橋本寛樹 著

ゲームで読む歴史学

[ゲーム世界観の由来と歴史]ファイナルファンタジー・ドラゴンクエストのルーツ

プレゼンドット 編集



◎目次



はじめに
第一章 北欧神話
第二章 ギリシア神話
第三章 ケルト世界と妖精たち
第四章 キリスト教と中世ヨーロッパ
第五章 インド・仏教世界
第六章 日本のファンタジー
あとがき
参考文献


◎著者紹介



橋本寛樹(はしもと・ひろき)



【経歴】
神奈川県出身。学生時代は、日本中世史を専攻。主に、鎌倉時代の社会史を専門として研究。大学院修了後、食品メーカーのユーザー系企業において、システムエンジニアとして約7年間勤務。システムの開発のほか、マニュアルおよび各種文書の作成・編集に携わる。会社退職後は、出版業界に転職。ゲーム・歴史系のライターとして執筆活動にあたる。

【製作に携わった本・雑誌等】
「仕事ができる人の 伝える力 伝わる力」 英和ムック(英和出版社)2007年7月⇒取材・撮影・執筆を担当。ファイナルファンタジーの作曲を手がけた植松伸夫氏、青い目の国会議員ツルネンマルテイ氏などへのインタビューを行った。
「Wiiの王様 」 英和ムック・らくらく講座24(英和出版社)2007年7月⇒執筆を担当

 

【プロフィール】
幼少より、祖母の寝物語に聞いた歴史の話や、まんが日本昔ばなしなどを見て、歴史やファンタジーに興味を持つ。近所に古都鎌倉があることから、中世の時代に親近感を覚える。高校生のときにプレイしたドラゴンクエスト・ファイナルファンタジーに衝撃を受け、そのファンタジー世界観に魅了される。大学時代に勉強した中世の人の考え方と、ファンタジーRPGに共通点が多いことに関心を持つようになり、歴史・ファンタジー関連の分野で仕事をしたいと考える。

歴史は好きだが、史料を読み解いて新たな学説を立てるという、いわゆる学者の世界には関心がなかった。それより、歴史を通じたファンタジーの世界観を、独特な方法で表現したいという気持ちのほうが強い。

かねてより、ロールプレイングゲームに登場するキャラクターが、世界の神話や歴史を題材にしていることに着目し、本にしたいと思っていた。これをまとめたのが拙稿「ゲームで読む歴史学(仮称)」。ここでは、ゲームキャラクター等の特徴を述べ、その元ネタとなる神話・物語を紹介している。


【特性・特技】
文章を使って、人に物事や気持ちを伝えることを得意とします。専門的な内容でも、初心者にわかりやすく表現できます。人と少し違う発想を持っており、これまでの常識とは違う切り口で物事を実現します。自然を愛し、優しく温和な性格です。
常にプラス思考を持ち、自分の可能性を追及します。失敗したときは反省し、次に活かします。
生活スタイルでは、贅沢を避け、環境に配慮しています。電車・バス・自転車を利用し、車は持っていません。早寝早起を習慣としており、朝は坐禅に通っています。
趣味で音楽をやっており、日本で初めての、ゲーム音楽を専門に演奏するオーケストラを設立。現在60名ほどの団員がおり、毎年の定期演奏会には約1000名の観客がいらっしゃいます。植松伸夫氏、白鳥英美子氏など、著名人とのコラボレーションも経験しました。ゲーム音楽を演奏したいという潜在的なニーズを、楽団創設を通じて実現させました。いずれは、ヨーロッパの古城や教会での演奏旅行をしたいと考えています。

精神修養の一環として、鎌倉三十三観音巡礼を行い、満願。各お寺の行事がある日に参拝し、普段では見られない秘仏の拝観や、法要などに参加。一般観光客としてはできないお寺めぐりの方法を、自分で考え、体験しました。その他、スペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラの巡礼や、吉野の修験道「峰入り修行」にも参加。今後は、自分の体験に基づいた巡礼関連の書籍も手がけたいと考えています。

これまで、ヨーロッパを中心に各国を旅して回りました。特に、西ヨーロッパはほとんどの国を訪問。パッケージツアーではなく、鉄道のパス買って自ら計画を立てていく旅行をしてきました。北欧やアイルランドなど、ファンタジー世界の源泉といえる場所で、これらを訪れることで、文章の着想を得たことも多い。珍しいところでは、アイスランド訪問、シベリア鉄道全線制覇など。

【今後の夢・目標】
ゲームを中心とした歴史・ファンタジー関連書籍を手がけていきたい。今回の拙稿のように、各国の歴史・神話から、ゲームの由来を紐解くというテーマでシリーズ化したい。
その他、ヨーロッパをはじめ、ゲームのモデルとなった歴史の地を訪れるツアーの企画もしたい。そして、いずれはそれらの場所をまとめて、四国八十八ヶ所のような形にしたい。すなわち、スタンプラリーのような感覚で、ゲームの故地をみなが思い思いに巡れるような仕組みを作りたい。
また、RPGで描かれているファンタジー世界は、自然の大切さを暗喩したものが多い。これをきっかけに、環境問題の分野にも貢献したい。⇒例えば、地球温暖化問題をFFのクリスタルの力というたとえで説明し、環境保護を考えさせるテーマなど
トータルとして、これまでの物質中心主義から精神中心の時代へシフトするための一翼を担いたい。人間が本来持っている、主観的創造力をかき立てるような文を書く作家を目指しています。
2007年7月現在 



●著者・著書の問合せ、仕事の依頼は
プレゼンドットまでお願いします。


 はじめに

 ゲームに登場するキャラクターや地名を聞いて、「この元ネタってなんだろう?」と思ったことはありませんか? ファイナルファンタジー(以下FF)やドラゴンクエスト(以下DQ)をプレイしていると、おなじみのモンスターやアイテム、どこかで聞いた町の名前など、興味深いことばがでてきます。
 例えば、FFのモンスター「ゴブリン」や、召喚(しょうかん)魔法の「オーディン」は、ゲームをプレイしたことのある方なら親近感が持てるでしょう。彼らは、昔の人々が語り継いできた神話や伝承に登場しています。読者のみなさんが、小さい頃に読み聞かせてもらったおとぎ話や童話を、読み返してみてください。驚くほど多くの事物がゲームに引用されていることがおわかりになるかと思います。
 「はがねのつるぎ」や「かわのよろい」といった武器・防具をとってみても、元をたどれば、中世の時代に生きた人々の様子を垣間見ることができます。こういったアイテムをキーにして、史実に照らし合わせてみると、その時代に生きた人々の生活スタイルやものの考え方、世界観を窺(うかが)い知ることができます。
 実際にそれらがどのようにして作られ、使われていたのでしょうか? 武器を使う戦士たちもいれば、作る職人もいます。彼らの間を取り持つ商人は、キャラバンを組んで町から町へと巡ります。
 中世では、町の外に出れば危険が満ち満ちています。旅の商人たちは、大切な商品を盗賊などから守るため、自ら武装して身を守りました。DQで繰り広げられる世界は、まさにこれらをモチーフとして使っていますね。荒野を行く商人は、冒険の旅の原型と言えるでしょう。
 ロール・プレイングゲーム(RPG)は、剣と魔法の世界といわれるように、魔法は欠かせない要素として登場してきます。FFでは、攻撃を主とした黒魔法、傷の回復や防御を得意とする白魔法が出てきますね。攻撃魔法サンダーを唱えれば、たちまち敵の頭上に雷が落ちて大きなダメージを与えます。また、ファイア系の魔法は、特にアンデッド (ゾンビなど、死者がよみがえったモンスター)に対しては効果絶大で、魔法をかけるのが楽しくなってしまいます。もちろん、これらはゲームの中の話ですので、実際はこんなに即効性はあったとは思えませんが・・・・・・。
 しかし、魔法は決して架空の産物ではなく、昔の人にとっては現実生活と深い結びつきがあったのです。
 科学技術の未発達な時代、人々にとって、神や自然は近しい存在でした。魔法は、主に宗教的な意味合いを持つ儀式として使用されていたと考えられます。農民が五穀豊穣を願ってささげる祈りというのも、意味としては魔法に近いですね。このほか、錬金術は、魔法を語る上では必ず出てくるといっても過言ではありません。
 穀物を実らせるために雨を降らせたり、物質を組み合わせて別の状態に変化させたりというのは、自然の力と密接なつながりがあります。要するに、自然界の力を借りて人間の願望を実現する手段として、魔法が存在したのではないでしょうか。
 昔の人々は、自然の力に対し、感謝と畏怖の念を持って接しました。そのため、その力を使いすぎることは災厄を招くものとして、忌避されてきたのです。
 しかし、現代の科学・物質文明に目を向けてみると、悲しいことに資源を濫用しています。石油にはじまるエネルギーの過剰な使用が、地球温暖化などさまざまな環境破壊を招いていることは、疑いの余地がないでしょう。
 近年は、自然災害が殊に増えてきました。夏の猛暑や冬の豪雪、各地で頻発する地震や津波など、枚挙に暇がありません。人間の際限ない欲望が、大地の神「タイタン」を怒らせ、海龍「リヴァイアサン」を目覚めさせてしまったのでしょうか? 現代人に必要なのは、昔の人が抱いていたような、自然に対する畏怖の念かもしれません。

 本書では、ゲームに登場するキャラクターやアイテム・地名などの由来を、歴史の視点から紹介していきます。それらが実際、歴史の大きな流れの中、どのような位置付けとして存在していたのか、解明を試みました。時代もエリアもさまざまですが、そこに生きる人たちの考え方や世界観をうかがい知ることができるでしょう。
 読者のみなさんが旅行を考えるとき、ゲームと関連の深い地を巡る、というテーマでプランを立ててみたら、旅が何倍も楽しくなるのではないでしょうか?



 第一章 北欧神話

 北欧は美しい。
大いなるスカンジナビアの山々は深い森を抱き、清流は静かな湖にたどりつく。白夜のフィヨルドは時間を忘れ、冷涼な空気は旅人を約束の地へといざなう。
 北欧の魅力はなんといっても、その神秘的な自然といえましょう。実際に旅してみると、山にトロルが住んでいるといわれても、不思議ではなくなります。ここには、人々を北へ北へと駆り立てる何かがあるのかもしれません。
 筆者は、夏の北欧を列車で旅したことがあります。目的は、最果ての地で白夜を見ること、そしてRPGの故郷を肌で感じることでした。スウェーデンのストックホルムから夜行列車で北上し、オーフォート線の終着駅「ナルビク」に着いたのは翌日の十八時でした。車窓に流れる景色は、ぼんやりと薄明るい夜が明けると、ひたすら森林地帯が広がります。そして、スウェーデンからノルウェーの国境あたりにさしかかると、今度はフィヨルドの最奥(さいおう)部が見えてくるのです。終点ナルビクに降り立ったとき、夕陽は弱い光を放ち、涼風が疲れきった体に心地よく吹き抜けました。やはり、スカンジナビアの大地は、旅人を北へと衝き動かす力があるのでしょう。
 同じ感覚を、FFVIIでも味わったことがあります。主人公のクラウドたちが冒険を続けていると、「アイシクルエリア」という氷雪に閉ざされた世界を旅しますね。銀世界の出発点、「アイシクルロッジ」からスノーボードで駆け下りると、あたりは一面の大氷河。ここから奥へ進むと、「ガイアの絶壁」が行く手を阻むようにそそり立っています。これをよじ登り、絶壁内部に入ると、神秘的な青の世界がクラウドたちを迎えるのです。さらにここを抜けると、ライフストリームの霧に包まれた「竜巻の迷宮」を通り、ついには星の体内へと続いているのです。ここは進んでいく程、さらに先へ行きたくなるから不思議です。酷寒の地の最奥には究極のファンタジーが眠っているのでしょうか? FFでもやはり、北へ北へといざなう北欧の感覚があるように思えてなりません。
 このように、美しく神秘的な北欧で生まれた神話は、ゲームと深い関わりをもっています。北欧神話の主神はオーディンです。FFでは召喚魔法として登場しますね。オーディンは、キリスト教が入ってくる以前の北欧で信仰されていました。戦いや死をつかさどる神で、不吉なイメージをもたれています。また詩の神様という側面も持っています。
 FFのオーディンは、「ざんてつけん」をふりかざし、すべての敵を真っ二つに切り裂きます。これが出てくるとスカッとしますね。ただ、神話の中でのオーディンは、戦いの際、敵を麻痺あるいはパニックに陥れることを得意としたといいます。ゲーム的にいえば、コンフュやマインドブラストなどの魔法に近い類の攻撃法をとっていたといえるでしょうか。そうしたいわばねちっこい戦い方は、「ざんてつけん」の清冽(せいれつ)なイメージとは異なるようです。
 この他、北欧神話にまつわる多くのものが、ゲームには登場してきます。ミッドガルド、ニブルヘイム、ヴァルハラ、フェンリル、ラグナロク……。挙げているときりがないので、本文中で紹介することにしていきましょう。

l 歴史的背景

 北欧が、歴史の表舞台に出始めてくるのは、八世紀後半から活躍するノルマン人の民族移動の頃からでしょう。かれらはもともとノルウェーやデンマークの沿岸地方に定住していました。
 ノルマン人はヴァイキングとも呼ばれています。これは、「入り江の人」という意味です。ノルウェー沿岸には無数のフィヨルドが存在し、そこに住むノルマン人たちは船の扱いを得意としました。
 北欧という地は、風景こそ美しいものの、その一方で生活環境としては厳しいものがあります。まず、平地が少ないため耕地になりうる場所が乏しく、また気候も過酷で、夏は短く冬が長い。そしてその北欧の冬が土すら凍てつくほどの極寒なのです。緯度が高いため、夏は一日中太陽が沈まない白夜となりますが、冬はちょうどその逆で、ほとんど日の目を見ることがない極夜になります。
 こうした峻烈(しゅんれつ)な風土で生きる人々の神話には、やはり悲観的な傾向が見られるものです。
 神話の最後には「ラグナロク」と呼ばれる、神々と巨人族との最後の戦いが起こります。FFでは、ラストダンジョンに出てくる最強の剣としておなじみですね。あらゆる生物がこの戦いに巻き込まれ、すべての生命が奪われていきます。この終末は、遁(のが)れがたい運命として北欧人たちに自覚されています。
 確かにこれだけ見ると、北欧に根づく悲観的な意識を否めないところではあります。が、まったく逆の視点に立ってみれば、潔い諦観(ていかん)精神を感じ取ることも出来るでしょう。人間の肉体は必ず滅びるが、生きている間に勇気と忠誠と寛容を持って名声を勝ち得ること、それが古代北欧に生きる人々のポリシーであり、自信であったといえるのです。
 七八〇〜一〇七〇年の期間は、いわゆるヴァイキング時代と呼ばれ、ノルマン人が南・東・西へと移動しました。移動の要因としては二つ挙げられます。ひとつは、人口増加による土地・食料不足によるもの。もうひとつは、ヨーロッパにおける商業路の拡張が、ヴァイキングたちの活動範囲を広げる契機になったことです。
 このうち、西に移動した者たちは、九世紀末から十世紀初頭にかけてアイスランドに上陸し、植民を行いました。この後、赤毛のエリクという人物がグリーンランドへ、さらにその息子レイブがカナダのニューファンドランドとアメリカ合衆国のニューイングランドにまで進出するのですが、その詳細は他の著書に譲ることにしましょう。
 北欧神話の出典は、多くをアイスランドの文献に依拠します。有名なものに、エッダ(Edda)とサガ(Saga)があります。エッダは古アイスランド語で記され、主に神話を詩の形で叙述したものです。八〜一一世紀に成立した「古エッダ」と、一三世紀に書かれた「新エッダ」があり、後者は中世アイスランドの文学者、「スノリ=ストルルソン(一一七九〜一二四一)」の作です。
一方サガは、古ノルド語で書かれた、中世の散文物語を指します。主にアイスランド植民の史実や、それにまつわる英雄譚(たん)が記されています。ゲームでも、ロマンシング・サガやサガ・フロンティアなどでおなじみですね。

l 世界観

 北欧神話の世界は、次のような三層構造をなしています。

第一層(上部)
アースガルド・・・アース神族の世界
ヴァナヘイム・・・ヴァン神族の世界
アールブヘイム・・・光の妖精(エルフ)の国
ヴァルハラ・・・戦死者の館
ウルドの泉・・・運命の泉

第二層(中部)
ミッドガルド(中つ国)・・・人間の世界
ヨツンヘイム・・・巨人の国
スヴァルトアールブヘイム・・・黒妖精(ドワーフ)の国
ウトガルド・・・巨人の城砦
ミーミルの泉・・・知恵の泉
ミドガルズオルム(ヨルムンガンド)・・・世界蛇

第三層(下部)
ヘル・・・死者の国
ニブルヘイム・・・北方、霧と氷の世界
ムスペルヘイム・・・南方、炎の世界
ギンヌンガガップ・・・ニブルヘイムとムスペルヘイムを隔てる裂け目
ニドヘグ・・・悪竜
フヴェルゲルミルの泉・・・十一の川「エリヴァーガル」の源泉

その他(全体)
ユグドラシル・・・世界樹
ビフレスト・・・アースガルドとミッドガルドを結ぶ虹の橋

 世界の中央には、巨大なトネリコの木「ユグドラシル」があり、三層を貫いています。世界樹とも呼ばれるこの大木には、三本の根があり、各層の泉「ウルド」「ミーミル」「フヴェルゲルミル」につながっています。オーディンは、知恵の源であるミーミルの泉水を一口飲むために、片目を差し出しました。
 この巨木はまた、あらゆる動物を養っています。鹿や山羊は新芽を食べ、地下の悪竜「ニドヘグ」と無数の蛇たちは根をかじっているのです。その上、ユグドラシルからしたたり落ちる甘露からは、ミツバチを介して蜜ができあがります。すべての生命が消滅する終末「ラグナロク」においてすら、このトネリコの木は生き延びるといわれています。
 このように、世界樹ユグドラシルは、生命の根源というにふさわしい存在です。DQにも、死者を蘇らせる「せかいじゅのは」や、パーティメンバー全員の体力を回復させる「せかいじゅのしずく」といった重要アイテムが登場します。こちらもやはり、本来の意味をベースにして、効用が設定されていることがおわかりでしょう。

