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パートタイマーや派遣労働者が奮闘をしいられている昨今。彼らとのつきあい方を説くことにより、あぶり出されてくるパートタイマーたちの主張と願望。日本の雇用は何処へ行くのか!? 和田知見が鋭く、時にはコミカルに、逆説としての現代社会をとらえる。
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No.06

第二章 ねえ、103万の壁ってなんですか?

 疑問を持っているパートタイマーの質問に、すらりと答えられれば、何でもかんでも「上に聞いてくれ」よりも、信頼感は増すというもの。そして、その疑問の二大巨頭が103万の壁と確定申告である。
 給与関係で的確なアドバイスが出来れば、還付なり控除なりで結果的にパートタイマーの給与を増やすのと同じような効果がある。信頼される事限りなし、仕入れて損のない知識。


1.103万、130万の壁
 年末が近くなって来ると、シフト表がスカスカになり、もっぱらベテランバイトが出ずっぱりになっているのを見かける事がある。
 その原因は、一つは冬のコミックマーケットに備えた同人誌作成、もう一つは「扶養から外れない」為の収入の調整である。
 パートタイマーは、103万円より多く稼ぐと何か恐ろしい事が起こると考えている。恐ろしくはなくとも、ともかく面倒くさい事が起こると考えている。
 有給を使わずに休む、残業代を請求出来ない、あまつさえ無給で出勤。
 制度をきちんと知った上での調整ならどうしようもないが、「ただ何となく」で調整している場合、かえって損をしている事がある。

一.103万の壁とは
 103万を超えた瞬間に何が始まるか。
 その人の立場によって変わって来る為、ケースに分けて説明する。

その0 103万円の壁まとめ
 103万円の壁に大きな段差がある人とない人では、下記のように分類出来る。

養う者:配偶者
養われる側:配偶者
会社:配偶者手当てあり
103万の壁:大
本人の給与:稼げば普通に増える
 配偶者手当てが103万円を基準にしている場合は、その分が段差になる

養う者:配偶者
養われる側:配偶者
会社:配偶者手当てなし
103万の壁:極小
本人の給与:稼げば普通に増える
 配偶者特別控除により軟着陸するため、段差は細かい

養う者:親など
養われる側:16歳未満または23歳以上の子供
会社:扶養者手当てあり
103万の壁:大
本人の給与:稼げば普通に増える
 扶養者手当てが103万円を基準にしている場合は、その分が段差になる

養う者:親など
養われる側:16歳未満または23歳以上の子供
会社:扶養者手当てなし
103万の壁:中
本人の給与:稼げば普通に増える
 扶養控除が一度に消える分段差になる

養う者:親など
養われる側:16歳以上23歳未満で学生ではない子供
会社:扶養者手当てあり
103万の壁:特大
本人の給与:稼げば普通に増える
 扶養者手当てが103万円を基準にしている場合は、その分が段差になる。扶養親族控除の額が大きいが、これが一気に消える

養う者:親など
養われる側:16歳以上23歳未満で学生ではない子供
会社:扶養者手当てなし
103万の壁:大
本人の給与:稼げば普通に増える
 特定扶養親族としての扶養控除の額が大きいが、これが一気に消える

養う者:親など
養われる側:16歳以上23歳未満で学生の子供
会社:扶養者手当てあり
103万の壁:大
本人の給与:稼げば普通に増える
 扶養者手当てが103万円を基準にしている場合は、その分が段差になる

養う者:親など
養われる側:16歳以上23歳未満で学生の子供
会社:扶養者手当てなし
103万の壁:無し
本人の給与:稼げば普通に増える、しかも103万を超えても非課税
 103万の時点では、何も起こらない。

 気にする必要がほとんどないのが、配偶者手当てなどのない会社に勤めている人の配偶者であるパートタイマーで、最も気にする必要があるのが、若いけれど学生ではないパートタイマー。けれど、いずれの場合でもパートタイマー自身で見れば、働けば手取りは増える。
 これでもそれなりにパートタイマーの疑問には答えている事になるが、以下の項でより詳しく説明をする。

その1 所得税と控除
 まず、大体の事例で共通するのは、
「給与収入が103万円を超えると所得税がかかり始める」
「給与収入が100万円を越えると住民税がかかり始める」
 という事。
 解説は所得税を基本に行う。
 住民税については、税金のかかり始める所得額が低い事の他は所得税と同じような増え方をするため、割愛する。

 所得税は、度の過ぎて所得の少ない人からは徴収しないように調整されている。
 具体的には、税金のかからない所得のラインを決めている。
 どのようにして「税金をかけない」のかというと、
「所得のうちの一定金額をなかった事にし、残った金額にだけ税金をかける」
 のである。
 「なかった事」にする為の理由や金額は「所得が少なすぎて税金を取れるってレベルじゃない」「病気し過ぎて税金取れるってレベルじゃない」「サラリーマンは、必要経費とか出しにくいからこっちで出しておいてやる」「子供育てるの大変だろう」等、内容によって様々。それらの事情を折り込んで一定金額を課税の対象外にする事で結果的に税金が安くなるという、「税金割引クーポン」のようなものが「控除」である。

