第四章 パートタイマーがやる気になる時 どんな単純労働でも熟練とそうでない者、やる気のある者とそうでない者で仕上がりに差が出る。また、やる気は周囲に伝染する。 それは「明るく元気でやる気一杯」というような、求人広告にありがちな嘘くさい形容をされる場合ばかりでもなく、静かにしかし手応えを感じながら仕事をしているだけでも、雰囲気は伝わっていくもの。1.パートタイマーが余計な事をする 「パートタイマーは与えられた仕事をきちんとこなせばいいんだ」それは正論。 「そうだよね、パートタイマーが正社員の仕事に手出しして来たら邪魔なだけだし」それは他人に仕事を任せきれないという、その人の人間的な問題。 さて、パートタイマーは時として依頼された以上の仕事をする事がある。 「ちょっと気になったんですが」と、チラシの文面の改訂案を見せる、作業の効率の良い方法を考案する、コンピュータの設定を直す、等々。 恐らく、それらがあなたの仕事にとってマイナスに見えた時「いい気になって余計な事をするな」と思うだろうし、プラスになれば「やる気になってくれて有難い」と思うだろう。つまり、やる気になるも、いい気になるもあなたの取り方が違うだけで生じている現象や状況は変わらない。 少し考えてみれば、ビタ一文給料が変わらないのに、わざわざ余計な事をするのは疲労が増すだけの事。なのにそれでも余計な事をするというのは、パートタイマーなりの動機がある。一.やる気になっている 同じ職場で仕事をしているという意味で、正社員、パートタイマーは関係がない。 職場の雰囲気が良い、この人の為に、みんなの為に、良いところを見せたい、仕事に手応えがあり面白い、そういうプラスの感情でやる気が上向く事がある。 こういう時、もうそういう方向に全てが進んでいる。恐らくは、あなた自身も何だかやる気になっている。二.現状に我慢ならない これも正社員、パートタイマーあまり関係のない話。 独りだけが活発になる事がある。これは、現状への不満というマイナスな感情から。職場を良くしたいという考え、良く出来る筈という自負、評価されていないという不満。 評価されたいだけのスタンドプレイか、職場の改善の為の努力か、それともその両方か、いずれにせよ、あなたが酌み取らずにいると立ち消え、そして逆に深く落ち込む事になる。三.残業代を稼ぐ為に時間潰し やる気があって、積極的にどんどん仕事をしているように見えながら、何だかんだで仕上がる仕事が少ない。 ただただ残業代を稼ぐ為だけの無駄仕事の事がある。 時間内の業務をよく観察すれば、手を抜いている時間がある。 残業をするなと言っても「仕事を仕上げないと」と言い返される。対処としては、仕事の割り振りを増やす。残業代が欲しいというのは、いつまでも働きたいという事ではなく、実際の勤務時間が自分の働ける時間よりも短いという事。仕事の割り振りを増やせば、後は密度を上げるしかない。2.やる気を良い方向にもっていく パートタイマーに与えられている権限、情報、業務内容は限られている。 何か余剰な仕事が、見当違いで役に立たない事は決して少なくない。しかしながら、それが残業代稼ぎでなければ、無下に扱うべきではない。やる気は消されるとマイナスに振れ、通常業務にも差し障りが出る。ともかく礼を言って有難く受け取る。 見当違いな事をするパートタイマーというのは、やる気があるけれど能力のない証拠。このまま放置していては役に立たない。通常業務を増やす事で、余計な事にやる気を使わせない、これが最善。やって欲しい事を具体的に指示し、見当違いを正す、これが次善。 現状を改善したいという意図で働いているパートタイマーの場合は大変重要。そのパートタイマーは職場の問題に気付いている。やらねばならないと、かなりの決意をして言っている。正社員なら気付かない事、言えない事を、パートタイマーの立場故に指摘している。そしてそういう事が出来るパートタイマーは、全体的にせよ部分的にせよ有能。 