 北欧の神は、「アース神族」と「ヴァン神族」の二種類に分かれています。アース神族は、主神オーディンと、その眷属(けんぞく)で構成されています。オーディンの妻はフリッグで、息子たちには雷神トール・戦いの神チュール・光り輝く神バルドルなどがいます。
 この他、主な神としては女神のワルキューレ(ヴァルキューリ)が挙げられます。この名前を聞いて、一九八六年に登場したファミコン版ゲーム「ワルキューレの冒険〜時の鍵伝説〜」を思い出される方もいるでしょう。ワルキューレは、終末ラグナロクに備え、戦場に赴いて、「エインヘルヤル」と呼ばれる戦死者たちを、ヴァルハラの宮殿に運びました。ワルキューレはゲームはもとより、音楽でも、リヒャルト・ワーグナー(一八一三〜一八八三)作曲の楽劇に取り上げられています。
 ヴァン神族には、長老ニヨルド、その息子フレイ・娘のフレイヤなどがいます。
 この他には、上記神族に分類されない半神ロキなどが有名です。ロキは、両性具有であったといわれ、オーディンの義兄弟とされています。彼はトリックスター(いたずら者)としての特徴をもち、やがて神々に敵意を持つ邪悪な存在に取って代わります。それがアース神バルドルの死を引き起こすのです。これにより、ロキは捕縛(ほばく)されますが、ラグナロクのときに自由となって神々に敵対し、相打ちとなります。
 ロキの子供は、世界蛇ミドガルズオルム・狼フェンリル・半分生きて半死んでいるヘルの三匹の怪物たちです。ミドガルズオルムは、FFVIIに登場しましたね。沼の中で大きな影がうごめいていたのが印象的です。この蛇は、別名をヨルムンガンドといい、FFIIIではこちらの名前で、あの長いラストダンジョンに出てきました。フェンリルも同じく、複数のFFシリーズで、その名を見ることができます。

l 神話

一 天地の創造

 最初に二つの領域がありました。南の方角には炎の世界「ムスペルヘイム」があり、北の方角には霧と氷の世界「ニブルヘイム」が広がっています。ムスペルヘイムとニブルヘイムの間には、「ギンヌンガガップ」という大きな裂け目が横たわっています。ここでは、ムスペルヘイムからの熱気とニブルヘイムからの冷気が交わり、溶けた氷のしずくから、ひとつの生命体ができました。霜(しも)の巨人「ユミール」です。ユミールは、自身の脇の下や足から子供を生み出し、そこからさらに巨人族の子孫が増えてゆきました。
 ギンヌンガガップからは、もう一つの動物が生まれます。雌牛の「アウムドラ」です。アウムドラが氷をなめていると、その中から「ブーリ」という名の人間が現れました。ブーリの息子「ボル」は、霜の巨人「ボルソルン」の娘「ベストラ」と結婚し、三人の息子をもうけました。長男が「オーディン」、次男が「ヴィリ」、三男は「ヴェー」です。北欧神話の主神オーディンは、このようにして、自らが活躍する世界に登場したのです。

 ニブルヘイムという地名は、FFVIIでも出てきますね。ゲームでは、主人公クラウドと、その幼なじみティファの故郷として設定されています。ストーリー上、ニブルヘイムはラストボスのセフィロスによって火が放たれ、クラウドの故郷は炎上してしまいます。この町は、生気のない住人、味気ない彩色の建物など、重苦しい雰囲気が漂っています。町の背後にあるニブル山は、木も生えず、陰鬱な岩肌があるのみで、その荒涼とした風景が印象的でした。これらは、神話に出てくるニブルヘイムの、茫漠たる原初の風景に重ね合わせることができ、なんともいえない似つかわしさを覚えます。
 ユミールのほうは、FFVI最初のボス敵として、炭鉱都市ナルシェの奥にある洞窟で登場しました。こちらのグラフィックは、かたつむりのような形状をしています。

 オーディンら三神は、乱暴狼藉を働く霜の巨人とそりが合わず、ついにはユミールを殺してしまいます。彼らはユミールの死体から世界を創っていきました。
 その肉から大地を、骨からは山脈を作りました。歯とあご、そして壊れた骨のかけらをもって、岩や石をなしたのです。ユミールの血液は海と湖になり、その頭蓋は高く舞い上がり、天空が形作られました。そして、ユミールの脳みそは雲となったのです。
 さらに、オーディンたちは、ムスペルヘイムから飛来する火炎をとらえて太陽と月と多くの星を作り、天空に放ちました。
 オーディンらアース神族は、天の高みにアースガルドを築き、自身たちはそこに鎮座しました。また、アースガルドには、戦死者の館「ヴァルハラ」も建設され、ラグナロクに備えたのです。
 大地は、巨人族と人間の住処として、神々から与えられました。岸辺に近い所は巨人族が住む「ヨツンヘイム」であり、内陸部は人間が生活する「ミッドガルド」です。これらの境界には、ユミールの眉毛から作った垣根がしつらえられました。

 ミッドガルドといえば、FFVIIのオープニングから、しばらくその中を冒険することになる八角形の都市(ゲームでの名称は「ミッドガル」)を思い浮かべるかもしれませんね。しかし、この言葉を直訳すると「中つ国」となり、多くの神話で人間の住む世界として位置付けられています。この概念は、日本神話の「古事記」や、イギリスの作家トールキン(一八九二〜一九七三)の著作「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」にも取り上げられています。
 因みに、「〜ガルド(gard)」は「国」または「世界」を意味します。DQでは「アレフガルド」という世界を舞台にして冒険が展開されますが、これは「始まりの国」という意味です。アレフは“α(アルファ)”、転じてアルファベットの“A”となります。すなわち、「最初の国」というわけです。

 オーディンたちは、人間も創造しました。北欧神話における最初の人間は、聖書のアダムとイブよろしく、「アスク」と「エムブラ」の男女一組です。彼らは、ミッドガルドに住み、すべての人間の祖となりました。
 天空に目を向けると、太陽と月は、それぞれ馬に引かれた戦車に乗って、定められた軌道を駆け抜けています。月が先で、太陽が後に走ります。その両者を追いかける二匹の狼がいます。「ハティ」は月を、「スコール」は太陽を追い、常にかみつこうと狙っているのです。時ラグナロクに至りて、ついに狼たちは太陽と月を捕らえ、飲み込んでしまいます。
 巨人ユミールの肉の残骸を食い荒らしていたうじ虫たちがいました。オーディンたちは、そのうじ虫たちにも人間の姿と知力を与え、ドワーフ小人としたのです。ドワーフたちは、山のほら穴や地下の洞窟に住みつき、鉱夫や鍛冶・金銀細工師の仕事をしています。その姿は長い髪と髭(ひげ)を蓄えており、ツルハシや斧を上手に使います。ドワーフの持つ技術水準は高く、神々の持つ宝物さえも作りました。

 ドワーフは、ゲームにもよく登場しますね。FFシリーズをみても、ドワーフたちは地下に住んでおり、話しかけるとなぜか「ラリホー」と挨拶します。FFIVでは、地底世界にドワーフの王国があって、キングジオットが城を構えていました。この城には左右に塔があり、ドワーフの富を象徴するかのように、宝物がひしめいています。ドワーフの技術と財宝は、謎に満ちた地下世界を攻略する心強い味方でしたね。
 また、FF」では、ダンジョン「大海溝」の深奥(しんおう)に、たった五人しかいないドワーフの国がありました。ここには、世界一周をめざして今日も穴を掘り進めるドワーフがいます。地上世界では、チョコボに乗って世界一周するイベントがありますが、地底世界でもいずれ同じことができるようにするのでしょうか?

二 グングニルとトールのハンマー

 FFに出てくるオーディンは、戦闘で召喚されたとき、敵に槍を投げつけることがありますね。これは「グングニル」といい、オーディンを象徴する武器です。
 また、同じくFFに登場する斧系の武器に「トールのハンマー」があります。これは、その名のとおり、アース神族のトールが持っていたものです。神話では、このハンマーを「ミョルニル」と呼んでいました。ハンマーといっても、単に叩いて使うだけではありません。ブーメランのように、遠くに投げても、必ず手元に戻ってくるという投擲(とうてき)武器なのです。FFでも、ちゃんとこの点が考慮されており、使い手は遠心力を利用してハンマーを敵に投げつけ、ダメージを与えます。戦士系の武器としては唯一、バトルモードで後列から攻撃しても威力が落ちないという特徴を持っていますね。
 ここでは、それら神秘の武器がどのようにしてできたのか、由来を尋ねてみたいと思います。

 ある夜のこと、なぜかロキは、鍵のかかったシフ(トールの妻)の寝室に入り込んでいました。ロキは小刀を抜き、素早くシフの黄金色に輝く髪を切り取ったのです。このいたずら者はニヤリと笑い、寝室を出て行きました。
 翌朝のことです。シフはずっと泣いていました。そしてトールは、妻の切り株頭を見て愕然とし、激しく怒りました。「こんなことをするのはロキしかいない!」 トールはロキの襟首をつかみ、「どうしてくれるんだ」と抗議したのです。ロキは苦しさのあまり「わかった、元に戻すよ。ドワーフ小人たちの力を借りてさ。約束するよ」と答えました。トールは「戻さなかったら、お前の頭蓋骨を叩き割ってやるからな!」と脅しました。
 さて、ロキは出かけました。アースガルドを出て、ビフレストの橋を渡り、黒妖精の国「スヴァルトアールブヘイム」へと降りていきました。そして、洞窟の闇にきらめく水の流れをたどっていくと、やがて「イーヴァルディの息子たち」と呼ばれるドワーフの家がある、大きなほら穴にたどり着きました。
 ロキは、巧みな言葉でドワーフたちを誉めました。「君たちこそ、真に優れた金銀細工師だ。君たちなら、シフの髪の毛と同じような見事な黄金を紡(つむ)ぐことができる。しかも、それがシフの頭から生えてくるように魔法をかけることだってできるさ」。打算的なドワーフたちは、「それで、どんな褒美をいただけるんだい?」と訊きました。ロキもしたたかなもので「シフとトールの感謝だ。そして神々の友情もね」と切り返したのです。この約束は、ドワーフたちにとってみても、少しの労力と黄金を費やすだけのことなので、特に損はないと思い、ロキの依頼を承諾したのです。
 イーヴァルディの息子たちは、早速作業に取りかかりました。火をおこし、呪文を唱えながら、黄金の糸を紡ぎ始めたのです。やがてできあがった髪の毛は、みごとに風になびいています。
 ドワーフたちは、この火を消すのはもったいないと思い、さらに神々への贈り物を作りました。オーディンには「グングニル」という槍を鍛えました。これは、強力なだけではなく、投げたときに決して標的を外さないのです。フレイには「スキーズブラズニル」という船をこしらえました。この船には、武装したすべての神々を乗せることができ、使わないときは解体できるというものです。
 ロキは礼を言うと、帰途につこうとしました。しかし、ふとあることを考えつき、そのまま別のドワーフ兄弟「ブロック」と「エイトリ」の館を訪ねたのです。兄弟は、ロキの持っている三つの宝物を見て、目を奪われました。やがて、兄弟の気持に妬みが生じてくるのを、ロキは陰険な目で見つめていました。
 ロキは、ドワーフ兄弟に向かって「これほどの素晴らしい腕前を見たことがないだろう?」と競争心を煽ります。それに対して、ブロックとエイトリは「もっと見事なものが作れるよ」と返しました。「まさか」とロキはあざけり、「ぼくは君たちにはできないと思うね。僕の頭を賭けてもいいよ」と請け合います。
 これを聞くと、ドワーフ兄弟は勇み立ちました。神々のトラブルメーカー、ロキを粛清(しゅくせい)できるチャンスです。ふたりは、ただちに準備にとりかかります。火を起こすと、エイトリはブロックに「さあ、ふいごを押すんだ。何があっても離すなよ」と言いました。
 こうして、三つの宝ができました。オーディンには「ドラウプニル」という腕輪を作りました。この腕輪からは、九夜目ごとに同じ重さの腕輪がしたた滴り落ちてくるという代物です。フレイには「グリンブルスティ」という剛毛のイノシシをこしらえました。このイノシシは、地上はもとより、海や空をも駆け巡ることができるのです。そして、トールには「ミョルニル」と呼ばれるハンマーを鍛えました。このハンマーは絶対に壊れません。そして、これをどんなに遠くに投げても、必ず手元に返ってくるのです。また、これを隠そうと思うとき、ハンマーは小さくなって、下着の中にしまうこともできるのです。ただ一点、このハンマーには欠点がありました。柄が少し短いのです。というのは、ドワーフ兄弟がハンマーを製作している途中、アブに化けたロキがブロックの両まぶたを刺したため、ブロックがふいごから一瞬手を離してしまったからです。
 さて、ロキとドワーフ兄弟はアースガルドに行き、神々に宝物を渡しました。イーヴァルディの息子たち、ブロックとエイトリ、いずれがより優れているかを判定するのは、オーディン・トール・フレイの三神です。結果は、ブロックとエイトリ兄弟に軍配が上がりました。決め手は、トールへ贈るハンマー「ミョルニル」です。これだけが、宿敵である巨人族から神々を守れるということに、最も大きな価値を見出したからです。柄が短いことは問題になりません。ロキは、自分が賭けに勝つため、ドワーフ兄弟の仕事の邪魔を企てたものの、結局うまくいきませんでした。
 「ロキの頭をもらおう!」とブロックはわめきました。ロキはあわてて逃げ出しますが、トールに捕まり、連れ戻されます。もはやロキは絶体絶命!と思われましたが、さすがは狡猾(こうかつ)なロキ、絶妙な機知でこの危機を乗り越えます。
「確かに君は僕の頭を要求できる。だが、ぼくの首は取れないぞ」
朴訥(ぼくとつ)なドワーフ兄弟は、ロキが自分たちよりも上手(うわて)であることを悟りました。
 ロキの命を取れないことがわかったブロックは、せめてそのおしゃべりを止めさせてやろうと、エイトリのきり錐を使ってロキの唇に穴をあけ、皮ひもで口を縫いつけました。ロキは、ドワーフたちから逃げると皮ひもを切りましたが、激痛に悲鳴をあげました。
 こうして、神々は、優れた金銀細工師の手によって、世にまたとない武器や宝物を手に入れました。しかし、同時にロキの復讐心を煽ることになったのです。

三 スレイプニル

 FFのオーディンは、馬に乗った姿で登場します。この馬の名は「スレイプニル」といい、八本の脚をもっていて、どんな馬よりも速く走ることができます。ここでは、この馬の生い立ちをお話しましょう。

 アース神族とヴァン神族は、ある事件が引き金となって、戦争をしました。オーディンがヴァン神族にグングニルの槍を投げつけて戦いは始まり、両者は激しくせめぎ合いました。しかし、結果は勝敗がつかず、お互いが人質を交換することで和議を結んだのです。
 この戦争により、アースガルドのまわりを囲んでいた城壁は破壊されてしまいました。アース神族の神々は、城壁の再建を切望しておりましたが、大変な労力を伴う作業を、誰ひとりとして買って出る者はいませんでした。
 あるとき、ひとりの男が馬に乗ってやってきました。アース神の見張り役「ヘイムダル」が、何をしに来たかを問いただすと、男は「神々に話がある」と言います。そこで、ヘイムダルは、オーディン以下神々の集まる「グラズヘイム」に男を案内しました。
 男は、城壁の再建を申し出たのです。建設に必要な期間は一八ヶ月。巨人が襲ってきてもびくともしないような、難攻不落の城壁を作ってみせましょうというのです。しかし、建築師の男はその報酬として、アースガルドに人質に来ていた美しい女神「フレイヤ」を妻に娶(めと)りたい、さらには太陽と月も欲しいと要求してきました。
 これを聞くと、神々は一斉に反対し、建築師を罵りました。しかし、ロキは神々を制し、「どんな事でも考慮する価値があるよ。しばらく我々は相談するので外で待っててくれないか?」と、建築師に言いました。ずる賢いロキは、建築師に報酬を与えずに城壁を作らせる方法を考えていたのです。
 ロキは神々にこう説明しました。「彼に六ヶ月だけ与えよう。そして、期間内に建てられなかったなら、我々は何も失うものはない。しかも、半ばまで建てられた城壁が手に入るのだ」と。神々も、「なるほど、そんな短い期間では建てられまい」と同意しました。
 さて、オーディンは建築師にこう言いました。
「期限は六ヶ月! 冬の始まりから春の終わりまでだ」
 建築師は不快感を露(あらわ)にし、「それは不可能です」と言いました。しかし、振り向けば憧れのフレイヤがすぐそばにいます。建築師は続けて「では、私の馬『スヴァディルファリ』を作業に使わせてください」と提示します。オーディンはこれを渋ったものの、ロキの口添えもあって、結局この条件をのむことにしました。
 建築師は働き始めました。残月の冷たい光が、未だ明けやらぬ暁天(ぎょうてん)に淡く輝いています。建築師は雄馬スヴァディルファリを伴って岩山に出かけ、石材を求めました。彼は、ものすごい力で岩を持ち上げ、あっという間に岩を山と積み上げました。実は、この建築師の正体は、石の巨人だったのです。
 東の空が朱(あけ)に染まるころには、彼と彼の愛馬はアースガルドの壊れた城壁に戻ってきました。神々は、これらたくさんの石材を見て、不安にかられました。しかし、壊れた城壁の大きさを考えると、この心配は杞憂だと、自らに言い聞かせたのです。
 フレイヤを手に入れたい一心の建築師は、来る日も来る日も働きました。冬の吹雪の中、ひたすら岩を運び、城壁にはめ込んでいったのです。
 やがて春が来て、そして約束の期限まであと三日となりました。北欧ですから、晩春の日の長さはかなりのものです。その頃までには、建築師は城壁をほとんど完成させ、あとは門を仕上げるだけ、というところまできていました。
 神々は慌てました。もともと、守るつもりのない約束をしてしまったことを後悔し、なんとかしてこの契約を破棄する方法はないかと考えたのです。オーディンたちは、混乱の元を作ったロキに詰め寄りました。ロキは神々の抗議を一身に受け、ついには「城壁の完成を阻止します」と誓約をしました。
 建築師に身をやつした巨人は、あとわずかでフレイヤが手に入る喜びをかみしめながら、希望に満ちた表情で、愛馬とともに最後の仕上げを進めていました。すると、一頭の雌馬が近づいてきて、後ろ足を空高く蹴り、スヴァディルファリを誘惑したのです。建築師の雄馬は、雌馬の美しい脇腹を見ると、仕事を忘れ、彼女のほうに走り寄っていったのです。実はこの雌馬、ロキが化けたものだったのです。
 建築師はもはや、期限までに城壁を完成することは絶望的となりました。彼は、この汚い謀略に怒り狂い、巨人の正体を現して「騙(だま)したな! 神々の野郎どもにだまされた!」と怒鳴りました。これに対し、神々はトールを呼び、巨人の頭蓋にハンマー「ミョルニル」の一撃を喰らわせたのです。こうして巨人の命は露と消え、その魂はニブルヘイムの闇に葬られたのです。
 さて、数ヶ月の後、一頭の仔馬が産まれました。名前を「スレイプニル」といい、八本の脚をもっています。このスレイプニルは、他のどの馬よりも速く走り、海を渡り、ニブルヘイムにすらも行けるのです。仔馬の父親は巨人の愛馬スヴァディルファリ、そして母親はなんと、ロキが変身した雌馬だったのです。
 ロキは、この仔馬をオーディンに与えました。オーディンは、こうして名馬スレイプニルを手に入れたのです。

四 ルーン魔術

 ゲームで、「ルーン」ということばがつく武器やアイテムを思い浮かべてみてください。「ルーンアクス」「ルーンブレイド」「ルーンのうでわ」などが挙げられると思います。これらに共通する特徴は、魔力に関係していることです。
 武器類では、キャラクターのマジックポイントMP(魔力)を消費して、敵モンスターに通常よりも大きなダメージ(クリティカルヒット)を与えます。戦士など、通常魔法を使わないキャラクターにとって、MPを有効活用できる武器なのです。
 FFIVに出てくる装飾品「ルーンのうでわ」は、装備すると、キャラクターの知性や精神といったステータスが上がり、魔法の効力を高めました。
 さて、そのルーンの由来は、どんなものなのでしょうか?

