第三章 パートタイマーとの接し方 我も人彼も人、百パーセント仕事で割り切る付き合い方は難しいもの。 かといって友達とも違う。 パートタイマーとの一般的な接し方。1.パートタイマーは何ではないか 人との付き合い方はそれぞれ、人生で学ぶテクニック。 ただ、今まで友達と家族と先生としか付き合った事のない人にとって、正社員とパートタイマーという関係は少々ややこしい。一.パートタイマーは友達ではない パートタイマーが友達になる事はあり得るが、パートタイマーであるが故に友達になるという事はない。 正社員とパートタイマーの関係は、同じ雇用主に別条件で雇用された人間。 イザとなった時に身体を張って助けてくれる事もないし、困窮した時にお金を貸してくれる事もない、休日に遊びに行く事もない。あまりフレンドリーな人間でなければ、勤務時間外の雑談すら負担と感じるもの。 もしもそのような事をしてくれなかった、付き合わなかったからと言って、あなたが個人的に嫌われている訳はない。付き合ってくれていたとしても、相手が合わせているだけという可能性を常に考える事。二.パートタイマーは便利な道具ではない パートタイマーは、特定の仕事をする事を期待されてあなたの会社が雇った者である。従って、その範囲でしか仕事を命じる事は出来ない。それを越える事を依頼していたとしたら、パートタイマーに無理な負担をかけているのであるから、どこかで埋め合わせをしなければならない。三.パートタイマーは正社員ではない 当たり前の話、という程でもない。会社に対するスタンスが、パートタイマーと正社員は違う。 例えば、会社の資金繰りが厳しい時、正社員がボーナス返上で我慢するところ、パートタイマーは給料を減らされるぐらいなら他の会社へ移る。また、契約期間が圧倒的に短い為、更新の度に辞める事を考えさせられる。 拡大解釈を許さなければ、パートタイマーが会社から受け取っている対価は給料だけ。給料、ボーナス、厚生年金、健康保険、その他手当てと、線引きが曖昧な様々なサービスを受けている正社員よりも、スパリと辞める事が出来る。 正社員は会社の価値観に自分を合わせる必要があるが、パートタイマーは自分の価値観に合わない会社をすぐ辞めて他を選ぶ事が出来る。新卒で正社員になった人間は人生で一度も「無職」になった事はないが、パートタイマーはほぼ全員が無職の経験者であり、「無職」から「パートタイマー」になる方法を心得ている。正社員が「それじゃあ会社が潰れるじゃないか」と思う事も、パートタイマーは「そんな事しなけりゃ潰れる会社なら、潰れてしまえば良い」と思う。 正社員は、一生の仕事にするつもりで就職しているが、パートタイマーは一生パートで働く気はない。 等々、仕事や会社に対する立場が、正社員と根本的に違う。従って、会話をする中で「それって非常識じゃないか?」と思う事があっても、迂闊に判断しない事。四.パートタイマーは上司ではない あなたが新卒であれば、概ねパートタイマーの方が年上であり、その職場にいる時間も長い事もある。様々な助言に耳を傾ける事で、大いに役立つ事もある。 しかし、如何にその仕事についての知識が深かろうと、パートタイマーはパートタイマーである為、何らかの失敗があっても責任を取る事はない。対外的な失敗をした場合に「パートタイマーの減俸をする」等という会社はない。あくまで助言に耳を傾けたあなたの責任となる。逆に、どれほどの大成功をしたところで、パートタイマーに対する評価システムを備えた会社はそう多くはないので、給与や昇進という具体的な評価はあなたが受ける事になる。 従って、パートタイマーがする助言は、あくまで良かれと思って行う善意の塊だと考える必要がある。2.一日の流れに見るパートタイマーとの付き合い方一.出社時 あなたの方から丁寧な挨拶を。パートタイマーは新人研修は受けてはいない、礼儀や常識が重要なら採用基準に入っている。あなたから挨拶をしていれば、自然と向こうもするようになる。挨拶をしても返して来ない場合は、流石に指導。 挨拶は敵意を持っていない証明。 勤務時間前にいるパートタイマーに仕事は頼まない。自分からする分には構わないが。 勤務時間をきっちりと守ると、勤務時間内の仕事の密度も上がる。無駄な残業もなくなる。切り替え上手は仕事上手。二.勤務中 私語は慎む、黙々と仕事をする。 無理に打ち解けようとする必要もない。仕事は仕事。 逆に私語を振られたら、二、三言付き合い切り上げる。自然に切り上げられなかったら「勤務中なので、昼休みか退勤後に」。三.昼休み 大っぴらに雑談の出来る唯一の時間。休憩室なり社員食堂なり、食事を一緒にする場があるなら、一緒にする。特に何も話をしなくても、天気でも話題にして茶でもすすっていれば、それで何となく関係は良くなっていくもの。 