株日記外伝
『知識ゼロからの確定申告』……その12
by ごんぱち
○七月某日『俺が世』
六月にゲオの総会に行った時、その後に行われた講演会で、国や金融機関は信用ならん、という話の一環として預金封鎖の話が出ていた。
聞いた事があるようなないような話だったが、聞いてみるとなかなか興味深い。
十五年戦争とか太平洋戦争とか言われる戦争に衰亡をかけて挑んだ日本だったが、神風が吹かないせいで戦争はボロ負け。勝てば入る予定だった賠償金だの領土だのがフイになってしまった。
それでも、軍需産業への支払いやら、軍人恩給やら何やらかにやら、支払うべきものは山ほどある。
責任感の強い日本政府は、ともかく紙幣をどんどん刷って支払った。ところが、貰った国民が遠慮なくガバガバ使うので、紙幣がダブダブに市場に溢れ、滅茶苦茶なインフレになった。
インフレのままでは、通貨の信頼が失墜し、みんな物々交換になって、経済の破綻して、国民の生活とか次の選挙とかに悪影響が出る。そこで政府は、GHQの肝煎なんぞもありつつ、この死に至る病を解決すべく、断腸の思いで世に出回っている貨幣の価値をゼロにした。
それだけだとちょっぴり国民が気の毒なので、慈悲深い政府は、無価値になった古い貨幣の一部を新しい貨幣に切り替え、残りは貯金として引き受ける事にした。そしてその貯金は、無軌道で自分の欲望に忠実な国民が、また無駄遣いをしてインフレを助長しないように、しばらくの間引き出し額を制限――つまり預金封鎖した。
それから、同じく市場に無駄に金をばらまくであろう公債を支払い停止にし、戦争で利益を上げたであろう庶民の敵である悪辣な金持ちの財産を、財産税の名目で最大九〇パーセント没収した。
また、多数発行されていた公債も「天下国家の為なら、請求しませんよ」という国民の声無き声に従い、支払い停止とした。戦時国債を買ったのらくろも、多分そう言ったにちがいない。
その後勿論、預金封鎖は解除された。「多少」インフレは進んでいたけれど。
なに、結局政府の失策を、国民が負担しただけ?
いやいや、誰が悪いんじゃない、ただ、戦争に勝てなかったのが悪いのです。
戦争を支持した国民の皆さんが、もっと粉骨砕身努力をし、血と血と血を流して、大和魂を銃に込め、一人百殺を実施していれば。
ですから、仕方がない。みんなで痛みを分かち合いましょう。
そもそも、議員を選んだのは、国民の皆様であるからして――。
この政府、一体全体信頼できるのかしらん、と、思わないでもない。
投票はきちんとしましょう、と。
まあだからといって、他のどの国がどれぐらいマシなのかは怪しいところな訳だけれど。
ワイロを出すまで何にもしなかったり、嫌がらせを続ける警官とか、救援物資を独り占めする役人とか、どんなに行列が出来てもさっぱり手を早めない税関職員とか、そんなんを飼っている政府よりはナンボかマシなのか。
そんなん見てると、もっぱらSFでは否定的に描かれるけど、多分、政府の究極の形は人工知能管理じゃないかと思うけどねー。
最大多数の最大幸福なんて、いかにも人工知能向け命題じゃないか。
その為に切り捨てられる人間はそりゃいるだろうけれど、人間の政治家がやるそれより数も程度も少なかろう。
問題は「(自分より偉くない筈の)機械に支配された」という、機械やプログラムを作ったのも人間であるという事実を理解も受容も出来ない衆愚が騒ぐことであるが。
非人間的な機械は機械的に致死的な事故を起こす可能性があり、人間的な人間は人間的に人を殺す可能性がある。だが、百年で億倍の発達をした機械と、数千年経っても「最近の若い者は」とか言っている人間と、どっちに未来があるか、だ。
今月は、東京にフジタ(1725)の株主総会と、投資家向け説明会に行ったので、これを経費として計上しておく事にする。
とりあえず、こういう事を書いても罪に問われない社会である偶然に感謝しつつ。
あー、でも案外、もう公安のブラックリストに載せられてたりして。「共産主義的傾向あり」とか「国家転覆を標榜する者なり」とか「国旗国歌に対する不敬言動あり」とか「年金滞納者。反逆の恐れ」とか「国策に反し未婚。危険思想」とか「携帯電話と運転免許書不所持。逸脱思考」とか何とか。
やれやれ、夢想するだに鬱陶しい。
やっぱり自分で政治家なるしかないのかな。血筋も地縁もコネはないけど、文学賞で権威武装すれば、知事ぐらいにはなれそうな気がするんだけど。
ペンは剣よりも強しっていうけれど、ペンと剣を持っていれば中国の指導者になれる訳だし。
――続きは、次回。
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