 ルーン(Rune)とは、北欧を中心にゲルマン民族の間で使用されていた文字のことです。この文字は、紀元前二世紀頃から一四世紀(一説には一七世紀)まで使われていました。アルファベットと同じく、固有の音価を持っています。また同時に、個々が意味と象徴を持つ表意文字でもありました。
 ルーン文字には、魔力が込められています。使い方としては、石碑・武器・護符(ごふ)などに文字を刻み込んで、その力を発揮させました。石碑のルーンを解読すると、その多くは死者の生前の業績を賛美したものです。また、武器や装身具にルーンを刻み込むことにより、戦場での勝利を期待したのです。
 ルーンの秘法は、戦士たちの信奉するオーディンが会得し、人間に授けたものと信じられていました。神話では、その経緯を次のように述べています。

 世界の中心にそびえるユグドラシルの巨樹。その三つの根は、三層を成す神話世界の、それぞれの泉とつながっています。このうち、霜の巨人が住むヨツンヘイムに伸びる根は、知恵の泉「ミーミル」に達しています。
 オーディンは、この水をただひと飲みする代償として、彼の片目を差し出しました。これにより、オーディンは偉大なる知識を手に入れたのですが、さらに多くの知恵を得たいと欲し、ユグドラシルの樹にやってきたのです。
 オーディンは、ルーンを手に入れる様子をこう回想しました。
「わしは、ユグドラシルの樹に九夜吊り下がっていた。わしは身体を槍で貫かれ、自身を自分のための生け贄とした。そして、ルーン文字をつかんだのだ。わしの知恵は大きくなった」

 オーディンの体得したルーンの呪法は、次の通り。

一. 悲しみを慰め、痛みをやわらげることができる
二. 医者を志す者がこの呪法を知れば、人々を癒すことができる
三. 戦いで、相手の武器をなまくらにすることができる
四. 手足を縛られても、その縛めを解くことができる
五. 標的に向かって勢いよく飛んでいる矢を、目で見るだけで捕まえられる
六. ルーン魔法を使って誰かが私を亡き者にしようとしても、呪文を跳ね返し、逆に術者本人が身を滅ぼすことになる
七. 火事になっても、火を消すことができる
八. 人を賢明にし、悪い心を根絶やしにすることができる
九. もし、嵐のなか船を救う必要があるなら、風を静め海を穏やかにすることができる
一〇. 魔女が変身して飛んでいるのを見たら、それを元の姿に戻れないようにすることができる
一一. 友を戦いに導くとき、盾の後ろでまじないを唱えると、友の力は増し、無傷で帰ってくることができる
一二. 首を吊るされて死んだ者と話すことができるように、ルーン文字を刻むことができる
一三. もし私が子供に水をかけたならば、彼は闘いのただ中で倒れることがないだろう
一四. 人間に、神々と妖精の名をひとつずつ教えることができる
一五. 神々には力、妖精には栄華、オーディンには知恵を授けることができる
一六. もし女性に恋焦がれるなら、その女の心を向けさせ、その心を得ることができる
一七. 異性の心変わりをおさえ、自分の元に留まるようにすることができる
一八. わしの腕の中で寝ている女か、実の姉妹でない限り教えまい。そしてお前だけが知っているということが、最大の力を持つのだ。これは最後の究極のまじないだ

 以上がルーンの呪法です。詩の翻訳という特性上、わかりにくい部分もありますが、魅力的な魔法が並んでいますね。
 ゲームにおける魔法の役割というと、ほとんどが戦闘に役立つかどうかという視点から効果が設定されています。これに対して、神話の魔法は、日常生活にも役に立ちそうなものが見られます。古代の人々にとって、やはり魔法が生活の一部になっていたといえるのでしょう。

五 ロキの子供たちとフェンリルの捕縛(ほばく)

 FFのモンスター「ミドガルズオルム」と召喚獣「フェンリル」は、ともにロキの子供として北欧神話に登場します。
 ミドガルズオルムは水生の蛇です。「世界蛇」と言われるだけあって、ゲーム中でも巨大な姿をしています。FFVIIでは、湿地帯で串刺しにされ、血まみれになっているミドガルズオルムがおり、その大きさに圧倒されました。しかし、神話ではそれよりもはるかに大きく、その長さは世界をぐるりと一周してなお余り、自分の尻尾を口にくわえるほどになっておりました。当然、テレビの画面には入りきらない大きさです。
 狼フェンリルのほうは、FFのなかでも、シリーズによって魔法効果の異なる召喚獣です。FFVIでは、味方に分身魔法をかけて、敵の命中率を下げています。技の名前は「ハウリングムーン」で、月に向かって吼(ほ)える狼を意味しています。北欧神話でも、狼のハティは月を追いかけており、両者の関連性があるように見受けられます。その効力からいうと、直接攻撃ではなく、戦闘補助系の魔法ということになります。これに対して、北欧神話のフェンリルは、鋭い牙と狼本来の獰猛(どうもう)さで神々に脅威を与えていました。
 では、彼らの生い立ちを見てみることにいたしましょう。

 両性具有の半神ロキは、名馬スレイプニルの母親であるとともに、三人の奇怪な子供たちの父親でもありました。ロキは、妻シギュンに不貞をはたらき、女巨人アングルボダとの間に三人の子をもうけたのです。最初は狼のフェンリル、二番目は世界蛇ミドガルズオルム、三番目は娘のヘルです。
 神々は、奇妙な子が産まれたことに不安を覚え、ウルドの泉の元に集まり、相談をしました。ここで、運命の女神ノルンは、不吉な予言をもたらしました。「この子供たちは将来神々を脅かし、フェンリルはオーディンを殺すでしょう」と。
 そこで、神々はロキの子供たちを捕らえることにしました。まず、ミドガルズオルムは海に投げ込まれました。しかし、この蛇は死なず、逆に海底で恐ろしいほどの成長を遂げたのです。次に、ヘルはニブルヘイムに投げ込まれ、死者たちの世話をするよう命じられました。最後に、フェンリルは神々の監視の下、アースガルドの金色に輝く草原に放たれました。とはいえ、神々のなかで獰猛なフェンリルに近づけるのはチュールだけでした。
 フェンリルが日増しに成長していく様子を見て、神々は不安にかられました。そこで、神々は、フェンリルを捕らえて、鎖でつなぎ止めることにしました。しかし、神々が用意した鎖は、次々とフェンリルに食い破られてしまいます。オーディンは「破られない鎖を作れるのは小人だけだ!」と言いました。
 こうして、小人たちによって究極の足枷(あしかせ)「グレイプニル」が作られました。この足枷は何でできているかというと「猫が動く時に立てる音・女のひげ鬚・山の根っ子・熊のけん腱・魚の息・鳥の唾(つばき)」の六つです。つまり、無いように見えるが、実は小人たちが持っているものによってできているのです。
 さて、グレイプニルを見たフェンリルは、警戒しました。そして、「もしこの紐で私を縛るのなら、その間あなたがたの一人が、誠実の証として私の口に手を入れていてください」と言ったのです。フェンリルの口に手を入れたのはチュールでした。
 神々はグレイプニルでフェンリルを縛りました。フェンリルは縛めを解こうともがき、歯を食いしばりました。しかし、グレイプニルは破られませんでした。ついに、神々はフェンリルの捕縛に成功しました。でも、チュールはこのために片手を失ってしまったのです。
 この後、フェンリルは地下深くに閉じ込められ、他の兄妹とともに、ラグナロクの時を待っているのです。

六 ラグナロク

 いよいよ、世界の終末「ラグナロク」についてのお話です。神話では、これ以前にもいろいろな話があるのですが、ここでは割愛します。興味のある方は、北欧神話関連の書籍を読んでみてください。
 FFのゲーム上でも、ラグナロクは最後の剣として物語の終盤に登場します。これが出てくると、「ラストボスも近いぞ」と気を引き締めますね。神話のラグナロクが、神々と巨人たちとの「最後の闘い」であることから、一種の共通する思想が感じられます。また、みなさんはそれまでの長い冒険を振り返り、感慨にふけることでしょう。ちょうど、旅の終わりの心境に似ているような気がします。山々を越え、最後の峠から、ついに目指す町の教会の尖塔が見えます。このときの「おお、見えた! あともう一息」という感覚に近いのではないでしょうか?
 神話のラグナロクでは、最初に雄鶏の「グリンガム(グリンカムビ)」が戦いのときを告げます。DQシリーズでは、「グリンガムのむち」という武器が出てきますね。カジノの最も入手困難な賞品として印象に残っているかと思います。この武器を得るために、延々とスロットをまわし続けた方もいるのではないでしょうか?
 巨人族との闘いでは、オーディン配下の戦士たちが活躍します。彼らは、エインヘルヤルと呼ばれています。女神ワルキューレの手によって、ヴァルハラ宮に連れてこられた戦死者たちです。エインヘルヤルのなかでも、特にオーディンの加護を受けた者を「ベルセルク(狂戦士)」と呼びます。ベルセルクは、神の力によって傷を負わないと信じ、けだもののように喚きながら戦いました。ベルセルクを英語読みするとバーサーカーになるわけです。FFにおいても、バーサーカーはプレイヤーのコマンド(指示)を一切受け付けず、ひたすら敵に向かって攻撃を繰り返しています。また、ベルセルクは古ノルド語で「熊のシャツを来た者」という意味を持っています。FFのグラフィックでもそうなっていますね。
 ヨーロッパの人々にとって、勇猛果敢なヴァイキングは、ベルセルクに重ね合わせて考えられました。実際「ゲルマニア」をはじめとするローマ史は、ヴァイキングを「恐れ知らずの戦士」と書いています。
 では、北欧神話の最終章、ラグナロクの壮絶な物語を読んでいきましょう。

 バルドルは、オーディンとフリッグの間に生まれた、光り輝く神です。ある日、バルドルは不吉な夢を見ました。それは、彼の死を暗示するものだったのです。母フリッグは心配し、世界のあらゆるものに対して、バルドルを傷つけないという誓約を取りつけました。
 これにより、バルドルの安全は保障されました。神々は、傷を負わなくなったバルドルに、いろいろなものを投げつけて楽しみました。ただ、若いヤドリギだけは、この誓約から外れていたのです。
 これを知ったロキは、バルドルの兄弟で盲目の神ヘズをたぶらかし、鋭利に削ったヤドリギをバルドルの心臓に投げつけさせました。これにより、バルドルは命を落としてしまいます。嘆き悲しんだフリッグは、なんとかしてバルドルを生き返らせたいと考えました。そこで、オーディンの息子ヘルモードをニブルヘイムに遣わし、女王ヘルにかけあわせたのです。ヘルモードの熱心な嘆願に、ヘルはこう言います。
「バルドルはそんなに愛されていたのですか。では、すべてのものがバルドルのために泣いたのならば、願いをかなえましょう」
 あらゆるものが泣きました。木も、水も、石も泣いたのです。しかし、一人だけ泣かない者がおりました。女巨人セックです。言うまでもなく、これはロキが変身したものでした。光の神は、ついに復活を遂げることが叶いませんでした。
 バルドルを失うことは、世界が終末に向かっていることを示しています。秩序は崩壊し、滅亡への運命が回り始めたのです。神々はロキを捕らえ、ほら穴に閉じ込めました。ロキはそこで、ラグナロクの時を待っているのです。

 「斧の時代」「剣の時代」が終わり、「風の時代」「狼の時代」がやってきます。ミッドガルドのすべては、三冬に渡る戦いで破壊されます。身を切るような寒さは太陽の輝きを消し去り、冬と冬の間にも夏が訪れません。親子兄弟は互いに殺し合い、また近親相姦を繰り返します。
 こうして、ラグナロクが始まりました。狼のスコールは太陽を、その兄弟ハティは月を捕らえ、飲み込みます。天空から光が消えました。大地は震えおののき、あらゆる縛めが解かれます。これにより、ロキとフェンリルは自由を得るでしょう。そして、雄鶏のグリンガムたちは戦いのときを告げるのです。
 海は荒れ狂い、津波が海岸を襲います。これは、ミドガルズオルムが身もだえしながら陸地をめざしているからです。フェンリルとミドガルズオルムは、大地と天空を汚しながら、神々のいるヴィグリード平原に向かっています。炎の巨人「スルト」に率いられた、ムスペルヘイムの軍勢も攻め寄せます。彼らがビフレストを渡り終えると、橋は砕け落ちました。こうして、神々に敵対する勢力は、すべてヴィグリード平原に集結したのです。
 一方、神々も戦いの準備を始めます。ヘイムダルは、ミーミルの泉からギャラルホルンを取り出して吹き鳴らします。戦死者エインヘルヤルと狂戦士バーサーカーたちは、武装して、ヴィグリードを目指します。八百人ずつの戦士たちが、ヴァルハラ宮の五百四十ある扉をそれぞれ通り抜けて、進みます。
 オーディンは、スレイプニルに跨(またが)り、グングニルの槍を構えながら、フェンリルに相対します。トールはその隣で、ハンマーのミョルニルを振りかざし、ミドガルズオルムに挑みます。
 フレイは炎の巨人スルトと闘い、敗れます。片手のチュールは、ヘルの猟犬ガルムにとびかかられ、相打ちとなって倒れます。そして、ヘイムダルはロキと戦い、こちらも双方が討死を果たすのです。
 オーディンとフェンリルは激しく交戦しました。最後に、フェンリルがオーディンを飲み込んで殺します。すかさず、オーディンの息子ヴィーダルは、フェンリルのあごを引き裂いて、父の復讐(ふくしゅう)を遂げたのです。
 トールはミョルニルを三度投げつけて、ミドガルズオルムを倒しました。しかし、蛇が断末魔に吐きかけた毒液を浴び、トールも命を落としたのです。
 そのとき、巨人スルトはあらゆる方向に火を放ち、アースガルド・ミッドガルド・ヨツンヘイム・ニヴルヘイム、すべての世界を燃やし尽くしました。神々もバーサーカーも死に、人間も妖精も小人たちも、あらゆるものが命を失いました。そして、大洪水が起こり、大地は海の中へと沈んでいったのです。

 やがて、世界は再生されます。大地は海の中から甦(よみがえ)りました。動物たちは跳ね回り、穀物は豊かな実りをもたらします。
 オーディンの子ヴィーダルとヴァーリは生きていました。二人は、輝く平原イダヴェルへ戻って来ます。そこでトールの息子、モージとマグニに出会いました。トールの息子たちは、父親のハンマー「ミョルニル」を受け継いだのです。光の神バルドルと、その兄弟で盲目のヘズは、死の世界から還ってきました。彼らは、自分たちが知っている過去の記憶を語り伝えていくことでしょう。
 人間では、リーヴとリーヴスラシルの二人が生き残りました。彼らは、世界樹ユグドラシルの懐(ふところ)に隠れていたため、助かったのです。ここから、人類は再生してゆくでしょう。
 光が戻ってきました。太陽は、狼のスコールに捕まる前に、ひとりの娘を産んだのです。そして、それが今の太陽となり、世界を照らしています。
 こうして、大地は新しい生命の息吹で満たされ、新しい世界が始まったのです。

l むすび

 以上で、北欧神話の章を結びたいと思います。FFシリーズでは、北欧神話からの出典が多いですが、特にVIIはその世界観を色濃く反映しているといえるでしょう。FFVIIのエンディングは、神話のラグナロクに通じるものがあります。
 ラストボスのセフィロスによって最強の黒魔法「メテオ」が発動され、ミッドガルに襲いかかります。しかし、大地からは緑色に光る「ライフストリーム(魂の流れ)」が噴出し、メテオを包み込みました・・・・・・。そして時は流れ、五〇〇年後の場面になってエンディングを迎えます。
 ゲームのエンディングについては、人それぞれの解釈がありますので、ここでは多くを語らないことにいたします。ただ、世界が破壊した後に再生するという構図は、北欧神話のラグナロクに似ているといえましょう。
 はるか昔に語られた神話が、歴史の川を流れ、現代再びゲームという形で甦る。ロールプレイングゲームとは、歴史を認識する新しい文化の可能性を秘めているのかもしれません。ファンタジーの源泉たる北欧、みなさんも約束の地を探しに、出かけてみませんか?