避けた方が良い話題は、政治と宗教とカボチャ大王、要するに個々人で意見が真っ二つに分かれるもの。茶飲み話に議論は合わない。向こうからそういう話題が出て来た場合は、共感出来る場合は「そうですねー」出来ない場合は「そうですかー」。わざわざ反論しない。 土産物などを勧められた場合は素直に貰う。お土産にせよ、バレンタインデーにせよ、個人宛意で貰った場合は、事前に予め「お礼不要」の意思表示がない限りはお返しを。いずれにせよ、貰う時は断らない。 昼休みは労働者の権利、午前中の勤務が五分以上長引いたらその分休み時間の延長をさせる。繰り返すが、勤務時間はきっちり守ると、きっちり仕事をするようになる。四.退勤時間 大体の場合、パートタイマーの方が先に帰る。姿が見えたら「お疲れ様」と挨拶を。 パートタイマーが残業している場合は少々厄介。 自分でペースを作るタイプのパートタイマーが残業している場合は、トラブルかペース配分の失敗。その時点で仕事が上手く行っていない訳で、相当イライラしている。この状態のパートタイマーにとって、時間を余分にかけさせられるあらゆるものは邪魔。茶を淹れても飲む時間が取られるだけ、と、不機嫌に拍車をかける。そっとしておき、退勤時に労うだけで良い。無論、残業はしっかり付けさせる。 シフトの都合などで残業している時は、ありがとう助かるよ、という感じの労いの言葉をしつこくない程度にかける。 退勤しようとしているパートタイマーにちょっとした用事や仕事を頼みたい場合は、一言謝ってから引き留める。そこそこ時間のかかる用事がある場合は、出来る限り次回に回す。 仕事が終わって早退、という場合もある。「オレは働いているのに」と考えたら負け。仕事が終われば帰る、これが正常。終わったのにズルズル残って時給をせしめる方が会社にとって損。五.退勤後 大人の職場なら、飲み会の一つもある。 そういう集まりに来るタイプは、基本的にそういう場が好き。正社員なら付き合いもあろうが、パートタイマーの場合しがらみは薄い。 肩書き関係なしで話せば良い、飲み会の話題を翌日に持ち込む人間は無粋。無粋な人間には人望がなく、発言力も少ない。但し、話題に人の悪口は御法度。誰かの悪口を言えば、聞いている相手は自分の事も別の場面で言われているのだと考える。この辺は会社も何もない、人として生きる為のテクニック。 パートタイマーのアルハラ、セクハラを見かけた時は、可能な限り注意。あなたがやらなければ誰がやる。キレられても周りはみんな味方、力尽くでタクシーに放り込むぐらいの事は出来る。六.休日 パートタイマーが出勤していない日にも、パートタイマーに会う場合がある。 仕事の内容等で、急な連絡が必要になった場合。 無論、本当に必要な用事のある時以外は厳禁。連絡を取る場合は、事前にしっかり伝える内容をメモ書きで整理した上で、あくまで腰を低く、手短に。その電話で話す時間に対して、会社はパートタイマーに一円の給料も支払っていない。 道端でばったり出会った場合、挨拶程度に済ませておく。道路は移動するための場所、向こうもあなたも目的地がある。「こんにちは」「奇遇ですね」「それじゃ」リミットは十五秒がせいぜい。どんなに会話が弾んでいても、相手が合わせているだけ。 休日のパートタイマーは正社員と会う事を好まない。この事実をきちんと受け容れておく事。3.パートタイマーのほめ方、叱り方 パートタイマーは即戦力、「育てる」という概念はない。あるのは「慣れる」かどうかだけ。 もっとも、昨今は正社員であっても育てる事はせず、即戦力扱いし、上手く行かないと「最近の若い社員は」と決めつけるような事例がないでもないが。 それはともかく。入社と退社のサイクルが短いパートタイマーと正社員とでは、褒める叱るの意味が違う。一.パートタイマーを叱る パートタイマーを育てようと思って叱るのは間違い。 どんなに育ったところで、時給が報償的に上がる事がない。 そもそも、叱られたら燃えるとか、叩いて伸びるとか、そういうタイプの人間は人類の中にも占める割合は小さい。特に大人になってから叱られるのは屈辱以外の何者でもない。 従って、パートタイマーを叱る必要はない。 不手際を起こした際には、注意と改善方法を指摘するに留めるのが良い。 注意は、午後イチ辺りに人目のないところで。空腹ではないから気分は落ち着いているし、勤務時間外にはみ出す事もない、凹まれたとしても勤務に影響が出るのは半日で済む。無論、その際にどのように注意するか要点をきちんとまとめておく事。あれもこれもと欲張ると、結局相手は覚えていない。多くなるなら、むしろ指導書とか何とかいう文書にして渡した方が良い。 不手際を繰り返す場合は、そのパートタイマーが注意を聞かないタイプであるか、さもなければ仕事がシステム上ミスを生む形になっている可能性がある。 システム上の問題で生じるミスであれば、それを改善する事。