ピトラの冒険80|千足とQの絵本ワールド|Q書房


カピタンをどうにかしろ! 前編

「ふー、やれやれ」
 ピトラ運送のきゅうけいしつで、ピトラは冷蔵庫をあけます。
「――あれ?」
 ピトラは首をかしげます。
「ねえ、ジョースター?」
「なんでありますか、社長?」
 カモメのジョースターは、おべんとうの魚のヒモノをかじっています。
「ラムネ知らない?」
「炭酸ののみものでありますね。レモネードが名前のもとと言われていて、ガラス玉がセンになっているビンに入っているのであります」
「そういうことは聞いてないよ、ぼくのラムネが見あたらないけれど、だれかが飲んだり持っていったりしてないか、って、そういう話だよ」
「ややっ、そうでありましたか」
「そうにきまってるでしょ。ラムネがなにだか分からなくなってたとしたら、ぼく、そうとうマズいよ!」
「ダイジョウブであります」
 ジョースターがどんと自分のむねをたたきます。
「社長がラムネもコーラも朝ごはんを食べたかもわからなくなった時には、このジョースターが社長のイスをりっぱにうけつぐであります」
「――おかしいなぁ、名前も書いておいたのに」
 ピトラは冷蔵庫の中をすみずみまでさがします。
「って、スルーでありますか! スルーでありますか!」
「……だって、キミはいつもそれじゃないか。新ネタよういしないと、レギュラー落ちするよ?」
「ですが社長、王道はだいじであります」
「最初からのお客さんなら笑ってくれるけど、とちゅうからのお客さんはしらけるもんだよ」
「ふうむ、それはそうでありますな……」
 ジョースターはお茶のカップをコースターにおきます。
「ジョースター、こじゃれたもの使ってるね? コースターなんて」
「え? 社長がよういしてくれたんではありませんか?」
「そんな、ムダなもの買わないよ――って、え?」
 ピトラはコースターをとります。
 あつめの紙が二つおりになっていて、まるでメッセージカードみたいです。
「いや、みたいじゃなくて、本当にメッセージカードだよ!」
「あー、そうでありましたか、やっぱり」
「分かってやってたの?」
「ほっぽらかしておくからいけないのであります、こんどやったらすてちゃうであります」
「キミは、ぼくのお母さんかなにかか」
「口ごたえするとは、自分は社長のような子を生んだおぼえはないのであります」
「ぼくもジョースターなんかから生まれたおぼえはないよ」
「……すると、社長は、お母さんから生まれたときの記憶はあるのでありますか?」
「ないよ!」
「だとすれば、本当は自分が社長を生んだけれど、言うに言えないワケありでかくしていることも――」
「ないない」
 ピトラはカードをひらきます。

『ピトラさま
 はいけい
 夏のあつさもとおのき、秋のけはいがいっそうふかまってまいりましたが、おカゼなどめしていませんでしょうか。
 冷蔵庫の中のラムネは、いただきました。ざまあみろ。
 それでは、ミカンを食べすぎると手が黄色くなってしまうので、くれぐれもごちゅうい下さい。
 けいぐ
 宇宙太海賊カピタン』

「むっ、この字、無礼だか礼儀正しいんだか分からない、頭の悪そうな文は! 泥棒のカピタン!」
「……ちゃんと名前書いてありますが」
「ぬぅううう!」
 ピトラはカードをやぶります。
「なんてこった、またやられた!」
「でも、なんでラムネしか盗まなかったでありますか? お金でも盗めばいいのに」
「そりゃあ、盗まれるようなもの、会社においてないし。売り上げはその日のうちに銀行にあずけてるしね」
「……そういうところにスキがなさすぎるのも、どうかと思うのであります。こういう時は、金庫に入れたダイヤかなにかをぬすまれて、とりかえすためにがんばる、とかしないとドラマにならないのであります」
「バカがバカなせいでトラブルになる話はキライなんだって」
「思い出したように自己主張をするのでありますなぁ、このひとは」