 第二章 ギリシア神話

 寒い北欧から一転、舞台は温暖なギリシアへと移ります。ギリシアの風景は、乾いた大地にオリーブの低木が広がっています。しっとりとした森に覆われた、北ヨーロッパとは対照的です。
 街の様子は、雑然としています。首都アテネの中心部は、多くの車が行き交い、騒音と排気ガスで満ちています。タクシーは、この混雑を、猛スピードで駆け抜けます。
 エーゲ海は、観光のハイライトですね。サントリーニ島は、豪華客船クルーズのパンフレットによく使われています。星の数ほどある島々には、古代からの歴史が脈々と受け継がれています。
 内陸部に目を移しましょう。ペロポネソス半島にあるミケーネの遺跡は、トロイア戦争のギリシア軍総大将「アガメムノン」の居城跡があります。この章の神話「オデュッセウスの冒険」に登場するスパルタ王「メネラオス」は、アガメムノンの弟です。
 ギリシアは、鉄道が未発達なため、アテネからミケーネに行く列車は、ローカル色の強い路線です。列車の速度も遅く、並行して走るハイウェイの自動車に、抜かれっぱなしです。
 アテネより北の山間部には、デルフィの聖域があります。ここには、太陽神「アポロン」が祀られている神殿があり、周囲は大変ひっそりしています。アポロンは、神託(予言)を行うことで知られています。本章でお話する神話の中にも、アポロンの神託によって、運命を決定される人々の、苦悩が描かれています。

 さて、このように古代の歴史が息づくギリシアですが、ゲームにもかなりの影響を与えています。ゲームのキャラクターをざっと見回しても、ギリシア神話を出典とするモンスターなどが、ぞろぞろ出てきます。タイタン・アトラス・キメラ・エルメスなどなど・・・。まさにゲーム登場者の博物館といった様相です。
 本書では、とてもそのすべてを記述することはできません。神話の中から、ほんの一部を紹介するに留めます。

l 歴史的背景

 エーゲ海を中心とした東地中海エリアに、文明が興ったのは、紀元前二〇世紀頃です。この頃、エジプトやシリアなど、オリエント地方の諸民族が、地中海を舞台にして、交易を始めるようになりました。エーゲ海エリアは、その中間地点にあたるわけです。
 このうち、小アジア(現トルコ)の西岸、ダーダネルス海峡のすぐ南に発達したのが、トロイア文明(紀元前二六〜前一二世紀)です。その対岸、ギリシアのペロポネソス半島には、遅れてミケーネ文明(紀元前一五〜前一二世紀)が興りました。両方とも、青銅器文明という段階です。原始時代の石器文明から、やっと一歩踏み出したというレベルでしょう。政治形態は、専制的なものでした。
 ミケーネとトロイアは、ギリシア神話の物語に出てくるのですが、長い間、その存在が疑われていました。お話の中の架空の国だと思われていたのです。しかし、一九世紀のドイツ人「シュリーマン」によって、両国の遺跡が発掘されました。
 ギリシア神話では、この両国の間に、戦火を交えた様子が記されています。本章でも後述する、トロイア戦争です。シュリーマンは、子供のころに、トロイア戦争の物語を読み聞かされ、これらの遺跡は本当にあるはずだと信じていました。そして、大人になった彼は熱心に働き、商売を大成功させて、莫大な富を手にしたのです。その資金を元手に、五〇歳を過ぎてから、発掘作業を行い、遺跡を掘り当てました。
 トロイア戦争の物語は、紀元前八世紀ごろのギリシアの詩人「ホメロス」によって作られたといわれています。この時期は、ギリシアが民主制を敷いていた時代です。アテネやスパルタといった都市国家(ポリス)が有名です。
 ギリシア神話は、古代ギリシアの諸民族に伝わった伝説をまとめてできあがりました。神話に登場するのは、まず、ゼウスを主神とした、オリュンポスの十二神がいます。その他、多くの英雄や怪物が活躍しています。
 では、早速ゲームと関係の深い神話を、読み解いていくことに致しましょう。

l 神話

一 タイタンの戦い

 「タイタン」といえば、FF召喚魔法にその名が見られますね。逞(たくま)しい体躯(たいく)を持つ大地の精霊です。ひとたび召喚されれば、タイタンはその身を震わせ、激しく大地を揺るがせます。空を飛んでいる敵には効かないというのがミソでしたが、ゲームの中盤までは、とても頼りになる存在だったことが印象的です。
 タイタンとは、ギリシア神話に出てくる巨人の一族を指します。特定の個人名ではなく、巨人を意味する一般名詞です。タイタン族の中には、DQで登場した「サイクロプス」や「アトラス」がいます。また「クロノ・トリガー」等のゲームタイトルに引用されている「クロノス」や、FFのモンスター「オケアノス」もタイタンの一味です。
 このタイタン族に「プロメテウス」「エピメテウス」という兄弟がいました。まずは、このプロメテウスが、人間のために神々から火を盗んできた、というお話をします。

 昔、タイタンと呼ばれる巨人の一族がおりました。タイタンたちは非常に乱暴で、いつも互いに争ったり、最高神ゼウスに戦いを仕掛けたりしていました。この中に、プロメテウスという賢いタイタンがいました。プロメテウスはこの不毛な状況を憂慮し、仲間のタイタンたちに言いました。
「みんな、聞いてくれ! 我々はお互いに争っているが、そんなことをして何になるんだ。もし我々が神々と戦うのならば、きちんとした指導者が必要ではないか?」
 しかし、タイタンたちはプロメテウスの提言に聞く耳を持たず、却(かえ)ってプロメテウスに大木や岩を投げつけるというありさまでした。
 プロメテウスは仲間に失望し、弟のエピメテウスを呼んで言いました。
「この連中には未来がない。こうなったら俺たちはゼウスの側について、タイタンたちを攻めよう」
 エピメテウスはこれを承諾し、ふたりはゼウスの軍門に伺候しました。ゼウスは喜んで彼らを迎えました。
 さて、神々とタイタン族の戦いが始まりました。ゼウスが雷を放てば、タイタンたちは大岩を投げつけ、大地を震わせます。激しい戦闘の末、神々とプロメテウス兄弟が勝利をおさめたのです。負けたタイタンたちは、地の果てにあるほら穴に閉じ込められました。この中で、アトラスと呼ばれる巨人だけは、監禁を免れました。アトラスはタイタンの中でも抜きん出て力持ちでしたが、性格が温和だったからです。このため、アトラスは天空を支える役目を命じられました。

 アトラスは、DQIIに登場するモンスターです。物語も大詰めを迎え、舞台はラストボス「ハーゴン」の神殿。ハーゴンを守る親衛隊として、「アトラス」「バズズ」「ベリアル」が、冒険者の前に立ちはだかります。アトラスは赤い巨体に太い棍棒を持ち、見るからに恐ろしいですね。その上、二回連続攻撃を仕掛けてくるので、苦戦を強いられたことでしょう。攻撃されたときの効果音まで普通の敵とは違うのですから、さすが天空をひとりで支えるだけの貫禄はあります。

 こうして、タイタンの乱暴狼藉はおさまったのですが、ゼウスは小賢しい人間をも始末しようと思っていました。しかし、人間たちに好意的だったプロメテウスは、ゼウスに助命嘆願をしました。これは聞き入れられ、人間は滅ぼされずに済んだのです。
 プロメテウスは、人間たちにいろいろなことを教えました。なかでも、特に際立っていたのは、火を使うことでした。プロメテウスは、神々の領域オリュンポス山に登って、ゼウスが持っている火の花を盗み出し、人間に与えました。こうして、人間は他の動物とは一線を画すようになったのです。
 火を盗まれたことに気づいたゼウスは怒りました。ゼウスはプロメテウスを捕らえ、コーカサス山脈の大岩に縛り付けました。灼熱の太陽はプロメテウスの身体を焦がします。また、残忍なハゲタカが毎日やってきて、プロメテウスの肝臓を食い荒らしました。彼の肝臓は、食べられた後にまた新しく出来るため、プロメテウスは終わりのない苦しみに苛(さいな)まれたのです。
 しかし、長い時を経て、彼の苦しみに終止符が打たれました。ゼウスが危機に瀕したとき、プロメテウスの助言によって破滅を回避できたのです。このため、ゼウスはプロメテウスを許し、その縛めを解いたのです。こうしてプロメテウスは長い苦しみから解放され、自由を得たのです。

二 アポロンのハープとエルメスの靴

 FF」の世界を旅していると、封印城クーザーを訪れることになるでしょう。ここで、冒険者たちは、「伝説の十二の武器」を目の当たりにするのです。剣やロッドなど、それぞれのジョブ(職業)に応じた十二の武器が封印されており、いずれも強力です。この中に、「アポロンのハープ」と呼ばれる楽器があります。これは吟遊(ぎんゆう)詩人のための武器で、その美しい音色は魔物たちを魅了し、特に竜系のモンスターには絶大な効果を発揮するといわれています。ラストダンジョンに登場する「神竜」と戦うときは、このハープが大活躍したものでした。
 ギリシア神話のアポロンは、ゼウスの子供で、音楽と詩歌の神様です。また、アポロンは神託(予言)を行うことでも知られています。ここでは、アポロンがどのようにしてハープを手に入れたかについてお話しましょう。

 エルメス(ヘルメス)は、ゼウスとマイアの子供で、アポロンの弟です。エルメスがまだ赤ん坊の頃、外で遊んでいると、きれいな亀の甲羅(こうら)をみつけました。エルメスは亀の甲羅を持ち帰り、これに糸を張ってハープを作りました。この楽器からは、すばらしい音色が奏でられるのです。
 その夜、エルメスは、母マイアが寝静まったのを見計らって、外に出ました。空からは月の光がさしています。エルメスは、兄アポロンの牧場に走っていき、上等の白い牝牛を五十頭盗み出しました。そして、彼は自分の靴をぬぐと、柳の枝を足にくくりつけ、牛たちを追いながら四方八方でたらめに歩きました。こうして、足跡が判らないように撹乱した後、エルメスは牝牛たちをほら穴に閉じ込めたのです。

 FFの装備品に「エルメスの靴」というアイテムがありますね。これを身につけると「ヘイスト」の魔法がかかり、素早さがアップするのです。バトルでは、強さだけではなく、素早さも重要なファクターですから、このアイテムは重宝しましたね。
 ギリシア神話のエルメスは、神々に情報の伝達を行う、早足の使者です。彼は、翼の生えたサンダルをはき、翼のついた帽子をかぶっていました。彼は足が早いことから、旅人や盗人の守り神として信仰を受けているのです。エルメスの靴とは、このサンダルのことを指すのでしょう。また、エルメスはアポロンから「カドゥケウス」と呼ばれる杖を手に入れます。カドゥケウスは、FFXIに片手棍として登場しています。

 さて、アポロンは牝牛がいなくなったことに気がつきました。しかも、周りにはめちゃめちゃな足跡が残っています。こんないたずらをするのはエルメスしかいない。そう思ったアポロンは、マイアのほら穴に向かいました。
「エルメスよ、私の白い牝牛をどこに隠したんだね?」
 とアポロンが尋ねると、エルメスは「知らないよ」としら白を切りました。アポロンは、自分ではどうしようもないので、エルメスを父ゼウスのところに連れて行きました。しかし、エルメスはゼウスの前でも、「牛なんてものは、見たことがありません」としらばくれます。でも、エルメスはそう言いつつ、ゼウスにいたずらそうな目を投げかけていました。すると、ゼウスはすべてを悟り、大いに笑ったのでした。
 エルメスは、ここぞとばかりハープを取り出して、弾き始めました。その音楽は大変美しかったので、オリュンポスの神々は聞きほれました。ゼウスがかわいがっているワシさえも、音色にあわせて首を振ったのでした。
 曲が終わりました。アポロンは感心し、これまでの怒りを忘れてしまいました。そこで、エルメスが牝牛を盗んだことについては不問にしようと言ったのです。エルメスも大いに喜んで、そのしるしに、このハープをアポロンに贈りました。アポロンも、そのお返しに「カドゥケウス」という金の杖をあげました。この杖は、富と幸福、そして眠りと夢を支配する力をもっているのです。後日、この杖に二つの翼が生え、二匹の蛇が巻きついたとされています。
 アポロンは、この他にエルメスに白い牝牛たちの牛飼い役を任せました。二人の兄弟は、こうして仲良くなることができました。

三 ペルセウスのメドーサ退治

 DQIIのモンスターに、「メドーサボール」と「ゴーゴンヘッド」が登場しますね。両者は、同じ形で色違いの兄弟分です。グラフィックを見ると頭部だけで体はなく、頭からは蛇の髪の毛が生えています。どちらも通常のモンスターで、特殊な攻撃をしてくるわけでもなく、そんなに強くもありませんでした。
 しかし、ギリシア神話に出てくるメドーサは強敵です。頭に蛇が生えているのは一緒ですが、なにより恐ろしいのは、その姿を一目見ただけで、誰しもが石になってしてしまうことでした。ですから、メドーサを倒すには、その姿を直接見ずに戦うような工夫が必要なのです。なお、ゴーゴンというのは、メドーサを含めた怪物三姉妹の呼称で、個人名ではありません。メドーサは、ゴーゴン三姉妹の末っ子にあたります。
 これからお話するのは、ギリシアの英雄ペルセウスが怪物メドーサを倒す物語です。

 アルゴスという国がありました。この国の王は「アクリシオス」といいます。あるとき、アクリシオスは、デルフィにあるアポロン神殿で、不吉な神託を受けたのです。
「アクリシオスよ、そなたは自分の兄弟を蹴落として権力の剣を握った。その報いとして、お前は自分の孫によって殺されることになるであろう」
 アクリシオスには、ダナエという娘がおり、ダナエと主神ゼウスとの間には「ペルセウス」という息子が産まれていました。神託を怖れたアクリシオス王は、孫のペルセウスを、その母ダナエもろとも箱に閉じ込めて、海に流してしまいました。
 二人を入れた箱はセリフィスという島に流れ着きました。ここを治めるポリュデクテス王は、この母子を保護し、島に住まわせたのです。
 時がたち、ペルセウスは立派な若者に成長しました。ペルセウスの人気が高まることを、ポリュデクテス王はよく思っていませんでした。ペルセウスへの憎しみは増すばかりです。ついにポリュデクテス王は、ペルセウスを殺してしまおうと考えたのです。
 王は、ペルセウスを呼んでこう言いました。
「ペルセウスよ。わしは近々結婚するのだが、その祝いの贈り物として、お前に取ってきて欲しいものがある。それはメドーサの首だ」
 メドーサは、ゴーゴン三姉妹という恐ろしい怪物の末っ子です。この三人の頭には、髪の毛の代わりに蛇が生えていました。特に、末っ子のメドーサは最も邪悪な心を持っており、その姿を一目見ただけで、誰もが石化してしまうのでした。
 ペルセウスは出発しました。しかし、彼はメドーサがどこにいるのかがわかりません。でも何となく、西の方だろうという直感がしました。ペルセウスが海岸に出て、西の空を見ていると、砂浜に二人の人物が現れました。ひとりは女神アテナ、もうひとりは神の使いのエルメスです。二人は、ペルセウスに助けを差し伸べに来たのでした。
 まずアテナは、ゴーゴンの島への行き方と、メドーサと戦う際の気をつけなければいけない点を教えてくれました。
「ゴーゴンの居場所を知っているのは、ゴーゴンの従姉妹(いとこ)『グライアイ』三姉妹だけです。彼女たちに会って、尋ねなさい。そして、ゴーゴンたちを見つけたら、末の妹メドーサを決して見てはなりません。もしメドーサに目を向ければ、お前は石になってしまうでしょう」
 さらにアテナは、自分が装備していた光る盾を外し、ペルセウスに貸し与えました。
「これは、『イージスの盾』です。お前がメドーサと戦うときには、この盾の光る面にメドーサの顔を映して見るのです」
 次は、エルメスが、魔法の剣と、翼の生えたサンダルを貸してくれました。そして、エルメスは、ペルセウスにグライアイ三姉妹の居場所を教えてくれたのです。

 「イージスの盾」は、FFシリーズに必ずといっていいほど出てきますね。物語の中盤から後半にかけて登場する、強い盾です。FF」では、敵モンスターが使ってきた魔法を回避することができ、装備した者の魔力を高めています。
 イージスというのは、もともと山羊の皮で出来た盾を指します。皮の盾ですから、大した防御力がなさそうです。ゲームでいえば、冒険の初期装備といったところでしょう。
 ですが、これが神話に採用されると、神性を帯びた強力な防具にグレードアップします。神話におけるイージスの盾は、女神アテナの持ち物で、鉄壁の防御力を誇ります。その表面は光り輝き、後にペルセウスが切り落としたメドーサの首が装飾されます。

 ペルセウスは出発しました。ずっと北へ進むと、深い霧に包まれた地方にやってきました。さらに進むと、やがて、三人の老婆がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。この老婆たちがグライアイです。ペルセウスが近寄ってみると、グライアイたちはなにやら言い争いをしているようです。この老婆たちは、大変歳をとっていたため、三人で一つの目と一本の歯しか持っていませんでした。グライアイたちは、この目と歯を誰が使うかで言い争いをしていたのです。
 ペルセウスは、すかさずその目を奪い取りました。そして、グライアイに対して「ゴーゴンたちの居場所を教えなければこの目は返さない」と言ったのです。グライアイは次のように答えました。
「わしらはゴーゴンのいどころ居所を知らないよ。知っているのはヘスペリデスの娘たちだけだ。この妖精(ニンフ)の娘たちは、巨人のアトラスが天空を支えているところの近くにおる。ゴーゴンのことは、ヘスペリデスの娘たちに尋ねるがいい」
 これを聞くと、ペルセウスはグライアイに目を返し、また出発しました。西へずっと進むと、ついにヘスペリデスの娘がいる庭に着きました。妖精(ニンフ)の娘たちはペルセウスを歓迎して言いました。
「私たちは、あなたのような勇者が現れるのを待っていました。どうか、メドーサを退治してください。メドーサは、あの島にいます」
 といって、水平線の先にぼんやり見える島を指差しました。
 さらに、妖精(ニンフ)たちは不思議な力を持つ宝物をペルセウスに差し出しました。
「これは、地下の王ハーデスのかぶとです。これを装備すると、敵からはあなたが見えなくなります」
「こちらは、魔法の袋です。この袋にメドーサの首を入れれば、安全に持ち運びができるでしょう」
 ペルセウスは、戦いの支度を整えました。彼の装備は、「エルメスの剣」「ハーデスのかぶと」「イージスの盾」「エルメスの靴」そして、「魔法の袋」です。
 さあ、ペルセウスは、勇躍ゴーゴンの島へ乗り込みました。真夜中だったので、ゴーゴンたちも眠っている時刻でした。ペルセウスは、満月の光を頼りに、イージスの盾をのぞき込みました。盾には、恐ろしいゴーゴンたちの姿と、メドーサによって石に変えられた人々が映りました。
 ペルセウスは、メドーサに近づくと、その姿を盾に映しながら、剣を振り下ろしました。狙いあやまたず、メドーサの首は胴体から離れました。そして、その首を魔法の袋に入れると、素早くその場を逃げ去ったのです。これに気づいたメドーサの二人の姉は、恐ろしい叫び声を上げながらペルセウスを追いかけてきました。しかし、ハーデスのかぶとで身を隠し、エルメスの靴で空を飛んでいるペルセウスを、捕まえることはできませんでした。
 メドーサの首を見事に討ち取ったペルセウスは、ゴーゴンの島から無事に戻ってきました。後に、ペルセウスが女神アテナにイージスの盾を返すとき、メドーサの首を盾の真ん中に取り付けたのです。
 後日談として、ペルセウスは、あるとき円盤投げの競技に出場しました。しかし、ペルセウスの放った円盤は、風によって観客席のほうに飛ばされ、観客の一人に当たって死んでしまいました。その客は、なんとペルセウスの祖父、アクリシオス王だったのです。こうして、「孫によって殺される」という不吉な神託は、本当のことになってしまいました。ペルセウスは、アクリシオス王の死を悲しみました。そして、アルゴスの王位について、正しく国を治めたのです。