 さて、パート収入の場合、どういう割引クーポンが貰えるかというと、
・基礎控除38万円
・給与所得控除65万円
 である。

 基礎控除は誰にでも適用される控除である。「こりゃあちょっと生きていけないんじゃないか?」というぐらい極端に収入が少ない人に追い打ちをかけて税を取るのはあまりに無慈悲である。かといって、収入の少ない人を見分けるのも手間ばかりかかる話。それなら、一律で控除してしまおう、というような発想で作られたと思われる。
 給与所得控除は、給料として支払われた所得に対する控除である。所得税は必要経費分は所得から差し引かれ、課税されない。文筆業であれば、執筆用のパソコンや資料代、取材費用、打ち合わせの交通費、郵送代等がこれに当たる。対して、給料には必要経費がないかというと、そうでもない。身一つで働くパートタイマーのようなサラリーマンは、働ける己を保つ為に何やかやと経費をかけている。いや、かけているに違いない。けれど、サラリーマンは忙しいから、その経費を算出して請求は出来ないだろう、うん、出来ないに違いない。というような発想で、サラリーマンの必要経費として差し引かれる。
 その最低額が65万円。この金額は給与収入が162500円を超えるまで一律なので、「パートの給料の場合、給与所得控除は65万円」と単純に覚えて良い。
 尚、通勤の交通費も必要経費扱いで所得には含まれないので、支給を受けているパートタイマーについては、その分差し引いて考える必要がある。

 さて、この二つを足せば103万円の控除となり、103万円の所得はすっかり相殺される。
 これを超えた金額については所得税がかかり始める。まずはこれが一つの区切り目としての103万円。

 ――これだけならわざわざ所得を抑える意味はないのでは?

 そう、104万円になったところで、103万円の時よりも課税対象額が1万円分増えるだけ。所得税と住民税合わせても1500円が課税されるだけである。わざわざ休んでまで103万に抑えても利点はない。
 それなら一体何が原因なのか?
 問題はパートタイマー本人の税金ではない。
 パートタイマーを「養っている人」の懐具合の話なのである。

その2 養われている?
 結婚は人生の墓場とも言うし、子育ては金も時間もかかるとも言う。
 しかし、子供が生まれないと労働力人口が減り税収が減る。税収が減れば政府の使える金が減って困る。
 その為の先行投資として、結婚と子育てをしている「養っている人」に対しては、控除という形で税金を一部免除している。
・配偶者控除 38万円
・扶養控除 子供一人につき38万円
 いずれも、配偶者(結婚相手)と、扶養者(子供)を「養っている人」の所得から控除される。
 ちなみに、扶養控除は里子も親戚(6親等内の血族及び3親等内の姻族)も含む。

 さて。
 問題は「養う」の定義づけが、103万、130万の壁を作っている元凶である。

 まずは大見出しから言うと、養っているかどうかは養っている人が届け出て認められる必要がある。壁を気にしているところの「養われている人」の方は手続きは必要ない。
 そして、配偶者控除と、扶養控除では、養っていると見なされる基準が違って来のだ。

その3 配偶者のパートタイマーは、会社の配偶者手当てがネック
 養われている配偶者とは、
・結婚していること
・配偶者の収入と自分の収入で暮らしていること(生計を一にしている。別居可)
・自分の所得がある程度少ないこと
 この3点を満たす場合となる。

 結婚していなければ法律的に配偶者とは呼ばれないので、内縁の妻や愛人は含まれない。
 「生計を一にする」というと堅苦しいが、普通に夫婦なら問題はない。同居していればわざわざ証明する何かを用意する必要もない。別居している場合は、送金の証明書類になるようなもの等が必要。いずれにせよ、養っている側の話で、養われている側のパートタイマー自身が何か手続きをする類のものではない。

 ようやく本題、パートタイマーの所得の額である。
 「所得の少ない」の、基準が、
・所得税がかからない額
 つまり、先に述べた、
・基礎控除38万円+給与所得控除65万円=103万円
 これが、配偶者控除の適用されなくなるラインである。養われている側の所得が103万円を超えた時点で、養っている側に付いていた配偶者控除38万円が消滅するのである。
 しかし、心配は無用、103万円を越えた後は、
・配偶者特別控除
 に切り替わる。
 この控除は、所得103万円〜141万円の間を段階的に埋めるもので、所得が増える程に控除額が減っていく。103万円の時が一番高くて38万円――配偶者控除が、配偶者特別控除にバトンタッチして軟着陸するというイメージである。つまり、働けば働くだけきちんと手取りは増える。世帯収入も増える。従って、
・配偶者控除に関する限り、103万円に所得を調整する利点はない。
 但し、養っている側の会社の扶養手当や配偶者手当てがこの103万を基準にしている場合、一気に段差が付いてしまう事はある。
 例えば、103万円の区切りで毎月1万円の配偶者手当て付く会社に養っている側が努めている場合、103万を超えた途端に一気に年額12万円が減る事になる。104万円を稼いだばかりに家計に11万円のマイナス、という事。
・配偶者手当てがある場合、働いた方が家計収入が減る落とし穴
 これが、配偶者の103万円の壁である。
 勘違いしがちであるが、配偶者手当ては「養っている者」の勤める会社個々でやっていたりいなかったりするサービスであるから、税金や保険とは全く関係がない。ただ単に、会社側が基準として税金で使うのと同じ基準を使っているに過ぎない。従って103万の壁は、「会社が作っているもの」と言えなくもない。