 警察が、ピトラ運送にやって来ます。
「こんにちは、ドロボウですか?」
「はい、おまわりさん」
 おまわりさんたちは、冷蔵庫にしもんのこなをはたいたり、足あとの写真をとったりしています。
「ふむ、分かって来ましたよ」
 刑事がつぶやきます。
「なんですか?」
「みんなをよんで来て下さい」
「親方とガースは配達に出てるんで、この会社にいるのはぼくとジョースターだけだけど」
「そうであります」
「ふむ……はんにんは」
 刑事は、ピトラとジョースターを見た後、ゆっくりと指をさします。
 ――上を。
「宇宙海賊、カピバラのカピタンです!」
「それはさいしょから分かってるよ」
「つうほうした時に言ったのであります」
「ん? じゃあ、なんのためによんだんです?」
「……カピタンをつかまえてほしいんじゃないか!」
「そう言われても、カピタンはもう指名手配になってますから、われわれもつかまえようとしていますよ」
 その時、刑事の電話がなりました。
「むっ、なに? 天王山商店街でカピタンを見つけた? 今行く!」
 警察は、さっさと出て行きました。
「つかまるのでありますかなぁ?」
「さあね。バイトでやとったカソがしきってるようじゃあねえ……」
 ピトラは遠ざかっていく刑事――火ネズミのカソの後ろすがたをながめました。
「ってさ!」
「なんでありますか、社長?」
「こういうのがいけないんだよ、大したことのないドロボウだからって、ほうっておくから、カピタンはどんどんいい気になるんだよ!」
「それはそうでありますが、社長のラムネ一本でありますし」
「リンガをみてみなよ、ちょっと世界のさかいめを切っただけで、何年刑務所に入ってると思ってるのさ?」
「……いや、世界を切る方が、こそどろよりは、つみが重いのは何となく分かるのであります」
「だからって、カピタンをゆるしちゃいけない! ぼくたちでつかまえよう!」
「なんで運送屋がそんな事をしなければならないのでありますか?」
「仕事しかできないんじゃ、ひととしてミリョクがないよ!」
 ピトラはテーブルをどん、とたたきます。
「とっつかまえて、ラムネ代と自転車代とその他もろもろ、ぜんぶはらってもらうんだから!」
「……根に持ってたのでありますか」
「持っていたとも、そりゃあ持ってたさ! 仕事に疲れた時に、ぐいっと飲もうと思っていたラムネを、事もあろうにぬすまれたんだよ!」
「……小さい男でありますなぁ」

 ピトラはジョースターにピトラ運送を任せて、自転車で天王山商店街にやって来ました。
「いましたか!」
「いえ!」
「大きいクセにすばしっこいヤツだ!」
 警察があちこちにいますが、まだカピタンをつかまえてはいないようです。
 ピトラは行きつけの店に入ります。
「こんにちは、ピトラのダンナ」
「マスター、いつもの」
「はい、ただいま」
 マスのマスターがシェーカーをふります。
「ミルクセーキです」
「ありがとう」
 ピトラはグラスをかたむけます。
「マスター、この男をさがしている」
 カピタンの写真と、銀貨を二枚出します。
「この町に入ったということは聞いてる」
「そ……そのひとは」
 後ろで、ぷしゅっ、と音がしました。
 ピトラがふりむくと、そこにはフタをあけたばかりのラムネを飲みはじめた、フードをかぶった――。
「カピタン!」
 カピタンはフードをぱっとひきあげます。たしかにカピタンでした。
「はははっ、いかにも! 大海賊のカピタンさまだ! ピトラ社長、こんなところまでおって来るなんて、ヒマなヤツめ!」
「ピトラ運送は、もうかってるからいいんだよ! かくごしろ!」
「はっ! そんなちっぽけな体で、オレサマをとりおさえらえると思ってるのか?」
 カピタンはピトラにつかみかかります。大きなカピタンにしめあげられては、ひとたまりもありません。
 ピトラはすばやくカピタンの手をかわします。
「にげまわってもどうにもならんぞ!」
 カピタンがピトラの頭をつかもうとするのを、ピトラはかわします。かわしたところへ、腕をつかもうとしてくるので、これをまたかわします。こんどは服をつかもうとしてくるので、これもなんとかかわします。
 かわしてはいますが、ピトラはどんどん店のすみっこにおいこまれていきます。
「ははは! オレサマをつかまえるんだろう? さあ、つかまえてみろ、ウハハハハ!」
 その時です。
「このへんなら……いいかな」
 ピトラはぽつり、と、つぶやいて。
「マスター、べんしょうはするから」
 ピトラは手を、カピタンにむけて、ほんのちょっぴりあおぎました。
 つぎのしゅんかん。
 風がおこりました。
「うお、お、おお、おおおああああああ!??」
 ふんばろうとしたカピタンですが、ものすごい風に体ごとうかびあがり、店のはんたいがわのカベまでふきとびました。店のまどガラスも、ぜんぶこなごなです。
「な、な、なあ!?」
「ぼくがなんのよういもなく、ここに来たと、本気で思ってた?」
 ピトラの手には、コインぐらいの大きさの、なにかのカケラがありました。
「そ、それは……」
「バショウセンのカケラ。ワープ用オールを作る時に出るきれはしを、行きがけにフツヌシからもらってたのさ。店のまん中でやったら、カベまでこわれそうだったから、ここまで追いつめられる必要があったけどね!」
「だ、だったら」
 カピタンは起き上がります。
「ムダムダムダぁ!」
 ピトラがまたバショウセンのカケラをふろうとすると。
「逃げる!」
 カピタンはむかって来ずに、いちもくさんに逃げはじめました。
「あっ、ちょっ!」
 ピトラはカピタンを追って、店から出ます。
 カピタンは、ピトラの乗って来た自転車にまたがって、走り去ります。
「この、止まれええええ!」
 ピトラはバショウセンのカケラをふって風をたたきつけます。
「追い風ごくろう! ガハハハハ!」
 でも、後ろから風を送っては、ぎゃくこうかです。
「いたぞ、カピタンだ!」
「つかまえろ!」
 カソたちもおいかけますが、カピタンは自転車ですいすいよけていきます。まるで、昔のジャッキー・チェンみたいでした。
「……今時の子にも、ジャッキーはメジャーなのかなぁ」