放置、スルーは厳禁、突き返す場合はきちんと理由を添えて。3.やる気がなくなる時 全体的にやる気が上がっている時は、祭りのようなもの。ワッショイワッショイで続けるうちに、段々勢いが抜けていく。この勢いを一気に抜いてしまうとどんと落ち込む。勢いがあまり上がり過ぎているとどんと落ち込む。どんと落ち込むと、前は良かった、やる気がなくなった、となって、無駄に上がった結束力で、まとめて退職、という事態も生みかねない。 やる気がある時は、パート個人が自分の特技を無償で提供していたり、残業を付けずに働いていたり、自分を犠牲にしている事がある。この無償で頑張っている感は、お祭り気分を無駄に引き上げてしまう。仕事でやっているというクールさがなくなる。 そこを指摘して、残業手当を付けさせたり、きちんと有給を取らせたりする事で、あくまで給料内で働く存在である事を再認識させ、クールさを取り戻させる。これが軟着陸。 一気に冷や水をぶっかけるというやり方は危険。 自主的にやって来た仕事を見ずに突き返す、受け取って三日以上放置する、忘れる。特に忘れるのが最悪、フリーランスでない限り、自分のやった仕事を忘れられるという事態に耐性はない。 自分が評価されていないと思えば、やる気は底辺まで落ち、サボるか辞めるかの二択にしかならない。 無能で辞めさせたい相手に対して、敢えて行うという考え方もなくはないが、そういう評判はえてして早く伝わるもの。本当に辞めさせたければ、きちんと手順を踏んで辞めさせるべき。上手く自主退社させようなんて小賢しい事は考えない。第五章 パートタイマーが辞める時 正社員だってパートタイマーだって、いつかは仕事を辞める。ただ、正社員よりも、パートタイマーは簡単に就けて簡単に辞められる。それのどこが悪い、死ぬ気でやる仕事も片手間でやる仕事も重要。人生の選択肢が多いのが文明国の明かし。 辞める時は有能な人から辞めていく、なんて話があるが、まあそれは考えすぎ単なるマーフィーズ・ロウに過ぎない。 並以上の能力があるならパートタイマーには辞められるよりも勤務を続けて貰った方が良い。引き継ぎで混乱、自分も他のパートも業務が滞る。万一、いつでも替わりはいる、という仕事であったとしても、面接、手順の説明等に時間を取られる。ハローワークでも「そこはいつも求人出してるから、何かあるよやめた方が良いよ」なんて言われ始め、ロクな人材が集まらなくなるの悪循環。パートタイマーは地元の人間、悪評が近所に伝わる。新たな人材が有能だったり、昇給がリセット出来たりするので、パートタイマーが辞める事に一利もなしとは言わないが、百害あるのは間違いない。 パートタイマーが辞める要因を分析、防げるような「辞める要因」は潰し、防げない場合は辞める日に向け準備をしていく。これが、上司たるあなたの役目。 辞める要因としては「嫌な目に遭った、他に良い仕事が見つかった」等のパートタイマー本人の意思によるものと、「転居、出産」等ある程度不可抗力だが予測の出来るもの、そして「病気、怪我、事故」等の予測不能で突発的なものの三通りに分類出来る。 三つ目の事故や怪我については、全員について最低限の安全策を用意すれば良い。具体的には、業務用コンピュータのパスワード類を聞き出しておく程度で良い。それ以上の事は気にしても仕方がない。 二番目はの退職理由は、止める事も防ぐ事も出来ない。「仕事忙しいから子供作るな」等と言ったら、訴訟沙汰である。余程関係が破綻していない限り、事前に知らせがあると思われるので、引き継ぎも滞りがない筈で、さほど心配はない。 問題は一つ目である。何しろ、あなたの上司に「××さんどうして辞めたんだね」と尋ねられた時「腹が立ったから辞めるって、辞表を叩き付けられまして」は、まずい。そもそも「辞めようかな、どうしようかな」と思っている時に仕事の効率は上がらない。1.パートタイマーを辞めさせるには コンピュータからナイフ一本まで、仕事のパートナーを使いこなす第一歩は、これがどうすれば壊れるかを知っておく事にある。