四 ベレロフォンのキメラ退治

 DQには個性的なモンスターがたくさんいますが、「キメラ」もみなさんの記憶に強く焼き付けられていることでしょう。キメラはDQIから登場しました。DQIでは冒険の中盤でキメラが登場し、レベルの低い勇者にとっては手強い敵です。冒険の出発点であるラダトームの町では、人々から情報を聞くことができますが、ある兵士は次のように忠告しました。
「町を出て旅をする時は橋に気をつけろ! 橋を渡って遠くへ行くほど 恐ろしい魔物たちが襲ってくるだろう」
 勇者は、始めのうちはラダトームの近くでスライムやドラキーを相手にしていますが、少し実力がついてくると、遠くに冒険したくなるものです。それで、ついつい橋を渡ってしまい、未知のエリアへ踏み込みます。すると突然、強そうな魔物が目の前に出てきたではありませんか!
「キメラがあらわれた」
 戦ってみると、とても太刀打ちできません。何度かまわりこまれながら、ほうほうの体(てい)で逃げ出し、アイテム「キメラの翼」を放り投げてラダトームに帰ったものでした。
 キメラ(キマイラ)は、ギリシア神話の怪物で、ライオンの頭・蛇の尾・山羊の胴体をもち、口から火を吐くといわれています。生物学においても、複数の生き物を合成した個体をキメラと呼び、人工的にキメラを作ることができるそうです。
 キメラの両親は、「テュポーン」と「エキドナ」です。両者ともFFのモンスターですね。テュポーンはFFVIの中ボスで、やはりギリシア神話出身の「オルトロス」と一緒に登場します。戦闘では「はないき」でパーティメンバーを飛ばしてしまいます。もう一方の親エキドナは、上半身が美女・下半身が蛇の怪物です。FFIIIのグラフィックでは、天井から吊り下がっているような格好をしています。ここだけみても、ゲームの登場者がいかにギリシア神話に拠っているかがおわかりになるでしょう。

 ギリシアのヘリコン山には、緑波打つまきば牧場があり、美しい泉が湧き出ていました。中でも「ヒッポクレネの泉」の水は、最も冷たくおいしかったのです。この山にはもともと泉はありませんでした。ところが、ある月の明るい晩に、天馬の「ペガサス」が舞い降りてきて、ヘリコン山の地面を蹴ったのです。すると、ヒッポクレネの泉がこんこんと湧き出てきました。また、このペガサスは、ペルセウスがメドーサを退治したとき、その血から生まれたといわれています。
 さて、あるとき「ベレロフォン」という勇者が、ペガサスを探してこのヘリコン山にやってきました。ベレロフォンは王様に命じられて、キメラを退治するために旅をしているのでした。彼は、ペガサスのことを聞き及び、この天馬ならキメラをやっつけることができると考えたのです。
 ベレロフォンは毎晩、ヒッポクレネの泉に行って、ペガサスが現れるのを待ちました。しかし、ときどきなにかが羽ばたく音が聞こえる以外、何も見つけられませんでした。
 ある夜、ベレロフォンはヘリコン山のふもとで迷子の男の子を見つけ、近くの羊飼いに届けました。そして、いつもより少し遅い時刻に泉へ着いたのです。すると、そこにはペガサスがいました。その翼は、月の光を受けて白銀に輝いています。そのいななきは、フルートの音色を彷彿させます。ベレロフォンは思いました、このペガサスを捕まえるなんて土台無理だと。そして、そのまま草の上で眠ってしまいました。
 ヒッポクレネの泉には不思議な力があって、そのそばで寝る者に夢を送るのです。ベレロフォンがまどろんでいると、いつのまにか女神アテナがそばにいて、馬の口にくわえさせるための金色の馬銜(はみ)を持っていました。ベレロフォンはその馬銜(はみ)をもらい、ペガサスに見せると、とても従順な様子が感じられました。
 朝、ベレロフォンが起きてみると、夢に出てきた金色の馬銜(はみ)がありました。それは宝石で装飾され、ペガサスに似つかわしく立派なものでした。
 その夜、ベレロフォンが泉で待っていると、空から白く輝いたものが舞い降りてきました。やがて、それは翼のある天馬ペガサスの形を為したのです。ペガサスは、ゆっくりと降りてきて、ベレロフォンの前に立ちました。ペガサスは暴れる様子もなく、大人しく頭を差し出します。ベレロフォンは、金色の馬銜(はみ)をペガサスの口につけました。
 ペガサスは、金色の馬銜(はみ)を持つ者に従うのです。ベレロフォンがその背にまたがると、ペガサスはゆっくりと羽ばたき、天空に飛び立ちました。さあ、これでキメラと戦えます。
 キメラは、ライオンと蛇と山羊が合わさってできた怪物です。その口からは火炎を吐き、キメラが通り過ぎた山や野は、焼き尽くされてしまうのです。人々は、このキメラにおびえながら暮らしていました。そして、この恐ろしいキメラを倒してくれる勇者が現れるのを、心待ちにしていたのです。
 ペガサスに乗ったベレロフォンは、キメラの住む山にやってきました。キメラは、自らの火炎で荒れ果てた地に寝ていました。すかさず、ベレロフォンはキメラに攻撃を繰り出しました。キメラもこれに気づき、口から火を吐きます。ですが、ペガサスに乗ったベレロフォンには当たりません。ベレロフォンはペガサスを操りながら、素早い槍さばきを見せ、キメラを何度も刺し貫きました。キメラは苦しんでのたうち回り、火や、嫌な臭いの煙をシューシューと噴き出します。ベレロフォンがとどめを刺すと、キメラは、自らの火炎でその身を焼き、最期を遂げました。
 こうして、平和が戻り、他国に逃れていた人々はこの国に帰ることができました。野山にはみずみずしいブドウが実り、もとのように豊かな暮らしができるようになりました。
 ベレロフォンは王様のもとへ戻り、立派な勇者として名声を馳せたのです。

五 ヘラクレスの冒険

 ここからしばらくは、ヘラクレスの十二の冒険のお話を進めていきます。この物語は、英雄ヘラクレスが、王様の無理難題を次々に解決していくというもので、全部で十二の冒険を繰り広げています。ここでは、その中からゲームに関連の深い次の三つのお話をピックアップしました。

 (1)第四の冒険〜「アルテミスの大鹿」
 (2)第十の冒険〜「オケアノス」
 (3)第一二の冒険〜「ハーデスとケルベロス」

それでは、物語を始めましょう。

 ・序文〜「英雄ヘラクレス」

 「ヘラクレス」は、父ゼウスと母アルクメネの間に産まれました。赤ちゃんのときから、毒蛇を両手で握りつぶすなど、とてつもない豪傑ぶりを見せておりました。そんなヘラクレスが立派な青年に成長すると、ミケーネの王「エウリュステウス」は激しい嫉妬の炎を燃やしたのです。その頃のギリシアで価値があるものといえば、優れた体力でした。ですから、病弱なエウリュステウス王は、なんとかしてヘラクレスを困らせてやろうと、十二の無理難題を押し付けたのです。

 (1)第四の冒険〜「アルテミスの大鹿」

 FFシリーズで「アルテミスの弓」といえば、冒険も終盤に登場する強い武器です。FF」では、魔獣系のモンスターに対して、特に威力を発揮しました。
 アルテミスは、ギリシア神話の女神で、狩猟を司っています。弓矢を持ち、ニンフと呼ばれる妖精たちを付き従え、山野を駆け巡って鹿を射るのです。FFのアルテミスの弓が獣に強いという理由は、これに由来しているのかもしれません。

 エウリュステウス王に言いつけられた命令を三つほどクリアしたヘラクレスは、四つ目の難題を言い渡されました。今度は、アルカディアの大鹿を生け捕りにしてくるようにというものでした。この大鹿は、アルカディア地方の周縁部に広がる森に住んでおり、狩人たちの間でも幻といわれている珍獣です。その姿は金の角と真鍮(しんちゅう)の蹄(ひづめ)を持っており、どんなに追いかけられても決して追いつかれないほどの脚を持っているというのです。そして、いつもは女神アルテミスの神殿の近くで草を食(は)んでいるのです。
 さて、ヘラクレスはアルカディアの森に出かけていきました。アルテミスの神殿に程近い場所に陣取って、大鹿が現れるのを待ちました。長い時間がたったあと、ついに金の角をもった幻の大鹿が姿を見せました。この世のものとは思えない美しさに、ヘラクレスはしばし呆然としていました。それでも、この機を逃せば二度とこの霊獣を捕らえることはできないと思い、隠れ場所から素早く出ると、鹿を追い始めました。
 鹿は快いスピードで駆け抜けます。山や森を越え、アルカディアの国境を越えてしまいました。それでも鹿はまったく疲れた様子もなく、走り続けています。ヘラクレスはどんどん追いかけつづけ、とうとう丸一年、ヨーロッパ大陸をぐるりとひとまわりしてしまったのです。さすがの大鹿も疲れを見せました。それで、鹿は最初にいたアルテミスの神殿へ戻ると、中へ逃げ込みました。
 ヘラクレスが神殿に足を踏み入れると、雲間から月光がさっと射しこみ、女神アルテミスがあわられました。
「ヘラクレスよ。この鹿は私のものです。捕まえてはなりません。お前はエウリュステウス王のもとへ帰って今までのことを話しなさい。そうすれば、王はお前が命令を果たしたと認めるでしょう」
 このようにして、ヘラクレスは四つ目の冒険を終えたのです。

 (2)第十の冒険〜「オケアノス」

 FFIIIの長〜いラストダンジョンを進んでいくと、「オケアノス」という、蛇のような形をしたモンスターに遭遇します。このダンジョンは、途中にセーブポイントがなく、奥に進めば進むほど、電源が切れたりしないかヒヤヒヤしたものでした。そんな中、オケアノスが出てきて、その面白い顔を見ると思わず笑ってしまったものです。なんだか、酔っ払ったおじさんに「よぉ!」と呼びかけられているようなのです。こんな印象をもったのは、筆者だけでしょうか?
 ギリシア神話のオケアノスは海神です。特に、外洋の海流を神格化したもので、巨人タイタン族の長兄です。ギリシア神話の世界観では、中世ヨーロッパの天動説と同じく、世界は平面になっています。中央部に陸があり、その周りを外洋が取り囲んでいます。その外洋では、海流のオケアノスがぐるぐると回っているとされていました。
 こうみると、なんだか第一章の北欧神話に出てきた、ミドガルズオルム(ヨルムンガンド)に似ていると思いませんか? こちらも、人間の住むミッドガルドの周りを取り囲む海に住む蛇で、世界を一周して自分の尻尾を口にくわています。世界各地の神話では、ときにこのような共通点を見出すことがあるのです。
 FFIIIのラストダンジョンでは、ヨルムンガンドも出てきます。オケアノスとは同形異色の兄弟分です。ですから、ゲームのほうでも、ちゃんと意味を考えて登場させているといえますね。

 ヘラクレスは、これまでに九つの冒険をクリアしてきました。そのおかげで、ミケーネの付近には怪物がいなくなりました。となると、今度は遠くの国に出かけなければなりません。エウリュステウス王は、こう命じました。
「日の沈む、そのさらに西の国へ行って、巨人ゲリュオネスが飼っている赤い牛を連れてくるように」
 ヘラクレスは、この冒険に出かける前に、太陽の神「ヘリオス」から金の杯(さかずき)を借り受けました。目的の地につくためには、外洋に出なければならないからです。この金の杯(さかずき)は、ボートのように乗ることができ、大きさを自由に変えられるのです。
 さて、ヘラクレスは金の杯(さかずき)に乗って出発しました。地中海を西へ進み、これまで誰も行ったことのない外洋へ出ました。すると、海流の神オケアノスが出てきて、自分の縄張りを荒らすヘラクレスを追い出すために、嵐を起こしました。金の杯(さかずき)は、荒波に漂う無力な姿を露呈しましたが、中にいたヘラクレスは勇敢でした。なんと、オケアノスに向かって強い弓を引き絞ったのです。この勇気を見たオケアノスは笑ってこれまでの怒りを鎮め、海は穏やかになりました。
 やがて、ヘラクレスは目的の島に漂着しました。ヘラクレスが赤い牛の居場所をさがしていると、牛の番犬が襲いかかってきました。ヘラクレスは難なくこの犬を撃破しました。次は、牛飼いが襲ってきます。これも簡単にやっつけました。
 とうとう赤い牛たちをみつけると、巨人ゲリュオネス本人が怒り狂って攻撃してきました。ゲリュオネスの姿は三つの頭、三つの胴体、そして六本の手足を持っています。それぞれの手に棍棒を持って、恐ろしい唸り声をあげました。普通の人なら、その異形の姿を見ただけで、恐ろしさに震えたでしょうが、さすが英雄ヘラクレスは落ち着き払っています。毒矢を取り出すと、十分に敵をひきつけてから“ヒョウッ”と放ちました。
 こうして、ヘラクレスは巨人ゲリュオネスを倒し、赤い牛たちを手に入れました。牛たちを金の杯(さかずき)に乗せると、杯(さかずき)は大きくなりました。そして、再び海を渡って帰途に着いたのです。途中、外洋から地中海への境界にさしかかると、ヘラクレスは陸地を二つに引き裂いて、海の通り道を作りました。これが、ヨーロッパと北アフリカを隔てるジブラルタル海峡になったのです。そして、南北両岸にある二つの山は、「ヘラクレスの柱」と呼ばれるようになりました。
 今でも、みなさんがジブラルタル海峡を旅行すれば、天に向かって鋭い尖端を伸ばした岩峰を見ることができるでしょう。これが、世界の果てを示すヘラクレスの柱なのです。

 (3)第一二の冒険〜「ハーデスとケルベロス」

 FF召喚獣の中でも、特に奇怪な姿をしているのは、VIIに出てくる「ハーデス」でしょう。暗黒の魔道士ハーデスは、死神のような格好をし、煮立った大釜に向かってなにやら呪文を唱えています。魔法の効果は、敵全体に「バイオ」をかけるというものです。バイオ魔法は、細胞の一つ一つにまで病的変化をもたらすわけですから、さすが死神ならではといったところでしょうか。
 ギリシア神話のハーデスは、地下世界の王です。地下に眠る鉱物資源の守護神として、尊崇を受けています。後に、地下が死者の国と考えられるようになってから、冥府の王となります。仏教でいえば地獄の閻魔(えんま)大王に近いといえるでしょうか。
 ハーデスは、地下の国の番犬として、「ケルベロス」を飼っていました。この犬は、頭が三つあり、蛇の尻尾をもっています。冥府から逃げ出そうとする亡者を捕まえる役割を果たしており、非常に獰猛な性質をもっています。北欧神話の猟犬ガルムとも似ていますが、ケルベロスのほうがより強いインパクトをもっているといえるでしょう。ゲームでのケルベロスは、DQVIIなどで登場しました。

 ヘラクレスは、これまでに十一の難題をクリアしており、いよいよ次が最後です。十二番目の冒険は、今までのどの冒険よりも危険なものでした。それは、地下の国へ行って、ハーデスの番犬「ケルベロス」を連れて来いというものでした。地下の国へ行くということは、死に等しいと考えられているのです。エウリュステウス王は、今度こそヘラクレスは生きて戻れまい、と思いました。
 世界の西の果ての、そのさらに西に、暗く不気味な森があります。その中に、大きな岩が二つ横たわっており、岩の間には深い裂け目がありました。もしその中をのぞいてみたら、限りない深淵の底に、ブクブクと黒い水が音を立てているのを見ることでしょう。そして、時折、地の底から気味の悪い音が鳴り響いてくるのです。どう見ても、この中に入って助かる見込みはなさそうです。
 しかしヘラクレスは恐れもせず、その裂け目を降りていきました。長い下りが終わり、底へ着くと、さらに暗い道が通じていました。ヘラクレスが進んでいくと、やがて大きな門が見えてきました。ここが地下の国の入口だったのです。門のそばには、三つの頭を持った犬がいました。ケルベロスです。ケルベロスは、ヘラクレスを見ても唸(うな)ったりせず、尻尾をふって喜びの表情を見せました。地下の王ハーデスを訪れる来客を、歓迎しているといった様子です。
 ヘラクレスは門の中に入って行きました。すると、黒い影のようなものが、まるでコウモリが飛び立つように逃げていきました。これはハーデスのしもべたちです。ヘラクレスがずっと進んでいくと、ついにハーデスの玉座にたどり着きました。ヘラクレスは言いました。
「私は、ミケーネの者です。エウリュステウス王の命により参りました。あなたさまの番犬ケルベロスを連れ帰ることをお許しください」
 ハーデスは、ヘラクレスのこれまでの偉業を地下の世界から見ていました。そして、彼が真の勇者であることを知っていました。
「よかろう。ただし、ケルベロスを捕まえるのに、おぬしは一切の武器を使ってはならぬぞ」
 ヘラクレスが門まで戻ると、今度は毛を逆立て、恐ろしい形相で唸り声をあげているケルベロスがいました。ヘラクレスは、素手でケルベロスを捕まえると、ものすごい力で締めつけました。こうなると、さすがのケルベロスも適(かな)いません。あっさりと負けを認め、おとなしくなりました。
 こうして、ヘラクレスは、地下の番犬を連れ帰り、ミケーネに戻りました。エウリュステウス王は、ケルベロスを見ると、びっくり仰天してしまいました。でも、約束は約束です。ヘラクレスは、長い試練の末、ようやく自由を得ることができたのでした。

