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「こんにちはー、ピトラ運送です!」
「ピトラ運送であります」
ピトラとカモメのジョースターは夢の世界の、マツオ山のふもとにある、かじ屋のフツヌシの家に来ました。
『おう、来たか。中までたのむ』
インターホンからフツヌシの声がして、ドアが自動で開きます。
「なんか、前と家の形がかわってるなぁ……」
「そうでありますな」
ピトラとジョースターは、家の中に入ります。
何かを作る材料なのか、鉄板や材木がつまれているろうかを、カメみたいな自動そうじきがウロウロしています。
いくつか部屋の前をとおりすぎて、つきあたりのドアをピトラが開けます。
むっとする熱い空気がながれでて、やけた金属をたたく音がひびきわたります。
ヘッドフォンステレオをしたフツヌシが、ヤットコでつかんだまっかに光る金属を、ハンマーでたたいています。ものすごいはやさです。
フツヌシがハンマーで一発たたくごとに火花がちって、金属は少しづつ形をかえていきます。たたいて形をかえている、というよりは、金属が自分からその形になろうとしているようです。
形は、まん丸で平べったくて、はしっこからにょっきり一本もつところが出ている――。
「フライパンでありますな」
「うん……でも、すごいていねいに作ってるなぁ」
フツヌシはすっかりフライパンを作ると、それを水に入れます。
じゅううううう!
水はものすごい湯気を上げて、フライパンを冷まします。
フツヌシは、出来上がったフライパンを台の上におきます。ハンマーでたたいていたのに、みがいたようにピカピカです。
フツヌシは、ひたいの汗をぬぐいます。
「このフライパンを、天帝のところへとどけてくれ」
「はい」
ピトラはフライパンをさわろうとしますが。
「……まだすごく熱いね」
「お前らが来るまえに冷ましておくつもりだったんだが、精霊を落ちつけるのに手間どってな」
フツヌシは、炉にフタをしてから、部屋のすみにある冷蔵庫をあけ、ビンを出します。
「すまんが、少し時間をつぶしててくれ」
おやゆび一本でビンのフタをあけ、ピトラとジョースターにわたします。
「ありがと」
「ありがとうございますであります」
ピトラは、ビンに口をつけて飲みます。
「ん……タンサンの……なんだろ、これ、辛いな?」
「ジンジャーエールだ」
「フツヌシのは?」
「オレのはビールだ」
フツヌシは、ぐっと飲む。
「あっ、自分もビールがいいであります」
「おめーは仕事中だろうが」
「……っていうより、大人だったんだね、ジョースター」
「社長とはじめて会った時に、24歳でありました」
「リアルな数字出すのやめようよ……」
ピトラはジンジャーエールをのみながら、部屋のたなにおかれたものをみます。
剣や鎧のようなものから、包丁やナイフのような道具、それからよく分からない機械までいろいろです。
「見てもいいけどさわるなよ?」
「分かってるよ。みんな注文で作っただれかのものなんでしょ?」
「それもあるが、その剣なんかは、魔法の剣だから、心のよわいヤツがさわると魂をくわれる」
「……それは呪いの剣なんじゃ」
「魔法の剣、だ!」
「はい……それで、こっちは?」
手のひらにのっかりそうな大きさの、貝みたいにパクリと二つにひらく機械です。
「お前んとこの世界の機械をマネしてみた。そこにこのキバンをつっこむと、ゲームが出来る」
「またそういうややこしいのを……つぎのこれは、ペンキ?」
ペンキ缶になにかが入っています。
「いや、メッキだ。これをぬると、エネルギーのむきがかわる。はじきかえすってことだな」
「へえ、すごい! ひょっとして、イダテンにもぬってあったりするの?」
「いや」
「ぬっといてくれれば良かったのに」
「金属には、うまくくっつかねえで、すぐにはがれちまうんだ」
「そうなんだ……って、じゃあ、これを買う人って何のために?」
「『ひつようになる時もあるかと思って』とか言ってたぞ――てと」
フツヌシはフライパンにさわります。
「よし、これならさわれるだろ」
ピトラはフライパンをうけとります。
「だいぶ熱いけど、ムリってほどでもないね」
「じゃ、たのむ」
フツヌシは、運送代をピトラにわたして、ピトラはあずかり書をフツヌシにわたします。
「はい、おあずかりします」
「あずかったであります」
「――ああ、そうそう」
「なに?」
「そのフライパン、使うなよ?」
「当たり前でしょ」
「いや、万が一ってことがあるだろう。イザって時もあるだろうが、でも、使うなよ? ゼッタイ」