壊れるポイントを知っていれば、そこを避けて試行錯誤が可能である。使い方しか知らなければ、その使い方しか永遠に出来ない。 パートタイマーが辞める理由を把握しよう。 ちなみに、これを使えないパートタイマーに対して用いて自主退社させよう、というのは止めた方が良い。わざと壊そうとした時には上手く壊れてくれないもの。大体、パートタイマーは契約更新しなければそこでサヨナラだ。一.嫌な労働をさせる 人間、嫌な事をされ続ければ、いつかは堪忍袋の緒が切れる。けれど、堪忍袋の中身を小出しに出来る人間は少ない。静かにひっそり溜まっていく。 様々なパートタイマーがいるけれど、これは共通しているという好き嫌い。 結論から言えば、そんなものは、ない。 その人の仕事に対する考え方であり、また、会社の仕事内容であり、上司の態度次第である。簡単に言えば、上記パートタイマーを「人間」と当てはめれば良い。 但しそれでも、ある程度の傾向は存在する。その1.不払い労働(サービス残業・早出・休み時間を減らす) 「サービス残業」という言葉にも抵抗がある。そもそも違法である上に、感情面でも嫌われる最たるものである。 正社員であれば、そんな風に「真面目に仕事をしていれば」、ボーナスの査定なり今後の昇進なり自分の成長なり理由付け出来なくはないが、パートタイマーにそれはない。 パートタイマーは、労働時間を売って給料を貰う。その彼らを給料なしで働かせるのは、つまり、そこらの見知らぬ通行人に「ちょっとこの仕事やってくれ、タダで」と言っているのと同じ。何の正当性もない。 パートタイマーの労働は、時給によって具体的評価を即時得ている訳であるから、時給の支払われない時間は全く評価されていない、つまり働いていないのと同じと見なされたという事である。これは、パートタイマーの存在そのものを否定するに等しい。後から小遣い渡せば済むような問題ではない。 早出した時、残業した時、休み時間に仕事が食い込んだ時、時間外の記録がなければ逆に「昨日、退勤もっと遅かったですよね」と、訂正するぐらいで丁度。 それが出来ない程ギリギリの職場であれば、せめて頭の一つ二つ下げ、情に訴え許して貰うしかない。上が悪いは通用しない、正社員は会社の代表。「オレはやっているのに」も禁物、それで納得する者は言わなくても見ているし、納得しない者は大反発。理不尽な要求をしているという自覚が必要。 この理由で退職したパートタイマーの場合、最後の勤務から帰宅するその足で労働基準監督署に駆け込まれる可能性もある。その時にガサ入れに対応するのも、責任を取って切られるトカゲの尻尾も、もちろんあなた。 それがないにしても、自分の仕事を評価されていないと判断した人間は、徹底して手を抜く。失敗した社会主義国家のようなものである。そして、それによって下がった仕事の質とスピードは、直接の上司であるところのあなたの評価を地に落とし、出世はおろか継続雇用も危うくなる。もっとも、不払い残業を強いる会社に長く勤める利点がどれだけあるかは不明だが。その2.時間外労働 給料を払っているんだから、残業、休出、早出、何でも良いだろう、どうせ金に困ってるんだろう、仕事を増やしてやったんだ、有難く思え――。 パートタイマーは、特に他の仕事があったり、子育て中であったり、家事があったり、時間の余裕が意外な程少ない。予定の時間をはみ出す場合は、可能な限り前月の段階で依頼をする事。 その為には、まずパートタイマー個々の勤務時間や勤務日をきちんと把握する必要がある。これを怠って「×日は19時まで残ってくれないか」「×日って、出勤日じゃないんですけど、休日出勤ですか?」「あれ、そうだったっけ? じゃあ休出で」 等という会話になってしまうと、パートタイマーは「私の勤務日も把握していないのか、重要と思われていないんだな」と、あなたと会社に対する不信感を募らせる事になる。その3.