六 オデュッセウスの冒険

 これまでは、ギリシアの古い言い伝えをもとに、神代のお話をしてきました。やがて、時代が下り、人間たちが活躍する世の中へと移っていきます。この中から、歴史や英雄の事績を綴った叙事詩(じょじし)が著(あらわ)されるようになりました。有名なものとして、「ホメロス」の作品が挙げられます。ホメロスは、トロイア戦争の様子を記した「イーリアス」や、その続編で、勇者オデュッセウスの英雄譚(たん)「オデュッセイア」を作っています。
 ホメロスはまた、吟遊詩人(バード)としても名を馳せていました。竪琴(たてごと)を持ち、各地を放浪して、王侯貴族の酒宴などに招かれ、詩を吟じたのです。
 さて、これからお話するのは、ギリシアはイタケの賢王「オデュッセウス」の物語です。この話は、トロイア戦争の続編として語られています。トロイア戦争というのは、ギリシアとトロイア(現トルコ)の間で起こった、十年間にもおよぶ戦いです。結果、ギリシア側が勝利を収めます。
 戦争が終わり、オデュッセウスは、トロイアから故郷のイタケへ向けて帰途につきます。しかしその途次、様々な運命に翻弄(ほんろう)され、さらに十年の歳月を、漂泊の空の下で過ごさなければならなかったのです。
 では、その冒険物語を始めることにしましょう。

 (1)トロイア国と女性

 FFIVの世界には、トロイアという国がありますね。土のクリスタルに守られた、美しい森と水の都です。この国の大きな特徴は、住人がすべて女性ということです。土のクリスタルを守る八人の神官も女性です。自然、町の雰囲気も、明るく華やかなものになっています。トロイア国のテーマ曲は、優雅なワルツ調に優しいメロディが乗り、この国らしい清楚さがあらわされています。
 ギリシア神話のトロイア戦争も、その発端は、ひとりの女性をめぐるトラブルでした。トロイア国の王子「パリス」が、ギリシア随一の美女といわれているスパルタ王の妃「ヘレネ」を見初め、トロイア国へ奪い去ったのです。若きスパルタ王「メネラオス」は怒りに震え、妻を取り戻すために、ギリシアの国々に協力を呼びかけ、トロイアに攻め込みました。こうして、十年の長きにわたるトロイア戦争が始まったのです。
 戦いは、木馬の奸計(かんけい)を使ったギリシア側が、最終的に勝利します。しかし、長い戦いのため、美しかったトロイアの国は荒廃しました。ヘレネは、文字通り傾城(けいせい)の美女となってしまったのです。
 なお、トロイアにほど近いエーゲ海上に、レムノス島があります。この島は「女だけの国」ということで、神話に登場しています。本書で前述したヘラクレスが、黒海の東へ、金の羊毛を取りに行くという冒険をするのですが、その際にこのレムノス島に立ち寄ります。荒くれ男の集団が、女だけの国に漂着してしまったので、戦士たちがなかなか島を離れず、統率を取るのが大変だったという様子が描かれています。トロイアは、女性に因縁の深い土地なのかもしれません。

 ギリシアとトロイアが争って十年の歳月がたちました。戦況は、一進一退の攻防を繰り返し、いつ果てるともわかりません。戦場となっているトロイア国は、目に見えて疲弊しています。
 ギリシア方が、トロイアの城門前まで迫ったとき、この戦いの火種を作った、トロイアの王子パリスは、一本の矢を放ちました。それは、ギリシア方の無敵の勇士「アキレウス」のかかとに命中し、アキレウスは絶命しました。
 アキレウスが産まれたばかりの頃、彼の母親は、アキレウスのかかとをつかんで、不死の川の水に浸しました。この水に体を浸すと不死身になるのです。ところが、唯一、かかとだけが水に浸かっていませんでした。そのため、アキレウスは、かかとが弱点だったのです。ここを攻撃されて、彼は死にました。後に、人体のこの部分を、かの勇士の名にちなんで「アキレス腱」と呼ぶようになりました。
 勇士アキレウスを失ったギリシア陣営は、意気消沈していました。すると、預言者がいいました。
「ヘラクレスの弓を手に入れよ。さすれば、我が軍は勝利するであろう」
 この弓は、ギリシア軍のピロクテテスという男が持っていました。しかし、彼は戦いで傷を受けたため、前線を退いて、エーゲ海沖のレムノス島というところにおりました。このレムノス島は、「女だけの国」がある島で、かつてはヘラクレスも立ち寄ったことのある場所です。
 ピロクテテスは呼び返され、ヘラクレスの弓を持って前線に復帰しました。そして、彼の放った矢は見事、パリスを射抜いたのです。
 いよいよ、トロイア国の命運は、風前の灯火となりました。ギリシア方は、オデュッセウスの策略を用いて、トロイアを陥落させようと企んだのです。それは、「木馬の計」と呼ばれるものでした。大きな木馬を拵(こしら)えて、オデュッセウス以下、少数のギリシア軍精鋭がその中に隠れました。他の全軍は、船隊を沖に遠ざけ、あたかも退却したように見せかけたのです。
 ギリシア軍がいなくなったことを知ったトロイアの人たちは、歓声を挙げて、戦争の終結を喜びました。トロイアの城門前には、大きな木馬が置いてあります。人々は「これはいい戦利品だ。ぜひ城内に運びこもう」と言いました。ところが、トロイアの王女であり、預言者の「カッサンドラ」は、この奸計(かんけい)を見抜き、木馬を城内に入れないよう警告しました。しかし、時として正しい者の言は、狂った時勢の前で無力になるものです。カッサンドラの警告は無視され、歓呼にひたるトロイア群集によって、城門の中に運び込まれてしまいました。
 その夜は、遅くまで宴会が続きました。そして、人々は飲み疲れて、深い眠りに落ちていったのです。このときを待って、木馬の中で息を潜めていたオデュッセウスとギリシア兵士たちは、そっと外に出ました。彼らは素早く城門まで駈けて行き、門の閂(かんぬき)を開けたのです。沖に退避していたギリシア軍は、このときまでにそっとトロイアに戻っており、開門とともに城内に突入しました。終戦の喜びに浸っていた城内は、一瞬のうちに阿鼻叫喚の地獄へと変わりました。
 こうして、トロイアは陥落しました。街は、ギリシア軍によって火が放たれ、炎上します。美しい都は灰になりました。そして、トロイアのパリスに奪われていた、ギリシア随一の美女ヘレネは、夫メネラオス王の元に戻ることができたのです。

 (2)サイクロプスの島

 サイクロプスは、DQII・VIIIのモンスターです。青い巨体に、一つ目という出で立ちで、見るからに強そうです。ですが、頭のほうは弱いようで、戦う際も、そんなに苦戦しなかったという印象があります。サイクロプスのヒットポイントHP(体力)は高いですが、特別な防御手段を持たないため、こちらは単純に攻撃していればよかったのです。戦士の刀身が、サイクロプスの巨躯(きょく)にザクザクと入っていく様子が、画面から感じ取れました。魔法も効き易く、敵の息の根を一瞬で止める「ザラキ」の呪文も有効でしたね。
 ギリシア神話のサイクロプス(キュクロプス)も、やはり一つ目の巨人です。力は強く、恐ろしいのですが、少し間の抜けたところがあります。神話での特徴が、概(おおむ)ねそのまま、ゲームに反映されたとみていいでしょう。
 トロイア戦争が終わってから、ギリシア方の将軍たちは、それぞれの故郷に帰ります。木馬の奸計(かんけい)で手柄を挙げたオデュッセウスも、ふるさとのイタケへ向けて、海路帰途につきました。しかし、運命の悪戯(いたずら)により、多くの試練が、彼を待ち受けていました。オデュッセウスの帰国には、さらに十年の年月を費やさなければならなかったのです。

 長かったトロイア戦争が終わり、勝利したギリシアの将軍たちは、それぞれの故郷へ向かいました。オデュッセウスも、一隻あたり五〇人を乗せた船隊を十二隻整え、イタケへの帰途につきました。ところが航海中、一天俄(にわか)にかき曇り、やがて暴風雨が吹き荒れました。船の舵(かじ)は利かなくなり、船隊は南へと流されていきます。
 漂流して、どのくらいの日数がたったでしょうか? オデュッセウスたちは、緑の美しい島に漂着しました。彼は、十二人の精鋭を引き連れて上陸し、島内を探索しました。緑の牧場には、羊や山羊がたくさんいます。彼らは、羊を捕らえ、近くの洞穴で腹ごしらえをすることにしました。ここは、おそらく羊飼いの住処(すみか)なのでしょう。
 夕方になるころ、羊飼いが洞穴に戻ってきました。しかし、それはただの羊飼いではありません。その姿は、顔の真ん中にたった一つの目がギョロリと光っている、恐ろしげな巨人でした。なんということでしょう! オデュッセウスたちは、サイクロプスの棲家(すみか)に入り込んでしまったのです。
 サイクロプスは、羊や山羊を洞穴の中に入れると、入口を大きな石でふさぎました。そして、火を起こし、明かりを灯しました。あたりがパッと明るくなり、隅っこに隠れていたオデュッセウスたちは、手もなく見つかってしまいました。
 サイクロプスは彼らを見ると、一つの目をカッと見開き、恐ろしい声をあげました。そして、オデュッセウスの部下二人をむんずと引っつかむと、たちまちのうちに食べてしまったのです。そして、腹を満たしたサイクロプスは、そのまま寝てしまいました。
 オデュッセウスたちは恐怖に震えながらも、考えました。サイクロプスが寝ている今なら、倒すことができる。でも、いや待てよ。あの入口の大岩は、サイクロプスでなければ動かせない。仕方なく、その晩は、恐怖に耐えつつ、夜を明かしたのです。
 翌朝、サイクロプスが起きると、またオデュッセウスの部下二人を食べました。そして、洞穴の入口を開けると、羊たちを追い出し、また扉をきっちり閉めてから、出かけて行ったのです。
 入口がふさがれたのでは、逃げることができません。オデュッセウスたちは、途方に暮れつつも、なにかいい考えはないかと思案をめぐらしました。部屋の中を見回すと、オリーブの丸太が転がっています。オデュッセウスは、丸太を削って、先を尖(とが)らせました。
 その日も、夕方になると、サイクロプスが戻ってきて、また二人を食べました。最初十二人いた部下たちは、とうとう半分になってしまいました。
 腹がくちくなり、気分をよくしたサイクロプスに、オデュッセウスは言いました。
「このぶどう酒をおあがりなさい。とても上等でおいしいですよ」
 これは、オデュッセウスが戦利品として持ち帰ったものでした。サイクロプスは、美味しいお酒を飲むと、上機嫌になり、こう言いました。
「俺はお前が気に入った。名はなんという。お前にほうびをやろう」
「私の名は、ウーティスです。さあ、ほうびをください」
 と、オデュッセウスは答えました。ウーティスというのは、「誰でもない」という意味です。
 しかし、サイクロプスは意地悪そうな顔をして言いました。
「ほうびが欲しいか。ほうびは、お前を一番最後に食うことだ」
 そう言うが早いか、巨人は酔いつぶれて眠ってしまいました。
 オデュッセウスは、生き残った精鋭と一緒に、先ほど削ったオリーブの丸太を取り出すと、火にくべて、真っ赤になるまで焼きました。そして、その丸太を、サイクロプスの一つ目に突き刺したのです。
「ギャーーッ!!!」
 耳をつんざくような悲鳴をあげ、サイクロプスは暴れまわりました。この絶叫を聞きつけた島の巨人たちが、洞穴の外までやってきて、尋ねました。
「いったいどうしたというのだ。誰がお前をひどい目に合わせたのだね?」
 すると、目をつぶされたサイクロプスは、こう答えました。
「ウーティス(誰でもない)だ!」
 こう聞くと、他の巨人たちは、「ああ、なんでもなかったのか」と思い、帰ってしまいました。
 翌朝、盲目となったサイクロプスは、また羊たちを外に出しました。でも、オデュッセウスたちが、羊と一緒に逃げ出せないように、羊の背中を一匹ずつさわりながら、外へ出しました。オデュッセウスは、機知を働かせ、自分と部下たちを、大きな羊の腹の下へ吊るして、外へ出ました。
 こうして、恐ろしい巨人から逃げ出した一行は、船に戻り、また故郷へ向けて航海を続けたのです。

 (3)セイレーンとスキュラ

 FF」の冒険では、序盤に「トルナ運河」というところを航行します。この運河の東端には、潮が渦巻いており、近くを通る船を飲み込もうとします。主人公たちは、渦に巻き込まれ、そこで「カーラボス」というエビの魔物と戦います。これに勝利しますが、瀕死のカーラボスは、主人公たちの海賊船を導いていた海竜「シルドラ」を道連れにし、渦に引き込みます。
 動力源を失った船は、波間を漂い、いつのまにか「船の墓場」と呼ばれる、寂しい場所に流れ着きました。主人公たちは、難破船の一室で休憩をとります。しかし、親友のシルドラを失った女海賊「ファリス」は悲嘆に暮れていました。
 なんとかファリスを元気づけ、一行は、難破船の残骸を伝って陸地へと向かいます。あたりは、霧に包まれています。やっと陸にたどりついたと思った矢先、主人公たちの前に、美しい女性が現れました。「セイレーン」です。しかし彼女は、美しい姿とは裏腹に、人間に敵意を持って、危害を加えるモンスターだったのです。
 ギリシア神話のセイレーンは、人魚のような姿をした、海の妖精(ニンフ)です。とても美しい声で歌い、その声を聞いた船乗りたちは、恍惚(こうこつ)となってしまいます。そして、セイレーンをめざして海に飛び込み、溺れ死ぬといわれています。FF」の「船の墓場」も、セイレーンの歌声によって、舵取りを失った船が、岩にぶつかって大破したものなのでしょう。
 これからお話する物語は、まさにこの話(FF」)の原型といえるでしょう。オデュッセウスの船団が、セイレーンと渦潮という、二つの難所を、なんとかして通り抜けるというものです。
 渦潮の近くには、「スキュラ」という魔物も出現します。六つの頭と、十二本の足をもった怪物です。ゲームでのスキュラは、FFIIIのラストダンジョンに登場していました。

 ほうほうの体(てい)で、サイクロプスの島を逃げ出してきたオデュッセウスたちは、また航海を続けました。彼らは途中、「キルケ」という魔法使いに会い、今後さらに二つの難所を通り抜けなければならいこと、そして、どのようにしたらそれらの難所を切り抜けることができるかを教えてもらいました。
 やがて、オデュッセウスたちは、一つ目の難所にやってきました。それはセイレーンの島です。船の漕(こ)ぎ手が、セイレーンの歌声を聞いてしまえば、おしまいです。そこで、オデュッセウスは、キルケの言う通り、漕(こ)ぎ手たちの耳に、しっかりとロウを詰め込み、何も聞こえないようにしました。そして、オデュッセウス自身は、船の帆柱に体をしばりつけてもらい、動けないようにしました。
 しばらく行くと、セイレーンの島が見えてきました。島に近づくと、そこには三人の美しいセイレーンがいます。それぞれが、歌・竪琴・笛で、音楽を奏でていたのです。彼女たちの足下を見ると、人間の骨や、船の残骸がたくさん転がっていました。これは、セイレーンの歌声に惑わされた船乗りたちの、変わり果てた姿です。
 セイレーンたちが醸(かも)す甘美な音色に、オデュッセウスの意識は、飛び去ってしまいました。脳が蒸発したような感覚に陥り、あまりにも心地よい官能に、我を忘れました。そして、この歌声の主であるセイレーンの元へ、どうしても行きたいという、抑えがたい衝動が、オデュッセウスの身体を駆け抜けたのです。オデュッセウスは暴れました。ものすごい力で縄を振りほどこうと、もがきました。しかし、耳にロウを詰めていた部下たちが、必死でオデュッセウスを押さえつけ、その間に、漕(こ)ぎ手たちは、懸命に船を進ませたのです。
 船団は、セイレーンの島を通り過ぎました。オデュッセウスたちは無事だったのです。しかしそれは、セイレーンたちにとっては、死を意味することでした。もし、セイレーンたちの島を無事に通り過ぎる船があるのならば、彼女たちの魂は、天に召される運命だったのです。こうして、セイレーンの命は尽きました。
 さて、オデュッセウス一行は、次の難所にやってきました。こちらは、セイレーンよりも危険なところです。この難所は、水路が二股に分かれていました。一方は、波間に二つの岩が見えます。この岩の間を船が通ろうとすると、二つの岩はぶつかり合って、船をこなごなに砕(くだ)いてしまうのです。こちらを通るのは無理でした。
 もう一方の水路には、切り立った崖がそびえています。一行は、こちらを進みました。しかし、この崖の下には、「スキュラ」という怪物がいたのです。スキュラは、脇腹から六つの犬の頭と、十二本の手足を生やし、近くを通り過ぎる者を捕らえていました。
 オデュッセウスの船は、なるべくスキュラから遠く離れて、船を進めました。しかし、この水路の外側には、「カリュブディス」という渦潮が逆巻いています。この渦にのまれてしまったら、どんなに頑丈な船でも助かることはできません。一行は、カリュブディスを慎重に避けながら進んでいましたが、渦の激しい箇所にくると、つい崖のほうに寄って行ってしまいました。すると、突然、恐ろしい姿をしたスキュラが、十二本の手足を伸ばして、あっという間に六人の部下たちをさらっていきました。部下たちは、泣き喚(わめ)いて助けを求めましたが、オデュッセウスはどうすることもできませんでした。
 オデュッセウスは、断腸の思いでした。部下を見殺しにしてしまったという、慙愧(ざんき)の念に耐えながら、それでもスキュラから逃げました。こうして、一行はこの難所を抜けたのです。
 その後も、数々の苦難を経て、トロイア戦争が終わってから十年後に、やっと故郷のイタケに帰りついたのです。

l むすび

 FFの魔法の中には、同じ系統で、強弱三段階に分かれているものがあります。例えば、回復魔法だと、弱い順に「ケアル」「ケアルラ」「ケアルガ」となります。
 一方、究極の攻撃魔法に「メテオ」があります。これは、宇宙の偉大なる力を操り、敵に隕石(いんせき)の雨を降らせるという、スケールの大きい魔法です。メテオには、上位魔法がありませんが、もし仮にあるとしたら、名前は「メテオラ」になるのかもしれません。この場合、隕石(いんせき)よりも大きなもの・・・例えば、星そのものが降って来ることになるのでしょうか?
 ギリシア北東部の山岳地帯に「メテオラ」という場所があります。ここは、ユネスコの世界遺産にも指定されている、キリスト教の聖地です。メテオラの地形は、巨大な岩が垂直にそそり立つ、不思議な場所です。その奇岩の頂に、修道院が建っているのです。ここで起居している修道僧たちは、どうやって地上と岩の上を行き来していたのでしょうか?
 メテオラの起源は、九世紀に遡(さかのぼ)ります。この頃、キリスト教の弾圧がさかんになり、修道僧たちは、人里離れたこの地を選んで、隠遁(いんとん)生活を営んでいました。ここでは、地上との行き来に、縄梯子(なわばしご)を使っていたのです。彼らは、何も視界を遮(さえぎ)るもののない岩の上で、天空を仰ぎ、神に近づこうとしていたのでしょう。
 今日(こんにち)、我々はメテオラを訪(たず)ねることができます。みなさんが、晴れた夜、メテオラの奇岩に立てば、きっと素敵な夜空を見ることができるでしょう・・・星が降るような☆★☆彡・・・。



