その3●第77回詩人バトル
「恋」 千希作
07.7.7/マニエリストQ(Q書房主宰)

 詩は、自分の書くもの以外、まったく理解できていない。と、思っている自分。分かろうとすると目眩を起こす。本当に眼球が寄ってしまうのです。だから、この快感がとてもいいから、私は詩が好きです。つまり、感覚だけの詩好きなのですと言い訳しておきます。
 「聖五月」藤幹子さん。マザーグースの歌のようです。ランボーの砂漠のサーカス団のようです。お豆腐屋さんのカステラってどんなでしょう。多分、藤さんとは気が合うことでしょう。ご迷惑でしょうが。
 「灰色の世界」トノモトショウさん。ショウさんの詩はいつも謎解きです。七、三の数字は何を隠しているのだろう。最後の白昼夢は数字にすると何だろう。足下に広がる「灰」って何の灰なんだろう。バラバラ、ビラビラ、びゅるうるる、のオトたちは何故にこうも肉ひだのようなハ行なんだろう。定刻通りのバスは、いったいどこに連れていってくれるのだろうか……完璧な目眩。
 「恋」千希さん。千希さんはここのところ好調ですねえ。うちの奥さんはビスクドールのインストラクターなんです。正式にはアンティックドールなんですがね。家には未完成なのやレースの服をつけたのや何体かあります。昔、酒飲みの友人が遊びに来た時、あっち向けてくれって気味悪がったことがあります。遠くを見る目の焦点が合っていないんですよね。だから、人形を見つめるとこれも目眩を感じる。ますます酔って、いいと思うのですが。

 ――陶器の欠片と コバルトブルーの硝子玉
 ――僕の手には硝子玉 ビスクドールの瞳が一対 それを握りしめて僕は

 画家のサルバドールダリは、宝石の名匠でもあるんです。この瞳はまさにダリの宝石そのものです。ここでは、「恋」なんて自分としてはどうでもいいことです。ただひたすら、このダリの宝石を思い出される硝子玉が、ああ何と魅惑的だろうか。日常、この人形の大小の眼球を目にしている自分は、人形の顔の中で取り付け途中で宙に浮いている、あの不気味さを知っている自分は、……どこかおかしいかも。
 とまで夢想させてくれる千希さんの詩は、説教もなく、禍々しくもなく、ただちょっと幼いかもしれなく、けれど千希さんの書く小説と同じように、さりげなくご自分の「美」を楽しんでいるのが妬ましく、だから今回の詩人バトル、自分は千希さんの「恋」が一等賞。

その2●第93回1000字小説バトル
「ねぇ」 藤原ララ作
07.4.21/マニエリストQ 
 最後の「だから、ねぇ私と結婚しようよ。」……物語そのものはここから以降に始まる。
 この作品は告白者としての人物のデッサンにある。告白の目的は「だから、ラーメンでも食べに行こうよ。」でも構わない。いかに一人の人間のデテールを描けたかにあるからだ。また「共感」という道具がどれほどの効果をあげえたか、といったことも考慮しなければならない。
 そういった意味で、この作品は、はたして読者として魅力を感じる人物を(作品自体の魅力をも)描けているだろうか。
 ほのかに喉元までは出ている。そこが惜しいと私は思う。作品の意図は十分に感じられるのだ。始めに述べたように、物語の展開はなくてもいいだろう。続きに期待を持たせられれば、それはそれで超短篇として成立するのだから。そうなれば、この作品の眼目は小説作法としても、人物を描き、その魅力を最大限に打ち出すことにあるのではないか。
 相手構わずの独白で、それが相手に効果があるのかなど、どうでもいいことだ。効果を得られないことも、身勝手で嫌な人物でも構わない。相手に通じないことを描くのも物語の一つだ。ひよっとしたら、この作品はそこがポイントなのかもしれない、と読者としての私は気ままに導き出している。そこに「共感」という技法が成功していれば、多分私はもっともっとこの人物に感傷的になれるだろう。
 作品「ねぇ」に私は、作者の喉元から今にも勢いよく飛び出すだろう何かを予感し期待している。これからが楽しみな藤原ララさんです。

その1●第93回1000字小説バトル
「ヒタル」千希作
07.4.12/マニエリストQ 
「ヒタル」の設定あるいは仕掛けには、定かでないが、何時か何処かで出会っていたような気がする。50年以上生きているとそういうこともおきるのだろう。小説がジャンル分け出来るくらいだから、設定の同一性については格別の異議はない。それは一向に「ヒタル」のマイナスにはならない。それ以上に、個人的好みとして「ヒタル」のなかの漢字が好きだし、構成としての秘密な様子がたまらなく魅力的だ。事実は時間の移動としてのドラマ展開はない。少女の一瞬の官能的な思いがあるだけだ。しかしそこには大袈裟ではあるが、普遍的な美が表現されていると言えるのではないか。物語の巧さというよりも、絶対的な「書く意図」としての美学が、この「ヒカル」にはあるような気がする。千希さんのこれからの作品がますます楽しみになったマニQでした。