ピトラの冒険73

 千足とQの絵本ワールド
Q書房■■■■
 こたつもり
 

ごんぱち

「あー、あったかいなー」
 日曜の午後、ピトラはリビングのコタツにあたっています。
 外はくもっていて、風はまだまだつめたそうですが、コタツはぽかぽかとあったかです。
「こうやっててもしかたないし、なんか本でも読もうかな」
 ピトラは少し考えて、ほんの少しコタツから体を出そうとしますが。
「うーん、寒いな」
 もっと深くピトラはコタツに入りこんでしまいました。
「やっぱりコタツがいいなぁ」
 ピトラはもぞもぞとコタツのおくへ。
 そして、ついには首まですっぽりコタツの中に入ってしまいました。
「んー、あったかい、最高だよー」
 ピトラは、ねがえりをうって、うつぶせになります。
「このかっこうって、なんだかヤドカリ――っていうか、カタツムリみたいだよね。カタツムリ、コタツ、コタツ、コタツムリ! あははは、コタツムリだ、コタツムリ! すごいな、ぼく。ジョークのセンスがあるよ!」
 コタツムリというネタは、ずっと昔から言われています。長く生きていないうちは、よくあるしっぱいですが。

 10分ぐらいたってから。
「にいちゃん、いないのか! にいちゃん!」
 妹のポテトがやって来ました。
(また遊べって言うんだな)
 ピトラは考えます。
(今日はコタツでのんびりしてたいし……)
「にいちゃん、どこだ!」
 リビングの入り口とはんたいがわにピトラが顔を出しているせいで、ポテトには見えていないみたいです。
(ポテトももうだいぶ大きくなったんだし、ひとりで遊べるよね)
 ピトラはそっと首をちぢめて、コタツの中に入れます。これで、ピトラはぜんぶコタツに入ってしまいました。
「にいちゃん! にいちゃん、どこだ!」
 ポテトはしばらくリビングを歩き回っていましたが、じきにはなれて行ってしまいました。
(よし、行っちゃったぞ)
 ピトラはにんまり。
「ふふ、ここにいれば、だれにも気づかれないぞ」

 コタツの中はくらいですが、ふとんのはしっこがちょっとだけあいていて、光が入るので、まっくらというわけではありません。
 ピトラはうつぶせで、ネコみたいにうずくまっているかっこうです。
「あー、なんかねむくなってくるなぁ――っといけない」
 ピトラは首をよこにふります。
「コタツでねむると、カゼをひくって言うからね」
 それよりもずっと大きなもんだいのある入り方ですが、あんまり大きなもんだいをかかえている時は、かえって見えないものです。ピトラだけがとくにマヌケなわけじゃありません。
(あ、お父さんだ)
 ちょっとだけお父さんのポポトさんのすがたが見えました。
 お父さんはピトラの方へやって来ます。
(ふふふ、気づいてないぞ)
 それからお父さんは、コタツに足をいれます。
(よっ!)
 ピトラはギリギリで足をかわしました。
(どう……かな?)
 ばさばさと紙をめくる音がします。
 お父さんは新聞を読みはじめたみたいです。
(よし、気づかれなかった!)
 ピトラはしずかにガッツポーズをしました。
(……さいきんは、ガッツポーズっていうと、どんなポーズだかあやしいよね。OK牧場、とか)
 ナレーションにツッコミを入れるのは、かんしんしません。

 お父さんは、十分ぐらい新聞を読んでいましたが、また、出て行ってしまいました。
 出て行く時に、ふとんの形がかわって、少し大きめに穴ができました。
 すっと外の空気が入ります。
(あー、なんかすずしくて気もちいいな)
 穴からサッシが見え、そのガラスごしに庭が見えます。
「後は来てないのは、お母さんだけだな」
 お母さんは自分の部屋にいる事が多いので、コタツにあたっているすがたを見ることはあまりありません。
「ちょっとおどろかしてみるのもおもしろいな」
 ニヤニヤわらいます。
「そうだ、水の中にひそんでるワニみたいに」
 ピトラは考えますします。
「世界的に有名なアリゲーターが、水の中であわれなエモノをねらっている……」
 息をひそめて、じっとコタツの外を見つめます。
 庭では、スズメが飛び回っています。
 スズメが、木の枝に――。
「止まったっ!」
 ばくり!
「ふっ、ぼくがホンモノのワニじゃなくて助かったな」
 ……ねんのため、ピトラのコタツの中の空想です。
「イメージトレーニングと言ってほしいな」
 ピトラはまた、じっと動かなくなります。
(お母さんが来たら、こう、とつぜん、ガバッと足をつかむと、ひゃあとおどろいて!)
 少しピトラは考えます。
(……待てよ、おやつのお皿とかを持っていたら困るな)
 ねがえりをうって、あおむけになります。
(おどろかして、やった、涙目、とか思ったら、お皿がおちてケーキがぐしゃぐしゃ、こっちが大泣き、なんてオチを、むかしどっかのマンガで読んだ事があるぞ)
 ちっ、気づいたか。
「……いや、使う気なかったでしょ、そんな教訓話みたいなアイデア」
 よく分かりましたね。
「なんだかんだで、つきあい長いしね……」