例えば介護施設で、利用者が帰る時に持ち物を返し忘れる場合には、チェック表を作る、ダブルチェックをする、持ち物に名前を付ける等。 注意を聞かないタイプである場合。 パートタイマーに限った事ではないが、自分が叱られると思うと、ともかくすぐに謝って場を取り繕う人間がいる。 彼らにとっては、注意は懲罰であり、謝罪が償いである。当然、償いはそこで終わっているから、注意の内容を覚えている筈もなく、同じ間違いを繰り返す。 この手のパートタイマーは、注意事項を文書で渡し、目の前で説明し、携帯させる。文書にする手間はあるが、二度、三度と繰り返し同じ事を言うよりはマシ。 注意する時の禁句は「気を付けなさい」。注意されている時点で、以前より気を付けるようになっているのは当たり前なので、言うだけ無駄。言って意味があるのは、「間違いを繰り返さないように工夫して」程度。二.パートタイマーを褒める 思った以上の業績が上がった、効率の良い仕事の進め方を見つけた、トラブルを綺麗に収めた。パートタイマーが思わぬ活躍をする事もある。 良い活躍は褒められればやる気が上がる。 しかしながら、日本人は人を褒める事に慣れていない。無闇に褒めても嘘っぽくなるので、無茶は禁物だが、褒めたいとか労いたいと思った時はあなたなりの表現で褒めれば良い。 褒める時は人前で、と言うが気にしなくて良い。「その場ですぐ」褒めないと、タイミングを失う。パートタイマーは毎日丸一日いる訳ではない故に。 褒める時の禁句は、「流石××大卒」「年の功ですね」「地元の人は違いますね」等々。 褒めるべきは、そのパートタイマーが行った事であり、行うに至った心意気であり、行えた実力そのものである。4.こんな言葉を小耳に挟んだら 飲み会での話でも、ちょっとした雑談でも、様々な言葉が交わされる。 一.「辞めたい、やってられない」 危険度小。どんな理由であれ、大っぴらに言っているうちは問題ない。茶飲み話程度。二.「給料が少ない」 これも茶飲み話程度。そもそも、あなたの立場で職員規定を変えられないのだから、どうしようもないし、パートタイマーの方もそれを知っている。本当にそれが辛いなら、もう転職している。三.「給料分しか仕事はしない」 逆に言えば、給料分は仕事をするという事。自負心の表れ。大抵の場合有能な証拠。四.「一応耳に入れておこうかと」 人が辞めそう、背任行為をしている、事故が起きそう、致命的に重要な事を伝える時、極端に軽く言う事がある。スルーするとその足で役所に告発に行く可能性もあるので注意。五.「出来れば、で良いんですけど」 やってくれないと辞めます。パートタイマーがわざわざ提案をしている時の常套句。六.「パートですから、正社員さんには従います」 理解力ないな、お前バカだろ。バカと喋るのめんどい。七.「私なんかまだまだで」 失敗しても責めるなよ。謙遜の言葉は、失敗への予防線と、成功の増幅機。八.「誰にでも出来る仕事ですけど」 自分の仕事を評して。やり方に独自の工夫をしているパートタイマーしかこういう言い方はしない。九.「簡単ですよ」 自分にとってはな。自分の仕事を相手に伝える時に。勿論、むずかしい。有能さの主張とも言える。十.「ちょっと難しいです」 仕事を頼んだ時。有能なパートタイマーなら「最優先でやるので、他の仕事が少し遅れます」。無能なら「引き受けるけれど、納期も品質も破ります」。十一.「それは出来ません」 有能なパートタイマーなら、本当に出来ないし、彼、彼女の仕事ではない。無能なら、ただ面倒なだけ。十二.「もうおばちゃん/おばあちゃんだからさぁ」 中年以上の女のパートタイマーの常套自虐ギャグの前フリ。真剣に否定するのも、素で肯定するのも空気を悪くする。笑って半肯定しつつ「いやいや、そんなことないですよ、こんなにバリバリ働けて」と、いうような事を、デクレシェンドで音量を絞りつつ言うのが吉。十三.「もう年寄りだからさ」 熟年以上の男のパートタイマーの常套句自虐ギャグの前フリ。笑って半肯定しつつ「今の六〇代なんて、全然現役ですよ!」的なフォローで返しを。 何かの失敗の後に、言い訳として付け加える場合は、本当に年齢的限界が来ている証拠なので、そろそろ契約終了の準備をしておく。十四.「新しい事覚えられないから」 新しいやり方や、機器の導入時、年配のパートタイマーが口にする言葉。覚えられはするが、始めのうちは失敗するかも知れない、との予防線を張っている。十五.「そんな難しいの出来るかな」 仕事を始めた頃の説明で出る台詞。年配のパートタイマーに多い。素で出来ない場合は、すぐに辞める場合もある。十六.「頼りにしてますよ」 正社員に対して。無論、頼りにしてない。きちんと仕事しろよ、ボーナス貰ってんだろ、ぐらいの意味。十七.「遊びに来て下さいね」 転勤する正社員に対する社交辞令。本当に遊びに行ってはいけない。つづきTOP