ピトラとジョースターは、ランドボートで草原をつっ走ります。
地面からちょっとだけうかんだランドボートを、オールでこぐと、飛ぶようにどんどんすすみます。
「天帝さまのお城は、タイザンっていう山が入り口になってるんだよね」
「そんなのは、子どもでも知ってるのであります。わざわざ言わなくてもいいであります」
「……ぼくははじめてなんだよ」
「行くのは自分もはじめてであります」
ピトラたちはオールをこぎます。
バショウセンのエキスのしみこんだオールは、ものすごい風を出しますから、ちょっとしたジェットのようなものです。
ランドボートが走りさった後に、ひらきかけの花の綿毛がぱぁっととびちります。白くてふわふわの綿毛が、飛行機雲みたいにひとすじ、草原にうかびあがり、お日さまの光をうけてキラキラとかがやきます。
「ワープ用オール使ったら、もっと速いのかな」
「いきおいがありすぎて、ひっくりかえってしまうのであります。もしもきちんとすすめたとしても、ロクなことにならないのであります。でも、社長ならいつかきっとやってくれると信じているであります」
「やだよ! そんなに体はった芸風じゃないよ!」
「どうも社長は、さいきん、まもりに入っているであります。体当たり芸できずいた地位は、体当たり芸でしかたもてないのであります」
「ぼくぐらいの年だったら、ぼうよみの大阪弁でぬるいマンザイでもやってれば、カワイイカワイイでぜんぶゆるされるよ」
「笑わせたいのでありますか、笑われたいのでありますか?」
「……くっ、痛いところをついてくるな、ジョースター。分かってる、分かってるんだ、笑わせようとして笑わせなければ、なんのイミもない。ほしがってないものをもらったって、それがなんだというんだ!」
「おおっ、社長! 燃えているであります!」
「ジョースター! ワープ用オールを!」
「どうぞであります! こんな大きなオールが、どこにしまわれていたかは、えいえんのナゾなのであります!」
ピトラとジョースターはワープ用オールをぐっとつかんで――。
「そおおおおいいいい!」
「うおおおおああああ!」
ひとこぎしました。
ピトラとジョースターは、山道を歩きます。
「いやぁ、ワープ用オールは、大気圏で使うものじゃないね!」
「そうでありますな、もう少しで骨まで燃えつきるところでありました!」
ピトラとジョースターは、ふくはコゲコゲで、体じゅうの毛がチリチリになっています。
手にはフライパン1つだけ。
ワープ用オールのおかげで、ランドボートはものすごいスピードが出て、3秒でタイザンに来られたのですが、空気とのまさつ熱で燃えてしまったのです。ちょうど、流れ星みたいなものです。
おかげで、ピトラとジョースターは、歩くしかありませんでした。
でも、その顔は、やりとげた男の顔をしていました。
笑いがとれたかどうかは、読者のあなたの心がきめることです。
おしま――。
「おわらないから!」
「まだであります、まだおわらんのであります!」
山道は、急で、せの高い木は空をかくします。
「くらいね」
「そうでありますな。白くてキレイな自分の羽がやくにたつのであります」
「目立ちはするけど、そんなにやくにはたたないよ」
ピトラとジョースターは山道をどんどん歩きます。
たくさんの冒険をしてきたピトラにとって、こんな山、どうってことありません。本当なら、全速力で走って、1時間でのぼれるぐらいなのです。
「……そこまでじゃないよ」
「自分は飛べばそれぐらいで行けるであります」
「それなら行って来てよ、ジョースター。このフライパン、ずいぶんかるいし」
「いえ、ものを持っていると風がみだれてよく飛べないのであります」
「……いったい、なになら平気なのさ?」
「イワシを2、3びきくわえて飛べるのであります」
「やくにたたない、やくにたたないなぁ……」
山道は、ガケぞいの道にさしかかります。
道はばは、ふたりならんで歩けないぐらいせまくて、ガケはふかくて下がずぅっととおくに見えます。
「うひゃあっ、こわっ、こわっ!」
ピトラはビクビクしながら歩きます。ガケ下を見ていると、すぅっとすいこまれそうです。
「社長、モタモタしないでほしいでありますっ! じっとしていると落ちるであります、くずれるであります!」
「ジョースターは飛べるんでしょ」
「飛ぼうと思って飛べば飛べるのでありますが、とつぜん空にほうりだされたらあわててどうなるか分からないのであります! はやく行くであります、はやく行くであります!」