法令遵守の不徹底 役所に報告する書類の数字をいじったり、返品をお色直しして再出荷したり、契約書の印鑑を予めこちらで押してついでに説明も省いてみたり。いつの間にか慣習になっていた事でも、よく見ると法に触れている事はあるもの。「法に触れずに済むならそうしたいが、現実的ではないし、こっちの方が効率が良いし、実際問題として大して変わらないし」 会社側の理屈はいちいちごもっとも。しかし理屈は何にでも付けられる。その中で比較的妥当な理屈が法になっている。 正社員としてどっぷり会社に浸かっていれば気にならないもしくは目をつむっていられる事も、文字通り部分的にしか浸かっていないパートタイマーには気になる。今や情報発信が容易な時代、役所にメール一本で告発完了。正社員ルートの人間は、告発して退社は履歴書の「傷」だが、他に生活基盤のあるタイプのパートタイマーにとっては脅しにもならない。 この事態に直面している場合は、ともかく法令遵守が出来る方向に仕事を持って行くしかない。難しければあなたの上司へ改善案を直談判。しかしあなたの上司はのらりくらりと受け流す。後はそのポーズをパートタイマーに見えるようにして、あなた自身の正当性を印象づけておく。あなたのシンパのパート増えれば発言力も増す。上司も流石に無視出来ず、法令遵守の態勢の完成、止めだ必殺蟹光線。と、物語的展開を期待しない限りは、いずれ会社自体が傾く。あなたの定年と会社がパクられるののチキンレース、某省庁は何十年も保ったが。二.駄目なパートタイマーと組ませる 人が集まれば喧嘩も起きる。仲良くもなる。仕事というストレスを抱える職場の場合、ぶつかり合う比率の方が多いか? だからこそ、居心地の良い人間関係の出来たパートタイマーはそうそう辞めない。その4 休むパートタイマー パートタイマーが嫌うパートタイマーは、チームプレイが必要な仕事では、よく休む人。これに尽きる。子育てだろうが病気だろうが理由の如何は関係ない、仕事が出来ると思ったから職に就いたんだろう、てなもの。無論口では皆優しい、理解も示している。けれど、感情が許さないという事もある。 誰かが休めば誰かが穴埋めをする必要があるが、103万の壁だの何だのでそうそう簡単に代われはしない。代わりに出勤したところで、慣れないタイミングでの出勤、生活リズムが乱されストレスが増え、仕事の効率も落ちる。当然、その日全体の歯車がギクシャクギクシャクし、全員に影響が出る。 悪化させない方法としては、ワイルドカード的にいつでもフォローに入れる身の軽いフリーター型パートタイマーを混ぜておく事と、イザという時はあなたが入る事。それから、休む事に対してあなた自身は否定的な顔を一切しない事。誰でもいつでも気軽に休めると思えばお互い様、休まれても腹は立たない。それらの対処が出来ない場合、ともかくイレギュラーな出勤をした相手と、休んだ相手に対して労いの言葉を。言葉は概ねタダ、頭を下げても財布の中身は減らない。その5 嫌なヤツ 言葉遣いがなってない、考え方が気に入らない、見た目が悪い、人が人を嫌う理由は様々。同じ趣味で集まった筈のサークルでも、学校でも、職場でも合わない人は出る。でもそれは当たり前、あって正常なければラッキー。 こういう場合は、下手に間を取り持とうとか思わない事。放っておけば良い。あなたが嫌っていない相手なら、それを嫌っている者に何を言われても「いやぁ、僕はそう思いませんね」で充分。確かに嫌う理由があなたにも納得出来れば諭すなり何なりすれば良い。嘘や八方美人はすぐバレる、何しろ生きてきた経験が違う、あなた自身は素直でいれば充分。裏表がない事は、言葉を信用される事、信用出来る上司の下は働き易い。その6 仕事が出来ないパートタイマー いい人だし、休まないんだけど仕事が出来ない、それでも給料同じ。そういうパートタイマーは、何だかんだで敬遠されがち。チームプレイの場合、一人の無能は他へしわ寄せが来る。嫌うべき正当な理由が薄いような気がするから、尚のことストレスになり、結局辞める引き金に。 能力は相対評価、一番とビリという順位は必ず付く。