどうぞと言ったら、みんなが携帯電話を構えた」というのがあったが、まさか本当に寸分違わず同じ光景になるとは、一体誰が予測出来たんだろう。
 ソニーだったと思うが、トランジスタラジオを売る時に「こんなにいい音が出る、立派な真空管ラジオがあるのに、どうしてそんな貧相なラジオを買う必要があるんだ?」と言われたが、「これからはラジオは一人一台の時代なんです」と、騙くらかしたという話があるが、人間の需要なんてのは着眼点一つで簡単に掘り起こせるものである。
 でもまあ、私はカメラなんて持ち歩くのは真っ平だけど。それはもう、ただの強迫観念って気がするし。
 例えば美術館にモナリザを見に行って
「さあ、世界で有数の名画だ、撮影しよう。ええい、前にいる奴邪魔だな、さっさとどきなさいよ。もうどけっての、やれやれ、やっとどいたぞ。これで心置きなく――なんだよ、また来やがった。隣でピースサインなんかするなよ、絵の前に手を伸ばすなっての! よおし、あの手がなくなった瞬間を狙って――ああっ、押すなよ、押さないで下さいって、うわわっ、だからこれから撮影するんだってば。何? あたしの頭が邪魔だ? うるさいっ、あんただって頭の一つや二つ付いているだろう? それを邪魔と思った事があるかい? 全く、世の中妙な事に目くじら立てる人がいるもんだよ、さてさてこれでようやく撮れる。はぁ、やっと撮れた。記念になったぞ、家に帰ってゆっくり見よう」
 てなもので。
 写真を撮りたい、が、いつの間にか写真を撮らなければならない、になっている。
 撮るなとは言わない。でも、撮らなきゃいけないと思って写真を撮る事もないと思うのだ。
 ……ステロタイプの批判なのは自分でも分かってる。

 三、四枚撮った後、近くのコンビニでおにぎりと氷結果汁を買い、それからぶらぶらしていると、程なく船がやって来た。
 おお、色々やっていると、思ったより時間が経つのが早いものだ。
 早速券売機で乗船券を買う。
 えーと、九百五十円の往復と五百円の片道があんだけど……あれ? 下船出来ない切符が九百五十円だった気がするけど往復って下船出来るのか?
 迷った挙句、片道を買う。
 よく考えると訊けば良かっただけなんだけどさ。

 船に乗り込み、早速舞台になりそうな場所の撮影。
 んー、二階の甲板の、椅子やテーブルの並んだこの辺りかなぁ。
 三百六十度ぐるりと撮っておく。
 幸い、まだ誰も来ていないので、撮影に遠慮がいらない。
 しかし秋だと、海風が冷たいなぁ。
 これが夏なら丁度良いんだけど、今の時期は何ともかんとも。
 雨の後で、空は曇ってるし。
 まあ、降っていないだけマシか。
 さて。まだ出発していないが、一番後ろのベンチに腰掛け、海を眺めながらおにぎりを食べる。
 港の食堂って手もないではなかったけれど、金が乏しいし、閑散としていて入り辛かった。
 大体、食堂というものは、人が三、四人いるぐらいが良い。多すぎて人の隣に座る必要があるのは肘ばかり気になるし、少なすぎて店員に絶えず観察されているようなのもいけない。その店で言えば、繁忙時間を少し外れた松屋なんかは理想的と言える。あの手の店が流行るのは、味や値段もさることながら、この入り心地の良さではないかと思う。
 ようやく船が動き始めた。
 その辺りから、どうも観光客と思しき一団が甲板に出て来た。
 平日の昼なんだけど、案外人が乗ってるなぁ。
 いい加減少し冷えて来たので、客室(と呼ぶのが適当かは分からんけど)に入ると、中も割と人がいる。
 しばらく進むと、コンテナ船や、ガスの運搬船などとすれ違う。普段見ない光景だから面白い。
 再び甲板に行くと、カモメが集まっていた。餌やり場があったので、ほとんど反射的に集まるものらしい。
 それから少し雲が切れ、海面がスポットライトを浴びているように、キラキラと光っていた。これは、ちょっとしたポセイドンでも出て来そうな雰囲気だった。

 乗船時間約四十分で、金谷港に到着した。
 帰り便の出発までに、こちら側の写真も少々撮っておこうと、走る。
 やっぱり膝が痛んで、大して走れはしなかったが、どうにか時間内に戻って来て、もう一枚写真を撮ろうと思ったところが。
 あれ?
 デジカメのモニタに何も映ってない。
 え?
 筋のようなものが一つ、二つ……。

 液晶割れてるじゃん!

 ……よくよく見れば、このデジカメ、液晶が剥き出しだ。これが、バッグの中に入れておいた氷結果汁の缶に走った拍子に当たったらしいんだが。
 そんなんで割れるとは、欠陥品ではなかろうか……。
 こうして、取材はケチがついて終わったのであった。

 翌日、新宿のキャノンに行って、即日修理をした。
 ボディ自体が歪んでいたとの事。そんなに脆いの?

 これら全て、必要経費として確定申告時に織り込む。ああ、織り込むともさ。

○取材交通費
 海老名――横浜 300円
 横浜――京急久里浜 410円
 久里浜港――金谷港 500円
 合計 2420円

○撮影機材経費
 デジタルカメラ修理代 9975円
 交通費(海老名――新宿)480円
 合計 10935円



<株のこと>
 最近駅前に出来たビルに、はなの舞が入っていた。
 ここ数年で見かけるようになった居酒屋で、社員教育が行き届いているとは言い難いが、価格は安く、席はボックス式で仕切りが高いので他の客に煩わされない。
 いいなぁ、と思って検索をかけてみると、案の定親会社「チムニー(3362)」は、それなりに注目されている銘柄であった。
 市場はJASDAQだし、まだ成長の余地はありそうだが……第二のゲオとなるかどうか。良い押し目があれば、買い付けも悪くないなぁ、と、うすらぼんやりと考えている。
 十二月が優待の権利確定日でもあるようだし、決断は早い方が良いが。
 少なくとも、人気後追いでワタミ(7522)を買うよりは夢があるような気がするなぁ。
 って、今気付いたけど、ワタミって、今年の四月から商号変更してるんだ。
 介護とかに手を伸ばし始めたから、「ワタミフードサービス」というのも適切でなくなったって事か。

 ――続きは、次回。






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