「……なんか、自分よりあわててるのを見ると、ぎゃくに落ち着いてくるなぁ」
ピトラはそろりそろりと道を歩きます。
ガケの下には、川がながれていて、魚がたまにはねています。くらい谷のなかに、わずかにさしこむお日さまの光が、魚のうろこをてらします。
ガケのとちゅうには、出っぱりがあって、木の根っこが出ていたり、草が生えていたりします。たまに、白くてキレイな花が見えます。
「ああいう花って、やっぱり薬とかになるのかな?」
「自分が知っているワケがないであります」
「じもとなのに」
「自分はタイザンなんか来るの、はじめてであります」
「……あー、まあ、言われてみれば、となりの町のこともあんまり知らないか」
ピトラとジョースターは、ガケの道をなんのあぶないこともなく、歩いていきました。
また深い山の道にさしかかります。
お日さまはかたむき、聞こえる鳥や虫の声が少しづつ夜のけはいになっていきます。
「まずいね、夜になっちゃう」
「しまったであります! 今日のばんごはんは、ガースの作ったイワシのサンドイッチであります! ああああ!」
「……おいしいのかな、それは」
ピトラは上を見ながら少し歩いて、立ち止まります。
「このへんが、枝がいちばんあついね。雨がふってもだいじょうぶそうだ」
「って、のじゅくでありますか!? シティーボーイの自分にとって、そんなことたえられないのであります!」
「夜じゅう歩きたいならそれで良いけど」
「む……ぐぐ」
ピトラは枯れ葉と枯れ枝を手ばやくあつめます。それから、ナイフで枯れ枝の1本をフワフワになるぐらい細くけずります。
それから、ナイフのせなかと石を打ちつけて火花をちらします。火花はフワフワの枯れ枝に燃えうつり、小さい火になります。その火を小さい枝や枯れ葉で大きくして、さいごには大きな枝に火をつけ、たき火をおこします。
「火はこれでいいとして、食べものだね」
「そうでありますね」
「ジョースターは火を見ててよ、ぼくなにかとって来るから」
「おっ、ゆくえふめいフラグでありますな」
「言っておくけど、冒険した数ならぼくの方が多いんだからね。ひとりがあぶないのは、ジョースターの方だよ」
ピトラはくらくなっていく山の中を小走りします。
「あっ、キノコだ!」
食べられるキノコだけをさっととって、葉っぱで作ったふくろに入れます。
「おっ、これ食べられるんだよね」
木の芽をつんだり。
「やったっ、デザート見つけっ!」
山ぶどうをとったり。
ピトラは色々冒険をしているうちに、サバイバル能力がムダに高くなっているのです。
「ムダって言うな!」
ピトラがどなると、声におどろいたのか、トリがとびたちます。
木を見上げたピトラは――。
「あっ、巣だ」
ピトラは木によじのぼります。
ピトラの背の10倍も高いところまでのぼると、大きなトリの巣がありました。
中にはピトラの頭ぐらいありそうなタマゴが4つ。
「よし、メインはタマゴ料理だっ」
ピトラがタマゴをつかもうとすると。
ばさささっ!
ピトラのうしろに大きな親鳥がホバリングしていました。
タマゴをぬすもうとしたピトラをおそろしい目でにらんでいます。
ピトラはタマゴを1つかかえると。
「うひょおおおお!」
木から一気にすべりおりました。
親鳥がピトラをおいかけて、おしりをつつきます。
「痛っ、痛っ! なんのおお!」
タマゴをかかえたまま、ピトラは走ります。
「ちょっとはかわいそうだけど!」
走るピトラ。
つつく親鳥。
「こっちだって、おなかがへってるんだ! まけるかああっ!」
走るピトラ。
つつく親鳥。
走るピトラ。
つつく親鳥。
走るピトラ。
親鳥は大きくいきおいをつけてから、ピトラをつかみあげようとしますが――。
「どわたあああっ!」
ピトラはギリギリのところでふせて、親鳥をやりすごしました。
「さて」
ピトラとジョースターは顔を見合わせます。
「このタマゴとキノコをどう料理するかだけど」
「フライパンでいためるのがいいと思うのであります」
「……だよねぇ。ゼッタイつかうなって言われてるもんね。これは、つかえっていうネタフリとしか思えないよね」
「そうでありますな」
ピトラはフライパンをにぎります。
「じゃ、そういうことで、いくよ。かくごはいいね」
「のぞむところであります!」
フライパンを火に――。
かけませんでした。
「なんてね! なんてね! やるかっ! だれがそんなことするか! 新品を中古品にしてとどける運送屋なんてものがあったら、お日さまは西から上って東にしずむよ!」
ピトラはキノコをクシにさして火であぶります。