 第三章 ケルト世界と妖精たち

 緑の島アイルランド。この国にはケルトの古い文化が根付いており、今なお、そこかしこに妖精の息づかいを感じることができます。ここはヨーロッパの辺境にあるためでしょうか、時間の流れがゆっくりしているように感じられます。特に夏の夕刻、太陽がゆっくりと西の空に傾いていくときなどは、心が洗われます。あたりは静寂に包まれ、心地よい涼風が身体を通り抜けるのです。空は薄明かりに覆われていますが、決して冷たい光ではなく、ほの暖かいのです。素朴で親切なアイリッシュの心は、空気までも和ませているのでしょう。
 FFIVの曲を、ケルト風にアレンジした音楽CDがあります。これは、「ケルティックムーン」というタイトルなのですが、FFの旋律をアイルランドの民族音楽にフィットさせて再現していました。やはり、アイルランドという国はファンタジーに似つかわしいのでしょう。FFの世界観は、ケルトとの相性もバッチリでした。
 FFの作曲者、植松伸夫さんは、ケルティックムーンのライナーノーツで、アイルランド人の音楽観を語っています。
「驚いたことにこちらではほとんどの音楽家が昼間他の仕事を持ってる。(中略)・・・で、そういう人達がね、夜になるとおもむろに楽器を手にしてパブで一発やらかすわけですよ。またこれがいいんだなぁ。気負いもなくてごく自然に音楽を楽しんでいるようでした」
 アイルランドのパブは、誰でも気軽に入れる社交の場です。ギネスビールを飲みつつ、楽器を奏でたり、アイリッシュダンスを踊ったりと、人々は生きることを楽しんでいます。
 筆者は、このケルティックムーンに感応して、アイルランドを訪れました。それは、ヨーロッパを鉄道と船で周遊する旅でしたので、アイルランドに入るときもフランスのル・アーブルから出港する船で行ったのです。
 この島は、想像どおりおとぎの国でした。特に、西部の自然は美しく、草地には野ウサギの親子が遊んでいます。そして人が近づくと、木のウロや茂みにサッと隠れてしまうのでした。人目を憚って月夜に遊ぶ妖精というのは、こういった光景から着想を得たのかもしれませんね。
 FF・DQには、多くの妖精が登場します。愛嬌のあるものから邪悪なものまで、さまざま。その多くが、イギリス・アイルランドを中心としたケルト文化圏の産物となっています。
 本章では、ゲームで顔なじみとなっている妖精たちの素顔を見ていきたいと思います。同時に、ケルト文化を語る上で欠かせない「アーサー王伝説」からも、聖剣エクスカリバーなどいくつかの物語をご紹介したいと思います。

l 妖精たちの物語

一 王女とゴブリン

 ゴブリンといえば、FFシリーズでもおなじみの「最弱」モンスターですね。同じく最弱の代表であるDQの人気モンスター「スライム」に比べると、やや影の薄い印象を受けます。それでもFF敵キャラのトップバッターとして、不動の地位を築いたといえるでしょう。
 プレイを開始して間もない頃は、主人公たちの装備も心許ないものです。そういうとき、ゴブリンと戦って小銭を稼ぎ、装備のないパーツに新しい防具を買えたりすると、ちょっとうれしかったりしますね。RPGは、キャラクターを成長させることが大きな喜びといえますが、初期の弱い頃に、少ないお金をやりくりして武器や防具をどう買っていくかを考えるのも、なかなか楽しいものです。
 弱さが目立つゴブリンですが、意外なところで底力を発揮します。FF」では敵から受けた特殊攻撃を自分のスキルにしてしまう、青魔道士というジョブがありました。このジョブが駆使する青魔法に「ゴブリンパンチ」があります。しかし、ゴブリンパンチは威力もなく、ほとんど使い所がありませんでした。ところが、ゲームの終盤、ラストダンジョンで登場する強敵「忍者」には大ダメージを与えることができるのです。この忍者は素早く、こちらの攻撃を回避されることも多くて、苦戦を強いられます。このときは、ゴブリンが唯一、戦力として晴れの舞台に立てる場面かもしれませんね。
 ゴブリンは、ヨーロッパの昔話に登場する、邪悪な地の精霊です。邪悪といっても、そんなに大きな危害をもたらすというわけではなく、人間にいたずらをする程度です。ゴブリンの背丈は低く、人間の膝くらいといわれていますから、小人くらいの大きさしかありません。また、顔は醜く、灰色の髪とあごひげを蓄えた姿が一般的です。
 ゴブリンが登場する作品に、スコットランドの作家ジョージ・マクドナルドが著した「王女とゴブリン」があります。この物語は、指輪物語の作家「トールキン」や、ナルニア国物語の作者「C・S・ルイス」にも、影響を及ぼしたそうです。では、この物語を始めましょう。

 (1)アイリーン王女

 昔、あるところに、八歳になる、それは可愛らしい王女さまが住んでおりました。名前はアイリーン。王女は深窓に育てられ、外に出るときは乳母のルーティと一緒、しかも昼間だけに限られていました。
 さて、この美しい国の山々には、洞窟が多くありました。洞窟には、自然にできたもののほか、人間が掘った坑道があったのです。そしていつのころからか、これらの洞窟に「ゴブリン」と呼ばれる地の精が棲(す)み着くようになりました。
 私たちは、滅多なことではゴブリンにお目にかかることはできません。ゴブリンたちは普段、地面の下におり、姿を見せません。外に出てくるとしても、人気のない山奥の、しかも夜に限られているのです。
 そして、ゴブリンたちは悪意を持っており、いつも人間たちを困らせてやろうとあれこれ謀(はかりごと)を巡らせました。ですから、館の人たちは王女を危険な目にあわせてはいけないと考え、夜は王女を外へ出させないようにしたのです。

 (2)大きなおばあさん

 ある雨の日のことです。アイリーン王女は外に出してもらえず、館の中でぽつねんと座っていました。おもちゃにも飽き飽きしてきたところです。そこで王女は、退屈しのぎに館を歩き回ってみようと思いました。この館は広いので、王女がまだ行ったことのない場所もあるかもしれません。
 アイリーンは、ある古い階段の前に来ました。ここはどうやらまだ昇ったことがないようです。王女は好奇心にかられて階段を昇りました。すると、いくつもの廊下が曲がりくねっており、行けども行けども終わりがありません。とうとう王女は道に迷ってしまいました。
 アイリーンが泣きながら歩いていると、ついに廊下の突き当たりに出ました。そこには扉があり、中からブーンという音が聞こえてきます。王女は恐る恐る扉を開けてみると、中には美しい女の人がいて、糸を紡(つむ)いでいたのです。その女の人はアイリーンを見るとにっこり微笑んで「入っていらっしゃい」と言いました。
「あなたは誰?」とアイリーン王女は尋ねると、
「私はあなたのひいひいおばあさんよ」と女の人は答えました。
 でも不思議なことに、そのおばあさんは若々しく、二十代くらいにしか見えません。王女は、おばあさんと色々話した後、こう言い出しました。
「おばあさま、私、帰り道がわからなくて困っているの。教えてくださらない?」
「いいわ、私が階段まで送っていってあげる。ついていらっしゃい」
 その若々しいおばあさんは、王女を元来た場所に送り届けると、再び糸を紡ぎ始めました。
 さて、王女の部屋では乳母のルーティが待っていました。
「まあ王女様、どこにいらしてたの? ばあやは心配しましたよ」
「私、そこの階段を上がって、大きなおばあさまのところに行ってきたのよ」
「なにをおっしゃるのです? 夢でもご覧になったのでしょう」
 ルーティはアイリーンのことばを信じてないようでした。王女は悲しい気持ちになりましたが、我慢するしかありません。

 (3)鉱夫の少年カーディとの出会い

 雨は次の日まで降り続きましたが、夕方になってやっとお日様が顔を出しました。アイリーンは喜び、早速ルーティと一緒に散歩に出かけました。王女は外に出られたことがうれしくて、つい遠くまで来てしまったのです。ルーティは心配になりました。
「王女様、今日はもう日が暮れますよ。さあ暗くならないうちに帰りましょう」
「ルーティお願い。もうちょっと歩きたいの」
 そうこうしているうちに日は山の端に隠れ、あたりは夜の帳(とばり)がおりました。そして、ふたりはいつの間にか、来たこともない山道に迷い込んでしまったのです。ルーティはうろたえ、必死で帰り道を探しました。
 ふと、アイリーンが驚いたように声をあげました。
「ルーティ! そこの岩陰に何かがいるわ! じっとこっちを見てる」
 これを聞くと、ルーティは恐れおののきました。
「ヒィィ! 王女様、そんな怖いことおっしゃらないでくださいまし」
 ルーティは無我夢中で王女の手を引いて走り出しました。しかし、館に戻る道はわからず、乳母はいっそう混乱するばかり。と、そこへひとりの少年が歌をうたいながら通りかかったのです。すると、岩陰の何かはサッといなくなりました。少年はアイリーンたちの前に来ると言いました。
「さあ、もう大丈夫だよ。ゴブリンたちはこの歌が大嫌いなんだ」
 これを聞くと、アイリーンは安堵の表情を浮かべました。
「ああ、助けてくれてありがとう。あなたは?」
「僕はカーディ。この辺りの鉱山で働いているんだ。君は?」
「私はアイリーンよ。よろしくね」
 と、そこへ乳母のルーティが割って入りました。
「王女様! 見ず知らずの者と軽々しく口を利くものではありません」
 王女と聞いて、カーディは驚きました。
「王女さま!? これは失礼いたしました。ところで、こんな時間に王女さまが山においでになるなんて、どうしたのですか?」
「私たち、道に迷ってしまったの。館まで帰れなくなってしまって・・・・・・」
「ここは、ゴブリンが出て危険です。僕がお館まで送って行きましょう」
「ありがとうカーディ。家に着いたらお礼のキスをしてあげるね」
 ふたりは、カーディについて歩き、無事に館までたどり着くことができました。しかし、ルーティはカーディにお礼も言わず、王女の手を引いて中に入ると、バタンと扉を閉めてしまいました。アイリーンは、お礼のキスをする約束を、後日に伸ばさなくてはなりませんでした。

 (4)ゴブリンのたくらみ

 次の日、カーディはいつものように鉱山で仕事をし、夕方、他の鉱夫たちが帰った後もひとり残って作業を続けていました。すると、別の坑道からゴブリンたちの話し声が聞こえてきたのです。
 カーディは声のする方に歩いて行くと、洞窟の大きな広間に出ました。そこでは、ゴブリンたちが会議を開いていたのです。広間の天井は、松明(たいまつ)の光にきらめいています。どうやら、ゴブリンたちは、人間を困らせてやろうと企んでいる模様です。カーディは、ゴブリンたちに見つからないよう、岩陰で話を聞きいていました。
「もうすぐ王女の館までのトンネルが完成するぞ。そうしたら、あの人間どもが戴(いただ)く王女をさらって、我らが皇太子ヘアリップ様の妃にするのだ」
「もし万が一、それが失敗に終わったとしたら、ここの地下水の堰(せき)を切って、鉱山を水浸しにしてやるんだ」
「でもよお、王女をさらうとき、騎士たちとの戦いは避けられねえぜ。もし人間どもが、俺たちの足を狙って攻撃してきたらどうするんだ? 俺たちの頭は石のように硬いが、足はひょろひょろ。やられたらひとたまりもないぜ」
「なぁに、人間どもがそんなこと知っているものか」
 そのとき、カーディの足が滑って、大きな音を立てて石が転げ落ちました。
「ややっ、そこに誰かいるぞ! つかまえろ!」
 ゴブリンたちがカーディに襲いかかります。でも、カーディは、たった今ゴブリンの弱点を聞いたばかりです。群がり来るゴブリンたちの足を、次々と踏みつけていました。足を踏まれたゴブリンたちは悲鳴を上げて逃げて行きました。
 と、そこへひときわ大きなゴブリンが現れました。それは、ゴブリンの女王でした。カーディはゴブリン女王の足をめがけて踏みつけましたが、逆にカーディの足に激痛が走りました。なんと、女王は石の靴を履いていたのです。
 ゴブリン女王は、ものすごい力でカーディをつかむと、岩穴に放り投げました。そして、穴の入口にたくさんの石を積み、蓋(ふた)をしました。カーディは捕われてしまったのです。

 (5)おばあさんの糸

 このとき、館のアイリーン王女は、何か嫌な予感がしました。そして、導かれるように古い階段を昇り、おばあさんの元へ急いだのです。扉の向こうでは、今日も若々しいおばあさんが温かく迎えてくれました。
「おばあさま、私なんだかとても不安になってしまって・・・・・・でも何が原因だかよくわからないの」
 すると、おばあさんは優しい微笑を浮かべながら、おもむろに箪笥(たんす)から何かを取り出しました。
「いい、アイリーン。これは、この前あなたがやってきたときに紡いでいた糸よ。やっとできあがったの」
 おばあさんは銀色に輝く糸を持って、さらに言いました。
「これは月の明るい晩にだけ紡いだ糸でね、不思議な力を持っているの。この糸の先を指輪に結んでおくから、なにか困ったことがあったら指輪を枕の下に入れなさいね。そうすれば、糸があなたを導いてくれるわ」
 王女は、狐につままれたような気持ちでしたが、指輪を受け取ると、枕の下に入れてみました。すると、見えない糸がアイリーンの指に触れたのです。王女は、その糸をたどっていきました。

 (6)カーディ救出

 アイリーンは、糸をたどって館の外へ出ました。糸は、山のほうに続いており、とうとう洞窟の入口まで来てしまいました。でも、糸はさらに洞窟の中に続いています。王女は怖い気持ちになりましたが、それでも勇気を出して中に入っていきました。しばらくすると、石が積み重なっていて行き止まりになっている場所に出たのです。糸は、それらの石の間に入り込んでいました。
 すると、石の下から聞き覚えのある声がしたのです。カーディの声でした。アイリーンはうれしくなって呼びかけました。
「ねえカーディ、カーディでしょ。私よ、アイリーンよ」
 カーディはびっくりしました。
「アイリーンさま!? なんで王女さまがこんなところにいるんだい?」
「私、おばあさまの糸に導かれて来たの」
「??? うーん、よくわからないけど・・・僕はゴブリンに捕まって、ここに閉じ込められちゃったんだ。ちょっとそこにある石をどけてくれないかな?」
「わかったわ」
 アイリーンは懸命に石をどけ、ついにカーディのいる岩穴に達したのです。
「ありがとうアイリーン。でもぐずぐずしてはいられない。ゴブリンに見つからないように早くここを脱出するんだ!」
 ふたりは洞窟を出るために歩いていると、広間に出ました。そこでは、ゴブリン女王が大きないびきをかいて寝ていたのです。カーディはそっと女王に近づくと、足に履いていた石の靴を脱がせたのです。
 やがて、アイリーンたちは洞窟の外に出ました。そこは、なんと王女の館の庭先だったのです。つまり、カーディたちはゴブリンが掘り進めた坑道を歩いてきたわけです。もうゴブリンのアイリーン誘拐計画は、いつ実行されてもおかしくありません。

 (7)ゴブリン軍の突入

 数日後、王女の館は地震が起きたように激しく揺れました。そして「ワーッ」というとき鬨の声が響きました。ついに、ゴブリン軍がアイリーン王女をさらいに攻め込んできたのです。
 館を守る騎士たちは応戦しました。騎士たちは、ゴブリンの頭を攻撃しますが、なかなかダメージが与えられません。そうしているうちに、ゴブリンは次々と洞窟から出てきて、騎士たちを追い詰めていきました。
 そこにカーディが現れ、大声で叫びました。
「みんな、足を狙うんだ! ゴブリンの弱点は足だ」
 騎士たちはこれを聞くと、一斉にゴブリンの下半身を攻撃しました。たちまち形勢は逆転し、ゴブリンたちはずるずる後退していきます。
 カーディは、ゴブリン女王と矛を交えました。女王の力は強かったものの、今度は石の靴を履いていないので、足は無防備になっています。カーディは女王の隙をついて、その足を思いっ切り打ち据えました。
「ギャーッ!」
 女王のものすごい悲鳴とともに、ゴブリン軍は総崩れになりました。そしてゴブリンたちは騎士たちに追われ、洞窟の中へ我先に逃げ帰っていきました。
 騎士たちは、ゴブリンを追い払うと、アイリーンのことが心配になりました。
「王女様をお探し申せ!」
 館じゅうの人間が、アイリーンを捜索しました。しかし、王女の姿はどこにも見当たりません。ゴブリンにさらわれてしまったのでしょうか?
 このとき、カーディの手に、目に見えない糸のようなものが触れました。不思議に思ってその糸をたどってみると、館を出て、山道を登り、ついにカーディの家に着いたのです。カーディが家に入ってみると、なんとアイリーンがいたのです。
「アイリーン! なんで君がここにいるんだい? 館の人たちは皆探しているよ」
「カーディ! 私、またおばあさまの糸に導かれてここに来たのよ。館では何かあったのかしら?」
「実は僕も、見えない糸をたどってここに来たんだ。君の言っていたことは本当だったんだね。・・・・・・ゴブリンたちが君を狙って館を襲ったけど、みんなで追い払ったよ」
「まあ、そうだったの」
 突然、カーディは何かを思い出したように立ち上がり、出かける準備をしました。
「そうだ、こうしちゃいられない。急いで鉱山に行かなくちゃ。アイリーン、また後で!」
 こう言うと、カーディは家を飛び出していきました。