その4 子供の場合は、段差が大きい
 子供などの「扶養親族」の場合は、配偶者と条件は似たり寄ったりだが、段差が大きくなる。
・里子も親戚(6親等内の血族及び3親等内の姻族)も対象
・配偶者の収入と自分の収入で暮らしていること(生計を一にしている。別居可)
・自分の所得がある程度少ないこと
 以上を満たすと、扶養親族扱いになり「養っている者」に38万円の扶養控除が付く。
 さて、「養われている者」が、養われている事を表すところの「所得が少ない」の基準はというと、38万円の所得があるかないかである。
 聞き飽きた金額だが、給与所得控除65万円を差し引き、基礎控除で相殺出来る38万円と同額、所得税的に言って非課税のラインである。
・給与収入が103万円を越えると、「扶養から外れる」
 というのが、これである。
 実家に寄生しているフリーランスの場合は給与収入以外も混ざって来るので話がややこしくなるが、今はパートタイマーの話であるし、自分の税金の事も知らないフリーランスはいないので敢えて振れない。
 他に控除のない扶養親族の場合には、103万円を越えた時点で、「養っている者」の扶養控除38万円がなくなり、その分の税金が「養っている者」の所得に一気にかかるようになる。
 配偶者特別控除の場合は141万円までなだらかに上がって行くが、扶養控除にそういう段階的な措置はない。
 無論これに、「養っている者」の会社で扶養手当などがあったら、一層段差は大きくなる。38万円にかかる税率を仮に15パーセント(養っている側の収入によって、税率が異なるので)とした場合、
・扶養控除の場合、103万円の段差は最低でも57000円
 3日4日無給でも良いような段差と言える。

 ただ、配偶者と違って子供の場合は「自分の金は自分のもの」で、「養っている者」の収入をあまり気にしない場合がある。
「103万を超えたら、自分の給料が極端に減るんじゃないか?」
 と、不安がっている親と同居のパートタイマーなどがいたら、「あなたの手取りは減りませんが、親の手取りは減ります」と説明するのが良いかも知れない。親には恨まれるかも知れないが。

その5 子供の例外
 これだけを見ると、扶養控除は、配偶者控除よりも薄い控除のように見えるが、いくつかの救済策的な控除が用意されている。

<16歳以上23歳未満の場合>
 まだ充分に若くて独り立ちしていない子供は、扶養控除の中の「特定扶養親族」扱いになる。それより歳をとって家にいる子供はおかしい、というのが国の判断なのかどうかは知らないが。
 条件としては、
・その年の12月31日現在の年齢が16歳以上23歳未満
 である。
 これは、扶養控除の中の一分類であるから、控除されるのは「養っている側」であり、パートタイマー自身の手取りには影響はない。
 特定扶養親族に当たる場合は、通常38万円であるところの扶養控除が、63万円になる。
 この特定扶養親族になっているパートタイマーが、もしも103万の壁を越えると、一気に63万円の控除が「養っている側」の所得から消える。税率15パーセントとして、
・23歳未満の子供が、103万円以上稼ぐと、親の収入が一気に94500円減る。
 と、考えると良いのだが――学生の場合は、また話が変わって来る。この103万円のラインが引き上げられるのだ。

<学生のパートタイマーの場合>
 子供は学生である場合が多い。学生の場合は、確定申告書に記載する事で、勤労学生控除27万円を適用出来る。
・合計所得金額が65万円以下
・給与以外の所得が10万円未満
・特定の学校の学生であること
 の3点が条件となる。
 学生の定義については、迷うようなら学校なり税務署なりに問い合わさせた方が良い。
 この控除は「養われている側」の所得から控除される。「パートタイマーの手取りの増える」控除である。
 勤労学生控除27万円が適用された場合、扶養控除の対象になる所得の上限は、
・130万円=基礎控除38万円+勤労学生控除27万円+給与所得控除65万円
 従って、学生パートタイマーの収入に所得税がかかり始めるのは、給与収入130万円以降という事になる。
・きちんと確定申告している学生については103万に壁はない。
 と言える。

その6 例外
 これらの控除は、例外や定義が細かいものがある。
 いちいち挙げても把握仕切れないので、大まかな部分を述べる。
 一つは、パートタイマーが障害者や老人の場合。扶養控除の金額が多くなる可能性がある。
 もう一つは、勤労学生控除の学生の定義だが、これはいわゆる普通科大学に限らず、高専や専修学校なども可。

その7 パートタイマーに対して
 こうして見ると、必ずしも全員が103万の壁を重視しなければならない訳ではないのが分かる。
 闇雲に103万の壁を怖がりシフトを空けようとするパートタイマーに、これらを説明し恐怖を取り除けば年末近くの憂鬱なスカスカのシフトという事態を避けられるかも知れない。




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