クビにしたところで、別の誰かがビリになるだけ。ストレス源となる理由は、業務に無理が出ているから。引き継ぎの手間、動線の無駄、業務の効率化で総ストレス量を減らす。三.正社員との関係を悪くする パートタイマーにとって、正社員は上司、同僚であると同時に、会社の代表。 正社員の言動は、会社の意思として解釈される。つまり、正社員を嫌う事は会社を嫌う事に割と簡単に繋がる。 あなた自身、あなたの同僚、上司、些細な一言が優秀なパートタイマーを辞めさせる。その7 名前を呼び捨てにする正社員 名前の呼び捨ては親愛の明かし、それは確かに違いはないが、正社員から一方的に呼び捨てはおかしい。 「だって正社員の方が責任ある仕事をしていて偉いじゃないか」その認識が大問題。仕事の量や内容は給与や待遇で相殺されている。後に残るのはただの大人と大人のお付き合い。なのに横柄な態度を取るというのはつまり、虎の威を借る狐と同じ、こんな正社員が好かれる道理もなく、職場の雰囲気は悪くなる一方。「慣れてしまえば大丈夫」ご高説ごもっとも、しかし新しいパートタイマーは居着かない。 あなたがそのように振る舞っているなら即刻改める。他の正社員がそうしていたら、「あいつちょっと勘違いしてるんですよ、すみませんね」的な感覚でフォローで、あなたのシンパが増える。 呼び方は、書き置きならば「様」付け、通常は「さん」付け、かなり打ち解けた年下の二〇代半ばまでなら「君」付けがギリギリ可能。その8 余計な一言を付け加える正社員「すみません、子供が熱を出したので、早退させて下さい」「……まあ、いいですよ」 「まあ」が余計。無論「他に頼める人いないんですか」「またですか?」等もダメ、「子供なんて放っとけば治るんじゃないですか?」「女の人はそっちの方が大事ですもんね」は最悪。無駄口の中に、セクハラ発言や差別発言が忍び込む。 反省や恐縮をしている相手に対して、何か付け加える必要はない。無論、その後のシフト調整なり、仕事のしわ寄せなりを考えるとうんざりすると思うが、どうせ認めるしかないのだから、気分良く早退させた方が良い。あなたが良い人になって、相手に負い目や恩を感じさせる一般的テクニック。 無論、これらは早退に限らない。基本的に口数は少なく一文で。喋る数が少なければ失言もない。べらべら喋っても、人間が一度に覚えていられる事物の個数は4〜7、後はみんな忘れられ、単なる時間の無駄。四言を超える覚えて欲しい事は文書にでもした方が良い。雑談をしたければ、昼休み限定で。その9 勤務時間外に話しかける正社員 仕事を離れて、あなたとそのパートタイマーはどれだけ会っていますか? 勤務時間外は完全なプライベートと考える。 休みの日に電話をかけて仕事の話をするのと同じ。余程必要なものでない限り避けるべきであるし、必要であれば申し訳なさそうにする事。給与の発生しない事を依頼する場合は、何はともあれ「理不尽な事をお願いしている」という自覚を常に持つ事。その10 仕事を任せない正社員 パートタイマーの仕事の担当を決めたら、任せる。 パートタイマーの仕事だって、責任感も充実感も達成感も伴うもの。尻切れトンボの仕事は後味が悪いし、引き継ぎのラグがあるので効率も悪い。何より、途中で仕事を取り上げる事は、そのパートタイマーを信用していない事の意味になってしまう。 あなた自身でやらないのは無責任? 否、人を使うというのはそういう事。まずは任せて、失敗があったらやり方を考え直す。仕上がりが心配な場合は、チェックの仕方をシステム化する事。具体的には、記録書類のチェック表を作ったり、内容について無作為抽出で数字を辿ってみたり。その11 話を聞き入れない正社員 仕事や待遇面で気に入らない事があっても、パートタイマーは基本的に正社員に訴える事はない。 例えば給料なら、時給を知って今の仕事を選んだのだし、気に入らなければ他を探すべきであるし、探せないならば今ここにいる事を甘んじて受け容れなければならないからである。 