 (8)約束

 カーディが思い出したのは、ゴブリンの二つ目の企み、つまり、地下水の堰を切って鉱山を水浸しにするという計画です。でも、鉱山に駆けつけたカーディは、ほっとしました。既に、カーディの父や鉱夫仲間たちが、壁の弱い部分を補強しており、地下水が別のルートに流れるよう、手を打っていたのです。カーディは安心して家に戻り、アイリーンを連れて館にやってきました。
 ちょうどそのとき、王女の危機を知らされた父王が館に駆けつけていました。王はアイリーンの姿を見ると、目が飛び出るほどびっくりし、大いに喜びました。
「おおアイリーン、無事だったか。心配したぞ」
 アイリーンは、父王の胸に抱かれながら、これまでの経緯を語って聞かせました。そして、カーディとの約束についても話したのです。
「お父様。私、カーディにキスをする約束をしたの。今ここで、王女の名にかけて約束を果たすことをお許しください」
 これを聞くと、父王はにっこりうなづ頷きました。アイリーンはカーディにキスをし、館は歓呼に包まれたのでした。

 (9)ゴブリンの最期

 このとき、ゴブリンたちは地下水の堰を切りました。ところが、彼らの思惑通りに水は流れず、行き場を失った水は、逆にゴブリンたちを押し流しました。そして、流れ出た先は・・・・・・王女の館の中庭です。皮肉にも、ゴブリンたちは、自分たちが掘った穴に流されてしまったのです。館の人が見に行ってみると、そこにはゴブリンの死体がたくさん浮いていました。
 以来、この地からゴブリンの姿はなくなりました。生き残った者たちも、どこか遠くの山で暮らし、性格も穏やかになったということです。

二 レプラホーン(小人の靴屋)

 FFIIIの世界を旅していると、小人の村「トーザス」に行き着きますね。トーザスのテーマ曲は軽快で、聴いていると、元気よく跳ね回っている小人たちの姿が目に浮かびます。トーザスの村に入れるのは小人だけです。そのため、パーティ全員に「ミニマム」の魔法をかける必要がありました。
 ここから次の目的地ミラルカへ行くためには、トーザスの抜け道を通らねばなりません。そして、やはりここも小人状態で進む必要があるのです。しかし、小人のままでは力が弱いので、魔道士などにジョブチャンジをして戦いに備えたものでした。パーティ全員が黒魔道士になってファイアやサンダーをかけまくる、なんて方法もありましたね。そして、この抜け道に現れるモンスターが「レプラホーン」なのです。
 ゲームの元ネタとなる妖精のレプラホーンも、やはり小人です。この妖精の姿は、ひげを生やした老人で、革のエプロンをしています。レプラホーンは靴職人で、いつもハンマーをふるって靴の修理にいそしんでいるのです。人間の仕事を手伝うこともありますが、その姿を人間に見られることを嫌います。ですから、レプラホーンがハンマーを叩く音を聞いても、見に行かないほうがよいのです。
 現在、アイルランドでは"LEPRECHAUN CROSSING"という道路標識が見られます。「レプラホーンが横断するから車は注意せよ」というのですから、さすがは妖精の国アイルランドですね。
 これからお話するのは、グリム童話で語られる「小人の靴屋」です。有名な話なので、知っている方も多いでしょう。この小人もレプラホーンなのです。

 昔、あるところに靴屋のおじいさんとおばあさんが住んでいました。ふたりは正直者でしたが、暮らし向きは貧乏でした。靴屋の仕事は日に日に減ってゆき、とうとうあと一足分の靴を作るだけの革しかなくなってしまいました。
 おじいさんは、夜その革を裁断し、後の作業は翌日することにしました。
「明日が最後の仕事か・・・・・・」
 それでも、おじいさんは神に感謝の祈りを捧げ、ベッドに入りました。
 翌朝、作業場に来てみると、なんと靴ができあがっているではありませんか! しかも、それは大変すばらしい出来栄えだったので、これまでの二倍の値で売れたのです。
 おじいさんは、靴を売ったお金で二足分の革を買いました。そして、また作りかけの靴を一晩おいておくと、次の朝には二足の上等な靴が完成していたのです。こうして、おじいさんはだんだんとお金持ちになりました。
 やがて、クリスマスが近づいてきました。おじいさんは寝る前、おばあさんにこう話したのです。
「いったい誰が、わしらの靴作りを手伝ってくれているのじゃろうか? 今夜は、起きてそれを見てこようと思っておるが、どうじゃな?」
「それはいい考えですね」
 おばあさんがそう言うと、おじいさんは作業場に出かけていき、身を潜めていました。
 夜も更けた頃、何かがちょこちょことやってきて、作業台の上に乗っかりました。見ると、それは小人のレプラホーンでした。小人はふたりいます。レプラホーンたちは、おじいさんが裁断した革を持ち上げると、靴作りを始めたのです。その手さばきは見事で、熟練の職人もびっくりしてしまうほどの腕前だったのです。そして小人たちは、靴が完成すると、大急ぎでいなくなってしまいました。
 翌朝、おじいさんが事の顛末(てんまつ)を話して聞かせると、おばあさんは言いました。
「そうだったの。それでは小人さんたちに何かお礼をしなきゃね。私は小さい服とズボンを用意するから、おじいさんはかわいらしい靴を作ってあげたらどうですか?」
「それはよい考えじゃな」と、おじいさんも賛成しました。早速、ふたりはレプラホーンへのプレゼントを作り、作業台の上にわかるように置いておきました。
 さてその晩、いつものように小人たちがやってくると、作業台にあるのは靴の革ではなく、小人の服と靴でした。レプラホーンたちは最初、顔を見合わせて不思議そうにしていましたが、すぐにその服を着、靴を履くと、嬉しそうに跳ね回りながら出て行ってしまいました。
 その後、靴屋には二度と小人のレプラホーンは現れませんでした。妖精というものは、親切に対して、明らかにお礼だとわかる方法でお返しをされることをあまり好みません。妖精に手伝ってもらったら、さりげなくお礼をするのがマナーなのです。それでも、靴屋の夫婦はこの後も仕事が上手くいき、いつまでも幸せに暮らしました。

三 ブラウニー

 「ブラウニー」はDQ」に登場するモンスターです。ずんぐりした茶色い体は愛嬌たっぷりで、手にはおおきづちを持っています。頭も茶色ですが、これは地毛なのか、それともフードをかぶっているのか、よくわかりません。
 DQ」では、倒したモンスターを仲間にすることができました。ブラウニーは戦った後、よく「起き上がって、仲間にして欲しそうに」します。モンスターのなかでも人間に友好的な種族なのでしょうか? メンバーに入れたブラウニーを戦闘に参加させると、会心の一撃をよく出すので、なかなか頼りになる味方でしたね。
 妖精のブラウニーも、概(おおむ)ね風貌は一致しています。背が低く、茶色の毛をして、頭には茶色のフードをかぶっています。ブラウニーは家の精で、居ついた家の人たちを幸せにします。家族の仕事を手伝ったりもしますが、あからさまなお礼や必要以上の報酬を嫌います。このあたりは、前述のレプラホーンとよく似ていますね。
 ここでは、イギリスに伝わるブラウニーのお話をします。人間のために尽くしているブラウニーの性格がよくあらわれています。

 ダルスウィントンの領主の家に、ひとりのブラウニーが住みついていました。この領主には娘がおりましたが、彼女はこのあたりでも一番の美人という評判でした。ブラウニーはこの娘をこよなく愛しておりました。そして、彼女のすることにはなにかれと手助けをしてやったのです。
 やがて、この娘が結婚し、出産の時期を迎えました。陣痛が始まると、この家の使用人が、川向こうの産婆さんを迎えに行くよう言いつけられたのです。ところが、この使用人はグズグズしており、いつまでも支度をしておりました。これを見かねたブラウニーは、自分で迎えに行くことにしました。
 冬の外は厳寒です。ブラウニーは嵐の中、馬を駆って川を渡りました。そして、産婆さんを鞍に乗せると、いちもくさんに領主の家へ駈け戻ったのです。
 ブラウニーは産婆さんを玄関に迎え入れると、なんとそこにはまだ使用人がいて、靴を履いていました。これを見るとブラウニーはひどく怒り、使用人をぶちながら言いました。
「このばか者め。言いつけられたことはすぐにやるものだ!」
 痛恨の一撃を受けた使用人は、大いに反省したということです。

l アーサー王伝説

一 岩に刺さった剣

 「聖剣伝説」というゲームをご存知でしょうか? これはFFシリーズではないのですが、スクウェア・エニックス社がプロデュースした、FFと同じようなファンタジー世界観をもつアクションRPGです。
 聖剣伝説2のゲームをスタートすると、まず主人公「ランディ」が岩に刺さった剣を抜くシーンがありますね。この剣は、今まで誰も抜くことができませんでした。ですが、ランディの手にかかるとするりと抜けてしまうのです。彼がポトス村に戻り、そのことを告げると、村中が不吉だといって大騒ぎになります。しかし、旅の騎士「ジェマ」は、この剣を抜くことの意味を知っていました。
「世界に危険がせまった時、勇者によってひき抜かれるはずの伝説の聖剣だ」
 ランディは重大な使命を帯びていることを知らされます。これ以後、ランディたちは世界を救う旅に出るのです。
 岩に刺さった剣を抜くという行為は、イギリスのアーサー王伝説を題材にしているといえるでしょう。国をまとめる王がおらず、世が乱れているとき、若きアーサーが岩の剣を抜き放ち、正統な王であることを証明しました。この時代には、神秘の力で物事を決めることがあるのです。人間の意思では判断がつきかねるときや、どうしても利害の調整ができないときなど、人知を超えた神意を問うことで決着を図ったのです。こういったやり方は、近代社会では考えられないことですが、古代・中世の人々にとっては納得のいく方法だったのでしょう。時代によって、何に重きをおくかという価値観の違いが窺えます。

 はるか昔、ブリテンの地は偉大な王「ユーサー・ペンドラゴン」が治めていました。ユーサーは、この地を度々蹂躙したサクソン人を追い払い、ブリテンに安寧(あんねい)をもたらしたのです。
 しかし、ユーサーが亡くなると、ブリテンは乱れました。諸侯は我勝ちに支配権を主張し、中には武力に訴えるものも少なくありませんでした。また、この混乱につけこんだサクソン人たちは、再びブリテンへ侵入を開始したのです。
 ユーサーの宮廷に使えていた魔術師「マーリン」は、この状況を憂えていました。そこでマーリンはカンタベリーに赴き、大司教に助言を試みたのです。
「ブリテンは未曾有(みぞう)の混乱を招いております。この事態を収めるため、今度のクリスマスには、国中の諸侯へロンドンに集まるようお命じください。そこで、誰が次の王になるか、神に問うてみるのです」
 大司教の号令により、クリスマス前には、国中の領主たちがロンドンの聖ポール寺院に集まりました。そして、大司教がブリテンの次なる正統な王は誰かと神意を問うてみると、一同の後ろで「ゴゴゴ・・・」と大きな音がしたのです。みなが何事かと思って寺院の前庭に出ると、そこには大きな岩が出現しており、岩の中央には一本の剣が刺さっておりました。刀身を見ると、金文字の銘があります。
「この剣を岩より引き抜きし者は、ブリテンの正統なる王者である」
 これを見て、我こそは次の王者と称する者たちは、次々と剣の束(つか)に手をかけ、力いっぱい引っ張りました。しかし、誰一人としてこの剣を抜いた者はおりませんでした。
 さて、大晦日にロンドンで馬上槍試合が催されました。各地の諸侯たちは己の武勇を世に知らしめるチャンスと、大張り切りです。この中に、サー・エクトルという武人と、息子のケイがおりました。会場に向かう途中、ケイは剣を忘れたことに気づき、弟のアーサーに剣を宿所から取ってきてくれるよう頼んだのです。
 アーサーは、宿所まで戻りましたが、剣はみつかりません。そこで、聖ポール寺院の中庭にあるという岩に刺さった剣の話を思い出し、立ち寄ってみることにしました。アーサーが束(つか)に手をかけると・・・・・・なんと、今まで誰も抜くことのできなかった剣が、あっさりと抜き放たれたではありませんか!
 この噂はたちまちロンドンじゅうに響き渡りました。サー・エクトルは息子アーサーの前にひざまず跪いて、こう言いました。
「あなたは全ブリテンの正統な王者となるべき方です。実は、あなたは私の本当の子ではありません。さる高貴なお方の御胤とだけ伺っておりましたが、どなたかは存じ上げませんでした。しかし、あなたこそかのユーサー・ペンドラゴン王のご子息に間違いありません!」
 エクトルの言う通り、アーサーはユーサー王の息子として生を受けました。しかし、訳あってアーサーが生まれるとすぐに、マーリンを通じ、極秘のうちに城を出て、サー・エクトルの元で実の息子として育てられたのです。
 アーサーが、剣を抜いたことを知ると、カンタベリー大司教は聖ポール寺院にて、新しい王の誕生を高らかに宣言しました。集まった諸侯からは「アーサー王、万歳!」と歓呼の声が叫ばれたのです。そしてアーサーの戴冠式(たいかんしき)が執り行われ、彼はブリテンの王となりました。
 しかし、領主たちのなかには、これを快く思わない者もいました。
「フンッ、神意を問うなどと勿体つけおって。そんな下手な茶番にだまされるような俺たちではないわ」
 こういうと、彼らは新王に敢然と反旗を翻したのです。反逆の首魁(しゅかい)はロット王。彼らはアーサーと戦う準備を始めました。
 アーサーは、マーリンに打開策を問うと、魔法使いは次のように答えました。
「反逆者たちを打ち破るためには、新しい剣を手に入れる必要がございます。私が剣のある場所に案内いたしますので、ご一緒においでください」
 そういうと、マーリンはアーサーを連れて、どこかへと出かけていきました。

二 エクスカリバー

 聖剣エクスカリバー。FFのみならず、多くのゲームにその名が見られますね。威力こそラグナロクに劣るものの、正統なる者が持つ正義の剣としてその名を轟(とどろ)かせています。
 エクスカリバーの持つ特徴といえば、なんといってもその聖性でしょう。王は、世俗権力の頂点であるとともに、神から地上の支配権を認められた聖なる存在でもあらねばなりません。それゆえに、この剣を持つことが、アーサー王の威厳と正統性を衆に知らしめる証となっているのです。
 FFでも、エクスカリバーは聖の属性を帯びていることが多いですね。普通に戦っても強いですが、特に邪悪なアンデッドモンスターに対しては、すさまじい威力を発揮するのです。
 では、反逆者たちの征伐をめざすアーサー王が、聖剣エクスカリバーを手に入れる物語を始めましょう。

 アーサー王は、マーリンに導かれてとある湖のほとりまでやってきました。すると不思議なことに、湖面から白い衣を纏(まと)った女性の腕が伸びてきました。その手には、輝く剣が握られています。やがて、美しい姿を現した女性は、水面をこちらへ向かって歩いてきます。
「マーリン、この乙女は何者だ?」とアーサーが尋ねると、
「湖の姫です。この湖の底には大きな岩山があり、その中に姫の住む宮殿があるのです。」とマーリンは答えました。そしてさらにこう続けました。
「姫が持っているのは聖剣エクスカリバーです。この剣は、真に王となるべき者が来るのを待っていたのです。さあ、湖の姫に話しかけ、聖剣をもらい受けなさい」
 そこで、アーサーは湖の姫に近づき、剣をいただきたいと請うたのです。姫は、アーサーをじっと見ていましたが、彼が正統なる王であることを感じ取りました。そして、アーサーは姫に誓いを立て、エクスカリバーをもらい受けたのです。
 エクスカリバーは本当に見事な剣でした。刀身は白く輝き、しっとりとしています。束(つか)を握ると、剣は持ち主の到来を待ちわびたように、しっくりと手になじんだのでした。
 さあ、反逆者たちの討伐です。アーサー王の軍は、俄然士気が高まり、ロット王をはじめとする反乱軍たちを蹴散らしていきました。その中でも、ひときわ精彩を放っていたのはアーサー王その人でした。アーサーがエクスカリバーを抜くと、その強い輝きは敵将の目をくらませました。そして、聖剣が左右に踊ると、敵の兵はそれにあわせて薙ぎ払われたのです。
 アーサー王の軍勢は勝利を収めました。反逆者たちを鎮めると、今度はブリテンの地を荒らしている異教徒のサクソン人との戦いが待っていました。このときもエクスカリバーはその威力を如何(いかん)なく発揮し、アーサー王はひとりで何百人もの敵兵を倒したといわれています。激しい攻防の末、アーサーの軍はサクソン人を打ち破りました。
 こうして、エクスカリバーをもつアーサー王は、ブリテンを統一しました。この後、アーサーはキャメロットに城郭を構えます。そして、ここを舞台に理想の騎士道精神と宮廷風のロマンス恋愛が繰り広げられることになるのです。

三 ナイツオブラウンド(ランスロットと剣の橋)

 FFVIIの召喚マテリアのなかで、最強の威力を誇るのが「ナイツオブラウンド」ですね。この世界には、マテリアの洞窟と呼ばれる場所が四つあり、いずれも希少なアイテムを手に入れることができました。なかでも、ナイツオブラウンドの眠るラウンドアイランドは絶海の孤島であり、世俗とは隔絶された時を刻んでいます。
 ナイツオブラウンドを使うと、アーサー王の宮廷に仕える円卓の騎士十三人が現れます。ランスロット・ガウェイン・ガラハッドといった錚々(そうそう)たるメンバーが代わる代わる敵を攻撃し、最後はアーサー王がエクスカリバーを振りかぶってバッサリと両断します。その威力があまりにも強いので、ラストボスさえもあっけなく倒せたのではないでしょうか?
 アーサーの宮廷キャメロットでは、王に忠誠を誓う騎士たちを円形のテーブルに座らせました。なぜ円形かというと、かみざ上座・しもざ下座という概念を取り払うことで、主君と臣下の精神的な壁をなくそうと、アーサー王が配慮したためだといわれています。
 円卓の騎士で筆頭に挙げられるのは、なんといっても湖の騎士ランスロットでしょう。ランスロットの両親は早逝し、彼は湖の姫―アーサー王にエクスカリバーを与えた―に育てられました。彼は武勇に秀で、度々催される馬上槍試合でもランスロットに勝てる者はいなかったといわれています。ランスロットは強いだけでなく、騎士道精神に適った行動で衆の信望を集めていました。即ち、主君へ忠誠を尽くすこと、キリスト教徒としての信仰を貫くこと、そして女性への献身といった徳目を実行していたのです。
 ランスロットの物語として有名なのは、アーサー王の妃「グウィネビア」との禁断の愛でしょう。これからご紹介するお話は「ランスロットと剣の橋」です。誘拐・監禁されたグウィネビアをランスロットが救出するという内容ですが、これは「さらわれたお姫様を