それから、タマゴのカラにナイフで小さな穴をあけ、木の枝で中をまぜます。
それから、ピトラは穴に口をつけて。
ぢゅぅぅぅぅぅぅ。
「はい、ジョースター」
「ありがとうであります」
ぢゅぅぅぅぅぅ。
カラにはんぶんぐらいタマゴをのこしてナベがわりです。きざんだ木の芽を入れて、火からはなした灰にうめます。
まだ熱い灰にふれてカラにヒビが入りますが、タマゴが熱で固まるのでながれ出てしまうことがありません。
これを、こげついてしまわないように、ピトラはなんどもかきまぜます。まぜて、まぜて、まぜてまぜるうちに、タマゴはとろりとしたスクランブルエッグになります。
ちょうどいいころあいで、キノコもやけてきました。
「じゃ、いただきまーす」
「いただきますであります」
ピトラとジョースターは、くしやきのキノコをそのままタマゴのカラの中のスクランブルエッグにつけて食べます。
しゃっきりといたはざわりで、よいかおりのするキノコと、とろりとして味のこいスクランブルエッグ、そしてピリリとした木の芽がよくあいます。
「ふふん、スクランブルエッグフォンデュだ」
「おいしいであります、なかなかであります!」
ピトラとジョースターは、タマゴとキノコをすっかり食べてからねむりました。
つぎの日の朝。
山ぶどうで朝ごはんをすませたピトラとジョースターは、ふたたび歩きだします。
3時間ぐらい歩いて、お日さまが高くなりはじめたころ。
山の木がとぎれ、目の前がぱぁっとひらけました。
おねの道がまっすぐにのび、その先には。
長い長い長い長い長い長いエスカレーターが見えました。
「あれ……かな?」
「おお、あれがうわさにきく、タイザン名物、高速エスカーでありますな、まちがいないであります」
ピトラとジョースターはエスカレーターにかけよります。
エスカレーターの入り口には、コマイヌが2匹います。
「あれ、刑務所の……とはちがう、コマイヌさんだね」
「そうみたいでありますな。同じのがいっぱいいるとは、オリジナリティのないヤツらであります」
「「なにものだ」」
コマイヌは、2匹いっしょにたずねます。
「ええと、ピトラ運送です。フツヌシからたのまれて、このフライパンをとどけに来たんですけど」
「「おお、そうであったか」」
右の方の口をあけっぱなしのコマイヌが一歩すすみ出ます。
「きいておるぞ、ごくろうだった」
「えーと、じゃあ、こちらにサインをおねがいします」
「うむ」
コマイヌはフライパンをくわえて、うけとりに足形をぺたりとつけます。
「ええと、タクシーとかバスとか、なんかそういう帰る足はないかな?」
「ランドボートがネタのとうといぎせいになったのであります」
「なんだ、そうであったか」
左の方の口をしめっぱなしのコマイヌが笑います。
「ピトラ運送までで良いな?」
「え? あ、はい」
「そうであります」
「少し待て、天帝様に伝える」
コマイヌはそう言って、少しの間だまりこみます。
「うむ。七星剣で切って下さるそうだ」
「切る? それって――」
「ありがとう、これでこげつかずにおいしい目玉焼きがつくれる、とのお言葉だ。では、なにかとどけものがあった時はたのむ」
つぎの瞬間、ピトラとジョースターは、ピトラ運送の前にいました。
「……距離を切った。リンガと同じ呪いの剣、かな?」
「さすがに天帝さまであります。ピトラ社長ごときがもっているようなものは、ふつうに持っているのであります」
「リンガは友だちだよ、もってるとかじゃないから」
ピトラとジョースターは、ピトラ運送のたてものの中に入ります。
「おかえりなさいでヤス、ピトラ社長、ジョースター」
「おお、おそかったですな、タイザンまでの道がけわしかったのですかな、ピトラ社長、ジョースター」
ガースと、親方がピトラとジョースターに声をかけます。
「ただいまー」
「つかれたであります、こういう時は社長室のイスでねむるのがいちばんであります」
「……今日ぐらいはいいけどね」
ピトラはうけつけの前のお客さん用のイスにこしかけます。
「でも……あのフライパン、もしも使ったらどうなってたんだろうなぁ」
大きくあくびをします。
「こういう時は、カピタンかなんかが、となりのいじわるなおじいさんみたいなやくどころで、IFシナリオをすすめてくれればいいのになぁ――」
もう一つあくびをして。
「ま、いっか。良い仕事したよ、うん」
ピトラはいつものように、ふっと夢の世界から消えました。
【おわり】
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