が、それでも、どうしようもない理不尽、不正、無駄、非効率等々、正社員の耳に入れたいと思う事がある。 その時に、「パートタイマー風情が余計な事を言うな」と同義の答え方は「それが仕事ってものだし」「あなたの方にも問題があるんじゃないですか」「意見箱とかあるから、そっちに入れてくれませんか」等々。 受けた話は実際に誠実に処理出来るのが最善、出来ない場合も経過や結果を翌週には伝えるのが次善、「気持ちはお察ししますが、私の権限では何とも」というのが赤点ギリギリライン。パートタイマーが望んだ結果でない場合は、ともかく謝るのと、共感の姿勢を見せる事。共感はカウンセリングの基本。それである程度気分が落ち着く事もある。頭を下げたくないと言っても、能力がなければ頭を下げるしかない。頭の使い道は、考える事と下げる事。2.パートタイマーが辞める兆候 前項のような部分に気を付けていたとしても、パートタイマーが辞める日はやって来る。 辞める人には何となくおかしいという兆候がある。 ゆとり教育風に言えば「SOSを発信している」。 概ね、それは迷っている段階ではなく、9割方決まっている事で、わざわざ予測するのも無意味と思いがちだが、先の予測が出来た方がその後の展開がスムーズになり、また、次回に活かす事が出来る。 尚、辞めやすい時期としては、初勤務前、初勤務の直後、契約更新の2、3ヶ月前など。一.辞める前の行動 意識して、意識せずに、辞めたい気分は行動に表れる。 のか?その1 契約更新日の2、3ヶ月前に「辞めたいんですけど」という申し出がある 普通はこれ。 大人なので、そういうもの。 年休を消化するだの、引き継ぎ書類を作るだのは、大抵この後の話なので、兆候として目を光らせていたところで意味はない。その2 初勤務の次の日に休む これも割と多い。辞める気だから休むのか、休むから勢いが付かずに辞めるのか。 ただ、開始直後は最も辞めやすい時期であり、また、熟練者でもないので業務へのダメージは小さい。その3 失敗が増える 失敗を繰り返してのほほんと勤め続けられる程面の皮の厚い人間がそう多くない。辞める前の行動というより、辞める理由そのものとも言える。 六〇代を超えたリタイヤ組に顕著な兆候。いわゆる「体力の限界を感じた」というもの。二.辞める前の発言 言葉は端々から真意が洩れる。平気で嘘を言える人はそう多くはない、とは言うけれど。その1 「もう辞める」と、言わない 「ぶっ殺す」という人間は、実際にはぶっ殺さない。 いつも「もう辞める」だの「仕事が辛い」だのと言っているパートタイマーは、割と長続きする。マーフィーズ・ロウか、ガス抜きが出来ているのか。その2 契約更新時期より後の話題を避ける 来年の事を話せば鬼が笑う、「来年いないんですよ」は嗤えない。辞めます、とハッキリ言っていない時は、何となく後ろめたい気分になるもの。契約の更新される来年度の話になった時などに、入って来なくなる。その3 「疲れた」が増えた 客相手などの感情労働に顕著で、疲れた、難しい、辛い、きつい、哀しい、ネガティブな台詞が「増えた」事が重要。 いつも言っている場合は、口癖なのであまり気にしても仕方がない。 部署や仕事の割り振りを変える事で対処可能な場合もある。三.辞めるに至る心理的な動き 敵を知り己を知れば百戦危うからず。 パートタイマーの立場になって考える。その1 漠然とした不満、不安 難しすぎ、簡単すぎ、仕事の内容が嫌になる。給料の額、昇給、社会保障のない事が気になりだす。気に入らないヤツがいる、特にそういう事はないが親しい相手がなく孤独感がある。体力や家族の状況が変わり今の時間での勤務が難しくなってきた。 様々な理由から、何となく辞めたい気分が現れ始める。その2 葛藤 給与がなくなるのは困る。次の仕事への不安、見つかるか分からない、自分に勤まるか分からない、次の職場が最悪である可能性。知り合いと別れるのは嫌だ、新しい職場でのいじめの可能性。一日家にいて、外に出る機会がなくなる。 