 ピトラは、ピトラ運送の社長室に、もどって来ました。
「けっきょく、とりにがした上に、喫茶店のべんしょうだけしたのでありますか?」
 ジョースターが、あきれた顔をします。
「カピタンの逃げ足がはやすぎるんだよ」
 新しく買ったラムネを、ピトラは苦い顔で飲みます。
「盗む腕も、頭も悪いクセに、逃げ足ばっかりはやくて。あの足がなければなぁ」
「あんなのかざりであります、エライ人はそれが分からんのであります」
「……ムリにあてはまらないネタをねじこまなくてもいいよ」
 飲み終わったラムネのビンをゆすると、ビー玉がチリチリ音を立てます。
 夢の世界のラムネのビンのビー玉は、空気みたいにすきとおっていて、光のぐあいであらゆる色に見えます。
「ビー玉、とろうかな……」
「ビンはかえさないと、お金がもどって来ないであります」
「いや、まあ、大したお金じゃないからそこはどうでも……そうだ、ビー玉だけとって、ビンを返したらどうなんだろう」
「ラムネビンとしてはこわれているので、お金はもどってこないと思うのであります」
「だよねー」
 ピトラは机の上につっぷします。
「そもそも社長、ビー玉だけなんてとれないのであります」
「あ? そーでもないよ、呪いのほうちょうのリンガだったら、どーにかできそうじゃない?」
「リンガでもビンを切ったらビンが切れてしまうのであります」
「いやね、でもさ」
 ピトラはじっとビンを見つめます。
「この前、七星剣が『距離』を切ったじゃないか」
「そんな事があったでありますな」
「そういう形のないものを切れるなら、これもくふうすればどうにかなるんじゃないかな?」
「なるほど」

 ピトラは、リンガの入っている刑務所に面会に来ました。
『それをたしかめたくて、刑務所まで来ただか? ヒマだな、ピトラ』
 呪いのほうちょうのリンガは、台所のまないたの上でうれしそうにピカピカと光ります。
「そんなにヒマでもないんだけど、考え出すとなんか、気になっちゃって。できるかな? ビー玉だけとり出すの」
 ピトラはラムネのビンを見せます。
『なんでもないだ――終わっただ』
「あいかわらずアクションのすくないひっさつわざだなぁ……あれ?」
 ラムネのビンの中には、ビー玉がまだあります。
「出てないじゃない?」
『ひっくり返すだ』
 ピトラはビンの口を下にします。
 すると。
「あっ」
 ビー玉の形がくずれました。ビー玉は砂つぶぐらいの大きさのガラスのカケラになって、ラムネビンの口からパラパラと落ちて行きます。
『ふふん、ビー玉だけとりだせただ』
「ビー玉をこわさないでとりだす事はできないかったの?」
『それはむずかしいだ。オラは切る道具だからな』
「んー、まあ、そう、だよね」
 ピトラはため息をつきます。
『なんだ? そんなにビー玉がほしかっただか?』
「あー、いや、そうじゃなくて、カピタンにまたやられたんだよ」
『それこそオラにまかせればいいだ』
「え?」
『クビでもなんでも、切り落としてやるだ』
「ちょっ! そういうのはダメだよ! そこまで悪いことしてないし!」
 そこまで言って、ピトラは気づきました。
「いや……まてよ」
『なんだぁ?』
「カピタンの逃げる力を切ることは、できるよね?」
『オラに切れないものはないだ』
「じゃ、やっちゃって」
『おわっただ』
「つぎに、カピタンとこの刑務所の距離を切って」
『おわっただ』
 と。
 ピトラの目の前に、ねむっているカピタンがあらわれました。
「うおうっ! ほ……本当に、来た! つかまえちゃった!」
『ざっとこんなもんだ』
「やたっ、やった! ヤッコさん、ヤッコさん! ドロボウつかまえたから、警察よんで警察! ははっ、なんだこれでよかったんだ、はは、あはははは!」
 ピトラはさけびつつ、台所からかけ出して行きました。
『ふふ、ピトラよろこんでくれただな』
 リンガはうれしそうに、カタカタとゆれました。
 ゆかでは、なにも気づかないような顔で、カピタンがねむりつづけていました。

【つづく】

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