「いけないいけない、ひとりでいると、ヘンなものと話をはじめちゃうよ」
 ピトラは、またねがえりをうって、うつぶせになります。
「あー、外はあんなに寒そうなのに、ここは本当にあったかいなぁ」
 ほぅ、と、あくびまじりのためいきをつきます。
「これがアレだな、地球温暖化ってのだ。地球がコタツに入ればいいんだな」
 ぽかぽかぼんやりしているピトラの頭は、なんだかいっそうぼんやりしています。
 その時。
 ピトラの指先がなにかにあたりました。
 小指の先ぐらいに小さい、石のつぶみたいなもの。
「んー?」
 コロコロところがります。
 でも、暗いし、体は動かしにくいし、よく分かりません。
「コタツの中に石なんておかしいなぁ」
 ピトラがつまもうとすると。
 ぞわり。
「うひゃああああ!」
 ザワザワしたものが指にふれました。
「な、なああっ!?」
 石じゃありません。動いています。
 しかもなんか、形が変わっています。
「な、なんだ、なにがあった?」
 思わずピトラは手をひっこめてしまいました。
 見ようとしても、暗くて分かりません。
「こんなせまい中で、正体のわからないものといっしょ――」
 コタツの外に目を向けます。
「出ようか……いや」
 はっきりと首を横にふります。
「ここはぼくの場所だ、せっかく手に入れたぼくの場所なんだ、大事なものはしっかりつかんではなしちゃいけない!」
 体中に力をいれます。
「にげちゃだめだ、にげちゃだめだ、にげちゃだめだ! たたかうんだ!」
 勇気をこめ、人さし指をのばします。
 ざらざらしたコタツぶとんの上をそっと、そっと、さぐっていきます。
(虫……かな)
 なにも見つかりません。
(もしも刺す虫だったら)
 ぶるっとふるえます。
「だ、だだだ、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。だいたい、刺す虫なら、もうとっくに刺されてる」
 まだ見つかりません。
「……でもたしか、どっかのハチは、ますいをかけてタマゴを生みつけて、幼虫のエサにするって、なんかで読んだことがあったな」
 あくびが一つ出ます。
「ひ、ひょっとして、このねむいのも、そのせい!」
 ゾッと寒くなります。
「タマゴを生まれる前に、見つけてたおさなきゃ、タイヘンだ!」
 その時です。
 指先が何かに当たりました。
「これだ!」
 ピトラはそれをつかむと。
「うわああっ!」
 そして、コタツの外へなげます。
 タタミの上をころがって行きます。丸い小さなものが、コロコロコロコロと。
「ん? 本当に石?」
 ぞわり。
「あ」
 丸いものは、開いて、歩き出しました。
「……ダンゴムシ、か」

「ま……まあ、ちょっとあわてたけど、良かった」
 ピトラはコタツの中で大きくためいきをつきます。
「これでもう、だれにもジャマされないぞ。わがコタツ国には、1000年の平和がおとずれ――」
 その時です。
 目の前が、きゅうに明るくなりました。
「ほへ?」
「あらあらあらあら、ピトラいたの?」
 コタツを持ち上げたまま、お母さんのピピラさんがおどろいた顔をしています。
「かくれんぼ?」
「んあー、まあ、そんなとこ」
「掃除するから、部屋にでも行っててね」
 お母さんは、コタツをわきに置いて、サッシをあけます。
 冷たい冷たい風が入って来ました。
「うひっ」
 ピトラは肩をすくめて、自分の部屋にもどりました。
 冬と春の、さかいめごろの、お話です。

【おわり】



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