辞めたい気分に相反するものも現れる。この段階にある事を察知し、適切に不安・不満を取り除く事が出来たなら、退職を阻止出来る。しかし、そのようなマイナスの感情を持っている事が会社に知れれば不当な扱いを受ける、人間関係が悪くなる、そもそも自分の中で完全には固まっていない、つまりは知られたくはない事。従って、パートタイマーはこの状況にある事を徹底して隠す。そして自分の中でどちらかに解決する。万一知られた事を知ったら、気まずさに辞める方向へ感情はガタンと傾く。その3 決断 辞める事を決意する。会社に対してそれなりに良い印象が残っていれば、会社に損のないように引き継ぎの準備をする、次の人が決まるまでの時間勤められるように早めに辞める意思を伝える等の配慮をしようと考える。特に良い印象がなければ、退職後の自分の為に内緒のまま次の仕事を探し始める、仲の良い相手には話しておく。 ここへ来て、ようやく態度に表れる。この辺りからガードが緩くなるが、つまりバレても良いと思うからバラすだけ。もう手遅れ。人は誰かに相談する時既に自分の中で決断している、背中を押す言葉が欲しいだけ。仮に引き留める事に成功した場合も、あまり長続きはしない。とはいえ、引き留めて見せなければ「冷たい人」と言われそう。 この時点で気が付けるのが現実的にはベスト。その4 行動 辞める事が本人の中で決定事項となり、正式に退職する旨あなたに伝える。 会社との信頼の多寡によって、この後の勤務日数が決まって来る。通常は二ヶ月程度前、信頼が低ければ今日明日のように突然辞める。信頼が高ければ半年ぐらいは引っ張れるが、辞める事は決定事項、このままズルズル行けるかと考えるのは甘すぎる。3.辞めようとするパートタイマーを引き留める 辞めようとするパートタイマーを引き留める事は難しい。 どんなになだめすかしたところで、既に本人の中で答えが出ているからこそ公言したのであるから。 それでも本当に残って欲しいと思うのならば、給料を上げる、労働時間を組み直す、仕事の割り振りを変える等、具体的で目に見える対応をするしかない。もっともそうやって、焼けぼっくいに火は点けられるかも知れないが、シケモクはまずいの喩え、やはり上手く馴染む可能性は低い。 仮にただ頭を下げるだけで引き留められたとしたら、逆にそのパートタイマーの言葉が信用出来ない。注意を惹くために辞めると言ってみるタイプ、という可能性がある。そのような人間は、親身になって相談に乗ったり説得したりしても、結局また別な機会に辞めると言い出し、また説得の繰り返しになる。これは、毎回ネガティブな発言を聞かされるあなたの精神を蝕む事になるので、やんわりと突き放すのが良い。船酔いの介抱をすると自分も船酔いになる、の喩え。おわりに「うちの会社って個性的な人だらけ」 多くの人が言う台詞である。 多くの人が。 多数派でない事が、個性的って事ではなかったのか? 何の事はない、彼らの考える「普通の人」という尺度が、人間を表していない証拠である。 「いわゆる会社員」と、「目の前の××さん」は一致しない。 にも関わらず、その絶対合わない尺度に合う「普通の人」がよその会社には存在すると思う愚かしさ。 他に尺度がないから、使わねばならないのは確かだが、尺度が間違っているという自覚を持つ必要がある。 正社員とパートタイマーも、所詮人同士の付き合いに過ぎない。 しかし、「パートタイマー」という先入観で作られる虚像は、その事実を見えなくさせる。 あなたが先入観を持っている事を自覚しないから、知っているつもりで接し続け、そのパートタイマーに対する理解が進まない。あなたの予測から外れた事が起きた時、パニックになる。 知らぬものを無理に知ったつもりになる必要はない。知らない自覚を持ち、畏れを持って謙虚に接する事が重要である。 本書が、あなた自身の持つ尺度を考え直す一助となり――同時に、尺度への不信となったとすれば、筆者の主題は正しく伝わった事になる。おわりTOP